旦那様はお見合い
穏便にことを済ませる方法として、王が選んだのは素直に一度あってみることであった。
おそらく、笑われるであろうとわかってはいたが、当の本人にハッキリと断れば王妃もそれ以上勧めてこないと思ったからである。
「ぷ、ふ、あははは、いやまぁホント、アシュリー様ってば楽しい方よねぇ」
「うるさい」
「まさかアタシにまでその話を持ち込んでくるとは思ってなかったものだから、もう、なんて答えてやろうかしらって!」
シュバリエの引き攣ったような笑顔が目に浮かぶようで、と笑いながら話すのは“青薔薇のお姉様”こと、神官長のサジェスであった。
王と神官長は王都で話題の菓子店を訪れていた。
神官長の好みの食べ物が甘い物である、ということと、王妃が興味を持っていたからである。
なぜ王妃が興味を持っていたから選ばれたのか、という理由はこのデートプランをたてた人物が王妃だからだ。
「それで、どれが好みだったんだ」
「そうねぇ…このチーズケーキもいいけれどシューラスクも美味しかったし、トルテもいいのよねえ」
「……おい」
「あらもう、なによぉ!その目!そんなんじゃアシュリー様に愛想つかされちゃ……あらヤダ、ごめんなさいねぇ」
かわいそう、という言葉が聞こえてきそうな視線で王を見ると、神官長は店員が運んできたフルーツタルトへ視線を落とし、うっとりとした様子で頬に手を当てる。
「いくらお前が元同級生だからといっても、言っていいことと悪いことがある」
「わかってるわよ?しっかしねぇ、いったいどこで選択を誤ったのよ、シュバリエ?」
「わかっていたら苦労していない」
店内の明かりに反射しキラキラとかがやくフルーツをフォークで刺し、口に含み咀嚼し終えると、そうよね、と神官長が相槌をうつ。
「まぁ、グレンの話の通りだと、完全に、完璧にシュバリエが悪いと思うけれど…でもきっと、あんたにも事情があったんでしょ」
「うっ」
「とわいえ、ねぇ。つまり、アシュリー様の気が済むまで大人しく従っとけばいいと思うのよ、アタシは。だいたい、自業自得じゃないの」
フルーツタルトの最後の一口を食べ、神官長は笑みを浮かべる。
王は神官長から投げかけられた言葉を処理しきれていないようで、その腕は動いていなかった。
「ところで、それ、食べないならアタシが貰ってもいいかしら」
「あ、あぁ」
王がそっとフルーツタルトののった皿を神官長の方へ差し出す。
「お土産はこのフルーツタルトとシューラスクにしようかしらね」
「根拠は」
「根拠?そうねえ、美味しかったから、では駄目なのかしら?」
神官長は困ったように王を見ると、だいたい、根拠だなんてイヤな言い方しないでくれる?とため息を吐き、すぐに、あら、幸せが逃げちゃうわ、と口角を上げた。
「お前なら逃げた幸せを捕まえて自身の手の中に戻すことくらい余裕だろう」
「あらぁ…そんなことないわよぉ?確かに貴方よりは楽でしょうけど、あの子、案外捕まりにくいのよねぇ」
「アシュリーに協力的だったのはそれか」
「それもあるけれど…やっぱり一番は貴方を笑いたかったからかしら!」
「……」
こたえるべき答えが見つからず、王は無言で神官長を睨みつけた。
一方神官長は、そんな王の視線にそしらぬふりで店員ヘお土産について相談していた。
「さ、次はアクセサリーでも見に行きましょうか」
「まだあるのか」
「あったり前よー?だいたいねぇ、これは一応、デートなのよ。文句言ってないでついてきなさい」
「デート」
「そうよ。わかったらそんな、夜勤明けの見回りの騎士さんにありがちな死んだ魚みたいな目をしてないで、もっと楽しみなさいよ」
すこし、騎士達の職場改善を促すようにしようと心に決めた王であった。
「楽しむ、か」
「ええ。あ、そうだわ!シュバリエはアシュリー様ヘ贈り物でも買ったらいいんじゃないかしら。アタシもあの子へ何か買おうと思ってるし」
「アシュリーに、か?」
んん、と悩まし気な様子で、王が声を漏らす。
そもそも王は、王妃に自身が選んだものを渡して喜ばれる姿が想像できなかった。
きっと、隣に王妃がいればどんなことでも楽しめるだろうに、という言葉を心の中で考え、隣に置いておくためにこんなことをしているんだったと思い出し、王は肩を落とすのであった。
店員と王と神官長。
「シュバリエ!これ、アシュリー様が好きそうな味じゃない?」
「塩味のあるマドレーヌ?」
「ええ。王妃様は甘い物があまりお好きではないでしょう?貴方と違って」
「…」
「あ、ごめんなさい、少しいいかしら」
「は、はいっ」
「これも、お土産にしたいのだけれど…」
「あ、はいっ、わかりました!ではお会計のときにお渡し致しますね」
「……手際がいいな」
「人気のお店だものねぇ。さすがアシュリー様だわ」
「なぜ俺はアシュリーとではなくお前と来ているんだろうか」
「自業自得よ」
図星過ぎて言葉も出ない王であった。