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悲喜交々

冷徹王子の悲喜交々

作者: 広野狼

悪役令嬢の悲喜交々の王子様視点。



 気が付けば世界が随分と窮屈だと思った。成功は当たり前、失敗は不十分。成功だけをただ求められ続けるというのは、理不尽だと思う前に、ここまで来てしまった。

十分な出来の私が居るお陰で、弟は、伸び伸びと暮らしているし、すぐ上の姉も大概自由だ。

反面、誕生とともに、次代の国を継ぐものとして育てられた私は、何かと行動に制限が付く。友人一人も吟味され、気の置けない友を作るのも一苦労。

なんとか、冗談を言い合える程度の友人を作り、窮屈なりに息継ぎをして生きてきた。

もっとも、それを出来る場所が限られては居るが、それでもないよりは良い。

 「今、著しく低い評価を下された気がする」

 「お前は本当に、妙に勘が良いな」

一瞬前に、ないよりはマシ程度という評価を下したところ、すぐさまの反応に、少々の呆れも混じる。

このお陰で随分と助かることもあるが、当人はこの調子であるし、家格も高くないため、あまり連れ回すことは出来ない。

私用であれば、どこでも連れ回すが、公務になれば、さすがに連れ歩くのは難しい。これで何かしらの頭角を現しているのであれば、違うのだろうが、この勘の良さ以外は、平凡すぎる。

 「それを重用しているんだから文句を言われる筋はない」

真っ向切ってそう言う態度が、周りには受け入れられない要因の一つなのだが、この男が何かと波風を立てるものだから、それなりにやりやすいのも事実。

こうして策を巡らせ、人を上手く使えれば王だというのであれば、それこそ私という個人である重要性は低い。

 「王なんて、私でなくとも良いのにね」

私が居なくなれば、弟が居る。最悪姉が婿を取って継いでも構わないだろう。そのお膳立てをしろというのであれば、喜んでやりたいものだ。

 「何でも卒なくこなしておいて、それはないだろ」

苦笑する友人に、私は眉間に皺を寄せて抗議をする。何でも卒なくこなしているわけではない。何でも卒なくこなすことを求められているだけだ。

 「普通の人間は、それができないから普通なんだよ」

求められたことをただ返す。それが出来てしまうことが少々異常だと、言外に言われているようだ。

出来なければ、呆れられ、こんなこともできないのかと馬鹿にされる。出来たら出来たで当たり前。

我ながらよく、根性が曲がりきらなかったものだと思う程度には、真っ直ぐではない自覚はある。

それでもまだまだ世界は私に窮屈を押しつけたいようで、今度は、王妃になれる女性を選べと言い出した。

 「結婚なんて、まだまだ考えられません」

もう少し、一人の身軽さを味わいたいと、抵抗を試みるが、それならばと、父と母は提案をする。

 「婚約で良いのよ。すぐに結婚とは言っていないわ」

婚約など、結婚と変わらないとも思ったが、独り身で居れば、王妃という座に着きたくてまとわりつく者も多い。なにより、実力行使に出られればなし崩し。

それに、独り身が長くなれば、それだけ勝手な噂が流れて、外堀を埋められる可能性があることに気が付いた。

この辺りで、適当な者を婚約者として据えておくのも、確かに悪くはない手だと、適当に見合った家格と年齢の女性を見繕うことにした。

 「いや、そこはもう少し、好みも入れていいんじゃないか?」

目録を睨んでいれば、友人が呆れたように言葉をかけてきた。

 「好みとは?」

じっと目を見据え、友人の言葉を待つが、だんだんと視線をさ迷わせ、赤くなった挙げ句、視線から逃れるように横を向いた。

どうやら、色々と考えたは良いが、おいそれと言葉に出来ない類いになったと見て取って、無難な言葉を返してやる。

 「だいたい、顔も肉体も、年を経れば似たり寄ったりになると思うが」

 「一時的って思ってるくせに、なんで即物的要因を排するのか分かんないぞ」

確かに友人の言葉も一理ある。だが、下手に肉体関係など持てば、婚約ではすまなくなるため、蠱惑的な肉体は、決して選択順位の高いものではない。

 「そう言えば、今度、城でお披露目があるんだろ。社交界に上がる年になるなら、丁度良いんじゃないか。そこで直接見て決めるってのもありだろ」

ぼんやりと、体と顔に自信のある人間ほど辟易とすると思っていれば、友人は、さも名案とでも言うように、数日後に差し迫っているパーティーを思い出し勧めてきた。

 「初々しい娘など、あそこで探せると」

ギラついた肉食としか思えない者だけが、私の近くまでやってくるのだ。気の弱い令嬢たちを退け、まるで頂点を競うかのように。

もっとも、彼女らの見ているものは、私であるのか、甚だ疑問ではある。王にならない私に、どこまでの価値を見いだすのだろう。

きっと、ちり一つほどの興味も無いのだろうなと、思い至り、くすりと笑えば、友人が、嫌なものでも見るように、こちらを見ていた。




 婚約者を立てろ、選べとせっつかれながらのパーティーを終え、なんとかひと息付いたところで、置かれている目録を再び繰り始める。

前回でだいぶ減ったと思っていたが、パーティーの後でまた増えたようだ。確実に厚みが増している。

それでも、見ないわけにも行かず、興味の無いままに繰っていけば、ふっと手が止まった。

貿易の要となるため、下手な一族に任せることが出来ず、たいした功績もないが、立地的価値を考え、分不相応な爵位を持っている家。

どうやら、娘が年頃になったようで、この間のパーティーに出席していたようだが、全く記憶にない。

名前を聞いた記憶すら無いのはおかしいと、父のところに行って質問をすることにした。

さすがに、私が知らなくとも、父は知っているはずだろうと考えたが、その答えは、予想外のものだった。

 「ああ。あの家か。ちらりと顔を見せて去って行ったぞ」

そんなことが許されて良いのかと、顔に出ていたらしく、父は、苦笑とも何ともつかない顔をすると、次いで遠い目をした。

 「何故かあの家の者は、代々小心者でな」

だいそれたことを考えないのは良いことなのではないかと思うが、そうではないのだろうか。

 「あの者が若いときに、勇気を振り絞って、挨拶に来たときなど、その場で白目を剥いて倒れてなぁ。後始末の方が大変だったので、先王に倣って、あの一族はそっとしておくことにした」

大の男が卒倒するなど何事かと、それはそれは大騒ぎになったらしい。それを登城の度にやられては大変だと、あの一族は、適度な距離で挨拶をすれば良いことにしてあるらしい。

 「それで先のパーティーは?」

 「人混みの端で少しばかり目が合って、黙礼が精一杯だったようだ。娘に支えられて帰っていったなぁ」

だいたいそこまで小心者で、良く、交易の要など任せられるものだ。脅されて言いなりになってもおかしくないのではないかとすら思える。

 「あの一族の小心は筋金入りだ。何代前だったかのあの一族の当主が、青い顔をして、王城に上がってきたことがあったらしい」

今にも死にそうな顔をして王に謁見を求めたものの、元が小心者の一族だ、話し出すまでも大変だったらしいが、話し出してみれば、それはそれで脱力ものであったらしい。

自分はとんでもないことをしでかしてしまったとでも言わんばかりに、真っ青になり、涙ながらに語ったのは、隣の領主に荷抜けを嗾されたというものだったらしい。

嗾されただけで、合意したわけでも、実際手を染めたわけでもない。まして、自分から嗾したわけでもないのだから、罪を問えという方が難しい。

けれども、彼の一族の当主は、床に頭をこすりつけながら、言ったらしい。

 「それもこれも、付けいる隙があったのがいけないのです」

嗾した側がいけないのではなく、嗾せると思う隙があった自分が悪いのだと、泣きながら許しを乞う当主を宥めることの方が、悪行の発覚より大変であったと、当時関わった人間がしたためたものがあるらしい。

その話は、終始愚痴のようなもので占められ、公的な文書では有り得ないものであったが、公的ではなくとも、後人に何らかのものを発したかったと思え、そっと紛れ込んでいるらしい。

その、小心者過ぎて手に負えない一族は、未だに小心者であることは変わりなく、そうであるならば、そのままでおいた方が良かろうと、要を任されているらしい。

これだけの騒ぎを引き起こす小心者が、土地の管理をずさんにするとは考えられず、まして、謀反など頭の片隅にすら浮かばないことは確か。

騒ぎとなるほどの小心者と分かってからは、声を掛ければ、ことが動く前に悪事が発覚するので、嗾されることはなくなった。その当主の言う所の、隙はなくなったのかもしれない。

 「それはまた」

父の話しを聞き、絶句をするしかないほどだった。

しかし、それは妙に気をそそる。

伝え聞けば、とんでもないが、果たして、それは真実であるのか。装っているのではないか。もし、偽装でないのなら、それはそれで楽しいことになるだろう。

日々の退屈を、鬱屈した毎日を、そして、それとなく勧められる婚約を、一気に解消できるかも知れないと思った。




 その後色々と調べてみれば、娘の方はなかなかと面白い経歴を持っていた。

十の頃、色々と奇行が目立ったことがあったらしく、その年頃の親を持つ者などからは、それとなく敬遠されているらしい。

当の本人も、そのあたりはわきまえているようで、半ば婚姻を諦めている節があるとのこと。

さて、降って湧いた幸運に、どんな反応を示すのか。

 「悪い顔してんな」

ぼそりと、後ろに控えた友人が呟いた。見えていないのに、顔を指摘するとは相変らずだ。

かくて、私が訪ねたその家は、分かりやすく蜂の巣を突いたような状態になった。

 「聞きしに勝るな」

使用人の数からして少ない。教育など、当主からしてあれなのだから、まともに出来るとは思えず、なるべくしてなった惨状と言えた。

 「いや、大分お前の所為だからな」

家格だけは高いため、爵位の上のものが訪ねてくることは少ない。なにより、一夜の宿をと泊まった者は、別邸に案内されるらしい。当主の心臓が持たないとのことで。

そちらは、別の場所できちんと躾けられた者が取り仕切っているらしく、こちらより、上等な待遇を受けられるとのことだ。

客間に通されれば、座っているのは、私と件の娘。

間を逃したのか、そこまで気が回らないのか、他の者は、立ったままだ。使用人も、ガタガタと、震えながら茶を出したところで、三々五々と逃げていった。

これだけ楽しませてくれたのだから、このまま婚約の話は進めようと、適当なことを口にした。

 「家格的にも問題はないし、何かあっても切りやすいしねえ」

ゆったりとした笑みを浮かべて、威嚇をするように告げれば、目の前の娘は、あからさまにほっとした顔をした。

 「ああ。良かった」

声は聞こえなかったが、はっきりとその口がそう言葉を紡いだのは分かった。

切り捨てられると聞いてほっとするなど、何を考えているのかと、じっと見ていれば、娘は、些か顔色すら良くなり、口元に淡い笑みを浮かべた。

 「我が家であれば、毒にも薬にもならず、良いと言うことですね」

切り捨てられることは織り込み済みで言っているのが分かり、逆に警戒をすれば、後ろに控えている友人から、呆れたような気配がする。

本気で、本心で、切り捨てられることを納得しているというのか。

思わず出た声は、まるで地を這うよう。

 「少しは自らに利があるとは思わないのか?」

私の言葉に、一瞬面食らった顔をしたが、すぐさま取りなすような表情をし、娘は、今度こそにっこりと笑った。

 「そうですね。多少の箔でも付いて、少しばかり自慢できるかも知れませんね」

王族と婚約していたこともあったと、自慢できると言っていると、私ですら分かる。

友人はもっと何かを感じているようで、更に呆れているようだ。

 「では、了承と言うことで問題ないのかな?」

ここまで権力欲を感じさせない一族も珍しい。その中でも、この娘は多少見込みがあるのか、家族が息をしているのか怪しい状態でも、一人なんとか受け答えが出来る程度に意識を保っている。

私の言葉に、娘はゆっくりと立ち上がると、ぎこちないお辞儀をした。

 「はい」

ただ短く返事を返した娘と、私の婚約は、こうして決まったのだ。




 あの娘、いや、彼女は、伝聞よりも更に変わっていた。

上級貴族としてのマナーが全くなっていなかった彼女に、マナーを教え込むのもあり、王城へ招いた。

婚約者という名目もあるため、誰もそれに反発もなく、彼女は王城に一室を与えられ、マナーを習う。

父と母に会わせたときは、それは見事に笑顔が固まっていた。父は憐れむように早々の退室を許可し、母は、初めてまともに見た一族の一人に、感心していたが、やはり、王妃の勤まる器ではないと感じているようだ。

私も同感だ。だが、見られる程度の教養は付けて貰わねばならない。一応婚約者として正式の場にも出て貰う必要があるからだ。

彼女は、粛々とマナーの勉強はしているようだった。ダンスを一から習うらしいと聞いたときには、何とも言えない気持ちになったが、父は、公の場に寄付かない一族であるから、納得の状況であると、頷いていた。

しかし、母も私が一時しのぎに彼女を選んだことを分かっているようで、王妃としての教養を身につけさせようとはしなかった。

王妃としての教養は、秘匿すべき所もある。それを教えるには彼女は足りない。いずれきちんと私が観念したときに、教えられる女性を選ぶのだと思っているのだろう。

私も、初めはそうするべきだと思っていた。

だから、彼女がふらふらとしていることも気にならず、彼女が何も言い出さないのをいいことに、ほとんど構わずにおいたのがいけなかったのか、しばらくすると、どう振り払ってもしつこく食い下がってくる女が増える。

側仕えが何名か、女にたぶらかされているようで、良いふるいだなと、置いておけば、気が付けば二年ほどが経っていた。

時折、彼女の不穏な発言の報告はあるが、行動は何一つない。いや、彼女の一族を思えば、不穏な発言は、取る者がねじ曲げただけのことだろう。

だが、彼女の一族をよく知らない者は、その言葉をそのまま受取り、口さがなく噂する。

彼女もまた、それが分かって増長するような言葉を発しているようで、噂は留まることを知らない。

会ったところで、彼女はいつでも当たり障りのないことしか言わず、むしろ、何かを待っているように目の奥に期待を込めている。

私の気が変わって、彼女を王妃にするのを待っているのかとも考えたが、どうにもしっくりとこない。

婚約破棄を願っているのだろうかとも思ったが、いくら小心者の一族だとしても、そこまで権力欲がないものだろうかと、やはりそれも得心がいかなかった。

しかし、ある日、友人が彼女の少しばかり大きすぎる独り言を聞いてしまったと、私に告げた。

 「いや、彼女、お前とあのしつこいのが一緒に居るのを見て、必死な姿が微笑ましいって言っててさ、そんときはまたそういうこと言ってんのかって思って、そのまま通り過ぎたんだけどさ」

そこで、友人はにやりと笑った。

 「ちょっと気になって戻ったら、彼女ちょっと大きな独り言を呟いててな」

やけにもったいぶって言葉を切る。

どうやら、友人にとっては楽しい言葉を彼女は呟いたらしい。

 「面倒って言ってて」

 「面倒?」

思わず言葉を繰り返すと、友人は本当に面白いと言わんばかりに更に言葉を続けた。

 「いや、ほらな。今まで人伝だと、なにやら、お前との婚約を喜んでんのかっていうような噂ばっかりだったけど、面倒って言葉、初対面の時の印象のまま過ぎて」

友人の言葉に、やっと今までの違和感と、得心がいかないことに、納得がいく。そうだ。彼女は、この婚約を最初から喜んでいなかった。むしろ厄介だとでも思っていたかのよう。

なにより、最初から彼女は破棄を前提とした婚約に了承をしたのだ。

 「ああ、そうか。面倒か」

彼女にとって、権力など面倒なのだ。最初から乗り気になれないほどに。そして、面倒の一言で、彼女は、それを拒否できる。

何とも羨ましいことだ。

いや、そうでもないのか。

 「あー。お前今なんか厄介なこと考えただろう」

まるで私の心の先を読むように、友人が顔をしかめる。

 「まあ、私は楽しいと思うよ」

そう言って笑ってみせれば、友人は更に顔をしかめた。




 「随分と手間取った」

予定であれば、もっと早くに終わらせていたはずだったのだが、思っていたよりも抵抗された。

 「いや、普通に嫌がられんだろ」

全てが整った状態になったのを知った友人が、嫌そうな顔をしている。

 「私が居なくとも、弟が居る。弟も同じように習っているのだから、私である必要も無いだろう」

彼女に言われるまで、この状況が面倒であるとも気が付いていなかった。言われるがままに修めて、言われるがままに王になるしか道がないと思っていた。

これが、世継ぎが私一人だったというのであれば、話が変わるだろうが、私には弟が居る。最悪姉が婿を取ったとて良いのだから、私でなくてはならない理由もない。

むしろ、彼女の領地をこのままにしておくと、そろそろ爵位だけで貰える金にも限界が来そうだと、彼女を訪ねるときの館の様子などを見て進言して、やっと了承させたのだ。

 「お前が、だいたい完璧にこなしてきた後だぞ、比べられてこれから苦労すんだろう」

 「そうなのか? 私の師事した者達は、私は出来て当たり前、出来なければこんなこともできぬのかと叱ったが、弟は出来ただけで褒め倒しおだてていたぞ」

自分たちが甘やかして育ててきたのだから、これから先が大変だろうと問題ないだろう。

 「いや、お前に確定だから、甘やかしてたんだろ。絶対」

 「世の中、絶対や、必ずなどないというのに、不思議だね」

不慮の事故で私が死んだとでも思えば良いのだ。

やけに弟の今後を憂える友人に、思い入れでもあるのかと思う。

 「なんなら弟の側近に勧めておくよ」

私と一緒に行けば、権力とは無縁になる。そう言うものを友人が望んでいるとは思えないが、友人と違って、私は人の心の先を読むような真似は出来ない。もしかしたら、友人にも、権力に対するなにがしかの欲があるのかも知れない。

 「ふざけんな。あんなおぞましい女に付きまとわれるくらいなら、お前に付いてくに決まってんだろ」

私の心を読んだように叫ぶ友人に、少し残念という顔をしてみせれば、更に嫌がる。

 「冗談だよ」

 「まあ、あそこに行くんなら、金の心配はねぇしな」

 「娯楽は無いけれどね」

あそこは、関所であるために、私の従者にはそれなりに給金は出る。しかし、あの一族は兎に角金を生み出す手腕というものがない。

むしろ、国に納める税金をよく割らずに納められるものだと思うほどに。そのくせ、どれほど貧困に喘いだとしても、悪事に手を染めることだけはしないというのだから、頭が下がるほどの小心さだ。

 「まあ、ほら、娯楽の類いはこれからお前が作るんだろ。期待してるぜ」

気楽な友人の言葉に、私は肩をすくめて見せた。

婿に行くのだからと、父に無理を言って内情を見せて貰ったところ、何かにつけて、取れていないものも多い。

少し手を加えただけで、すぐにそれなりに資金は手に入るだろう。

婚姻までの手はずは全て整えたところで、彼女に全てを話すのが楽しみでならない。

彼女はいったいどんな顔をするだろうか。

きっと喜びはしないだろう。

それでも、彼女は断れない。これからを思って、笑みを深くすれば、友人が顔をしかめた。

これは私でも分かる。

彼女の今後を慮っているのだろう。

 「退屈しなくて良いだろう」

私の言葉に、今度は友人が肩をすくめて見せた。

女性に会うのがこんなに楽しみなのは初めてかも知れない。実に不思議な思いだ。もしかしたら、世の人は、これを恋というのかも知れない。

もっとも、恋などと言えば、彼女はきっと、迷惑そうな顔をするのだろう。そんなことを考えるのも楽しいのだから、きっと、これは恋なのだと私は定義する。

早く彼女を驚かせたいと、急く気持ちに合わせるように足早になれば、後ろから付いてくる友人が、ぼそりと「いや、それ絶対に獲物を狙う感じのやつだぞ」などと失礼なことを言っているのが聞こえたが、気分が良いので聞き流すことにした。


彼女の名前も、王子の名前も、前回出て来なかったので、登場人物が増えたけれど、どこまでも名前なしで縛って、「私」のお話にしてみました。

読みづらかったらきっと、「私」の思考が高尚すぎるのだということにして置いてみてください。


と、ここでも逃げを打っておく。


悪役令嬢の悲喜交々、気に入って下さった方に、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

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