旦那様はお考え
ようやく六話です。
少しづつ更新していく予定ですが、のんびりで申し訳ありません!
「シュバリエ!」
「…なんだ」
「ほら、あなたが好きな深紅の薔薇よ!あの子は紅より青が好きだって言うけれど……って、あら」
神官長は王の持つ青薔薇に気づくと、言葉を止めた。
「青薔薇じゃないの。あら、でもこれ、色が濃いわね」
「…エグランテリアの国花だな」
「精霊の愛する国、ねぇ。そういえばあの国、今は天使と精霊達が行き来するようになったんだったかしら」
「随分前の話だな」
「………そうね」
美しい青薔薇を手に、ため息を吐きながら神官長は王へ当時の話をふった。
まだ、王と神官長が幼かった頃、リュミアージュとエグランテリアという国が強い縁を結んだ。
エグランテリアの第一王子と、リュミアージュの第三王女の婚姻という形で。
その当時はその話題で各国を賑わせたものである。
天使と精霊の力を借りるようになった、それぞれの愛されるもの達は、互いに互いをまもることを誓い、それは各国の悩みの種ともなった。
種となりはしたが、それは当時の王や、神官長にはあまり関係のないものであった。関係が深かったのは、彼らの身近にいた大人たちであろう。
「あのときは先代様も大変そうだったわねぇ。主の御使い様の怒りをかわぬようにーって」
「母も忙しそうにしていたな。父は相変わらずだったが」
「ま、そうよねぇ。アタシは自分のことで精一杯だったけど」
「私もそうだな。このようなことがまたあったときの為にといろいろな資料を読んだ記憶がある」
その悩んだ国々の中には勿論、シュバリエがおさめるこの国――オルサディナ王国も含まれていた。
当時の国王は各国の王達と話し合い、それぞれの国がリュミアージュとエグランテリアには手を出さない方針を固め、良い関係を築くことが出来るようにお互いもその件に関しては干渉しないと定めた。
定めることによって、自国を守ることにしたのだ。
現在のシュバリエやサジェスには理解できすぎて、幼き頃の自信たちにもっと気をつけておくべきだ、などと一言言ってやりたいぐらいである。
例えば――お前の将来の伴侶のお義兄様とお国はお前のお嫁さんが大好きすぎて一国を滅ぼしにくるような奴等だ、とか。
「あんなのそうそうないと思うけど…でもねぇ」
「やめろ…ただでさえこちらは不利なんだ。不吉なことは言わないでくれ」
「……あれは、そうね。かの国は武力国家ですもの。それに、あちらの要求はかわいいものだと思うのよ、アタシ」
「皇女を返せ、か」
「ええ」
王や神官長だけではなく、おそらく城にいる者たちのほとんどが理解しているであろうことを、王妃だけが知らない。
王妃は自身の価値を理解しているが、身内の恐ろしさには気づけなかった。
気づけなかったというと少々誤解があるかもしれないが、王妃にとって、身内の者たちはとても優しく、暖かな者であり、その者たちを恐ろしいと思うことがなかったからこそ、王妃は気づけなかったのである。
自身の暮らしていた国が、武力国家であり、自身がどれほど国に愛されていたのか、彼女は知らなかった。
「かの愛され国は種にはなったけれど、それが芽吹くことはなかったからよかったけれど」
「こちらは現段階で爆弾を抱えているようなものだ」
「ねぇシュバリエ?オルサディナでもっとも広く信仰されている神は愛の神なのよ」
それなのに、どうしてこの国は愛で狂わされているのかしらね、と憂鬱げに語ると、神官長は店員へ青薔薇と赤薔薇を購入すると伝えた。
「愛か…人はすぐに流され変わってしまうものだ。特に、強く思わなければならないような感情をいだいてしまえばなおのこと」
王がぽつりと零した言葉に神官長は珍しいわね、と呟き、店員から二輪の薔薇を受け取ると王を振り返った。
「ウィレーナ様のお言葉よね、それ。あなたが人の言葉を真似するなんて…珍しいこと」
「あの魔法使いの言葉は妙に胸をざわつかせるからな」
エグランテリア、リュミアージュ、この二つの国の他にも、脅威となる国はいくつもある。何故ならば、オルサディナは"魔法"というものが存在しない国だから。
そして、魔法が存在しない国にとってもっとも恐れるべきは、魔法が存在する国。
まぁ、王にとって今もっとも恐れるべきは王妃の故郷である国だが。
王が口にした言葉は、魔法が存在する国の中でも恐れられている国の、王国筆頭魔法魔術師、ウィレーナ·ティアニーの言葉だ。
「あー、それ、わかる気がするわ。なんていうのかしらねぇ…我が主の有難きお言葉もそうだし、あの子の言葉もそうなのだけれど、独特の存在感があるもの」
目を離すことができず、その存在を否定することのできない、自分では理解しきれない――理解しようとすることが間違っているのではないかと思わされる――相手。
「とはいえ、考えたって無駄なのよ。こういうことはね」
店の入り口で、最後に店員へありがとう、と伝え、それじゃあ、私の用事はもうすんだことですし、王立公園へ行きましょうか!と神官長は二輪の薔薇を抱えるようにして、うら若き乙女のように甘く、どこか艶めいた美しい笑みで王へ笑った。
呆気にとられた王の後ろで、バタバタとうっかり神官長の笑みを見てしまった店員の、倒れる音がした。
ああ、またかよ、と誰に言うでもなく、内心突っ込んでしまった王であった。
説明などが多かったような気がいたしますので。
エグランテリア
妖精や精霊に愛されている国。
魔法とは少し違う技術が発展した国である。
王太子がリュミアージュの第三王女と婚姻したことで他の国へ種をまいた。
リュミアージュからお姫様が嫁いできたため、リュミアージュに興味をもった妖精や精霊たちがエグランテリアとリュミアージュを行き来するようになる。
リュミアージュ
天使たちの愛する国。
魔法とは違う技術が発展している。
科学などのように理解して扱うのではなく、感覚で扱う技術であるため、リュミアージュの国内でも扱えるものと扱えぬものがいる。
エグランテリアの王太子様大好きなお姫様がエグランテリアへ嫁いでしまったため、天使たちがリュミアージュとエグランテリアを行き来するようになった。
オルサディナ
王妃に振り回される王の収める国。
この国では愛の神様が広く信仰されている。
王妃の故郷の国。
王妃様大好き集団の集まりかつ、王妃様中心に物事を考えるヤバイ人たちが国を収めていると言っても過言ではない。
物事の良し悪しは理解しており、王妃様中心に物事を考えることさえ除けば現実主義でお腹真っ黒な王妃様のお兄様が国を収めているので、悪いことにはならないと思われる。