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毛深い俺は獣人族に転生しました。  作者: 火田タカヒロ
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序章 『ヒスイ』

 


 俺は毛深い。

 ひげも濃いし、脛毛はボーボー、しっかりお尻にはタトゥーかと思うぐらい毛が生えている。

 まあそれを理由に学生時代イジメにあったわけでもないし、毛の濃い男が好きな女性も極々僅だが存在はする。

 でもこの時代、やっぱり中世的な美男子がモテるのは変わらないし、スベスベな方が清潔感があって良いだろう。

 そう思って俺は脱毛サロンにも行ったし、脱毛テープを使ったりもしたこともある。

 しかし脱毛サロンはなかなか効果がでないし、脱毛テープなんて物は強靭な毛根を持っている俺には全く歯が立たず、かえって毛根を傷つけ真っ赤に腫れ上がってしまうのだ。

 まあ結局モテないということである。

 しかしある一部からはかなり人気がある。

 そう動物たちである。

 動物には同種だと思われているのか、ものすごく懐かれるのである。


 俺は動物達に囲まれる生活に憧れ、山合の動物園の飼育員として働いている。


 トリマーやペットショップ、獣医や動物愛護団体など色々あるのだが、色々な動物を見ることのできる動物園が最良と考えたのだ。


「冨田くん新しくこの動物園に仲間が増えるよ。」


 園長の小柴さんから、聞かされていた新しい仲間。

 その子の飼育担当になったのだ。

 どうやらかなり特殊らしく、研究所で色々調べてたらしいが、あまりに獰猛で手がつけられなくなりここの園に運ばれるようになったらしい。

 そもそもそんな獰猛な生き物を動物に好かれるという理由で俺に擦り付けてるんではないのか?

 そう思いながら、トラックを待っていた。


 園長の来るまでナイショという言葉にめんどくささを感じながら、どんな動物なのかは楽しみでもあった。


 物騒な軍用車の様なトラックが止まった。


「想像していたトラックじゃないな。」


 すると中から人が降りてきた。

 明らかに小銃を持っているし、服も軍服の様な佇まい。

 一体どんな動物を保護するだろうか?


 軍用トラックが荷台が開らかれ、中を恐る恐る見てみた。

「グルゥゥッ」


 目の前に飛び込んできたのは、狼だ。

 いやただの狼ではなかった。

 3メートルはありそうなその大きな狼は青白く光を放ち、いや光を放っているというよりかはシルクの様な光の加減で銀にも白にも見えるエメラルドグリーンというべきか。


 話によると、北海道の釧路で発見されたらしいが、日本ではニホンオオカミというのがいたのだが、百年以上前に絶滅していて、どういう種の狼なのか、突然変異なのかもわからないということで研究所に運ばれたらしい。


 しかしながらなぜ何故こんな山奥の小さな動物園で保護することになったのか?


「知られないようにですか?」


「ああ、大きな動物園だと隠すつもりでも目立ってしまう、今の間は研究結果がわかるまでここで預かってほしい。」


 研究所側の言い分はこうだった。


 山奥の小さな動物園、確かに来る人もそこまで多くは無い。

 しかしここは動物園だ御披露目もせずに飼育だけしろと?

 少ない人員でやってる動物園からしたらめんどくさいに巻き込んでと思ってはしまう。


 園長はよく快諾したな。


 そこには裏があったのだ。

 研究所と園長には取り決めがあって、研究が終わればそのままここの動物園で預り、お客さんに向けて御披露目しても良いという話になったのだ。


 園長としては、パンダがいるわけでもない、マスコット的動物がいるわけでもない、園としてはチャンスだと考えたのだ。


 山の上の小さな動物園、営業努力や看板の動物がいて、人気沸騰する動物園がある中で園長としても断る理由も無かった。

 俺が世話をし、人に慣れ、愛嬌のある動物になれば金になるとふんだのだろう。


 早々と園の一番奥にある檻に狼を入れた。

 この檻は昔は狼も飼育していて使われていたが園の動物が少なくなってきた際、使わなくなっていた。

 この檻にある区域は今は観覧区域にはなっていない為、知られることはないのだ。


 この狼が人前に出る頃にはこの区域も開放する算段なのだろう。


 狼を檻に移すと、運んできた研究所の人間は帰り支度を始めた。


「あのすいません。」

「ん?何か?」

「あの、この子の名前は?」

「名前はつけていないんだ。あくまで研究検体だから研究所では名前を付けれない。検体No.6と呼んでいる。名前をつけたければそちらで呼んであげてくれ。喜ぶだろう。」

「そうですか。」


 研究所の人間でも名前をつけてあげれなかった負い目も少し感じているように見えた。


「それじゃ我々はここで帰らせてもらう。また生態などを観察しに週に何度か来させてもらうだろうからその時はよろしくお願いする。」


「はい、わかりました。」


 まあまあ上から目線で言うな。

 そりゃこの子も獰猛になるわけだ。


「ああ、言い忘れていた。」

「何か?」

「最近、珍しい動物や絶滅危惧の動物を狙う窃盗団が出て来ている、それを避けてこの動物園に預けたというところも理由としてある。くれぐれも気をつけてくれ。」

「窃盗団ですか?」

「ああ、その窃盗団は闇ブローカーと繋がっていて、富豪相手に闇オークションに動物達を出しているようだ。」

「随分物騒な話ですね。その動物達はどうなってるんですか?」

「そもそも条約に触れる動物ばかりだから、ペットとして飼うことは少ない。毛皮を剥ぎ取られ、牙や角を抜かれの装飾品にされたり、剥製にしてコレクションしたりという具合だ。稀少価値の高い代物ほど手にしていればステータスにでもなるんだろう。」

「そんなことに。」


 実に胸糞悪い話を聞かされた。

 何も罪も無い動物達を自己満の為に命を奪い、ステータスに使うなんて。


「我々も研究を早く終わらせて、御披露目できるように尽力する。世間に広めれば広めるほどそういった強奪は足が付いてしまうから、し辛くなる。しばらく耐えてくれ。」


 話がなかなか大きくなってきたな。


 研究員は園を後にし、俺は狼のいる檻の様子を見にきた。


「グルゥゥゥ」


 相変わらず敵対心むき出しのようだ。


「そんなにカッカするなよ、少なからずお前がいた研究所よりも住みやすいと思うぞ。」


 こちらとて一応動物の飼育のプロだ。愛情を注げば注ぐだけ動物との信頼関係はできると思っている。

 噛まれるかもしれない、でも動物に噛まれて死ぬなら本望だと良くわからない理屈をつけ、檻の中に入った。


「そうか、お前まだ名前無かったんだよな。」


 園長にも名前を付けてもいいという了承は得ている。


「うーん、翡翠。うん、お前は今日からヒスイだ。」

 きれいな青緑、真っ先に浮かんだ単語が翡翠だった。

 俺はこの獰猛で孤独な狼にヒスイという名前をつけた


「これからお前と俺は友達だ。」


 そう言うと今にも襲いかかろうとしていたヒスイは威嚇を止めた。


「お前、認めてもらいたかっただけなんだよな?」


 俺はヒスイに近き首元を撫でた。

 緊張感が解けたのかヒスイは俺に甘えるように俺の頬を舐めた。

 まあ正直、俺もまあまあ心臓バクバクだったんだが。



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