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旦那様はお悩み

オルサディナ王国の王、シュバリエは困惑していた。


執務室には姿絵の載った貴族名簿がいつの間にか置かれており、親切なことにメモまでついている。


“旦那様の好みに合う方がいらっしゃいましたら、是非教えてくださいませ。明日はもっと詳しい資料を用意致しますわ。アシュリーより”


メモを読んだ王は思わず溜め息をついていた。

ここ数日、王は王妃から毎日のようにどのような男性が好きなのか、と聞かれる日々を過ごしている。

王としては、そもそもなぜ王妃がそのような勘違いをしているのか…と悩むばかりなのだが、学生の頃からの友人である宰相いわく、それは完全にお前が悪い、とのこと。


「そもそも女性に興味がない、と言う言い方が良くありませんよ」

「なんと言えばよかったんだ?」

「それは貴方が考えることでしょう…俺も暇じゃないんだ」


愛する妻が待つ家に帰りたいんだが、とこの国の宰相であり、王の友人であるグレンが王を睨みつけながら言う。


王がこのまま選ばなかったとしても、いずれ王妃が外堀から埋めていくだろうと宰相は思うが、王はまだその可能性に気づいていないらしい。

あの王妃は王が気に入った、と言う者が現れれば即座に囲い込み、守り抜くだろう。

そういった面では、王も王妃も似ているのではないだろうか。


王妃も王も、互いのことをよく理解している。

それは幼い頃から互いを見ていたからであるが、王と王妃には、理由に差があった。


王は、王妃が王を好いていないことも、王妃が本当は華やかな薔薇より素朴な星の瞳(オオイヌノフグリ)のような花が好きであることも、甘いものより苦いものを好むことも知っている。


ことごとく、王と王妃の趣味は合わなかった。そして、それに気づいた王妃は、しだいに王の趣味に合わせるようになったのである。



「どうすればいいんだ…」


王の、心の底からの切実な言葉であったが、おそらく王妃に届くことはないだろう。


王も、王妃の誤解を解こうと何度か頑張ってみたのだが、それらは王妃に届く前に王妃の言葉で消されてしまっている。

例えば。


「アシュ」

「旦那様、カルヴィン様の予定に空きがあるようなんですの。カルヴィン様なんていかがでしょうか」

「待て、カルヴィン、カルヴィン…家名は?」

「まぁ、旦那様ってば!カルヴィン·リガニエ様ですよ。最近騎士団に入った伯爵家の三男様ですわ!」


またある時は、沢山の姿絵を持った王妃が王を見つけ、瞳を夜空のように輝かせ――その姿に王も思わず目元を和らげ、今こそ言うべきだと口を開き――王妃が王へ姿絵を押し付ける。


「私はおと」

「あら、旦那様?やっと見つけましたわ。見てくださないな、皆様見目麗しい方ばかりですの。御令嬢方が思わず熱い視線をおくってしまうような方ばかりですわ。ね、きっと旦那様も気に入るはずだと思いますの」


他にも。


「アシュリー」

「アシュリー様!お待ちくださいアシュリー様!」

「お辞めください!」

「あら、どうして?私は旦那様のためを思って…」

「でしたら、今すぐお辞めください!」

「大丈夫よ。旦那様は照れ屋さんだもの。今まで仰ってくださらなかったのも、きっと恥ずかしかったのだと思いますのよ。でも私は理解のある王妃ですの、ええ…だから絶対にやりますわ!」


と、このように、王が王妃の誤解を解こうとするたびに、王妃であったり、王妃の周りの者達によって遮られてしまうのである。

最後の例であげた侍女達には、王は感謝すべきだろうが。


とにかく、王妃の暴走は一向に収まる気配がなかった。


王がいつものように執務室の扉を開けば、いつも机に乗っていないものが乗っていた。

どうやら王妃がメモに書いていた資料らしい。

事細かに書かれた内容は――誰の予定が空いているだの、何が好きだの、最近の趣味、初恋の思い出、王がその人物と話した内容、日時、はてはその人物の幼い頃の失敗談やら初めておしゃべりをした日まで――詳しく、いったいどうやって調べてきたのだろうかと王は王妃を恐ろしく思う。

しかし、王妃とは幼い頃からそういう人物であった。

守るべきものは絶対に守り抜き、敵であれば容赦などせず、徹底的に潰す。それが王妃である。

そして、ありがたくも王は王妃にとって守り抜かねばならない人物第一位であった。



「どうやって調べたんだ…」

「王妃様には影がおりますから、そこからでしょう」

「ああ、王妃専属の影か……なぜこんな無駄なことで働くんだ」

「そりゃあ、王妃様信奉者の集まりですから、これを機に王と離縁させようとしているのでしょう」

「はっ!?」


王が呟いた言葉に宰相が即座に答える。

王は暫く考え込み、そういえば、と王妃を囲い込むまでの日々を思い出した。


「確かに、ものすごい邪魔をされていたような気がする……昔からああだったからあれが普通かと思っていた」

「あれが普通…?だとしたら世の男性が泣きますね」



王妃が困ったようにため息を吐けば、周りの者が勝手に解決する。王妃が調べて欲しいと言えば、たった数時間で完璧に調べ上げてくる。それが王妃の影。異常集団であり、影は皆王妃の事を女神かなにかのように崇めている、宗教団体のようなものでもある。


王は王妃と婚約した後から、影達と壮絶な冷戦を繰り広げてきたのだが、王には比較対象がなかったため、それを当たり前だと思っていた。


「いや、それにしても離縁…それは流石に…え、ないよな?」

「あり得るかもしれませんよ?あの者達は予測不可能ですので」

「本気か?」

「至極真面目に言っております」


宰相の言葉を聞き、王はガックリと肩を落とした。

そして、王は暫く考え込み、王妃を奪われる前に手を打つことにしたのであった。


頑張れ王様、負けるな王妃、粘れ影さん、休み、取れるといいですね、宰相。


「旦那様!旦那様!いいお知らせがありますの!」

「王妃、落ち着いてくれるか」

「これが落ち着いていられると思って!?」


今日も絡まった二人の日々は続く。

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