旦那様はお困り
お久しぶりの投稿です。
のろのろとした勝負の途中で昼寝をしてしまううさぎよりも遅い更新ペースで申し訳ありません。
一部抜けている所がありましたので追加いたしました。
光を受けてキラキラと反射する黄玉のネックレスを片手に、王は首を傾げていた。
王妃お勧めの菓子屋の次のデートスポットである宝石店では、ありとあらゆる宝石を使ったアクセサリーがきれいに並べられている。
神官長いわく、いま奥様方への贈り物として利用する男性や、うら若い令嬢達に人気の店とのこと。
「何してんのよ、シュバリエ」
「いや…アシュリーにはなにが似合うだろうか、と」
「…アシュリー様には紫水晶のみどりとか、似合いそうだけど……でも一番はあなたが自分で選ぶべきでしょうね」
そもそもこれは、シュバリエがアシュリー様に自分の気持ちをしっかりわかってもらうためなんだから、と呟いて神官長は瑪瑙の髪飾りを手に取り、店員ヘ声をかけた。
「……どれも似合いそうだから困っている」
「…あらヤダ、惚気?」
「そんな訳では、ない、が」
「そうねえ、宝石が駄目なら花でもいいと思うけれど」
店員が瑪瑙の髪飾りを箱に入れ、神官長ヘ手渡す。
にっこり、と女性的でありながら、男性らしい色気のある笑顔でお礼を言う姿は、流石、青薔薇のお姉様といったところか。
そんな笑みを向けられふらつく店員の女性を眺めながら、王はまだ悩んでいた。ついでに言えば、新たな悩みも増えた。
笑顔のテロで被害にあった店員の女性ヘの対応と、王妃への贈り物について考えつつ、王は小さなみどりの紫水晶を使ったネックレスを眺めていた。
「さて、シュバリエはなにか買うの?アタシはもう買うものはないから、あなたが何も買わないなら花屋に行きたいのだけど」
「……おまえ、男には厳しいところあるよな」
「はぁ?そんなの当たり前じゃない。アタシ、男より女の子のほうが気が合うもの」
王は暫く悩んだ後、結局みどりの紫水晶を使った、細やかな細工の施されたネックレスを購入することにした。
店員を呼び止めようと王が辺りを見回すと、店員の女性がパタパタと店内を移動し、爽やかな蒼のスカートを歩くたびに翻しながら、店内の宝石を磨いていた。
「これをお願いできるか」
「あっ、は、はい…贈り物でしょうか?」
「ああ」
「で、では、その、リボンのお色を選んでいただけますか」
ふわり、とカウンターの下の棚からたくさんのリボンを取り出し、店員が王の前に並べる。
細やかなレースリボンや、シルクリボン、サテンリボンなど、様々な種類のリボンが並べられ、王は困っていた。
王にはどれが良いのかわからなかったからだ。
「どれがいいか……すまないが、あなたの意見を聞いても良いか」
結局、自身では決めることのできなかった王は店員にどれが良いか聞いてみることにしたようで、様々なリボンを眺めながら店員の言葉を待った。
「は、はい!そう、ですね。こちらの贈り物は奥様にお送りするのでしょうか」
「ええ」
「では、奥様はどのようなお色がお好きですか?」
どのような色が好きか、と店員に聞かれ、王がまっさきに思い浮かべたのは白だった。
王妃とまだ婚約関係にあった頃、王妃の祖国を訪れたときの光景と、思い出が王にとって特別なものであったからだ。
空から舞い降りる雪を手にのせ、ふわりと空へ放ち、王妃は薔薇色に染めた頬を自身の手のひらで包み、冷たい、と王に向かって微笑んだ。
それは、王にとってなにものにもかえがたい特別な記憶だった。
「白、だ」
「白ですね。それでは……これで、はい、できました。喜んでいただけるといいですね」
「ああ、そうだな」
王の普段の表情からは考えられないほど、穏やかな笑みを浮かべて王は店員へ礼を言う。
それが、さらに店員の女性を追い詰めているというのに気づけたのは、先程店員の女性を追い詰めふらつかせた神官長のみであった。
「ほら、次は花屋よ!」
「なんでそんな機嫌いいんだ…」
「そうね……楽しいからよ!アシュリー様にご報告しないといけないし」
「え?」
「ふふふ」
同行者である神官長と王妃がどのような会話をなしてこのような状況になったのか、今更であるが大変気になる王であった。
「さぁ!どんどん行くわよー!」
「ああ、そうだな…」
もはや反応するのも疲れたと王は適当に返事をし、神官長は明るく次の目的地である花屋の良い所を王へ語っていた。
しかし、やはり王の返事には心がこもっていない。
「アシュリー様のお勧めなんだからしっかり聞いときなさいよ」
ただでさえ、シュバリエはアシュリー様に誤解されて大変なんだから。この現状も、アシュリー様によって計画されたデートなのよ?と神官長は的確に王の傷口をえぐっていく。
素晴らしい命中率である。
「…そこまで、いわなくとも」
「あなたの場合、言わないとわからないじゃない」
「……」
確かにそのとおりかもしれない、と神官長の言葉に心当たりがあったため、王は神官長へ反論できなかった。
「それで、花屋、だったか?花屋…私は花屋より野原に行きたい」
「え?……あぁ、アシュリー様は素朴で愛らしい花が好きだったものね。そうねぇ、アタシと別行動…はダメよねぇ」
「すまないな」
「そう簡単に謝ったらだめじゃないのよ。それじゃ、まずは花屋、その後は王立公園にでも行きましょうか!王母様が国民のために先代の王様へ熱意を語って作られた王立公園にね」
「なぜそこを強調するんだ…?」
「あら、とっても仲の良い、国民からも慕われる先代様達の素晴らしき御心に感謝してのことよ」
当たり前でしょう?と神官長はにこやかに笑い、王をせかす。
王からしてみれば、自身の父と母の仲睦まじい惚気を他人から聞かされているのと同じことであり、なおかつ、王太后陛下と先代国王の顔が思い浮かんでしまうのである。
「まぁ、確かに、あれほどアシュリーとの仲が深まれば良いとは思っているが…」
「なら、頑張ってよね。アタシ、アシュリー様の絶対的味方かつ魔王様によって自身の愛する祖国を滅ぼされるなんてイヤなのよ」
「そんな恐ろしいこと言わないでもらえるか。それと、魔王は言ってはいけない言葉だと思うぞ」
「…お兄様、ね、お兄様」
「そういえば…絶対に兄とは呼ぶなと言われたんだったか…」
「あら、そうなの。…納得しかしないわね」
アシュリー様とはやく仲直りしてくださいね、国王陛下、と切実な表情で神官長が言う。
王はそれに、善処する、とは答えたものの、いったいどうやってこの状況を変えればいいのか、変えられるのか、わかっていなかった。
「ああ、ここよ。アシュリー様お勧めのお花屋さん!アシュリー様ってば、本当にあの子の趣味をよく理解しているのねぇ。嫉妬しちゃうわぁ」
「…嫌われないようにな」
「お互い様よ、シュバリエ」
花の甘い香りや、爽やかな香りが舞う店内で、神官長は王へそう皮肉を返すと、店員に土産にする花束の相談を始めてしまった。
残された王は、遠い異国の同盟国の国花である珍しい青薔薇を一本手に取り、はやく城へ戻りたいと小さく呟くのであった。
王妃と侍女。
「王妃様、流石にそれは……」
「あら、大丈夫よ!旦那様にはちゃんとお話しておきましたから」
「そう、で、ございますか(絶対大丈夫ではないやつですよ!)」
「さて、つぎはどなたをお誘いいたしましょうか……あっ!サジェス様なんてよろしいかもしれませんね」
「え?……王妃様、神官長様は、その、お好きな方がいらっしゃると…」
「知っていますわよ?サジェス様であればお試しとしては良いと思いますし、サジェス様も本気にはなりえませんから、旦那様にとっても安全安心で良いかと思いますの」
「(国王陛下、王妃様は本気でございますよ!!頑張ってください、私達ではもうお止めできません!)」
「それではさっそく、彼女に許可を頂かないと…」