No.058 国軍と魔力操作
続けてどうぞ。
「お初にお目にかかります、アンダーソン殿。私はスローム王国軍防衛省ウィース支部の第一部隊に所属している、アイザン・ムーハウスと申します。本日は、私達の訓練に参加するとのことで、こうしてお迎えに上がりました。どうぞ、よろしくお願い致します。」
「あっ、はい。...こちらこそ、よろしくおねがいします...?」
目の前ではつらつとした自己紹介をしてきた男性を目の前に、ユウは呆気にとられていた。
今は昨日のメリッサとの対面から一日が過ぎ、ユウがこのウィースに来てから三日目の朝...と言うよりも、日の高さからして、若干日中寄りの時間である。
さて、そんな時間になぜユウと、ユウの目の前にいるアイザン・ムーハウスと名乗る男性は、こうして対面しているのかというと、先ほどアイザンが述べた通り彼は、ユウの迎えに赴いた兵士の一人であるからだ。だが、それではなぜユウが、向こうからの挨拶ごときで呆気にとれたのかというと、
(この人...俺が扉開けるまで、ずっと部屋の前にいたのかっ...!?)
と、ユウが内心抱いた感想の通りアイザンは、ユウが扉を開けた瞬間に、先ほどの自己紹介をしてきたのだ。
ユウは昨晩、リーリエから今日の日程を連絡され、迎えに来てくれる兵士の到着時刻を同時に伝えられていた。そのため、その時間までに身支度を調え、約束の時刻より一刻ほど早めに部屋を出たのだ。そしたら先ほどの、唐突な自己紹介に巻き込まれたのであった。言葉にするのなら、『即、アイ、ザン!』と言ったところか...。
「準備の方は...ふむ、問題ありませんね。お食事の方も既にお済みですよね?」
「え、ええ。確かに朝食は既に済ませていますが......あの、もしかして...時間間違えてましたか?連絡では、今日の十時に兵士の方がいらっしゃると窺っていたのですが...。」
「ああ、その点に関してはご心配なく。お迎えに上がる時間は間違いなく十時ですし、十時きっかりにアンダーソン殿の部屋の扉をノックするつもりだったので、三刻前から待機していただけのことです。」
「あ、そう言うこと...。(心臓に悪いから、マジで止めて欲しいんですけど...。)」
アイザンの説明に形式上納得の意思を口にしたユウであったが、内心では素直に毒づいており、目の前の人物に対し、無意識に警戒態勢に入っていた。三刻というと、およそ一五分ほどである。
とまぁこんなやり取りをしたところで、特に意味が無いことを流石にユウも理解しているので、取りあえずアイザンが、時間前行動に関するモラルや考え方が狂っている事実について言及する様なことはせずに、一先ず彼の案内で、本日自身に割り当てられた日程をこなすべく、目的地へと歩みを進めたのだった。
本日の舞台は、スローム王国軍防衛省ウィース支部(以降、国防軍ウィース支部とする)である。
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「っと、...着きました。ここが私達、王国軍防衛省のウィース支部であり、この周辺地域を含む領土の治安維持及び自衛の拠点となっております。」
「...随分と、大きい建物ですねぇ。(屋敷から徒歩五分...あまりにも近かったとです。)」
アイザンに案内され到着した場所は、屋敷からゆっくり歩いても一〇分はかからないであろう近さにある、国防軍ウィース支部であった。そんなあまりにも近い位置にあった建物の存在を説明され、ユウは今まで使ったことも無いのに、心の声が似非熊本弁になるほど、若干動揺しているようだ。
しかしそんなユウを余所にアイザンは、
「では早速、中に入りましょうか。」
と言って、一人先に進んでいく。暫く放心していたユウだったが、直ぐさま覚醒し、急いで先を行くアイザンの後についていった。
建物は周囲を石壁で囲んでおり、通りに面している一カ所にのみ、門のような通路らしき部分が設置されている。そしてその門のすぐそばに、何やら窓口のように小さな部屋が設けられており、アイザンはそこにいる人物へと話しかけていた。
「よっす、グレイグ。今戻ったぞ。悪いけど、副隊長に連絡してくれるか?」
「おぉ、アイザンか。了解。んじゃ、このまま裏の方の訓練場まで連れて行きな。たぶん若い連中は、もう訓練始めてるはずだからな。副隊長もすぐ向かうはずだ。」
「ああ、助かる。...では、アンダーソン殿。急ではありますが、早速訓練場の方まで案内致しますので、ついてきてください。」
「ハ、ハァ...。」
アイザンが門の入り口にいたグレイグと言う名の男性と会話を終え、今度は、自身の後ろにいたユウへと再び話しかけてきた。アイザンとグレイグが話している間、ユウは一人置いてけぼりを食らっていたが、再び話を始めたアイザンに促されるまま、門を潜り、敷地内へと足を踏み込んだのだった。
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アイザンに着いていく形で建物内を進んでいくユウは、軍の施設というものにこんなにも易々と入れて良いものなのか不安に思い、何処か落ち着かない様子であった。
まぁ実際、日本に置き換えてみて考えると、どこぞの来日外国人が数日後、自衛隊の基地内部に立ち入りを許可されたようなもので、少々違和感を持つ。
現在ユウとアイザンは石で舗装された通路を進んでおり、時折分かれ道が出てきたりしたのだが、そんな迷路のような道をアイザンは慣れた足取りで進んでいく。そして、急に風が吹いたかと思うと、
「なっ!?まぶしっ!」
と言ってユウは、突然目に入ってきた日の光に目が眩んだのか、咄嗟に自身の右手を庇のように顔へ当てていた。どうやら、通路を進んだ先は、屋内でも中庭のような場所だったらしい。
まぁ、地面は一面砂で覆われており、周囲を取り囲むのは無機質な石壁か、二、三個の通路口のみであった。
しかし、そんな風景を差し置いて、まず最初にユウの視界に飛び込んできたのは、
「チッ!...これなら、どうだ!!」
「ハッハッハッ!そうだ、もっと打ち込んでこいっ!」
と言い合いながら、どちらも剣を手に持ち、完全なる戦いを繰り広げていた。その手に持っているのは木剣のようにも見えるが、それでもあれほど勢いよく振り下ろされれば、確実に大けがをすること間違いなしなレベルであり、見ている側は不安を抱かざるを得ない。
だがそんな戦闘をしているのがその二人だけでは無く、それ以外にも二人一組が後五組ほどはいた。
それ以外にも、
「っ!こ、こうですか!?」
「違う!それは通常の魔力を纏わせているだけで、戦闘では効率が悪いだけだ。もっと自分自身の魔力を練り上げて、それを纏わせる感覚でやれ。...次っ!」
と言って、剣や槍、斧や弓などの武具を持った人々が一人の男の前で、自身が持っている道具に何やら魔力を纏わせていた。何人かは纏わせることが出来ず、また何人かは纏わせられても青白い魔力のみで、また何人かは黄色や青、赤や緑といった、様々な色のした魔力を武具に纏わせていた。
ユウは木剣で戦っている人々の方は、ユウ自身ハラハラして見ていられなく、自然と後者の人々の方を見つめていた。そして内心で、
(あれは...魔纏の練習、かな?いや、と言うよりも名称獲得の練習って感じか。)
と呟いていた。
ユウが言っていることとは、魔力操作の一つ“魔纏”であり、彼らがやっているのはさらにその応用である。
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『魔纏』
魔力操作の一つであり、主に使用者の身体全体を顕現させた魔力で覆うことを指す。
顕現させた魔力は、通常目に見えず触れることが出来ない魔気とは違い、確かな実体を持ち、触れることが可能な物体である。
故に、それを身体に纏わせることによって、一種の防御壁の役割を果たしているのである。
この魔纏とは、一般的な金属類が原料である鎧と違い、形や材質を個人が自由自在に作り替えることが出来ると言う点がある。
例を挙げると、自身の急所の部分に魔纏を集中させ、その部位のみを瞬間的に強化させたり、魔纏自体の性質を硬質から軟質にし、ゴムのように衝撃を吸収したりすることなどがある。
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『魔射』
先ほどのように“魔纏”と呼ばれる防御用のもの以外に、魔力を形あるものとして顕現させる“顕魔”が基礎として存在し、魔纏とは対となる“魔射”という攻撃用のものへと派生する。
魔射とは、顕魔によって生み出した形を持つ魔力を、自身の身体を砲台に見立て魔力の塊を射出することを言う。さらに、魔力を具体的な形を持たせずに顕現させ射出することを、“魔放”と呼ぶ。
前述の二つは、使用者が力を加える方向...つまり、射出させたい方向を定め撃つのだが、魔放の場合使い慣れた者であれば、射出中(と言うよりは、放出中だが)に方向を変えることが可能である。また放出中に、既に放出している魔力を具体的な形があるものへと変えることが出来るため、巨大な魔力の塊を作り出すことが出来る。
しかし、実体を持つ魔力には当然質量も存在するため、放出した魔力量が多ければ、それに伴って魔力の塊も巨大化するだろう。そうすると、仮に上空へ魔放を使用し、その最中に顕魔を行うと、巨大な岩が空から降ってくるような現象が発生するのである。下敷きになれば、確実に死は免れないだろう...。
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今しがた説明した二つは魔力操作の一環であり、その点彼らが行っているのは、魔纏を自分以外に行うことと、それを自身の中で定義化させることによる名称獲得の訓練であった。
ユウがそんな彼らの様子を見ていると、隣にいたアイザンが、
「申し訳ありません、アンダーソン殿。何分急に貴殿の訓練への参加を伝えられ、こちらとしても相応の対応が出来なかったのです。流石に兵士全員へ今回のことを伝えては、彼らも変に疑問を抱いてしまいますし、何よりアンダーソン殿に気を使わせてしまうと思い、今回は途中から参加して頂く形を取らせて頂きます。」
と、実に申し訳なさそうに話してきた。
彼の言う通り、今回ユウが国軍の訓練に参加すると言う話は、もちろんユウが護衛として雇われることが決まった後からであり、早くても今日から二日前に突然伝えられたことであるはずだ。
いくら人一人が一緒に訓練をするだけとは言え、あまりにも唐突すぎては伝えられた側も準備や計画にずれが発生してしまう。
それでも今回ユウが参加を許可された理由は、領主であるディランからの直接の指示であったからだ。
「いえ、こちらこそお忙しい中私のために時間を割いて頂いてすみません...。改めて、本日はよろしくお願いします。」
「これはこれはご丁寧に...、では一度訓練着に着替えて頂いて、それから早速副隊長の下に向かいましょうか。」
アイザンの言葉に、一応日本人らしく謙虚に努めようとしたユウは、深々とお辞儀をし誠意を示していた。ユウのそんな態度を見てアイザンも、ユウに倣って頭を下げると、石壁にある一つの通路口に向かって歩き始めた。
先を進むアイザンの後を追ってユウも歩き始め、その際目では先ほどの戦闘や魔纏の訓練をしている人々の様子を眺めていた。アイザンの話から考えるに、彼らがこのウィースにおける国軍なのだろう。
(...あれが、ディラン様に新たに採用された護衛、か。...まぁ、そこそこと言ったところだな...。)
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アイザンに案内された部屋にて、既に用意されていた軍使用の訓練着に着替えたユウは、再びアイザンに促されるまま、先ほどの訓練場へと戻ってきていた。現在のユウの服装は、麻か綿で仕立てられた丈の長い上下に、動物の毛皮で作られたブーツ、そして両腕両足と胴体部分に金属製の簡易的な防具が取り付けられている。防具の性能としては、剣道の防具よりも軽いため、やや強度は劣りそうな作りであった。
基本の格好は男女とも同じようで、(男だが)現在は女で通っているユウも、アイザンやその他の兵士達と殆ど変わらないため、それほど違和感は無い。寧ろ、
「おぉ。先ほどから妙に凜々しいと思いましたが、アンダーソン殿は少々男らしい風貌ですね。あ、いや、別に卑下しているわけでは無いので、ご理解ください。」
「ア、アハハハ...良く言われるので、構いませんよ。(...本当、こんな変態女装男なんかに気を使って頂いて、申し訳ありません...。)」
といった具合に、ユウの出で立ちを見たアイザンからの指摘からするに、ユウの姿は実に男らしかった。...いや、当然と言えば当然なのだが...。もしユウの身長が後一〇センチ高く、顔が童顔では無かったとしたら、おそらく変声や化粧をしたところで意味が無かったかもしれない。
そう言う意味では、ユウの生まれ持った容姿は、今後の世渡りの面から考えて幾分か有益なものなのだろう。
そんな風にやり取りをしていたユウとアイザンの下に、一人の男性が近寄ってきた。彼の容姿はユウよりも頭一つ分高く、髪は濃い茶色でカリアゲでは無いが、邪魔にならないよう短く切り揃えられている。肩幅の広さや、服の上からでも分かる前腕や上腕の太さから考えるに、そこらのチンピラや相手ならば素手で十分であろう程の実力の持ち主であるだろう。
そんな見た目だけでも厳つい人物の顔に、さらに異彩を放つアイテムが装着されていたのだ。
(アレって...サングラス、だよな。...なんだか、メッチャ怖いんだけど...。)
ユウの内心の呟き通り、男は地球における“あの”サングラスをかけていた。おそらく厳密に言うと全く同じものではないのだろうが、
『メガネのように耳と鼻にかける。』
『日差しを軽減するため、レンズに色が入っている。』
と言ったサングラスの特徴を抑えているので、おそらく同義のものであることは確かであった。
「どうも、お初にお目にかかります。私はスローム王国軍防衛省ウィース支部所属の第一騎士隊副隊長“パディ・ハムネット”と言います。...アンダーソン殿、とお呼びした方がよろしいですか?」
「あっ、こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。...いえ、名前の方で呼んでいただければ有り難いです。出来れば、アイザンさんもそうして頂けると...。」
パディと名乗った男からの問いかけに、少々焦りながらも、どうにか平静を保ちながら返答することが出来たユウ。そしてパディに希望を伝えた後、同様の内容を隣にいたアイザンにも伝えていた。
ユウからのそんな要望にアイザンとパディは、それぞれ同意を示す頷きを見せ、
「ええ、分かりました。では改めてよろしくお願いしますね、グリ殿?」
「ふむ...では、私のこともパディと呼んでください。私もグリ殿と呼ばせて頂きますので。」
と、ユウに片手を差し出してきた。
そんな彼らの態度にユウも、「はい、よろしくお願いします、アイザンさん、パディさん。」と言って、差し出された手と握手を交わしたのだった。
さて、こうして本日の予定でもある訓練への参加にあたり、監視兼指導役のパディと会合したユウは早速、当初の目的でもあった軍の訓練に混ざることとなったのだ。
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「さて早速、グリ殿が参加される訓練についてですが、基本私達の訓練は『身体強化訓練』、『魔力操作訓練』、そして『集団戦法に関する座学』の三つが大部分を占めています。そしてその三つに付随する形で、『個人による名称及び技能獲得の訓練』『多対一における回避方法』や、頻度は少ないですが『精神強化訓練』といったものを実施しています。」
「なるほど...ん?...もしかして今日の訓練、それ全部に参加するんですか...?」
先ほどの握手の後アイザンは訓練へ戻り、残されたユウとパディは、目の前で行われている訓練の様子を眺めていた。その間パディは、ユウに軍の訓練の仕組みや基礎を教えていたのだが、ユウはそんなパディの話に一抹の不安を感じていた。
ユウの言う通り、パディの話す訓練の内容は確かによく出来ているが、果たしてユウがその全てを今日中(しかも昼過ぎ)に実施出来るかと言えば、幾らなんでも難しい。と言うより、そんなつまみ食い感覚で訓練に参加したところで、たいして意味も無いため無駄なはずだ。
「あぁ~、いや。流石に全部に参加させるつもりは無いですし、そもそも本来の目的は、グリ殿の護衛としての能力がどんな系統なのかを図ることですので、今日は主にその方向で訓練を行って貰う予定です。」
「系統、ですか...。」
「えぇ。...では早速...、」
ユウからの疑問に答えたパディは、今日の予定を言うと共にユウから視線をずらし、周囲で訓練に励む集団の方を確認していた。見たところ誰かを探している...と言うよりも、一人一人を吟味しているといった感じである。
ユウは、視線を逸らしたパディの様子に疑問を抱き、彼の視線が向いている方向を辿る形で自身の視線をその先へ重ねると、唐突に
「あ、いたっ。ノエル、ちょっといいか?」
とパディが声を上げたのだった。
パディとユウが向いているのは魔纏の訓練をしている集団であり、集団の内一人の人物がこちらに顔を向けていた。おそらくその人物がノエルなのだろう。
「お呼びでしょか、パディ副隊長?」
「ああ。昨日伝えたと思うが、今日一日訓練を通した護衛の適性審査を実施するグリ殿だ。いきなりで悪いが、本人の戦闘技術や癖を確認したいから、一度打ち合って欲しいんだが...頼めるか?」
「あ~、昨日話されていた新しい護衛の方ですね。私は別に構いませんよ。」
パディの呼びかけに応じて駆け寄ってきたノエルに対し、パディはユウを紹介すると同時に、ノエルへ一つの提案をしていた。
パディが呼んだノエルという人物は、非常に中性的な容姿をしており、どことなくユウと似た印象を抱くが、声が男にしては高いことや軍の集団と比べ身長が低いことから、女性の可能性の方が高い。が、
「グリ・アンダーソン殿ですね?お初にお目にかかります、ノエル・フェルポットと申します。見ての通り国軍の内防衛担当の兵士で、ウィース支部に所属しています。女の身ですが、必ずや良き対戦になれるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。」
と言って頭を下げてきたノエルの発言から、ノエルが明らかに女性である事が分かった。まぁ、男なのに女と偽っている変態はユウくらいなものなのだから、それほど驚きもしないが...。
「あ、はい...えっと、グリ・アンダーソンと言います。え~、本日はこちらの訓練へ参加させて頂くことになっているので、どうかよろしくお願いします。...あのっ、パディさん。ちょっと...。」
「ん?どうかしましたか?」
ノエルの言葉に少々ドモリながらも返事を返したユウは、ノエルでは無くパディに声をかけた。どうやら直接パディに確認することでもあるのだろうか、ノエルのそばから少し離れてから、ユウはパディに言葉を投げかけた。
「それで?何か不都合でもありましたか?一応グリ殿は女性の身でありますから、同じく女性のノエルをあてがったのですが...。」
「あ、いえ。そこは別に問題ないんですが(...まぁ、俺男だから問題大ありなんですけどね...。)、...あの、打ち合いって、つまり模擬戦みたいなものですよね?私としては、今日は訓練に参加するつもりで来ましたが、いきなりそんな実践的なことをやっても良いものなのでしょうか?」
パディから話を促されたユウは、ノエルに話が通らないよう配慮しながら、疑念を打ち明けた。
ユウとしては相手が誰であろうと、対人戦自体それほど多くない(※ジョンやリーズとは、主に生きるための訓練が殆どだったため)ので、良い経験になるだろうと思っていた。まぁ女性相手だと、実際本気は出せないと分かっているようだが。
とまぁそれはさておき、ユウとしては今日訓練にただ参加するだけと考えていたため、それほど気負いはしていなかったのだ。それなりに迷惑をかけないよう過ごすつもりではあるのだが、如何せんユウは国軍に所属しているわけでも無く、護衛の任に就いている身とは言え、殆ど無関係な人物と言っても過言では無い。
そんなユウだからこそ、軍の人間とわざわざ対人戦をさせる必要性が薄く、特に重要性を感じなかったのだ。だが、
「いえ、これに関しては当初より、グリ殿にやって貰うようディラン様から命じられているので、やって頂きます。グリ殿は短期とは言え、領主のご令嬢の護衛を任されているので、まずこちらでグリ殿の力量を判断し、程度に応じた補助や身辺警護をこちらで調整する予定なのです。そのためには、一番分かりやすく、かつ時間のかからない打ち合いの方が手っ取り早いので、理解してください。」
とパディが、ユウへ詳しく説明したのだった。まぁパディの言う通り、軍の都合や時間の問題という面で対戦式の方法をとっているのは本当ではあるが、実を言うとそれ以外にも理由はある。
とは言え、そんなことを知らないユウは、
「なるほど、そう言うことでしたか。...いえ、失礼しました。では早速始めましょう。」
と、簡単に納得し、パディに言われるがままノエルとの打ち合いに向け、気を引き締めていた。
こんなユウが、打ち合いを開始してから数分後...あんな目に遭うとは、ユウ本人思いも寄らなかっただろうし、考えようともしていなかった。
以上で今月は終わりです。また来月お会いしましょう。




