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No.007 反省と成長


 前回ユウは、ジョンとの特訓においてジョンからの冷たい物言いに、今までため込んだ自身への憤りを爆発させ、凄惨な状況を作り出した。

 

 ユウが正気に戻り、中々切り上げてこない二人を不思議に思って見に来たリーズが、そんな惨状をみて未だ疲れた表情が窺えるユウはそのまま休ませておいて、比較的元気そうなジョンに事情を聞いていた。

 


「で、ユウの本気を引き出していたらこんな惨状が完成したと。」

「う、うむ。そういうことだな。」

「...まぁ、肉体の強化はユウにある程度施してはいるけど、それでも本人の限界を超えるようなことしちゃだめでしょ...」

「い、いや、話した通り、私も途中何度もやめるように言ったのだが...」

「"ユウがあまりにも頑固すぎて、きつく注意したらキレちゃって、そのまま特訓を続けた"と...」

「そ、そうだ、仕方なかったのだ。あのまま途中で終わらせてしまえば、ユウ自身の感情が収まりきらず、彼自身にとっても辛い状態となってしまっただろう。だからこその措置だ、後悔は無い。」


「それでも、だよ。

ユウはまだ、今の身体に慣れきってないんだから、そんなに無茶させたら力が暴走して、また修復しないような状態になっちゃうよ。

そ・れ・に、元々の原因はジョンがユウにキツく当たったから。

ジョンも気づいてたでしょ?」

「...まぁ、その通りだか。」

「今回はユウの意識が少し飛んだだけで済んだけど、本当なら身体にも支障が出てもおかしくなかったんだから。次から無理矢理にでも止めてね!」

「う、うむ、了解した」



 そう言ってリーズはジョンに注意した。

 そしてリーズは次に、ある程度回復したと思われるユウに向き直った。



「それとユウ!」

「うっ!...な、何?」

「何、じゃないよ!確かに、少しは無茶することに対して納得はしたけど、今回のことは流石に見過ごせない。下手したら、無理矢理酷使した身体が限界を越えて、壊れちゃうこともあったんだよ!?」

「いや、実際それくらいやらないと早く強くなれないし...」

「言い訳しない!ジョンから話を聞いている間も、ずっと心配してたんだから!今だって、満身創痍じゃないの。」

「うっ、...うん、確かにだいぶ無茶してたね。

正直、ジョンさんにそんな口聞いてたなんて信じられないけど、かなり記憶があやふやだから、否定できないや...。」

「分かってるなら、次からは無茶はしても、自分の限界をちゃんと考えてね。少なくても、今回の豹変した原因が分かるまでは、無闇に自分を追い込まないこと。いい?」

「...うん、分かった。心配かけて、ほんとにごめん...。

...ジョンさんも、さっきは無理言って、すみませんでした。それと、あんな状態の俺に付き合ってくれて、ありがとうございました。」



 ユウはリーズのその必死な表情をみて、心から自分のことを心配しているのだと理解した。だからこそ、先ほどのような変に意固地にはならず、素直に従ったのだ。ユウだって、その辺りの分別がつくぐらいにはまともである。


 しかし先ほどは、自分が出来ないことへの苛立ちが大きすぎて感情的になっていたのだ。そこはこれからの課題であると、ユウは感じていた。

 そして、ユウは今回一番迷惑をかけたであろうジョンに対して、申し訳ない気持ちと感謝の気持ちを伝えた。



「いや、私の方が謝罪しなければならない。実質、ユウが豹変をしてしまった原因は私にあるのだ。私があのような言い方をしてしまったが故に、ユウの中で何かが爆発し、それを発散するためあのような事態になってしまったのだろう。

よくよく考えてみれば、もっとユウを納得させられる言い方が他にあったのでは無いか、と後悔している。そうすれば、今回のようにユウを危険に晒さずに済んだはずだ。」

「いえ、俺のことを考えての言葉だったことは気づいています。それを素直に受け入れられなかった俺が悪かったのです。」

「...確かにあのときに言った言葉は私の本心だったが、それでも君を苦しめた原因に変わりはない。

...本当にすまなかった。」



 ジョンとユウは、お互いがお互いの反省すべき点を理解し、互いに謝罪をした。

 そんな二人の会話を聞いていたリーズは、



「...よし!ユウもジョンもちゃんと反省したようだし、お互いこれから気をつけていくことで納得しよう?

それより、たくさん動いたんだからおなか減ったでしょ?さっきご飯の準備してきたから、3人で食べよ!」



と、少しばかり落ち込んでいた空気を払拭するように明るく努めるリーズは、話題を変えるためにこの後の食事のことを話した。



「...うむ、そうだな。いつまでもこうしていては、せっかくリーズが準備してくれた料理がもったいない。

それでは、今日はこれで終了だな。もちろんユウもだ。」

「...えぇ、そうですね。これ以上続けたら、本当に何が起こるか分かりませんし、俺もそれで構いません。」

「よし、では食事としようか。」

「はい。正直重力には慣れましたが、今は別の意味で身体が重いです...。」

「はぁ~、全くもう、頑張りすぎだよ...。」



 そうしてユウ達は、リーズが食事を準備した部屋に向けて歩き出した。

 するとユウがリーズに対し、



「そういえば、食事はすべてリーズが作ったの?」



と、感じていた疑問を投げかけた。



「ん?そうだよ?...もしかして、生成魔法でやったんじゃないか、とか思ってるの...?」

「いや、さすがにそんなことは疑ってないよ。ただ、リーズも自分の作業があったのに、そんな時間取れたのかなって。」

「いや、ユウは実感が無いかも知れないけど、実際わたしとユウ達が別れてから、大体五時間くらいは経ってるよ。それだけの間が空けば、わたしだっておなかは空くし、作業を中断して食事の準備くらいするよ。」



「うわぁ~、もうそんなに経ってたんだ。正直言って、2~3時間ぐらいだと思ってた...。」

「まぁ、それだけユウが必死だったってことじゃないかな。内容は褒められたものじゃ無いけど。」

「(うぐっ)...まぁ、それは置いておいて、ほんとに全部リーズが作ったんだね。」 

「まぁ、ね。それほどでも無いかな。」

「いやいや、正直言って結構楽しみだよ。

元の世界では、ほとんど既製品ばっかだったから、手作りの料理はホントにうれしいんだ。

ありがとう、リーズ。」


 

 ユウのそんな本心からの言葉を聞いてリーズは、



「そう、喜んでもらえたようでこっちも良かったよ。」



と、返した......




(え、え!?手作りってそんなにうれしいものなの!?たまに作るとしたらジョンとわたしの分しか作んないから、他の人がどう思うとか考えたこと無かった...。

...けど、そっか。ユウ、そんなに"わたしの"料理がうれしいんだ...エヘヘ///)




 ...まぁ、安定の"チョ女"である。この、期待を裏切らないチョロさ、本当にフラグが立ちやすい存在だけはある。


 とまぁ、そんなリーズの気持ちを知る由も無く、ユウは食事がある部屋へと向かっていった。

 ...ちなみに食事中も、同じようなリーズの"チョロ節"が炸裂したが、長くなるのでここでは割愛しよう。



 ユウの特訓が始まってから、十日が過ぎたある日。いつものようにユウは、ジョンから提示された課題をクリアするために、今日も奮闘していた。



「ユウ!私に触れることに集中するのはいいが、こちらからの攻撃に対する対応が疎かになっているぞ。もっと周りをよく観察して、出来るだけ多くのことに対処出来るように意識しろ。」

「はい、分かりました!ありがとうございます。」



 そんな問答を行いながらも、二人は重力十倍を無視したような動きを繰り広げている。

 内容はこの前と同じ、ジョンに触れることだ。

 理由としては単純で、この前の時のような力を使わず、通常の状態でクリアするためである。しかしこの前と違うことは、ユウが素直にこまめな休憩を取るようになったことであった。ユウも、この前のように意識が飛んで、自分でも理解できないような力では無く、実感の湧く力で特訓したいと考えたのだ。



「ほらほら、そんな動きでは対処が追いつかないぞ。もっと効率のいい身体の使い方を見極めろ。足だけでは無く、身体全体で動いてみろ。」

「はい!」



 ユウは、ジョンからの抽象的とも言えるような言葉を必死に理解し、実行しようとしている。

 一方ジョン自身も、前回の反省を生かし、きつい言い方を改め、ユウの成長を促すように言葉をかけていくようになった。



 ジョンは外面上、ユウの成長はまだまだといった感じに言っているが、実際にはジョンを広範囲に動かさざるをえないようにしている。さらに、ジョンからの攻撃魔法も、普通なら当たるだけでも危険なレベルにまで設定され、速度も上がっている。正直言って、ユウの成長速度が異常なレベルなのだ。

 ジョンが何も話していないことも原因の一つだが、ユウ自身もそんなことが気になる時間も無いほどに集中しているからだ。


 そんな中、



「次は絶対触れてみせます!」

「望むところだ。」



と、ユウはジョンに向かって突撃した。それを目で確認しなくても感じ取ったジョンは、気を引き締めた。もう既に、ジョンの中ではユウに対して、一切の油断は感じられない。



「はぁ!」

「っ、あまい!」



 一気に踏み込んできたユウに対し、ジョンは攻撃魔法を放った。

 ユウはそれを身体のひねりを最大限に利用し、躱して見せた。それでもジョンにとっては想定内で、次はどうやって避けるか考えていた。しかし不意に、



「っ!?」



と、一瞬立ち止まってしまった。

 なぜなら、ジョンの背後には部屋の壁があり、ジョンの右側にはあの突き出た岩があった。実質ジョンの回避方向は上か左だけとなってしまった。

 しかし、上では十分な体制が維持できず、今のユウには格好の的となってしまうため、上という選択は賢くない。よって、選択肢は左だけに絞られた。

 この状況は、ユウが先ほどまで追いかけながら立てていた策であり、実際予想通りに事が運んでいた。そのため、

 


「ジョンさん、これで勝負ありですよ。」

「ほう、ここまで誘い込んだ、というわけだったのか。...まったく気づかなかった。いや、見事だ。」



と、そういうユウに対し、ジョンは感心しながらも、どこか余裕を感じられる。

 そのことにユウは疑問を感じ、


 

「...どうしてそんなに落ち着いているんですか。」

「ふむ、知りたいのならば、そのまま踏み込んでくればいい。そうすれば、自ずと理由もはっきりするだろう。」

「...最初からそのつもりです。...では、参ります!」



といって、ジョンに向けて駆け出した。



 そんなユウを尻目に、ジョンは身体から"藍色のオーラ"を出した。それはいつも、ジョンがユウに対し攻撃魔法を使うときに発しているもので、ユウもそれに気づき、魔法が飛んできても避けられるように注意しながら、距離を詰めていった。そしてジョンとの距離がおよそ十メートルほどになったとき、何の予備動作も無く、



 ジョンの身体が宙に浮かび上がった。



「っ!?」



 当然驚くユウだったが、そんなユウを気にせず、即座に宙を移動しユウの後方へと降り立ったジョンは、



「まぁ、こういうことだ。残念だったな。しかし、ホントに見事な作戦だった。今の動きが出来なければ、かなり危ないところだった。」



 そう言うジョンに対しユウは、



「いえ、まだです!」



と、両足に力を込めて一瞬で間合いを詰めようとした。幸い、ジョンがいるところはユウとそこまで離れているわけでは無かったため、今のユウならば、すぐにでも追いつけると考えたからだ。

 その意思を感じ取ったジョンは、


 

(む、これはまずい!)



と、咄嗟に回避しようと、その場を離れようとした。


そのときユウは、僅かに変化するジョンの踏み込み足の動きに注意を向け、ジョンが回避する方向を見極めていた。


  

(あれは前後では無い。なら、ひだり...いや右だ!そして右前か右後ろだと...うしろ!)



 そんなことを、ジョンが回避のモーションをとっている刹那の間に判断し、両足のバネと腹筋を使って、ジョンが避けるであろう所に向かって突っ込んだ。

 


「っ!?」



 そんなユウの行動は見事に的中し、ジョンからしたらユウが突っ込む先に、自ら突っ込んでいくような錯覚を覚えさせるほどだった。

 当然回避不可能に見えたが、ジョンはすかさずユウに向けて攻撃魔法を放った。ユウの意識を一瞬奪うほどの威力にして、こちらに触れられないようにしたのだ。

 ユウはそれを躱せるはずも無く、もろに受けてしまった。ジョンは一瞬安心したが、それは叶わなかった。



「っ、タッチ!」

「な!?」



 ジョンからの、意識を奪うほどの攻撃を真正面から受けたはずのユウは、ボロボロになりながらも、しっかりと意識をはっきりさせ、ジョンに触れることが出来た。

 そんなユウに心底驚いたジョンだったが、次の瞬間、



"フラ、フラ、...バタンッ"



と、ユウが倒れた。

 ジョンはしばらく呆然としていたが、しばらくして、



「...よく頑張ったな、最初の課題はこれでクリアだ。」



と言いながら、ユウの身体を肩で抱えながら、リーズの元へと運ぼうとした。

 すると、


 

「あ、ちょうど良かった。今二人を呼びに行こうと思ってたの...って、ユウ、どうしたの!?」


 

そんなことを言いながら、なぜか自室に籠りっきりのリーズが、重力室(ユウが心の中で、そう呼んでいる)にやってきた。

 ジョンが、ことの経緯を話した所、リーズは、


  

「...はぁ~、結局また無茶したのね。まぁ、今回はこの前みたいなことにはなっていないからいいけど、後でちゃんと言い聞かせなきゃ...。」



と、不満をこぼしていた。そんなただの不安という感情だけでは無いリーズを、温かい目で見ながら、



「ところでリーズよ、なぜこちらに来たのだ?いや、まずはユウの回復が先だな。」



と言って、リーズにユウのことを託した。

 リーズはすぐさまユウの回復を行い、その片手間に先ほどのジョンの疑問に答えた。



「あ、そうそう!実は、ユウがこの前あんな風になっていた原因が漸く分かったの!」

「ほう、漸くか。

して、その原因とは何だったのだ?」



 そういって、若干興奮気味のリーズを不思議に思いながらも、ジョンはその原因について聞いた。

 リーズは、落ち着きを取り戻しながらも、その質問に答えた。




「うん、それはね、ユウはなんと"称号持ち"だったんだよ。」



そう言って、リーズはユウの顔を見つめながら、とてもうれしそうに答えた。



若干長いですが、もう暫く続きます...

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