夏休みの開始と外堀とお父様
「海ですか?」
いつものように有栖先輩と作戦会議をしていると不意に夏休みの予定の話になった。
どうやら有栖先輩は元々、浮気が発覚する前から大智と海へ行く約束をしていたらしい。
「颯斗君もどうかな? 行くのなら大智君には私から言っておくけど」
「ならお願いしてもいいですか? 恥ずかしながら友達とすら海なんて行ったことないもので」
それから大智へと連絡を入れて貰ったが、その返事が返ってくることはなかった。
そしてその日から大智は学園を休んだ。
◆◆◆
「もう夏休みなのに結局、大智君は学園にこなかったね」
「そうですね。流石に心配で俺も連絡は入れてるんですが、返ってこないんですよ」
あの後、俺も連絡を入れたが返ってきていない。
だが1つだけ不思議なことに匿名でのメールが一通来ていた。
「大智のことは気にしないでください、か。これはもしかして例の宮渕咲さんかな?」
「間違いなく何か関わっているのは確かでしょうね。ただこれ以上は俺達にできることはないです」
「確かにそうだけどね。とりあえず海には2人で行こうか」
こうして俺は有栖先輩と2人で海へ行くことになった。
大智のことは少し心配だが、もしこのメールが宮渕咲からによるものなら死にはしてないだろう。
◆◆◆
「それで有栖先輩、この車は何でしょうか」
今回の待ち合わせ場所は俺の家の前でいいということだったのでお言葉に甘えることにした。
そうして今日、インターホンがなり玄関の扉を開けるとリムジン顔負けの高級車が止まっている。
きっと間違えたのだろうと扉を閉めかけると有栖先輩が車の窓を開け、手を振っていた。
何を言ってるのかわからないと思うが、俺にもわからない。
「あはは、言ってなかったけ? 私の家、ちょっとだけお金持ちなんだ。今日は1泊2日だしお父さんが颯斗君のこと見てみたいっていうからね」
「えーと、ちょっと待ってください。今その車に有栖先輩のお父様が乗っていらっしゃるんですか?」
この際、お金持ちだとかどうだとかは大した問題じゃない。
有栖先輩のお父様が車に乗っていることが問題だ。
「まあまあ、そんな世界が終わったみたいな顔せずにおいでよ。お父さんどうせ途中で降りるからさ」
「わかりました……」
俺は決死の覚悟を決め、車の中へと足を踏み入れた。
中はとても広く、座席1つをとってしても高級車であるということが伝わってくるぐらいに作りが細かい。
「君が高田颯斗君かね」
そんな高級車に似つかわしい重圧感のある声が、車の中に響く。
振り向くとそこには少し白髪の混じったイケオジといった風貌の男が座っていた。
恐らくこの人が有栖先輩のお父様なのだろう。
「はい。自分が高田颯斗です」
「そうか。君が娘と付き合っている男と初めて聞いた時はどう消したものかと悩んだが、あまりに娘が熱心にしかも嬉しそうに君のことを話すのでね。少し気になって見にきた次第だ」
俺と有栖先輩が付き合っているというのは恐らく今回出かけるにあたっての嘘なんだろうけど、嬉しそうに俺の話をしてくれていたのはなんというか素直に嬉しい。
後、消すという物騒な単語は聞こえなかったことにしておく。
「は、はい。それは光栄です」
「お父さん、あんまり颯斗君を怖がらせないであげてよ……」
「このぐらいはいいだろう。それで高田颯斗、君に2つ質問がある」
「何でしょうか?」
「まず1つ目は君は娘の何処が好きなんだ?」
「そうですね……。容姿も勿論ですが、頭の回転の速さ、そして性格です」
「ふむ、では2つ目だ。高擶颯斗、お前は娘を幸せにする覚悟はあるか?」
お父様の雰囲気が一気に変わる。
突き刺すようなプレッシャーの中、俺は堂々と答えた。
だって初めからその質問に対する答えなんて決まっているのだから。
「勿論です。その覚悟がなければ俺は有栖先輩とお付き合いなんてしていません」
「そうか。有栖、こいつならいいだろう。楽しんでこい」
そういい、お父様は車を降りて行った。
凄まじいプレッシャーから解き放たれた俺は座席でぐったりとする。
「颯斗君、ごめんね。1泊2日だっていったらお父さん聞かなくて」
「いいんですけど、いつ泊まりがけになったのかといつ俺は有栖先輩の彼氏になったのかが、気になるんですけど」
「あれ? 泊まりがけって言ってなかったけ?」
「聞いてませんよ! 聞いてたら流石に断ってましたし」
「そういうと思って言わなかったの。後、彼氏の件については私は別にいつでもいいんだけどな」
後半の方は声が小さく聞き取れなかったが、どうやら今回人生2回目のお泊まりイベントが発生するらしい。
しかも相手が2回とも憧れだった有栖先輩とだ。
これは緊張しない方が無理だろう。
俺がソワソワしている間にいつの間にか車は目的地へと到着していた。
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