2.VRMMOを始めます
はい、今日の仕事を終えてきました!
「仕事が終われば昨日の続きが出来る!頑張れ自分!負けるな自分!」そう呪文のように心の中で唱えて乗り切ってきた。
思いの外と言うか、正直自分でも引くくらいにテンションが上がっていた模様、ここ暫く感じなかった気力の充実を自覚した。ついでに仕事もミスも無く片付き上司には有無を言わせずに定時で上がってきましたよ!
残業は敵だ。お賃金は美味しいが今は時間を確保したいので敵である。
帰宅をすると昨日と同様にやることを全て済ませてから、VRマシンを身に付けベッドに横になる。
「仮想世界へ」
昨日と同じく決まった言葉を紡ぐと、これまた昨日と同じ謎の宇宙空間へ。違うのは作りかけのアバターがポツンと置いて有ることくらいかな。宇宙空間に浮かぶアバター……これだけ見るとシュールな光景だが気にしたら負けだろう。
「わんわんっ!シグレ様、おかえりなさいませです。お待ちしておりました」
「デルタわんこさん、昨日ぶりです。今日もお願いしますね」
「デルタ……わんこ?」
「デルタわんこさんです、可愛いポメラニアンなので呼び捨てになんて出来ませんよ」
相変わらず宙に浮かぶデルわんこがふよふよと近寄ってくる、今日も可愛いは健在だ。デルわんこが私が付けた呼び方に疑問を持ってしまったようだけど、首を傾げて困る姿も愛らしい。このデルわんこの柔らかい毛並みに抗う事など出来ないので有無を言わせずにデルわんこを抱き寄せ、何回かデルわんこの頭や顎下、お腹を撫で回してから昨日の続きに取り掛かる。一度覚えてしまったからには何もしないなんて、そんな勿体無いを出来るはずもない。まだ二日目では有るが、このスキンシップはもう日課なのだ。
アバターに向き合ったところで、なんとデルわんこが私の頭の上に陣取るといった、それはそれはもう可愛いことをしてくれた!
今日の仕事のご褒美かな!?私との戯れに疲れて乗っているだけかもしれないけれど気にしないぞ。頭とは言えわんこの柔らかな腹部の感触と心地好い温もりが堪らないですね!肉球でぽふぽふ叩いてくれても良いんですよ!これを味わえるだけでもVRって本当に最高です!!五感リンク機能は偉大だね!!
気力が充分に滾ったのでアバター作成の続きをしよう、姿かたちは決まったので色合いを決めていく。
カラーチャート一覧がヤバイな。これも量がやばい、自由度が高過ぎる。
うーん……金髪や銀髪も捨てがたいけど淡い色が良いかなー、赤系、青系、緑に茶色に…。ポチポチとカラーチャートを弄る。これは本当に危険な奴だ、基本色だけでなく明度や彩度までも弄れる……楽しくていつまで経っても決まる気がしない。
こうなったら好きな桜色にしよう、それで少し色素を抜いて銀髪に近いけど光に当たれば淡く桜色に色付く感じにした(デルわんこにお願いして周囲の明るさを変えてもらい確認したので問題は無いと思う)。
睫毛や眉毛は躑躅色を基本にして暗めに、瞳は金色が基本でゼニスブルーを少し差し入れた。自分でやってみといてなんだけどそこまで弄れるんだ……、デルわんこも「そこまで弄った人はシグレ様が初めてですね」と言っていたので、まあ、その、うん。気にしたら駄目だ。綺麗な瞳が出来たから善しとしよう。
因みに体毛の設定も出来るらしいがそこは無しにした、厳ついオジサマアバターなら設定したけど今回は性別不詳の美青年なので不要です。ゲームなので自分が見て楽しめる姿が愛着も湧くしね。元の自分から全く違う方向で完成した、違う自分で有りたい願望が如実に出ている気がしなくもない。
「ふわー、お疲れ様なのですよ。次は種族設定に入ります。製品版となりますので種族は……正直運営ってバカなんじゃないんですかって思うくらい沢山有りますのです」
あ、運営側のデルわんこもそう思うレベルなんだ。
「でもやはりですね、ベータ版で選択可能だった種族達が割合的には多いです。現在アバター作成を終えている方々の7割りは人族、エルフ族、ドワーフ族、猫型獣人族に犬型獣人族です。勿論進化ツリーも枝分かれをしてますのでゲームを進めれば段々個性が出てくるとは思いますが……シグレ様は如何しますか?」
これまた正直に言って迷う、一般的に考えて人族は間違いなく万能型では有るけど……どうせ遊ぶなら一般的な枠からは逸れたいマイナー思考がウズウズ。でも人の形は維持したいジレンマも有る。
ストレス発散と称して武器を振り回したいし、殴ったり蹴ったりもしたい。浪漫を求めて錬金術は絶対だし料理もしたい、味覚リンクも有るんだから美味しいご飯を沢山食べたい。メインは生産職で構わないのだけど、どうしたものか。
見ること自体が億劫になりそうな程に有る種族一覧を順に見ていく、種族名を注視するか名前を指でなぞれば説明が出てくる模様。選ぶ気は全く無いけれど虫とかにもなれるのか…それって序盤で詰んだりしないのだろうか。……まあどう考えてもこう言うのは余程好きなマニアとか縛りプレイが好きな人がなるのだろう。
「ううん、デルタわんこさん。こう姿は人なんですけど実際は人じゃなくて生産職が可能な種族って有りますか?」
「そうですね、俗に言う天使族や悪魔族、死霊族に星詠み族と色々有りますですよ。ただ初期から設定自体は出来ますがゲームが開始した直後は苦労するかも知れないです」
どうやらこのゲームは初期設定時に一般的な種族の上位に位置する種族を設定できる仕様とのこと、但し真価を発揮できるようになるまで時間が掛かるし、それまでの行動制限も大幅に掛かるらしい。なので本来は下位種族から始め、順に種族ツリーを辿って変化するものだと言う。なので頑張れば強くはなるけど、それまでが下位種族より大変らしい。
稀に種族と本人自身のリアル能力等が上手い具合に噛み合い、行動制限が殆ど無い状態で設定できる人も居るには居るらしい。
宝くじに当たるよりも低い確率らしいので狙わない方が無難だろう。
そうなるとますます悩む訳で…。ああ、でも料理が食べたいなら材料を集めるのも踏まえてやっぱり人族が良いのかな。虫なんて選んだら絶対食料集められないし、料理が出来るようになるまで時間が掛かること請け合いだよね。
「有る意味人族が一番色々できますし俗に言うチートなのですよ、運と実力と相性さえ合えば様々な種族からの加護を受けられます。加護の種類に寄ってステータスアップは勿論、特殊効果の付与など特典は盛り沢山。一応ルートさえ見付けられれば他の種族に変化も出来ます。デメリットとしては様々な状態異常を回避する術はアイテム以外には有りません。魔法などで一時無効や回復は出来ますが必ず掛かる可能性が有ります。それに空腹ゲージの減りが一番早いので燃費は他の種族に比べると悪いです」
ぐぬぬ、悩む頭に更に悩み抜くように情報を押し付けてくるデルわんこ。
種族一覧の画面をスクロールさせ、最早ただ眺めるだけとなった文字達。
ふと視界に《自己幻族ーファントミュアー》と言う謎な物が映った。初めて聞く言葉だな。
「デルタわんこさん、デルタわんこさん。この《自己幻族》ってなんですか?」
「わん?ああ、これはですね有る意味運営の遊び心でして……ドッペルゲンガーって解ります?本来は自己像幻視って言う言葉なのですが、ゲームなので折角だしこんな種族も作っちゃいましょうと悪ノリで出来た種族の一つなんです。名前の由来は幻、幽霊と言った意味がある『ファントム』からですが、運営的にちょっと弄りましょうと言ったノリで名前も決まりました。見た目は人、出来ることも人とほぼ同じ。現実世界での都市伝説でオカルト扱いの為ゲームの世界では死霊族に近く実体はそこに在るようで無いようで在る。並列思考と並列処理、並列動作と言う3つのスキルが有れば自分のステータスを任意で切り分けもう一人の自分を産み出せるといったかなり扱いが難しい種族です。都市伝説に在るようにもう一人の自分を見たからと言って死ぬことは無いです。勿論上位種族となりますですよ」
「そうなんですねー……、じゃあこれにします」
「ふきゅっ!?え、自分の説明を聞いてましたか?」
「聞いてましたよ。上位種族なので最初は行動制限が掛かるけど頑張れば報われるし、人族と変わらないことが出来るんですよね?」
「まあ、間違っては居ませんけど……。本当に良いんですか?」
「良いですよ、悩んで悩んで仕方が無かったのでこれにしちゃいます」
という訳でポチっと《自己幻族》の文字を押しました。
種族を選んだからと言って見た目に変化は無かった、これは本当に外見では判断が付かない奴だ。
流石ほぼ人と同じと言うだけはある。
「本当に選んじゃいましたね。では次の設定に移行しますのですよ」
若干溜息が混ざっているが次に進めてくれるデルわんこの指示に従いステータスの設定に移る。
初期値は全員が所持するポイント合計値は一律らしい。
早速デルわんこに表示をしてもらったのがこれ。ゲームが開始された後は「ステータスオープン」の言葉がキーとなり表示出来るとのこと。任意で見せたい人を設定出来るので覗き見は出来ない仕様だって、まあそうだよね。他人のステータスを見て、自分より優れてたりレアな種族だったりしたら絶対に文句を言う人はどこにでも居るもん。
そんなわけで私の現在の初期ステータスがこちら。
《名前:シグレ》
《種族:自己幻族(未覚醒) 男》
《レベル1》
STR 15
DEX 15
VIT 15
AGI 15
INT 15
MND 15
LUK 10
ステータスが凄く平均的な数値です……。
あ、これがデフォルト設定らしいのでどの種族を選んでもこの状態になるとのこと。
合計数値が100を越えなければ変更が出来るとデルわんこに教えてもらったので、早速使いやすいように自由に割り振ってみようと思う。
多少は調べたものの、一応VRMMO初心者なのでデルわんこにどれが何なのかを教えてもらう。
STRが日本語で言う『力』、攻撃力に反映する値。解りやすい。
DEXが『器用』もしくは『命中力』。……そうか、そう言った数値がないと端末でポチポチするゲームとは違って攻撃が当たらないとか有るのか。器用さは生産職にもそこそこ必要だよね。
VITが『持久力』、これが高いと攻撃を受けた時に耐えられる低いと直ぐに死ぬ値。……防御力でDEFじゃないのか。デルわんこに聞いたら運営の内部で多数決で決まったらしい、それで良いのか運営。
AGIが『敏捷』、言うまでもなく素早さですね。ターン制のゲームだと先制を取れる奴だね。
INTが『知能』。はい、来ました。これ絶対私の種族に必要なやつ、並列思考スキルを取るなら知力が足りないなんて有り得無いと思うんだ。ついでに魔法を使うのにも必要だよね。
MNDが『精神力』。え、根性論なの?って思った私は悪くないと思う。デルわんこに若干可哀想な人を見るような眼差しを向けられた気がしたけど気にしないよ。この値は魔法防御力になるって教えてもらった、そうなるとVITが物理防御に影響するんだなってさっきちゃんと把握して理解した。
LUKは言うまでも無く『運』だ。言葉通りだし説明など不要だろう。
理解をした上で、必要そうな値を勘で変更をしていく。なんだかんだでバランスは大事だよなと思ってしまう、器用貧乏はVRMMOには向かないって聞いたけどあれこれしたいので仕方が無いと割り切ろう。
確定ボタンをポチっと押すと数値の横に別の値が出てきた。
なんだこれ?
「デルタわんこさん、ステータス数値のかっこの中のアルファベットって何?」
「良い質問なのですよ、シグレ様。かっこの中の値は種族補正の値となりますです。この値だけはレベルが上がろうとスキルが増えようと変化はしません。唯一種族を変更した時のみ変化する値となります。Sが一番上でその後はA~Eまでの段階値になります」
「へぇ……、それぞれの値でどのくらいの恩恵が有るの?」
「それは秘密なのです。非公式なのでお教えできませんが一つだけ。例えば人族は一律でC値の補正が掛かりますがステータスのように数値に直すと全てばらつきがあります、それも個性なのですよ」
「じゃあそこまで気にしない方が良いんですね」
「勿論です!数値に捕らわれて楽しく遊べなくなっては意味が有りませんのです!」
わざわざ私の頭の上から降り、くるんと前転をして目の前に移動してきたデルわんこがふすふすと鼻息を荒くして力説をしてきた。こう言うちょっとした仕種がリアルで、今日もデルわんこは可愛いから両手でわしゃわしゃと撫で回す。
デルわんこの鳴き声が響いたが構わず撫でる、これは最早仕様なので早くデルわんこにも理解して慣れて頂きたい。
二度目のスキンシップタイムを終えたところで改めて決定されたステータスがこちら。
《名前:シグレ》
《種族:自己幻族(未覚醒) 男》
《レベル1》
STR/15(C)
DEX/18(B)
VIT/12(D)
AGI/13(B)
INT/18(S)
MND/12(A)
LUK/12(E)
《状態異常:規定スキルを所持していない為補正能力の半減及び弱体化》
《装備》
武器右:無し
武器左:無し
頭:無し
防具上着:時空忘れの旅人/布服上下セット(耐久値:∞)
防具下衣:時空忘れの旅人/布服上下セット(耐久値:∞)
防具マント:時空忘れの旅人/布マント(耐久値:∞)
靴:時空忘れの旅人/頑丈ブーツ(耐久値:∞)
装飾:無し
《スキル》
未取得
《称号》
未取得
ふむ、この状態じゃ良いのか悪いのか判断が出来ないね。成長に期待しよう。
アバターの横に2つのバーがちょこんと並んでるけどこれはなんだろう、もしやHPとMPか?
デルわんこに聞いたらその通りでした、実際ゲームを始めるときは視界にちらりと映り込むので自分のダメージを色で把握するらしい。
ここは昔から良く有るように瀕死になればなるほど赤くなる模様、ダメージ量に関わらず現実世界で傷を受ければ死ぬ部位は、ゲームで有ろうと弱点になる為一瞬でHPを削る上に直ぐに治さなければ徐々に残りのHPを削るので注意が必要と説明を受けた。
戦闘時は注意しよう。
そこまで説明を受けると昨日と同じく寝る時間になってしまい二日目は終わった。
アバター作成に思いの外、時間を使うのでサービス開始まで時間があって良かったなと切実に思う。
とは言え後5日でサービスが開始になる、明後日の休みに出来ればアバター作成は終わらせたい。
明日職場でゲームサービス開始時と翌日に貯まってる有給が使えないか聞いてこよう、閑散期だし行けると思うんだ。寧ろ休ませろと訴えてこよう、そうしよう。
※※※
今日も予定外に元気に仕事を終えてきた、そして有給も取れました!!
2連休の予定だったけど3連休をもぎ取ってきた、連休明けに仕事の山で死にそうだな。あはははは……。
そんな事はさておき、最早日課になりつつある宇宙空間でデルわんことイチャイチャ……もといアバター作成タイムだ。
なんでこんなに時間が掛かるのかと思ってしまうが仕方無い、暇な人は複数アバターを作っておいてゲームが開始をしたら使用アバターを選ぶとか聞いたけど私には無理だ。時間もないし、これだけ丁寧に決めていったアバター作成をもう一回やろうとか正直面倒。
「シグレ様、今日も頑張りましょうです」
「はい、デルタわんこさん。ご指導お願いしますね」
「お任せください、その為の自分達、その為のサポートですから!今の内に何でも聞いてくださいなのです」
「解りました。アバター作成後は実際に使用して動けたり出来るんですか?」
今日も私の頭の上に乗っかりつつ武器選択画面を表示してくれるデルわんこ。お気に召したのだろうか、定位置にされっちゃたのだろうかと思いながら別の質問をデルわんこに投げる。
――おおー、武器もそこそこ一杯有るな。
「勿論ですよ、やはりですね実際に動いてみないとわからない武器の相性や身体の違和感、精神への影響。その他諸々を我々運営としても確認したいものでして、常時脳波と身体のデータスキャン感度を最大にして現実世界で1時間は確認をさせて頂きたいのでアバター作成後はそう言った内容を皆様にお伝えして、アバターとリンク後に好きに動いて貰うようにお願いしております」
「わりとしっかりチェックするんですね」
VRマシンで常時身体の健康状態をチェックし、そのデータを一定期間毎にVR健康管理センターと言う機関に送られと言うのは、同意書に記載をされてるので知っていたけどやっぱり運営の方にも情報が行くのか。そうしないとゲーム的な問題での不具合修正が出来ないもんね。
《VR健康管理センター》
名前の通りVR技術に付随する、身体への影響、精神への影響を管理する所だ。
これはVRマシンを開発している会社全てがお金を出し合い、不測の事態が起きた場合や使用者に何かしらの影響が出た場合対応するのが仕事。良く有るVR酔い障害から現実とゲームの世界の境界線が不明瞭になった人への治療などピンキリらしい。その道のエキスパートが24時間、年中無休で対応してくれる。
現在販売されているVRマシン(個人作成分は含まない)には、使用時に必ずこのVR健康管理センターに情報が送られる機能が備わっている。
なので本来VRマシンの使用は一人に一つ、匣体のみ複数分の登録が出来る。悪用が出来ないようにとのことで、昔で言う複アカと言ったものは使えないしリセマラもできない。
例え複数のVRマシンを使用したとしても本人の身体の情報は唯一のもので在る為、統一されてしまうらしい。
因みに身体や精神に影響が出た場合、緊急アラームと共に強制的にVRの仮想世界から弾かれる。管理センターへ送られたデータの症状によっては確認の連絡が使用者に入ったり、救急車の手配をされる事も有るそうだ。
そりゃあ最初のVRマシン購入時に色々承諾させられたり入力させられわけだ。
「デルタわんこさん、武器これにします」
「決まりましたか!……大鎌ですね!」
「はい、ロマンを求めてみました」
実はこの武器選択画面。例えば《剣》を選択すると次に《短剣》《長剣》《両手剣》《二刀流》と項目が出るのだが、《短剣》と選べば目の前に極一般的な短剣が出てくる。そこから規定内の好みの長さに持ち手や刃の長さを変えられると言うか好みにカスタマイズ出来る。
因みに選択肢がグレーアウトしていると選べなかった、恐らく種族的ものだと思う。とは言え私の種族は傍目には人族なので明らかに種族固有と思われるもの以外は選択できた。
大鎌はあれだ、イメージとしては死神が持っている鎌。刃の部分をかなり大きくして柄も長めにしてある、全体でだいたい2メートルくらいかな。扱い難い気もしているが遠心力に任せて振ったら楽しそうだと思うので選んだ。どうしても無理なら後で変えれば良いんだ。
「では最後にスキル選択になります。初期スキルは10個まで、その後は本人の努力次第です。現実での技能が有るならそれも早い段階でスキルとして昇華できますの後で色々と試して頂ければと思いますです」
「なるほど……じゃあ、料理をしたいけど現実で料理が出来るならスキルとして今は選択しなくても問題ないですかね?」
「そうですね、そこまで問題は有りません。後で覚えれば良いのですよ」
ふむ…、デルわんこのアドバイスを受け入れるなら使いたいけど苦手な種類のものとかを率先して入れた方がいいのかな。
「これは答えられるならで構わないんですけどー……、デルわんこさんから見て私の種族的にお勧めのスキルってどれですかね?」
「くぅん?……えーっとですね」
目の前に表示されている大量のスキルの内、5つほど文字色が光った。
《影操》《鑑定》《言語》《考古言語》《思考加速》
「ここら辺が良いと思うのです」
光る文字に指先で触れると説明が頭の中に流れて来る。
《影操》自分の影を操る技能。レベルが上がれば周囲の影も取り込み使用可能。
《鑑定》あらゆるアイテムやモンスターの事象を調べることが出来る、レベルが足りない場合は鑑定結果が不明となる。また同じ鑑定持ちからの鑑定を防ぐことも出来る。
《言語》様々な種族の言語を理解できるようになる、レベルが足りない場合は理解が出来ない。パッシブスキル。
《考古言語》古く忘れ去られた古代言語を理解できるようになる、レベルが足りない場合は理解が出来ない。
パッシブスキル。
《思考加速》対象者の約1、5倍の速度で思考を加速できる。また戦闘時等、対象者の動きをより多く知覚できる。パッシブスキル。
良いのか悪いのか良く解らないけど、デルわんこの言う事を信じよう。私よりゲームの世界が種族に詳しいわけだし、騙すとも思えないからね。
それからかなりの時間を使い残りのスキルも選択していく。
《錬金》《調合》《魔力探知》《魔力操作》《気配察知》
これで良いかな、現実では身近じゃないし。
《錬金》錬金術が使えるようになる。無から有を生み出す基本。
《調合》ありとあらゆるモノを掛け合わせられる。使い方は本人次第。
《魔力探知》自分及び周囲に漂う魔力の流れを感じられるようになる。
《魔力操作》自分の魔力を任意で操作できるようになる。
《気配察知》敵や危険等を察知する。スキルレベルに依存。パッシブスキル。
普通は攻撃スキルを入れるんじゃないかって?うん、私もそう思った。だけどデルわんこ曰く「余程センスが無い場合を除いて武器を使っていけばスキルは手に入るのです、スキルが無くてもダメージが全く通らない事は無いので安心して欲しいのですよ」って、言われたからには生産スキルとか入れるよね。《料理》は自力で覚える予定。
「はー、全部決まりました。デルタわんこさん、ありがとう」
「どういたしましてなのです」
頭上に居るデルわんこを撫でる、後頭部にぽふぽふ当たる尻尾が気持ち良くて可愛い。
「これでゲームを始める時に必要なアバター作成は終了です、残りはゲーム開始日までお待ち下さいなのですよ。シグレ様、この後現実世界でのお時間を頂けますか?」
目の前の空間に現実世界の時間が表示される、もう少ししたら寝る時間だ。……但し明日が仕事の場合、に限るが。明日は休みなので今日の就寝時間は自由なんですよ!!
「構わないですよ、武器を決める前に話していた件ですかね?」
「そうなのです、今からシグレ様の精神をこちらのアバターにリンクさせますです。方法は簡単。アバターと向かい合い両手を取ってください、そして目を瞑ります」
デルわんこの指示に従いアバターの手を取る。……うむ、ちゃんとした男性の手ですね。自分で作った美人なアバターだから少しドキドキするぞ、なんて思いながら目を瞑る。
…………。
どのくらい瞑っていれば良いんだろうか。
「シグレ様、目を開けて下さいです」
デルわんこに声に従い目を開けた、宇宙空間のせいか視点の変化はほぼ感じられない。でも横に流れる髪の毛は見慣れた黒髪では無く、ほんのり桜に色付く銀糸だった。
腕を曲げて目の前で両手で拳を握ったり開いたりを繰り返す、その後軽く跳ねてみたり走ったり蹴りを入れる動作をしたりと色々と動いて見たが特に違和感は感じられない。
これが最新のVR技術……!!
感動しているとデルわんこが頭の上に乗ってくる、もう絶対その位置定着してるよね?他のプレイヤーと接するサポートAIもこんな感じなのかな?明日妹に聞いてみよう。
「シグレ様、いかがでしょう。何か気になる事はございますか?」
「大丈夫みたいですよ、今のところは。寧ろ身体が軽く感じられるので動き易いです、この状態なら武器を持っても余裕で動けそうな気がします」
「それは良かったです。恐らく相性が良いんでしょうね、それでしたらリンク設定は現状維持で。ではシグレ様、大鎌を出しますですので使ってみてください」
デルわんこの言葉が止むと装飾品等が一切無いシンプルな作りの大鎌をが空間に現れた。先程設定をした刃の大きさや柄の長さになっている。腕を伸ばして迷わずに長柄の部分を握り引き寄せる。
恐らく刃も柄のそれなりに重量が有るせいなのか、ずしりと重たい。あれ、もしかして結構なSTR値必要かな?
両手で構えて取り敢えず上から下に、下から斜め上に、右に左にと振るってみる。
ヒュンヒュンと風を切る音が響く。……が、両手だと振り難い。少し辛いけど片手で振ってみると……わわっ!!遠心力仕事しすぎぃ!!身体の軸がぶれるぶれる。
あ、はい。やっぱり両手で振るべきですね。でも勢い良く振った後に踏ん張れず、その場から離れてしまうなら遠心力に引っ張られるのを逆に利用してしまうのも有りかな。刃だけでなく長柄の方でも対応出来るように出来るだけ慣れよう。両手で振った時、片手での使用方法、柄を引くタイミングと結構練習が必要な感じだね。
現実世界では使うことが無い大鎌だし、現在教えを乞う相手が居るわけでも無いので自己流にはなってしまうが、ゲームが始まった時にそれなりに戦えないと困るのは明白。それなら使い方を身体で覚えてしまい、自分のものにするまで試行錯誤すれば問題など無い……はず。
幸いどれだけ動いても疲れないし筋肉痛にもならないのでひたすら大鎌の練習に励んだ。
デルわんこが言っていた、1時間の動作チェック時間を大幅に過ぎて居るとは気付かずにそれはもうひたすら。初めての事ってついつい夢中になるじゃない?ゲームなんて始めた初日とかやり込むものじゃない?
『《運営の遊び心:シークレットクエスト》クリア』
『《筋力増強》《大鎌の心得》《体幹》《集中力》のスキルを取得。《称号:やっちまったな》《称号:デルタのお気に入り》を取得。』
【一定時間、同動作を繰り返し所定値に達しスキルを取得したプレイヤーが現れましたのでリアルードオンライン正式サービス開始時間までボーナス期間に移行します。詳しくはサポートAIにご確認、又は公式ホームページをご覧下さい】
……はい?
今のアナウンスに色々突っ込みが有るんですけど、取り敢えずもしかして私が原因ですか……あれぇー???