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浴衣と祭り

 結局、昨日は隣で寝息を立てる有栖先輩のことが気になって一睡もできなかった。


「颯斗君、よく眠れた?」

「は、はい」


 でもそんなことを笑顔で聞いてくる有栖先輩には抗えなくて。

 小さい嘘をついて見栄を張る自分が少し嫌になる。

 起き抜けの有栖先輩も可愛い。


「それで今日は近くで夏祭りをやるみたいなんだ。一緒にどうかなと思ったんだけど……」

「是非行きましょう。丁度、ここの宿浴衣とか甚平の貸し出しやってるみたいですし」

「それじゃあ水着と同じように颯斗君に選んでもらおうかな? 私も颯斗君の甚平選ぶ!」

「別にいいですけど、俺の甚平なんて選んでも何も楽しくないと思いますけどね」

「まあ、そう言わずに。颯斗君には前から甚平とか似合うと思ってたからちょっと楽しみなんだよね」


 有栖先輩が楽しいのなら俺としては別になんでもいいのだけど。

 大智が味わえなかったであろうことを有栖先輩と経験するだけで少し、優越感が湧く自分が恥ずかしい。



 ◆◆◆


 有栖先輩は結局、俺が選んだ白を基調として青の模様が入っている美しい浴衣を選んでいた。

 俺はというと今、有栖先輩の着せ替え人形にされている。


「んー、颯斗君はどれも似合うから悩んじゃうね」

「それ本当に思ってます? 現状ただの着せ替え人形とかしてますけど」

「思ってるよ! 颯斗君の体型は1番こういう服を着こなせるんだから!」


 珍しく有栖先輩が熱弁している。

 こんな有栖先輩を見るのは初めてだから少し新鮮だ。


「颯斗君、これにしよう。色々と悩んだんだけど色合いと雰囲気はこれが1番良かった気がするんだよね」


 どうやら決まったらしい。

 有栖先輩が選んでくれたのは青を基調としてストライプが入っているタイプだった。

 自分では似合っているかわからないが、有栖先輩が喜んでいるのでよしとする。


「それじゃあ行こうか」


 こうして半日着せ替え人形にされた俺は初めての夏祭りへと繰り出した。



 ◆◆◆


「颯斗君、みてみて! 射的だって! わー初めて見たな!」


 夏祭りの会場に着いた途端、走る回る有栖先輩はやっぱりいつもとは違う感じがして何というかとても良い。


「いらっしゃい!」


 まず有栖先輩と俺は腹ごしらえと称し、焼きそばを買いに来た。


「おじさん! 焼きそば一つ!」

「あいよ! ところで嬢ちゃん達、カップルか?」

「い、いや、ちが」


 否定しかけた俺の唇に有栖先輩の指が添えられる。

 思わずそのまま口をつぐんでしまった。


「そうです。カップルだと何かあるんですか?」

「カップルには焼きそばの他にたこ焼きをつけてるぜ!」


 有栖先輩は絶対に俺と2人でいる時はカップルという設定でいたいらしい。

 お父様の前でだってそうだし、カップルカフェでだってそうだ。

 いつだって何故か有栖先輩は俺をそういう関係にしたがる。


「颯斗君、みてみて! サービスでたこ焼きつけてもらった!」

「良かったですね。落とさないでくださいよ」


 考えるのは後でもいいだろう。

 今はこの幸せな時間を謳歌してもバチは当たらないと思う。



 ◆◆◆


「颯斗君、ごめんね」


 俺は今人生最大の危機に瀕していた。

 理由は簡単で有栖先輩の浴衣の帯が取れてしまっているから。


「だ、大丈夫です! 有栖先輩、結べそうですか?」

「んー私、こういう知識ないんだよね」


 どうやら有栖先輩は自分で帯を直せないらしい。

 こうなったら仕方ないだろう。


「わかりました。俺が結びます」

「颯斗君、そんなことできるの?」

「おばあちゃんが好きだったもので教えられたんですよ」

「じ、じゃあお願いしようかな」


 結ぶとはいってもどうしても有栖先輩の体に触れることになってしまうし、下着だって見えてしまう。

 とりあえず自制心が乱れないように深呼吸をする。

 俺は無の心の持ち主だ。

 そう必死に心に言い聞かせる。


「んん!」


 有栖先輩の妙に艶かしい声が俺の無の心に石を投げ入れてくる。


「有栖先輩、あんまりそういう声出さないでくださいよ……」

「そうはいっても颯斗君の触り方が」

「普通に帯結んでるだけじゃないですか」


 数分後、なんとか耐え切った俺と帯が完璧に結ばれている有栖先輩がそこには居た。

 この旅行に来てから心臓に悪いことが起こりすぎている気がする。

 半分ぐらいは有栖先輩がわざとやっているようにも思えるけど。

 そんなことを考えながら夏祭りと旅行は滞りなく、終わるのだった。

このお話が面白かった方はブックマーク又は広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★に面白くなかった方は☆☆☆☆☆を★☆☆☆☆にしていただけると嬉しいです!


最後になりますがこの作品を読んでくださっている皆様に最大限の感謝を!

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