第2話 国会質疑
国会議事堂。
日本の政治の中心地である。
その国会議事堂の衆議院側の部屋の1つで審議が行われていた。
「沼田総理大臣」
委員長が総理の名前を呼ぶ。
「俺を総理と呼ぶな!」
総理と呼ばれた男は叫ぶ。
総理のはずなのに俺のことを総理と呼ぶなと叫ぶ。
男の名前は沼田啓二。48歳。戦後最年少の総理大臣だ。彼は前内閣で内閣官房長官を務めていた。その彼が総理になったのは前総理を始め多くの政治家がテロにより命を落としたからだ。内閣唯一の生き残りであった沼田が総理になった。
しかし、彼は前総理の鴨川を敬愛していた。尊敬していた。宗教の様に崇拝していた。
彼にとって総理とは鴨川だけである。
「おいおい、総理だろ、あんた」
今は国会の予算委員会の質疑中だ。
総理がそんなことを言えば野党がやじを言ってくるのは当然だ。当然のことだが荒れる。
与党の政治家たちも呆れている。
しかし、呆れるだけで何もできない。総理以下重鎮は皆テロによって亡くなってしまったんだ。今、残っている政治家はほとんどが当選1期か2期という若手しかいない。この時期に総理の任に堪えることができる政治家なんて沼田ぐらいだ。
そして、それは野党も同じである。勇んでやじを言っているも野党の総理候補である党幹部らはテロによって亡くなっている。今、野党でも生き残っているのは当選回数が若い議員だけである。
つまり、沼田がこのような問題のある行動をしているにしても総理大臣を任せるしかないのだ。
「沼田さん、落ち着いてください」
沼田の秘書長野原は沼田を落ち着かせる。
そうでもしないと審議が進まないからだ。この国の日本のためにも沼田には総理をやってもらわなければならない。
長野原にとってそれが一番いいと思い行動している。
「これからの日本は与野党ともに協力していかなければなりません。多くの貴重な先輩方という人材を失った日本は諸外国、特に隣国との関係が緊張する中粘り強く外交していくことが大切です」
沼田は真剣に答弁している。
総理、と言われさえしなければまともな政治家であるのだ。長野原はその様子を見ていてほっとするべきなのか苦笑すべきなのかどう反応しておくべきなのかわからない。
「まったく、総理として優秀だと思うのになあ」
長野原は閣僚席の後ろでそんなことをぼやく。
すると、真剣に答弁していた沼田が一回話を止める。
呼吸のためだろうか。それともここから大事な話をするため間を作ったのか。長野原は、そんなことを考えている。しかし、実際はその斜め上というか別の行動をとるだろうということぐらいわかっていた。
「私を総理と呼ぶな!」
「はぁ」
今日も沼田はいつも通りであった。
いつになったらこの決め台詞を言わないでくれるようになるのか。長野原の苦労は絶えなかったのだった。




