No.008 リーズとユウ
"称号"、それは、この世界において所有する者が珍しい、比較的希少な存在である。
普通の者は"名称"と呼ばれるものを、先天的に精神に刻まれた状態で生まれ、それが成長を重ねて行くにつれて、個人を表すような呼び方へと変化していく。
その名称によって、自身が持っている潜在的な力を知ることができ、個々人はそれぞれが自分に向いた職業なり役割についている。その上自身の力を磨いた人物は、名称を進化させ、その名称に応じた力を行使できるようになるのだ。
そうして、適材適所で国、さらには世界がより良くなっているのだと考えられている。
そんな中、名称持ちには、"称号持ち"と呼ばれる存在がいる。
それは先天的に持つ者は少なく、後天的に得る者が大半だと言われているが、それでも実際に持つ者は希少で、一生を名称のままで生涯を終える者がほとんどである。
称号は、そんな名称を自身が成長していく過程で進化させていき、限界と呼ばれる所のさらに先に進めた者が、漸く獲得できるといわれているだ。それは並みの努力では当然、相当鍛練を積んだ者でも難しいことなのだ。言ってみれば、一種の"才能"なのである。
そんな、なることだけでも困難な"称号"は、一般的な名称よりも高い能力が行使できるとされる。だがが、それ相応の者でないと扱いが危険なものでもあるのだ。(しかし、称号を得られる者がそんな軟弱者な訳はないのだが...)
そんな中、それを行使できることで始めて、本当の"称号持ち"となれるのである。
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そんなことを、先ほどのジョンとの特訓から目覚めたユウは、ある一室にてリーズから聞かされ、
「で、そんな貴重な"称号"を俺が持ってると......なんかの間違いじゃない?」
と、当然とも言える言葉を返した。
「いやいや、本当だって!この前(ユウが豹変したとき)ユウから貰った血液と、ユウの魔力を取り込んだ"魔含石"を調べた結果だから、間違いないよ。」
「マガンセキ...あぁ、この前手渡されていきなり
"それに魔力を注いでみて!"とか無茶振りされた、あれね。
そんなやり方知らないから、少し焦ったよ。」
「うっ、や、やり方はちゃんと教えたでしょ?あのときは、ちょっとうっかりしてたから忘れていただけであって...」
「あぁ、ごめんごめん。
ただ、そんなこともあったなぁって思っただけで、今はどうとも思ってないよ。」
「う~、それなら"無茶振りされた"とか言わないでよ~。こっちだって反省してるんだから...」
「だから、悪かったって。さすがに言い過ぎたね、ごめん。
...その、どうか許してもらえないかな?」
そんなことを言ってむくれたリーズにユウは、どうか許して貰うように頼んだ。すると、
「...じゃあ、わたしの頭撫でながら、"ごめんね、リーズ、許して?"ってやってくれたら、許す...」
と、リーズは顔を真っ赤に染めながら、破壊力抜群の言葉を放った。
そんな言葉を向けられたユウはというと、
「え~と、リーズさん?それはちょっと話が変わってくるというか、...いや、別にリーズが嫌いだからって訳じゃ無いんだけど。
その、すごく恥ずかしいかな、って思いまして...」
と、そんな反応を返した。それも当然である。ユウは元の世界で一度も彼女が出来たことがない、純情系男子だったのだ。そんな、女の子と触れ合うようなイベントは、他人事や画面の中の話だと思っていたユウにとっては、たとえリーズが相手だとしても、おいそれと触れるようなことは出来ないほどであった(童貞だから、ともいう)。
だからこそそんな返しをしたのだが、リーズは、
「い、いいから!許して欲しいんでしょ?だったら、早く撫でる!じゃないと、絶対に許さないから。」
と言ってリーズは、顔は真っ赤なままユウに向けて、撫でやすいように近づいていった。
「ちょっと、リーズ、近いって!」
「そりゃそうでしょ。近づいてるんだから、当然だよ。」
「ま、まだ撫でるとは言ってないんだけど...」
「つべこべ言わない!さっさと撫でて、終わらせる!...さあ!」
そう言ってじりじりと近づいてくるリーズに対し、ユウは、
「うぅ、分かったよ。......ごめんね、リーズ、俺が悪かったよ。だから、その、許してくれない、かな?」(ナデナデ)
と、渋々ながらもリーズの頭を撫でた。
「っ!...///」(ニコニコ♪)
「どうしたの、リーズ?すごくうれしそうだけど...」
「ぇ!?...あ、あ~、その~...な、なんでも無いよ。ホント、なんでもない、から...」
「...え、え~っと、と、とりあえず許してもらえたの、かな?」
「あ、えっと、うん。その、もう大丈夫、だよ。」
「そっか、それじゃ...」
「ぁ...」(シュン)
そう言ってユウが手を離すとリーズは、少々名残惜しそうな表情をしつつも、何も言わなかった。
さて、ここでなぜユウがこんなにも分かりやすいリーズに、「あれ、もしかしてリーズって俺のこと好きなの?」といったことを思わないのか。いや、正確にはユウもその可能性は高いと思っていた、がこんな短い間で、自分なんかに好意を寄せてくれるわけがないと思っていたのだ。
さらに、人の感情の機微には鋭いと自負しているユウだが、こと自身の恋愛に関しては経験など全くないため、どんなことで相手が好意を持つか、どんな行為が自分に気がある行動なのか、といった基本のことなど知る由も無かった。
いうなれば、鈍感系主人公(自分への好意限定)というものだ。...実に都合がいい。いや、ユウ自身にとっては、不本意で、出来ることなら投げ捨てたいと思うであろう性質なのだが...。
とりあえず、そんな事情によりユウは、リーズからの好意はなんとなく伝わっているが、それが本当の意味での好意だとは信じ切れず、自身の中で"友人として"好いてくれているのだと解釈した。
「まぁ、とりあえず俺がその"称号持ち"だってことは理解したけど、それって実際どんなものなの?」
「あ、あぁ、それはね」
そんな、先ほどまでの桃色だった空間はどこへ行ったのやら。ユウは、称号の具体的な力についてリーズへと問いかけた。それにリーズが答えようとしたとき、
"トントントン" (「リーズ、ユウはもう起きているか?」)
と、ジョンが見計らったかのようなタイミングで扉越しに声をかけてきた。それに対し、ちょうど気まずかった空気を脱したユウは、
「えぇ、起きてますよ、ジョンさん。もう入ってきて大丈夫です。」
と、返した。そして、ジョンが部屋へと入ってきた。
「おぉ、もう身体の方は大丈夫なのか?」
「はい、リーズが回復してくれたおかげで、疲れも残っていません。」
「そうか、それは良かった。では、リーズから君の称号について話は聞いたか?」
「いえ...、まだ称号と名称の違いについてや、俺自身に称号があることについてしか聞いていませんよ。」
「何だ、まだそこまでしか話していないのか。随分時間がかかったようだな、リーズ。」
「へ?...ま、まぁ、ね。少し詳しく話していたからね~。」
そんなジョンからの疑問に対し若干言い淀んだリーズだったが、理由を知っているユウは素直に本当のことを話そうとした。
「何言ってるんだ、リーズが許して欲しかったら頭を撫でろっt」
「ちょ、ちょっと、それ以上はだめ!」
「ふがっ!」
「ん?どうしたリーズよ。ユウが何かしたのか?」
「い、いや、なんでもないよ、なんでも。そ、そうだジョン、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど。」
そう言ってリーズは、ユウが話し終わる前に言葉を遮り(物理的に)、ジョンが疑問に思っていても強行突破するような気持ちで話し続けた。
「ふむ、別に構わないが、具体的に何を手伝うのだ?」
「ちょっと、ね。どうやらユウが、称号が名称とどう違うか知りたいみたいだから、実際に見せようと思ってね。」
「あぁ、確かに実際に見せた方が良いか。では、ここではなく先ほどの場所に移動しよう。」
「う、うん。ユ、ユウもそれでいい?」
そう問いかけたリーズに対し、
「...は~~、まぁ、いいけど。」
と、少々納得がいかない表情をしつつも、ユウは了承した。
「あ、ありがと!」
「いいよ、別に。それよりも、早くその"称号"とかいう力について教えて?」
「うん、分かった。じゃあ、動きやすい格好になって行こうか。」
そう言って、ユウ達三人は先ほどの重力室(ユウ命名)に向かって部屋を出て行った。
「ちなみに俺の称号ってなんて言うの?」
重力室へと向かう途中、ユウはそんなことを思い、リーズへと問いかけた。
「ん?それなら向こうでも教えるつもりだったけど、なんで今?」
「いや、向こうで教えてくれるんなら、今はいいや。」
「...いいよ、今から教えるね。」
「え、いいの?別に、なんとなく聞いただけだから、気にしなくてもいいのに。」
「ううん、今のうちに教えておいた方が、ユウにも自分の称号に対して理解できると思うから。」
「...そっか。
じゃあ、教えて貰おうかな?」
「ん、了解!」
そう言ってリーズは、一拍おいてユウの称号の名前を伝えた。
「...ユウの称号の名前は、"耐え忍ぶ者"だよ。」
そのとき、ユウの中で"何か"が反応した。
ユウ、ウラヤマ死ス...




