7.隠れ里レティアにて
先ずは生活魔法を使える住人を探して教えて貰おう。
――と、意気込んだは良いものの空腹ゲージが半分まで減っている。先になにか食べ…、デルわんこのところで作ったステーキが有るのでそれを食べようか。それから次に採取を覚えて狩り……狩りと言う名のレベル上げをした方が良いかな。美味しいと言っても毎食ステーキはゲームと言えど飽きるもの。
ステーキを取り出すためにアイテムボックスを開く、ステーキを探すついでに一覧を見るとなにやら見知らぬアイテムが中に有った。
《星屑のピアス》ご紹介キャンペーンの特典アイテム。LUKが2上昇。
シンプルなピアス、宝石っぽい石の部分がきっと星屑なんだろう。
そう言えば購入時にIDを入力すれば何か貰えるって有ったね、すっかり忘れてた。早速装備しよう、LUKは大事だけど優先的に上げるものでも無いが折角の装備品だ。
ピアスホールは空いていないものの、ゲームなので気にせず装備欄を出してセットする。自分では見えないが耳朶を触ると硬い硬質な感触が有るので問題なく付けれたようだ。
ついでに所持金も確認……15,000Y。お金の単位は「Y」と書いて「ユン」と読む。
特典で増えた分は5,000Yかな。そこそこくれたね、ありがたい。
私の自室となった若さんの寝室にて、ベッドに腰を下ろし《地図》のスキルを使い表示された世界地図にレティアは載ってなかった。隠れ里だもんね、読んだ本の中には無かったせいか表示はされない。表示を切り替えると里の中の地図が出た、一部グレーアウトをしているので恐らく表示される部分は歩き回ったところだと思われる。自分だけ青い丸で表示されているが、住人の表示は無さそうなので現在地を確認する用だと考えておこう。他のプレイヤーが表示されるかは全く不明だから確認は後日かな。
……いつ他のプレイヤーと合流出来るのだろうかと疑問がわくぞ。
続けて先程非表示にした『クエスト詳細』を再表示し中身の確認する。
『クエスト詳細』
《自己幻族の悲願》/受注中。期限なし。
達成条件/自己幻族として覚醒後レティアにて全てを終わらせる。
必要条件/1・自己幻族として能力を発揮しよう。2・必要スキルを成長させて覚醒をしよう。
能力発揮まで/必要スキルを所持しておりません。0/3
覚醒まで/必要なスキルを所持しておりません。5/12
スキルレベルが不足しています。
《影操2》規定値レベルを満たしてません
《鑑定2》規定値レベルを満たしてません
《錬金》規定値レベルを満たしてません
《考古言語Ⅰ》規定値レベルを満たしておりません
《多種知識Ⅰ》規定値レベルを満たしておりません
思いの外細かく書いてあるね。でも優しいようで優しくないな、必要なスキルは持っていれば表示されるが何が必要かは不明と。能力発揮については種族選びの時にデルわんこが言ってた並列思考、並列処理、並列動作の事だろう。3つ必要そうだから間違って無いと思う。
他にも何か無いかとステーキを食べながら確認をする。
フレンド機能も有るのか……既に登録が2つ有る。一人目デルタ、サポートAIってフレンド登録可能なんだ。メッセージがあるね、なになに……。
『シグレ様限定でフレンド登録をしております。困ったことがあれば普段のログインログアウト時だけでなくいつでも連絡をくださいなのですよ』
職権乱用かな?どうしても困った時に使わせて貰おう、いつでも頼るのは良くない。見せる予定は無いけど、他の人に見せてはいけないフレンドリストになってしまった。
続いて二人目、風音。名前をタップ、アバターアイコンが表示されたので顔を確認。妹ですね。
多分、紹介キャンペーンのIDが妹のだったのでそのせいだろう。正直プレイヤーが誰も居ないので妹に話し掛けれるのはありがたい。ソロプレイ希望でも完全手探りぼっちプレイは予想外だった。
まだゲームを開始して間も無いので音声呼び掛けは避け、メッセージだけを送っておこう。
『恐らく一般的なゲーム開始と方向がずれてしまったので合流出来るようになったら宜しく( `・∀・´)ノ 姉は今未知の場所に居ます』
これでよし。思考入力も慣れれば可能らしいが私は相変わらずタッチパネルを出して入力をした。部屋の中で一人なので気にしない。
ステーキを食べ終え空腹ゲージもMAXになったので外に出ることにしたよ、生活魔法を覚えるだけなら問題が無いけれど採取や狩りをするなら武器が無いと大変なので絶対に買いたい。
外を歩くと住人に声を掛けられる事が非常に多かったので笑顔で応えておいた、そして武器屋へ到着。うん、広くないからあっという間に辿り着くね。看板が有るがどう見ても普通の家である、まあ基本は自宅で必要なら売るよって言う方針なのかもしれない。どう考えてもメインで経営をするには購入者が少ないだろう。
「店主、すまないが武器と解体ナイフを見せてもらえないだろうか」
「はいはーい、今行くわよー」
ドアを開けて声を掛ければ奥から声が聞こえる、言葉に違わず直ぐに出てきたのは黒髪ショートのお姉さん、つり目気味だけど丸眼鏡がキツイ印象を緩和している。美人さんである。一度スキルを聞いた時に顔合わせをしていたのだが、武器屋兼鍛冶屋でお姉さんってなかなかだよね。個人的に武器屋も鍛冶屋もイメージは男性が強い。そんな事はさておきスレンダーな美人さんなので非常に目の保養です。
「シグレちゃんはどんな武器が扱えるの?お姉さんとしては無難に剣を勧めちゃおうかなーって思うんだけどね。若様は長剣だったのよ、ならシグレちゃんも……って思うじゃない」
「すまないがと剣は扱えないんだ。出来れば大鎌が良いんだが……有るかな?」
にこにこと笑顔で剣を勧めてくる美人店主、無難なので一般的には間違って居ないだろ。私だって恐らく誰かに教えを乞うか、何度か試せば剣も扱えるようになるかもしれないがスキル的にも大鎌が良い。スキルレベルは上げたいしチュートリアルで慣れた大鎌が良いんです。
大鎌の言葉に驚いた様子の店主が暫く無言を貫いていた、……もしかしてマイナー武器だからこう言った隠れ里だと売ってないとか有るかもしれない。
「大鎌、大鎌ねぇ。シグレちゃんには悪いんだけどお店には売ってないわ。専用の武器を作ってあげても良いんだけど材料がね……足りないのよ。シグレちゃんが材料を用意してくれるならお姉さん頑張っちゃうわよ、どうする?」
『ベリローズより《大鎌に必要な材料調達》が依頼されました』
クエストが発生した、勿論受けますよ。受けないと大鎌手に入らないやつだよねこれ。
『クエスト受注を確認致しました』
ピコンピコンと電子音が次々鳴り響く、空気をぶち壊す電子音よ……音量最低値にしておこう。
「うふふ、じゃあ必要な物はメモをしておくわね。でも武器も無しに材料を用意するのは大変よ、シグレちゃん大鎌以外に扱える武器が有るなら貸し出すけど、もしくは攻撃魔法とか使えたりする?」
「武器は残念ながら大鎌だけだね、攻撃魔法は闇魔法なら少々。正直心許ない気がするよ」
「そうよねぇ、でも闇魔法が使えるなら《魔力操作》も覚えていたりするのかしら?」
「ああ、魔力操作なら持ってる」
「そう、それなら良かったわ。先に長老のところに行ってきなさいな、きっと良い方法を教えてくれるわよ」
ウインクをしながら店主に追い出された。因みにまだメモは貰っていない。
素直におじいちゃんの家に行くことにした、おじいちゃんと世話役のおばあちゃんにお出迎えされたよ。仲が良いね。
武器屋店主に言われたことを説明したところおじいちゃんは頷いていた、《魔力探知》と《影操》も持っているかと聞かれたので頷いて肯定をするとおじいちゃんの家の庭に移動、木々に囲まれているが地面は草ではなくちゃんと均されておりそこそこ広かった。
「おじいさん、一体何をするんです?」
「なぁに、シグレさんにこの爺が役立つことを教えるだけじゃて。先ずは魔力探知でわしの魔力を感じてもらおうかのう」
言われるままおじいちゃんの魔力に意識を向ける、凄く魔力密度が濃い……流石は覚醒者。今にも倒れそうな老体に見えるのはカモフラージュなんだろうなと思ってしまう。
おじいちゃんは私が息を飲んだ事に気付くと少しだけ目元を和らげてからゆっくりと、恐らく私が理解できるようにだろう、のんびりとした動作で魔力を掌に練り上げる。魔力が剣の形になるとおじいちゃんは徐に横手に生える樹に向かい魔力で形成された剣を振るう。
――一瞬空気が凪いだ、一拍ほど遅れて標的にされた樹が倒れる。……切り口綺麗そうだなー……って、現実逃避をしちゃダメだ。やっぱりおじいちゃんは凄かったんだ。
「とまあ、このようにじゃのう魔力をちーと練り上げて扱い易い武器の形にすりゃあええ」
「いやいや、おじいさん。魔力だけじゃ今の攻撃は無理だよね」
「シグレさん闇魔法も持っとるのじゃろ、ならそれを上乗せして更に魔力の強度を強めればいいんじゃて。出来るようになったら《影操》で周囲の影を使いながら魔物を足止めすればええ、この爺でも出来るんじゃ時空忘れの旅人なら直ぐにできるようになる」
一通りやり方とコツらしきものを私に説明をすると、おじいちゃんは庭は貸すから練習しろと言って去っていった。
正直今の技覚えたら武器自体不要なのでは……。いや、魔力が枯渇したら必要か。
武器屋の店主が言った通り、おじいちゃんは良い方法を教えてくれた。教えてくれたけど結構無茶振りなんじゃないかなー。先ずは自分の魔力を手元に集める事が出来るように頑張ろう。
《集中力》を意識して目を瞑る。最初は自分の魔力を探知、レベルが低いのでMPも低い(数値では見えないけど多分そう)私の魔力など全身を覆えば薄皮一枚分しか無いようなものだがそれらを《魔力操作》を使用し意識して、持ち上げた両手に移動をさせる。
……移動をさせ……、重っ…!!例えて言うならキャラメルを作った時、あえて鍋に入れたまま冷ましていって尚且つ無理矢理かき混ぜていると段々重くなってくる時のような感じ。分かりにくいなら温めて使う徐毛ワックスが冷めて来た時に無理矢理かき混ぜてるみたいな重さだ。
結構な気合いを入れて少しずつ、少しずつ魔力が両手に集まって来た。
一息吐くと直ぐに霧散してしまいそうな危うさも有るので慎重に、集まった魔力を意識的に大鎌の形にしたいけど魔力量が足りてないのか私のイメージが貧困なのか柄の形まで魔力を伸ばすと散ってしまった。
それと同時に襲い来る脱力感。あ、ヤバいこれかなりキツイ……。
視界の端に有るMPバーも残り1%まで減っていた。これレベル1には辛いよ、おじいちゃん!
動けるようになるまで地面に突っ伏し休息タイム。
MPは大体1分で10%回復回復するようだった、10分も休めば今の私は回復する。
なので懲りずに再挑戦をすること十数回。
夕暮れになってきたので一旦家に戻ろうか。ついでに雑貨屋で回復アイテム買いたいし武器屋の店主に材料集めに時間が掛かることを伝えなければ。
流石に連続で同じ事を繰り返す時はMP回復アイテムが欲しい。お金が足りている内に取得出来ないと困るなぁ。
おじいちゃんの家の庭から出て表へ行くと武器屋の店主が居た。
「ああ、良かった。シグレちゃんがなかなか戻って来ないから心配になっちゃって」
「ご心配をお掛けしました、少しおじいさんに特訓をしてもらっていたんですよ」
「それでこんな時間まで?大変だったのね、シグレちゃんこれ材料のメモよ。でも今日はもう休みましょう、ご飯なら私が作ってあげるわ」
「ありがとう、店主さん。それから材料を取りに行けるまではもう暫く掛かりそうなんだ」
「あら、私はいつでも構わないわよ。シグレちゃんの大鎌ですもの、貴方のペースでいいわ」
『《大鎌レシピ材料のメモ》を取得しました。確認はクエスト詳細から行えます』
なるほど、こっちもクエスト期間の縛りはないと。期間限定だった場合は間違い無く失敗するのでありがたい。詳細は一人になったとき時に確認をするとして今日の夕御飯に関しては武器屋の店主に甘えることにする。
「店主さん、料理に関して手伝える事が有れば僕もやりますよ」
「あら、嬉しい。じゃあ折角だし一緒に作りましょうね」
のんびりとした歩調で武器屋に二人で向かう、途中で『店主』呼びだと他のお店の店主と勘違いしてしまうから名前呼びを強要された。ええ、普通にベリローズさんと呼ぶことになりましたよ。可愛い名前だと褒めたら嬉しそうに笑ってくれた美人さんは目の保養でした!
間違い無く、好感度は上昇をしてると思うのでこのまま行こうと思う。
直ぐに辿り着くと武器屋の店舗の方ではなく住居スペースにお邪魔した、綺麗に片付いていますね、女性らしく甘い色使いのする家具が使用されており可愛らしい。どうして鍛冶を極めて武器屋をやることにしたのだろうかと疑問に思ってしまう。
早速二人で台所に移動をして、私は材料を切る係りとなった。
「僕は野菜を切れば良いんだね。ベリローズさん、今日のメニューはなんですか?」
「ペト鳥の香草焼きに野菜たっぷりのスープよ、それからパンとチーズに果物かしらね。余り豪華じゃなくてごめんなさいね、材料から見るとそれくらいしか用意できないわ」
「いえ、十分だ。楽しみにしてる」
ええ、お世辞ではなく本気で楽しみですよ。初の異世界ゲーム料理!しかも隠れ里なので、もしかしたらここでしか食べられない物だって有るかもしれない。
言われるままに指示された野菜を包丁を使い細かく切る、それをベリローズさんに渡すと水を張った鍋に入れた。出汁とかは無さそうだね。
この里の台所はチュートリアルで使用していたようなコンロではなく焚き火式の竈っぽい、火事にならないよう工夫された竈に慣れた手付きで薪と多分魔石を放るベリローズさん。どうやって火を点けるのかなと見ていると……はい、来ました魔法ですね!
「火の精霊様お力を貸して下さいませ。――火炎よ集え」
ベリローズさんが言葉を紡ぐと一瞬あたたかな何かが周囲に広がる感じがした、その後竈の中に火が点き燃え始めた。
「後はこのまま煮て……って、どうしたのシグレちゃん。好奇心剥き出しの顔をしてるわよ」
頬をつんつんとつつかれる、そんな表情してましたか。好奇心は滅茶苦茶有る。もしかして火の魔法なのかなーとか、生活魔法の一部なのかなーとか色々思っちゃうよね。
鳥肉を切り分けながらベリローズさんに聞いたところ、今の魔法に関しては生活魔法の部類らしい。ベリローズさんは火の魔法も扱えるが今回のように小さな火種等を出す場合は、生活魔法の方が火力を調整しやすいと言う。
生活魔法は攻撃魔法と比べると威力は落ちるが細かな作業には向いている、精霊にお願いをするとより自分の思う通りに操作が出来ると言う。精霊魔法は無いのかと疑問に思ったところ、本来それぞれの魔法と言うのは精霊の力を借りて自分の中に有る魔力を変質させたものを視覚化して属性を持たせたものらしい。それ以上は知らないので答えられないと言われた。呪文を唱えて直ぐに出てくる魔法にもこんな裏話的なものが有るんだね、結構魔法は奥深い。
薪と一緒に魔石を入れていた理由は薪の節約のため、薪が燃え尽きた後は魔石が代わりにその役目を担い竈を暖めるそうだ。色んな工夫がされている。
生活魔法は覚える気満々だったことも有り、教えてくれないかとお願いしたところご飯の後ならと快諾された。ベリローズさん、好い人だ。
――と、ようやくやって来ました、夕御飯の時間です!テンション上がるよね!美味しいご飯は正義だよ!!
ベリローズさんと向かい合うように食卓に腰を下ろして目の前の料理に視線を向ける。
《ペト鳥の香草焼き》柔らかい腿の部分にタイム、ローズマリー、バジル、オレガノをまぶして焼いた料理。皮はカリカリ中身はジューシー、備え付けのホクホク芋のマッシュポテトと紫ナスとトマトのグリルがアクセントとなっている。
空腹ゲージ回復度80%
《野菜たっぷり鶏ガラスープ》数種類の野菜を鶏ガラスープで煮込み、シンプルに塩で味付けをしたスープ料理。一般的な家庭の味と言えよう。
空腹ゲージ回復度30%
《ハーブパン》ドライバジルとナッツ類を混ぜ込んで焼いたパン、レティア限定。
空腹ゲージ回復度30%
魔力回復度30%
《パデイ山羊のチーズ》癖がなく比較的食べやすいチーズ、ほっくりとした味わい。パンとの相性は抜群。
空腹ゲージ回復度5%
《ブルーベリー》《コケモモ》《キイチゴ》山で採れる果物、そのまま食べても美味しい。
空腹ゲージ回復度2%
《レモネとミントウォーター》飲み水にレモネの果汁とフレッシュミントを浸した飲料。喉を潤す。
空腹ゲージ回復度2%
《鑑定》がお仕事したね、細かいことは抜きにして美味しければ良いんだよ。もう既に食欲をそそる匂いがして大変だ、空腹ゲージに余裕はあるが食べたいものは食べたい。
「美味しそうですね、もう食べても良いかな?」
「ええ、良いわよ。手伝ってくれてありがとう、そしてようこそレティアへ。今日は私だけで悪いけど歓迎するわ」
「気にしてませんよ、寧ろベリローズさんみたいな美人さんと一緒に食事が出来て役得だと思ってる」
「あら、お上手。シグレちゃんの都合に合わせて近々歓迎会をしてくれるそうよ。時空忘れの旅人さんは毎日は現れないって聞いてるもの。取り敢えず準備は皆でしておくから楽しみにしてなさいな」
「……ありがとう、そうさせてもらうよ」
歓迎会とか有るのか……、歓迎するから覚醒はよ!悲願達成はよ!と言うことなんだろうか。だとしたらプレッシャーがヤバい。単純に種族としての人数が少ないからと言う理由で歓迎だったら良いのだが。
飲み物が注がれた木のコップを互いに持ち、乾杯をしてから一口……爽やかなミントの香りが鼻を突き抜けレモン、じゃなくてレモネの酸味も程好く舌全体を滑り身体に水分が染み渡る気がする。飲料水だけでも美味しいぞ。これは期待しかない。
自然と笑顔になりながらナイフとフォークを使いメインの香草焼きへ。ナイフを軽く入れただけなのにスッと切れた、フォークに刺して口の中へ……ふわぁあ!うまぁあああ!!鳥の甘さとハーブが良い具合に絡んで美味しい、語彙力が消失する美味しさ、ヤバいヤバい!そのままの勢いでスープやパンにも手を付ける。野菜の旨味はちゃんと出てるし、パンもフカフカでバジルとナッツが良い感じになっている。家庭料理の筈なのに美味しさがヤバい、これはハマる。調理をしてないチーズと果物も全部美味しい。凄く幸せな気持ちになる。
料理を食べる度に感極まっていたら、ベリローズさんが笑う気配がした、視線を向けると目の前で楽しそうに笑われて居るけど気にしない、今はこの料理の美味しさを堪能し続けたいので無言で頬張る。ついでに表情筋が緩まってしまうが美味しいものを食べている時は仕方ないよね。
「はー、美味しかった」
「お口に合ったようで良かったわ。それにしてもシグレちゃんって凄く幸せそうに食べるのね。見ているこっちも幸せな気分になっちゃた」
皿の上を綺麗に空にし背凭れに寄りかかって感想を口にした、ベリローズさんは呆れる様子もなく嬉しそうに応えてくれる。
皿洗いを申し出たが生活魔法の一つ《浄化》を使うことにより手伝う間もなく一瞬で終わってしまった……。
やっぱり生活魔法って便利だね!
少し休んでからベリローズさんに生活魔法を教わった。
わりと内容は簡単なもので、実際に行いたいことをイメージし、それを出来るだけわかりやすく周囲に居る精霊に伝えるのだと言う。精霊自体見えてないけどこの部屋にも居るには居るんだろうね。
火を点けるのは危ないので《浄化》を試してみる。先程の食器だけではなく、自分の体や服を綺麗にする事も出来る便利魔法なのでなにがなんでも取得したい。
《魔力操作》を発動した状態で先ずは服を綺麗にするイメージ、洗濯して乾いた直後と言うか雑菌等が無くなって綺麗になった状態にすると意気込んで力有る言葉を紡ぐ。
そうすると一瞬、自分の身体に向かって風が吹き撫でられたような気がした。
「凄いわシグレちゃん。一回で成功させるなんて!」
「え、……今、成功したのか?」
『所定動作を行った事により《生活魔法》を取得しました。取得後は所定動作を行わずとも発動が短縮可能です』
成功した自覚は正直無いのだが、無事に《生活魔法》スキルを取得できたようだ。
後で知った事になるのだけれど《生活魔法》は《◯◯魔法》を取得さえしていれば直ぐに覚えられるものだったらしい。
だから一回で成功したんだね。
予定通りに生活魔法を覚えたのでベリローズさんのお礼とおやすみを告げて帰ることにした。もう外は夜だ、……凄く闇の中だね。家の窓から漏れる灯りだけを頼りに若さんの家へ戻る。ログアウトをするだけなので暗闇の中を歩いて二階へ、寝室に入り横になると眠る動作を取ってログアウト。
ログアウトとは言ってもあの宇宙空間で10分くらいはデルわんこと戯れるよ、もふもふは癒しだからね。
本日5/29付けで、ジャンル別日間ランキング2位と総合日間ランキング82位になりましたー!ありがとうございます!モチベーション上がりますね!
次の更新は恐らく来週予定です。