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異常なリモコン片手に放浪旅 ~主人公は主観的で感情的~  作者: アヤミ ナズ
魔人族の大陸:スローム王国ウィース編~中~
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No.056 メリッサとユウ

今までの話で一番長くなってしまいましたが、どうか最後までお付き合いください...。


「つまり、現代じゃ魔法系の名称が回復魔法を使ったり治癒士が能力を使うよりも、魔力消費が少なくて、いざという時に活躍出来る医士の方が需要があると思うのよ。グリもそう思うでしょ?」

「ハ、ハァ...。」



 メリッサから投げかけられた同意を求める言葉に、ユウは困惑していた。と言うのも、先ほどユウからメリッサと話をしようと投げかけたことにより、現在進行形で親睦を深めるという呈の会話が、各人メリッサの部屋にある丸テーブルを囲み繰り広げられているのだ。

 とは言え、流石に自分の人生の全てを話すわけにもいかないため、取りあえずは互いの趣味や好きなことを話すことに落ち着いたのであった。...合コンやお見合いのド定番中のド定番であることは目を瞑ろう。


 ちなみにリーリエはメリッサの隣に腰掛け、自らが用意した人数分の紅茶(?)の内自身のものを飲みながら、これまた用意してきた菓子を摘まんでいる。話に混ぜて貰っていないように見えるが、彼女的にはあくまで二人メリッサとユウの監視が目的であり、会話に対しそれほど興味が無いようだ。...まぁどちらかというと、メリッサが楽しそうに話している様子を見ることだけで満足しているようではあるが...。



 さて、そんな会話の中で今はメリッサの趣味...と言うよりも、目指しているものに関して話が進んでいた。その内容というものが、彼女が取得しようとしている名称『医士』についてである。

 ユウの困惑した返答をどう捉えたのか分からないが、メリッサは



「...まぁ、そうそう同意を得られないことくらい分かっているわよ。正直、治癒士の方が圧倒的に数は多いし名称獲得も容易...と言えるほど簡単でもないけれど、医士ほどじゃないもの...。でもっ、元来魔力積載量が魔人族ウビスよりも低い人間族アビスは、少しでも魔力に頼らない方法を身につけていくべきだと思うの!」



と、若干熱を込めて言い放った。メリッサが言っていることはおそらく、今後の起こりうる種族間のパワーバランスを危惧しての防衛策なのだろう。

 メリッサが言うように魔人族は、人間族よりも魔力積載量が種族単位で多く、さらに言うと身体能力は獣人族イビスとそれほど大差が無い。まぁ、竜族ドラビス精霊族フェビス亜人族エビスの何割かは例外レベルの魔力積載量であるので、あくまで三種族+その他の亜人族との間の話である。


 さて、この世界の名称・称号の大前提として、この能力は全種族が持っている。そのため、その能力を発動する際、最も基礎魔力が高い魔人族の方が力量的にはどうしても高い。だからこそ人間族は魔具を発明し、他の種族も何らかの自分たちが有利になるような武器モノを持っているのだろう。

 しかし現在は、人間族だけが魔具を生み出せるわけではなく、錬成士・魔具生成士・精霊士の名称があれば性能の大小はあれど、どの種族でも魔具を生み出すことが可能となっている。



「お嬢様?もし本気でそうお思いなら、少しでも真面目に生態学を学ばれていかがです?ここ最近、いつもネイサン様と一緒に魔法士の訓練ばかりで、座学全般が疎かなようですが...?」

「う゛っ...。」

「...ハァ~。...折角解体士の名称を獲得したのですから、失わない内に鍛錬を再開してはどうです?」



 意気揚々に話しているメリッサに対し、そうツッコミをかましたのはリーリエであった。彼女が言っている座学というのは、いわゆる"自主学習"のことであり、メリッサが目指している医士の名称獲得のためには、座学と実技の二つが必要なのだ。


 このスローム王国では、四年間の初等教育と通常教育、そして三年間の上等教育と専門教育の四つが存在し、初等教育は国民であれば誰でも受けることが可能となっている。しかし、八歳になる年からしか受けられず、また二十歳を超えると受けられないという制限が設けられている。その他の教育はそれぞれ、税金を一定以上納めているか、教育費を支払うことが可能な家庭か、はたまた個人の能力や経歴がどの程度であるかなど、基本"誰でも"は受けられない。


 とまぁ、この話はいずれ機会がきたら話すとして...メリッサは初等教育はもちろん、その次の通常教育も受けている。しかし上等教育は受けておらず、基本は自主学習という形で自身の能力を高めている。その過程で自分がなりたいもの、やりたいことを見つけ、現在邁進している...らしい。



「そうは言っても、やっぱり名称は魔力操作が上手くできないと、持っていても最大限の力は引き出せないでしょ?いくら知識を詰め込んだところで、大元となる魔力に対応しきれないことには後々大変になると思うの。そう!だから魔法の実技は、やるべくしてやっていると言うことにっ!」

「名称が退化して無くなり、また一からやり直しになっても知りませんよ?」

「...ハイ、ガンバリマス...。」



 それっぽいことを言いながらリリーエに対し弁明をしていたメリッサであったが、リリーエからの助言《脅し》を受けて、その勢いは明らかに減速していた。まぁ実際の所、名称と魔力操作の上達にはそれなりの相関性は存在する。とは言えメリッサが言うほど明らかなものではなく、名称の能力を使用する際に自身の魔力を効率的に活用出来るくらいだ。だがそれも通常の名称持ちに比べればの話であり、言ってみれば付け焼き刃程度の差でしかない。

 さらに言うと、名称を得るために鍛錬を行うことで、魔法士の持つ能力『効率化』と同じようなことを、自身の名称や称号限定で行うことが出来るため、そこまでして魔法士の名称を同時に得ることはあまり効率的とは言えないのであった。



「沢山の名称を持つことは確かに素晴らしいことです。しかし、その一つ一つを中途半端にしてしまうと、それはただの器用貧乏でしかありません。別にそうなることを私は否定しませんが、もし本当にご自分がやりたいことを見つけたのならば、それを実現するための道筋をしっかり見極めなければいけません。...如何ですか?」

「うぅ......その通り、です...。」



 リーリエからの更なる追随に何も言えなくなったメリッサは、少しばかり落ち込んだ様子を見せていた。とは言え、今しがたリーリエが多くの名称を持つことへ全面的に否定しなかったように、持つこと自体は決して間違いではない。重要なのは、一つでも他者に劣らない力を持つこと。そのためには、名称を多く持ちすぎる事を優先とするのではなく、名称は少なくとも何か一つだけ、他者より秀でた能力モノを自身の中で画一させることが重要視されるのだ。

 そんなリーリエの話を傍目から聞いていたユウは、



「...(なんか、知らないうちにこっちへ被弾したんだけど...)。」



と、思いがけない不意打ちを食らっていた。と言うのも現在ユウが持っている名称は、"飛翔者"・"魔具所有者"・"武闘家"・"魔術士"・"忘却者"・"精霊士"に加え、新たに"おおゆみ使い"・"隠者"の二つがあり、さらに言うと、称号で"耐え忍ぶ者"も所持している。全部合わせて九個。

 もしリーリエの言う通り、新しく名称を獲得しようと必死になるほど今までの名称が退化するのであれば、自身がジョンやリーズに鍛えて貰った過程で取得した名称達が、もしかしたら今後無くなる可能性もあるのだ。


 ユウは当初、名称や称号についてジョンから忠告を受けていた。それにも関わらず今までそのことを失念しており、そして今頃になってその事実に気づいたのは、思いがけない幸福であったのかもしれない。


 とまぁリーリエの言葉に対し、勝手に反応し勝手に改心していたユウは、人知れず慌ただしく自身の思考を巡らせて、今後の行動に対し気を配ることにしたのだった。



「さて...、そろそろお昼に近い頃合いですし、お食事の方をお持ち致します。お二人とも、少々お待ちください。」



 メリッサに少しばかり辛いことを言ったリリーエは、何やら仕切り直すかのように話題を切り上げる目的もあったのだろう、昼食の話を持ち出し部屋を出て行こうとした。そんな彼女の言葉を受けユウもメリッサも頷いたのだが、



「あ、あのっ!リーリエさん...。」



とユウが、ドアに向かって歩み始めたリリーエに近づき、声量を下げながら声をかけた。ユウが離れたことにメリッサも気づいたはずだが、先ほどリーリエに指摘されたことが少し効いたのか、特に気にかけるほどではなかったらしい。



「どうかしましたか、グリさん?」

「あ~、その...僕が代わりに持ってきましょうか?ほら、僕の方が下っ端みたいなものですし。」

「?いえ、大丈夫ですよ。そもそも、私はメイドでグリさんは護衛ですから。お仕事の担当が違います。」

「そうは言っても、まだ会って間もない僕をお嬢様と一緒に残していって、不安じゃないんですか?それだったら...。」 



 そう言って自分も一緒に行くことを進言したユウ。だが実際の所は、先ほど談笑を交わしたとは言え初対面と対して変わらないメリッサと、この場で二人きりになることが若干不安なようだ。加えて、メリッサの性癖を考えると、寧ろ二人きりの方がマズいのではないかと、ユウは考えたのである。


 そんなユウの思考を知ってか知らずかリーリエは、



「...いいですか、グリさん?貴方は確かに急遽護衛を任された身ですが、それは決して仕事に対し無責任になっていい理由にはなりません。」

「?それはどういう...。」

「つまりですね、任せられるかそうでないかの前に、貴方はディラン様より依頼を受けています。信頼がないことは確かに事実ですが、それを理由に自分に任せられた役割を蔑ろにしてはいけません。自信が無くとも、求められた結果に誠意を持って取り組むことが、相手への貢献に繋がり、さらには自信を身につけることにも繋がるのです。」

「は、はぁ...。」



と、ユウに伝え、投げかけられたユウ自身はその言葉に今ひとつピンときていないようだった。

 だがリーリエの言っていることは、おそらくユウの信念と似たものであるはずだ。と言うのも、リーリエの言葉をざっくりと説明するならば、『仕事はやれるかやれないかの前に、やらなければいけないことなんだから、つべこべ言わずにやれ』といった感じであり、これはユウの持つ"責任"や"義務"などの言葉と類似する。


 自身の考えと類似した言葉を受けながらも、何処か受け入れられない様子のユウであったが、それも致し方ない。なぜならば、人は自分の都合のいいように物事を理解し、都合が悪くなれば無意識に自分の信念など曲げてしまうからだ。それはユウも例外ではなく、常々気を付けている中でどうしても全ての物事に忠実になれるほど、性格が細かくないのだった。



 とまぁそんなわけで、リーリエから納得のいかない言葉を投げかけられたユウであったが、そこで言い返せるほど言葉に意味を理解出来なかったようで、そのままメリッサと二人で部屋に残ることになった。だが、



「...」

「...」

「......」

「......」

「...



って、...お互いまったく言葉を発さない...というか、視線すら交わさないでいた。

 先ほどまではつらつ(・・・・)と喋っていたメリッサは、リーリエに言われたことで自身の日々の行動を反省し、どことなく哀愁が漂っており、ユウはそんなメリッサにどんな話題を振ればいいのか思いつかず、頭の中で右往左往していた。


 リーリエが戻ってくるまでこの状態が続くかに思われたが、それは突然破られた。



「「...そういえば...えっ?」」

「あ、すみませんっ!お嬢様からどうぞっ。」

「べ、別に、気を使わなくてもいいわよ!グリから話してっ。」



 どうやらお互いが同時に話を切り出したらしく、見事にハモっていた。そしてその後、最早お決まりの展開と言わんばかりの二人による壮絶な譲り合いが始まり、一分ほど続けていると、



「...ぷっ!」

「あっ...、あ、あははは...。」



と、メリッサが吹き出し、それを見てユウもぎこちなく、それでも何処か嬉しそうに笑っていた。やはりこうした問答を繰り返すことというのは、何処の世界でも可笑しく、そしてどうしようもなく笑ってしまうものなのだろう。



「...では、お嬢様からどうぞ。」

「ええ、悪いけどそうさせて貰うわね。」



 お互い笑顔のままそう言い合って、何とか話を元に戻した。


 さて、ユウから話を促されたメリッサであったが、その話というのが、



「グリの持っている名称ってどのくらいあるの?」



と言う内容であったのだ...。



「そ、そうですねぇ...。(えっ、これなんて言えば正解なんだ!?「九個あります。」...いやいや、絶対興味持たれるって。じゃあ、「四個くらいですね。」...バレたらどうすんべ...。)...持っている名称のいくつかをお教えするだけで良いですか?」

「あら、そう?普通はあまり自分の名称を他人に教える人はいないから、念のため数の方を聞いたつもりだったのだけれど...まぁ、それでいいわ。じゃあ、早速...。」

「はい、畏まりました。」



 逡巡の末、自分なりの妥協案を提案したユウに対し、メリッサは意外そうな顔をしたが、その提案自体に不満はなかったようで、ユウに話を続けるよう促していた。ユウはそんなメリッサの反応を見ていくらか安心した様子を見せていたが、ではどの名称を教えればいいのか、という部分でまた考え込んでしまったようだ。


 ユウは称号も持っているが、流石にそれを教えるほどユウも阿呆ではないため、あくまで名称の中から決めるらしい。とは言え所持している名称の中には、持っているだけで国から目を付けられそうな“精霊士”や“魔具所有者”が存在し、かといって進化の三段階目である“武闘家”や人によっては国認にもなれる“魔術士”を教えても、前者と殆ど大差が無いだろう。

 そして、今ひとつ能力の価値を把握していない“忘却者”を除くと、



「えっと...持っているものの内一つが飛翔者で、あと二つが隠者と弩使いですね。」



という、自身が一番最初に得た飛空者から進化させた飛翔者と、残り二つは文字通り取りたてホヤホヤの名称をメリッサに伝えた。


 ユウが名称を言い終えると、そのユウの目の前に唖然とした表情のまま立ち尽くすメリッサの姿があった。そんなメリッサの反応を見てユウは、



(ヤバい...選択ミスったぁああああああああぁぁ...。)



と、心の中で絶叫しながら、直ぐさま問題点と言い訳と考え始めていた。


================


 よし、まずは飛翔者だな。

 確かこれは、飛空者の二段階進化後の名称だったはずだから、確かに怪しいかもしれない。だけど、俺が初めて獲得出来た名称だし、そんなに難しくなかったはずだ。実際リーズもジョンさんも俺が飛翔者になれたことに驚いていなかったし、珍しくない...はず。


 次、隠者。

 獲得日数は少なかったけど、やってみた感じ獲得自体は魔法士なんかとは比較にならないくらい簡単だったし、そもそも名称自体が第一段階だから大丈夫なはず...。


 最後、弩使い。

 武器を使う名称だから確かに獲得するのは大変かもしれないけど、サーシャやセリア曰く『弓や銃に比べれば、全然マシ』みたいだし、事実『(弦を)引く→矢をセット→狙いを定めて...→発射!』くらいで、置いて撃ったからさらに楽だったもんな...。


 以上を踏まえると...。


================


 そんな風に考え直したユウは、唖然としているメリッサが追求を始める前に、



「実はですね。私に飛空者の名称を教えてくれた方が、今私が持っている名称“飛翔者”を持っていたため、幸運なことに名称を得ることが出来たんです。その際限界まで進化させることを目指していたため、どうにか飛翔者まで鍛え上げることが出来たんですよ。まぁその代わり、他の名称は殆ど貧弱ですし、あまり自慢出来るものではないのですが...。」



と、説明していた。

 少々強引に感じられる内容だが、後々追求された際ユウの望まぬ選択を押しつけられる可能性がある上、それがこの世界に対し何かしらの影響を与えるきっかけになってしまうかもしれない。

 ユウとしてはそこまで意識的に考えているわけでは無さそうだが、本能の部分で『自分はこの世界に対し招かれざる存在』と言う事実を理解していたのだろう。そしてその遠因となったのはおそらく...



(あまり目立つと、あのレビアとか言う奴に感づかれるかもしれないし、そうじゃなくても、リーズやジョンさんとの関係を悟られる大仰な振る舞いは控えるようにしないと...。)



といった具合に、確実に周囲や知人へ迷惑のかかる事態を避けたいという思いが強かったのだ。


 ユウのそんな気持ちの込められた言葉を聞いたメリッサはというと、



「な、なるほど...そういう...ことだったの...ね。......なるほどねぇ。」



と言いながら、納得した様子を見せていた。とは言え、何やら考え込んでいる様子でもあることから、ユウの言葉に対しまだ何かしら思うところがあるようだ。ユウもその事実を理解しているからこそ、直ぐさま次に話す内容を考え始めていた。しかし、ユウが次の話を始めようとする前にメリッサが、



「...グリ。さっきの飛翔者について少し聞きたいことがあるのだけど、答えて貰ってもいいかしら?」



と、口に出していた。...いや、ユウからしたら“出されてしまった”なのかもしれない。と言うのも、ユウは自身の名称に対しこれ以上の追及を恐れていたため、今しがたメリッサが発した内容は、確実に“アウト”であったのだ。

 ユウにとってあまり都合のいい展開ではないが、ここでメリッサの言葉を遮ってまで自分から話題を逸らす行動を起こせば、必然的にメリッサからの不信を買ってしまう。それどころか、メリッサを通じて雇い主のディランに話が行けば、現在ユウの情報が最も集まっているであろう人物ディランからの、尋問...とまではいかずとも、それ相応の脅しや監視など自身の素性を強引にでも洗い出すことは容易でやってのけるだろう。


 だからこそユウは、



「もちろんです。私に答えられることなら、何でもお聞きください。」



と、その顔に柔らかい微笑みを浮かべてまで、自分の情報をメリッサに教える方の選択肢をとったのだった。

 ユウはメリッサから来る質問が『飛翔者なんて高度な名称を得られたんだから、他にも高度な名称があるはず』といった、ユウが他に上位の名称を獲得しているであろう事を予測した内容であると踏んで、それに対する説得力を持つ話の準備に取りかかった。


 ユウが、メリッサからの質問が終わったと同時に話す内容の構成が整った直後、メリッサが口を開き、その先の内容が綴られた。



「率直に聞くけど、...グリにその名称を教えた人って一体誰?」

「いやぁ~実はこの名称をえるのに十年かかったんd...って、......へ?」



 メリッサが話し終えると同時にユウは、予め予想していた質問に対する返答内容を話し出したが、その内容はまったくと言っていいほどメリッサからの質問に答えているものではなかった。と言うよりもメリッサは、ユウ自身のことではなく、ユウに飛翔者の名称を教えた人物...つまり“リーズ”と“ジョン”に対し興味を抱き、質問してきたようだ。


 メリッサからの予想外な質問に一瞬呆気にとられていたユウであったが、直ぐさま質問の内容を脳内で反復し、最低限度の情報のみで構築した話を口に出していた。



「お名前を言ってもおそらく存じ上げないと思いますが、教えてくれた方はリーズと言う名の女性とジョンという名の男性ですね。」

「...その二人の種族は?」

「見た目は完全に人間族でしたよ?」

「えっ、何?教えて貰わなかったの?だって長い間、ずっと一緒にいたのでしょう?」

「...それが...。」



 そう言ってユウは、リーズとジョンが自信の正体を知られることを嫌っていたことをメリッサに伝え、同時に二人とは現在、殆ど連絡を取っていないことを伝えた。一応ユウ自身、ジョンの正体が竜族であると教えて貰ってはいたが、果たしてそれが真実であったのかどうかは今更確かめようがなかった。

 よって、仮に知っていたとしても、安易に自身の主観でしかない情報を伝えるわけにはいかなかったようで、メリッサには二人の“見た目”だけの種族を教えることにしたのだった。



「なるほどねぇ~。それで、その二人とは何処で出会ったの?」

「何処って......あれっ?」



 ユウから聞く、リーズとジョンという謎の存在に対し興味が湧いたメリッサは、ユウへさらに質問を投げかけた。ユウも当然その質問に対し答えようとしたのだが、



(そういえば、あそこってこの世界の何処なんだろう?......あれ?もしかして......覚えていない、のかも...。)



と自身の脳内に、あの場所の情報をリーズやジョンから教えて貰った記憶が残っていない事実に気がつき、僅かに焦りの色を見せていた。もしくは、仮に自身が二人からあの場所の世界的な位置を教えられなかったとして、なぜ三ヶ月という間一緒にいたのにも関わらず、二人にあの場所を聞こうとしなかったのかをユウは疑問に感じていた。

 そんな風に一人焦燥感に見舞われているユウに対しメリッサが、ある言葉を投げかけた。それは、



「...グリ。あなた、本当にその人達に会ったことがあるの?夢や幻想とかじゃなくて?」



という、あくまでユウの心理状態を心配しての一言であった。だがユウ自身には、その言葉を肯定するつまりなど微塵もない。とは言え、その言葉を否定出来る物的証拠が無いのは事実であり、リーズとジョンという存在はユウの記憶の中にしか現状において証明出来るものは無い。



「っ!〈リン!〉」

〈はい、主!...どうぞっ!〉



 何かを思い出したのか、脳内でユウはリンの名前を呼んだ。そしてその呼びかけに対し直ぐさま返事を返してきたリンは、ユウが何を望んできたのかを理解し、自身の姿をリモコンへと顕現させ、ユウの右手に収まっていた。


 突然ユウが慌てた様子を見せたと思ったら、自身の右手に何やら長方形の板を出現させたのを見て、メリッサは一人驚いていた。ユウのそんな行動にかなり興味を引かれたが、ユウが並々ならぬ形相をしていたため話しかけることが出来ず、加えてユウがそんな表情をした所を見たのは初めてであったメリッサとしては、この後の展開を少し期待してしまっていたらしい。

 だからこそ、メリッサからの質問を放置し一人の世界に入っているユウを、メリッサはただただ見つめていたのだ。



 さて、ユウがリモコン(リン)を顕現させた理由は、



(入力1、“自由転移”。)



と念じてリモコンのボタンを押した様から、リモコンの能力“入力切替ロールシフト”より入力1の転移能力を使うことが目的であった。そして“自由転移”とは、転移先がチャンネルの数(12個)分あるのに対し、登録をしていないチャンネルのボタンを押すことで、ユウが訪れたことある場所(正確には、魔力痕の性質上“半年以内に訪れた場所”限定)に転移が可能というものである。

 しかしこの転移方法は時間がかかる上、この入力1の能力と併用して使える“番組表”の能力の対象外となっている。


 そんなユウが入力1で登録している場所は、『クルスの森・ミミ村の冒険組合・ウィースのレイモンド邸』の三つであり、それ以外の場所...つまり、リーズとジョンのいた場所へ向かおうと自由転移を発動させたのである。しかし、



〈ッチ!...なぁ、リン。これはどういう事だ?〉

〈え、えっと!ちょ、ちょっと待っててください......あ、あれ~!?〉



と言った具合に、ユウとリンの二人が困惑している様子から、その結果はなんとなく察することが出来る。どうやら、自由転移をしようと発動させたはいいが、



(何で、あの場所に転移出来ない!)



とユウが心で抱いた疑問の通り、自由転移を持っても“あの場所”に戻ることが出来なかったのである。


 ユウはその事実に愕然として、少しの間放心状態であったが、ふと思いついたかのように



〈...リン。画面を表示してくれ...。〉



と、リンに呼びかけていた。リンは今しがた、先ほどのユウの要望に対し応えられなかった自身を悔やみ落ち込んでいたが、ユウから再び声をかけられたことにより、直ぐさまその指示に従って画面を表示させた。


 リンが表示させた画面には、主にユウの身体能力や名称・称号、その他入力切替における転移先や収納物の一覧が見られるようになっていた。

 ユウはその画面に手を伸ばしたが、その手はずっと画面の向こうで虚空を彷徨うばかりであった。



〈ちょ、ちょっと、主!画面は手じゃなくて魔具リモコンの方でしか操作出来ないんですよ!〉

〈ん?...あぁ、そういえばそうだったな......忘れてた。〉



 リンからそう注意を受けたユウは、右手に持ったリモコンの矢印ボタンをによって画面を操作し始めた。なぜ直接手で画面に触れることが出来ないのかというと、リモコンが映す画面とはあくまで対象者の“目”そのものに映しており、実態の無いものなのである。よって、“触れる”という行為は不可能で、また対象となる者以外には視認することが出来ない。

 それ故、ユウとリンには見えているが、メリッサにはユウが虚空を見つめているだけにしか見えないのであった。


 リンに言われたとおりに画面を操作していったユウは、目的の項目を選択すると、そこに関して“字幕表示エグテンス”を発動させた。すると、画面の一部にその項目に関する情報が明記される。


================


『忘却者』

 記憶の消去や隠蔽が可能な名称。能力には自身が望んで使用できる“忘却選択”と、副作用として常時発動されてしまう“自動忘却”の二つがある。

 忘却選択は、自身の記憶はもちろん、相手の記憶を消去することも可能。しかしその場合、自分も相手とと同じ経験をしている必要がある。

 自動忘却は、頻繁に思い出さないことや年数が経過し過ぎた記憶ものから忘れていくため、頻繁に思い出しさえすればそうそう忘れることはない。


================



〈なっ!?あ、主!これってとんでもない名称何じゃ...。〉

〈...いや、もう少し調べたいことがあるから、少し待っててくれ。〉



 ユウを介して字幕表示の内容を見ていたリンは、ユウに備わっていた忘却者という名称の能力を見て、非常に焦っていた。それもそのはずで、能力の弊害によりユウの記憶は自動で消えていくということは、ユウがあの場所で見聞きしたことは、いずれ忘れてしまう可能性があると言うことだからだ。


 当初この名称の存在を知ったユウは、“元々自分も忘れっぽい性格だったし、そこまで困ることはないだろう”と高をくくっていた。しかし、その事実は名称により絶対的なものとなり、非常に危険な状態でもあったのだ。


 そんなことを知ったユウだったが、それ以上に



(努力したわけでも、獲得しようと思ったわけでもないこんな名称...何で俺が持っているのか、正直疑問でしかないけど......もしかしたら。)



と、何か思い当たることがあるのか、再び字幕表示にて自身の望む情報を明記させたのだった。その内容とは、



『名称を他人に強制的に付与することは可能か?』



と言う内容であった。その問いかけに対し字幕表示の解はというと、



================


『名称』

 名称は個人の実力と蓄積させた知識の総合的な価値により、自身の中で固定化された魔法に準ずる現象や変化を及ぼす能力を指す。その汎用性や種類は豊富で、大まかに『知識を有する技能系の名称』、『鍛え上げた身体能力を活用する体術系の名称』、『感情とイメージによる魔力行使の効率を上昇させる名称』の三つがある。

 しかし、名称を先天的に持って生まれる者もおり、名称が全て後天的に持つものではない。故に、何らかの条件もしくは他からの干渉が関係しているのではないかとも言われているが、未だにそれに関する証明は不確実なものしか無い。


================



というものであった。その内容を見たユウは、



(つまり、名称や称号は自分の力だけで得られるだけじゃないってことか。...そうなると、この忘却者っていう名称は、もしかして...。)



と、一つの可能性を思いついていた。


 『他からの干渉』


 ユウとしてはあまり考えたくはないようだが、実際自身が得ようと考えていなかった名称を持っていることから、持てる器量があったか、もしくは誰かが意図的に持たせたのかもしれないと予測していた。そして、仮に持たせた者がいるとして、それが可能そうな人物はというと...、



〈なぁ、リン。お前はどう思う?この情報を見て。〉

〈そうですね......正直、あの人がそんなことをする人には思えませんし、呼び出しておいてこんなことをする理由が思いつきません。ですから...。〉

〈あ~っと、悪い悪い。別にそこまで真剣に悩んで欲しいわけじゃなかったんだ。ただ、リンも同じ相手を想像しているかなって思ってさ。...まぁ、どうやらリンも、リーズのことを想像したみたいだな...。〉

〈え、ええ。...本当に、信じられないですけど...。〉



というユウとリンの会話から、リーズがやったことのではないかと言うことが挙げられた。

 リーズはユウに自身が持つ、この世界の言語を記憶としてユウに分け与えた。それどころか、彼女から率先してユウに魔法や名称の知識を教えたのだ。そんな彼女が、そんな記憶を自動で消すような名称を果たしてユウに与えるのかと言うと......難しいところであった。


 とは言え、



〈まぁ、俺が意図せず獲得していた名称って言う線が一番濃厚だし、リーズを疑ってもしょうが無いな。ってことで、リンもそんなに気にしなくていいぞ。俺が今後、忘れないように記憶の整理とかしていけばいいんだからさ。〉

〈ハ、ハァ...そうですか...。主がそう仰るのでしたら、ボクから言うことは何もないですよね...。〉



という具合に、ユウはリーズを疑うことをそうそうに切り上げていた。と言うのも、ユウはリーズ...そしてジョンの二人に、それなりの恩義を感じていた。それこそ、こんな別世界に勝手に召喚されたことに関して思うところが無いわけでは無いが、それは自身が選択したことであり、自分にも非があることを自覚していた。

 だからこそ、そうした自分たちの勝手に対する責任を彼らは負ってくれて、こうしてユウが見知らぬ土地で生きていけるだけの能力と知識をくれたのだ。例えその行為が当然のことであったとしても、ユウにとっては彼らを責める道理はないと感じていた。

 なぜならば、彼らには彼らの都合があり、それに気づかず勝手に受け入れたのはユウ自身であったからだ。


 つまり、リーズが仮に目的を持ってユウをこの世界に連れてきたのだとしても、その意図を理解出来なかった自分の危機管理能力に責任があるとユウは考えた。だからこそユウは、リーズに嵌められた可能性があったとしても、それらも含めて受け止めることが出来たのかもしれない。...もしくは性格が雑破過ぎて、考えるのが面倒になったからなのかもしれないが...。








(この子、意外とマイペースな子なのね...。何か、ずっと一緒にいる度に見えてくる性格が変わっているような...。)



 ユウの様子を観察する目的の下、ずっと一人待っていたメリッサは、退屈すぎてそんなことを考え込んでいた。メリッサの方がユウよりも年齢は下であるのに、今の今まで黙って待っていたのは......正直、どっちが年上か非常に悩ましいところであった。


 そんなメリッサが、一人熟考に浸っていたユウへ不満をぶつけることになったのは、言うまでもないことである。


最後の部分に関しては、語彙力の無さや文章の構成上あまり納得を持って貰う書き方が出来ませんでした...。申し訳ありません。


※文中にあった“初等教育”ですが、これは日本の小中学校のように“義務”ではなく、あくまで“権利”の範囲内です。ですので保護者が子供に受けさせず、子供もそのことに了承しているのであれば、この国では問題になりません。

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