雛人形と着物とちらし寿司(雛祭りif)
「颯斗君、そういえば私の実家に雛人形があるんだよね」
「はい、別に有栖先輩の家に雛人形があっても不思議には思いませんけど。あの大きさですし」
控えめに言っても有栖先輩の実家はとても大きい。
よくある歴史保存の為に残っている武家屋敷並みの広さだ。
そんな家に雛人形の1体や2体あっても不思議には思わない。
「そうじゃなくて今日雛祭りでしょ?」
「そういえばそうですね。もしかして雛人形を見に小鳥ヶ丘の家まで行くんですか?」
「いや実は爺に数ヶ月前から言っててね」
「もしかしてその後ろにある大きな台って……」
「正解ー! 昨日、颯斗君がいない間に搬入して貰っちゃったの」
バサーッと大きな台に覆いかぶさっていた布を剥がす有栖先輩。
そこには15体の人形が悠々と並んでいた。
「有栖ちゃん、それどうしたの……?」
どうやら咲も起きてきたらしく、目を見開いて驚いている。
俺も流石にこのサイズの雛壇は見たことがなかった。
「咲ちゃん、おはよう。小鳥ヶ丘の家から持ってきた貰ったの。咲ちゃんと私の健康祈願ってことで」
「にしても大きすぎない? それに横に添えてある桜、それ絶対に本物だよね?」
「咲ちゃん、よくわかったね!」
偉い偉いと咲の頭を撫でる有栖先輩を横目に俺は少し頭を抱える。
お金持ちのお嬢様がやることはよくわからない。
だけど有栖先輩なりに咲のことを気遣っているのだけはわかる。
「それでここに確か……」
有栖先輩が雛壇の下に置いてあったスーツケースのようなものを漁り始めた。
「それ何が入ってるんですか?」
「颯斗君には秘密! あっ、あったあった! 咲ちゃん、私達の部屋に行こうか」
「うん。颯斗先輩また後で」
それだけいうと2人は部屋の奥へと消えていった。
雛祭りというと確かちらし寿司とかを食べるんだっけか。
俺は雛祭りを楽しんでいる2人の為に買い出しに出かけた。
◆◆◆
「颯斗君、買い物行ってくるって」
「じゃあこの着物着るのもうちょっと後でもいい?一枚でこれは重たいよ……」
私と咲ちゃんは小鳥ヶ丘の家から雛人形と同時に送られてきた十二単に挑戦していた。
ただ20キロもあるものを数時間もつけるのはか弱い現代女子には少し無理がすぎる。
「とりあえず颯斗君が帰ってくるまで着る方法を動画とかで見ておこう」
「有栖ちゃんいつになくやる気満々だね……」
「前ね、颯斗君と夏休みに旅行行ったんだよね。その時に着物着たんだけど颯斗君が見惚れるような表情してたから、多分好きなんだなって思ちゃったら止まらなくて……」
「有栖ちゃん……」
「何かな?」
「いや乙女だなと思って。有栖ちゃんはずっとそのままで居てね」
乙女ってどういうことだろう。
よくわからないけど咲ちゃんも乗り気になってくれたみたいだし、頑張ろう!
◆◆◆
「これ颯斗君が全部使ったの?」
家に帰ってから2人がまだ部屋の奥で何かに四苦八苦していたので晩御飯は俺が作ることにした。
元々料理は苦手ではないし、ちらし寿司なんてそこまで難しいものでもない。
そんなことよりも2人の格好に俺は驚く。
「ど、どうしたんですか、それ」
「どうしたもこうしたも颯斗君が好きかなと思って雛人形と一緒に実家から送ってたんだよ」
「重くないんですか?」
「颯斗先輩、それは愚問です。重いに決まってます……」
さっきまで立っていた咲がすーっと視界からフェードアウトしていく。
下を見ると座りこんで息も絶え絶えな咲がそこには居た。
ただ有栖先輩だけは気丈に立ち続けている。
「どう? 似合うかな? 髪は整える暇、なかったんだけど」
「とても似合ってますよ。有栖先輩も咲も」
「咲ちゃん、やったね!」
いつものように咲と手を合わせて喜ぼうとするが体が重すぎて思うようにお互い動けなさそうだ。
着替えてくることを俺が提案すると2人は喜んで自室へと戻っていった。
ちなみに俺の作ったちらし寿司の評価は上々だったとだけ言っておこう。
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最後になりますがこの作品を読んでくださっている皆様に最大限の感謝を!




