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第1話 経団連会長

 まさかの新連載です。ただし、1話完結ものです。あまり長くは続かないと思っています。

 「総理、時間です」


 執務室の一番奥にいる男に対して秘書らしき人物が声をかける。普通であればこの後声をかけられた男は「わかった。今すぐいく」とか「了解した」とかそのようなことを言うはずだ。

 だが、秘書は分かっていた。この後、何と言われるのか。

 もうそのことに対して慣れていた。

 奥に座っていた男は秘書の方に振り向く。そして、言葉を放つ。


 「私を総理と呼ぶな!」


 (えー)


 最初、秘書はこう思っていた。

 しかし、慣れた今ではこの言葉に対して何の感情も抱かなくなっていた。


 「はい、じゃあ、行きますよ」


 まるで駄々っ子をあやすかのように華麗にスルー。そのまま自分の用件を終わらせようとする。

 

 「くそぉ、何でこんなことになったんだ」


 総理と呼ばれているこの男。

 名前を沼田啓二という。

 年齢は48歳。かなり若い。もちろん、総理と呼ばれ執務室にいたのだから総理大臣……のはずだ。だが、これはまだ不確定要素である。彼について確実に言えることは国会議員であるということ。衆議院議員で群馬1区選出である。保守政党民自党から連続当選を4期続けている。

 そして、彼の1か月前までの役職は内閣官房長官であった。

 時の総理大臣鴨川玄隆かもがわ げんりゅうは、沼田の政治家としての啓愛すべき師匠であった。鴨川が総理になったのは今から2年前。支持率も順風満帆だった。常に50パーセント台を維持し良くも悪くも無難な政権であった。

 そんな鴨川政権は一度衆議院議員総選挙を行いみごと圧勝。その選挙が行われたのが今から2か月前のことになる。

 鴨川政権は長期政権になる。誰もがそう思っていた。

 そんな時、大きな出来事が起きた。


 鴨川総理の死だ。


 死因は、テロによる爆死だった。

 国会議員の多くが参列し、行っていた政府主催の式典。与党国会議員の半分強、野党の執行部の面々、閣僚のほとんどが参列していた。

 沼田はこの日、偶然にもインフルエンザにかかっていた。そのため、この式典に参加することができなかった。

 政府主催のこの式典が何者かによって狙われた。建物は木端微塵に爆発で壊れ生存者はいなかった。

 国会議員の過半数をこの日本は失った。

 さらには第二次鴨川内閣の閣僚20人中19人を失った。閣僚での生存者は沼田ただ1人、副大臣、大臣政務官も全員失った。

 内閣は総辞職しなければならない。

 内閣法ではそのように定められている。臨時内閣を作ることなどできない。ただ、1人しか閣僚がいないのだから。もちろん、1人内閣という制度が存在している。それは、新内閣を組閣する際に閣僚人事が遅れている時に暫定的処置として行われるものであり普通は行うことがないものである。


 さて、話はだいぶそれたが、今に至るまでの話をした。

 ここからは時間を今に戻す。


 「総理、行きますよ」


 「私を総理と呼ぶな」


 沼田は、総理になるつもりはなかった。また、自身にとっての総理とは鴨川のことになる。だから、自分が総理と呼ばれることにかなりの抵抗を覚えていた。


 「大人が何を言っているのだか」


 沼田が暫定総理になってからずっとこの調子だ。

 秘書官はとても呆れていた。

 これが48歳のおっさんなのか、と。

 秘書─長野原はどうせこの後も総理と呼ぶなと理不尽に怒られるんだろなと悟りながら今日の予定である経団連の暫定会長との会談に向かうのだった。


 沼田は、首相官邸の来賓を迎える部屋に入る。

 そこにはすでに経団連の太田暫定会長が座って待っていた。暫定会長というのは、経団連の会長も今回のテロにより死去してしまったからだ。日本の政界だけでなく財界もかなりのダメージを受けていた。

 

 「沼田総理、今か──」


 「私を総理と呼ぶな!」


 太田が沼田に声をかけた時、総理と呼んだ。

 そのことに沼田は怒る。

 横にいる秘書の長野原は、ほらまた始まった。そんな顔をする。


 「すみません。太田会長。この人いつもこうなんです」


 長野原が太田に謝る。


 「まあ、沼田そ─官房長官は鴨川総理をかなり敬愛していましたからね。人間ここまで行くとさすがにすごいですが……」


 太田は完全にひいていた。

 その後は、太田が沼田にかなり気を使い今後のことについての話を進めた。日本経済の復興について話した。

 総理。その禁断の2文字を言わなければ沼田は普通に対応をした。その姿は立派な政治家であった。

 話し合いは2時間に及ぶ。

 そして、2時間の話し合いを終えて方針が決まったところで話し合いはお開きとなる。


 「太田会長ありがとうございました」


 「こちらこそ、沼田総理あり──」


 「私を総理と呼ぶな!」


 「はぁ」


 やはり、沼田には総理と言ってはいけないのであった。


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