*きいてくれ
「きいてくれ!」
これは私の願いだ。今はこうやって願うしかない。
妻にはもう愛想をつかされてしまった。
今一番頭を悩ませている問題だ。
これを読んでいる君に話を聞いてもらいたい。
私は妻を愛している。それなのに妻は私を見捨てると言うのだ。
何度も話し合いをしようと、夫婦会議をしようと持ち掛けても、妻は話を聞いてくれない。
悪いことなど何もしていないのだ。
ただ仕事でミスをしてしまって、その責任を問われ、会社を首になり、借金を背負ってしまっただけなのだ。
もちろん迷惑をかけたというのはわかる。会社にも妻にも。
それでもすべてを私に押し付けるのではなく、会社にも責任を取ってもらいたかった。
それに妻にも私を支えてもらって、一緒に乗り越えていきたかった。
そういう話がしたかった。
しかしそうはならなかった。
妻はそんな私をおいて、実家に帰った。
そして他に男を作った。離婚はしていない。だから不倫になる。
もちろん原因を作ったのは私だろう。だから咎めるつもりはない。
ただ私の元に帰ってきてくれればよかった。
だが妻は私に離婚届を突き付けてきた。
「あんたみたいな無能な男と一生一緒なんて無理」
それだけ言うとまた知らぬ男の元へ帰っていった。
私は惨めな思いをした。
それなりに一生懸命今まで会社や家族のことを思い、働いてきたのに、たった一つのミスですべてが崩壊してしまった。
一人息子にも相談したが、こんな不甲斐ない親の面倒なんて見れないと突き放されてしまった。
息子すら話を聞いてくれない。
私はたった一人になってしまった。
そして決意した。
妻に「離婚届を書いた」と連絡を入れて、取に来るように伝えた。
不機嫌な声で妻は「出しておいて」と言ったが、最後に話がしたいと言って来てもうことにした。
あと一時間で到着するだろう。
私は思い出したのだ。妻に生命保険をかけていることを。
妻が死ねば借金がチャラになるほどの保険金が下りる。
仕方がないがやるしかない。
私は妻を愛している。だけど裏切ったのは妻だ。
これは自業自得だ。
妻が来たら毒入りのお茶を淹れるつもりだ。
今は願うばかり。
「きいてくれ!」