No.055 報告と種族間条約
今月の投稿は二つです。では、どうぞ。
「なるほど。昨夜の騒動は商業区でのちょっとしたボヤ騒ぎだったわけか...。」
「ええ。時間が時間でしたし、加えて近隣の住民達が例の組織の噂に警戒していたせいもあって、普段以上に過敏になっていたようです。ですが、火事自体の規模はそれほど大きくはなく、けが人は出ていないとの報告を受けています。」
「それは...まぁ良かったと言うべきだな...が、結局は奴らの動きとは関係が無かったのか...。」
「はい、そのように聞き及んでおります。」
そう一人の男が言い終えるや否や、唯一座った状態の男が難しい顔をしながら、組んだ両手に自身の額を付けていた。その様子は、火事によって被害が出なかったことに安堵したい気持ちと、本来重要視していた事柄に関し手がかりがなかったことを憂えていたことにより、非常に表現しづらいものであった。
現在、レイモンド家の屋敷...から徒歩五分ほどにある石造りの建物、その内部にあるいくつもの部屋の内の一つにて、三人の男達が話...というよりも、三人の内一人の男に対し報告をしているようだ。
三人の内二人は、甲冑よりも守る面積が少なく各関節や急所のみを覆う形の防具を着け、その二人から報告を受けていた残りの一人は、装飾は少ないが見た目から、上流階級と遜色がないほどの風格を漂わせる服装をしていた。だがそれは、服と言うよりも着ている本人の存在感が強いからであって、その根拠は話し方や雰囲気からもひしひしと伝わってくる。
さてそんな彼らだが、実は一度登場している人物達だったりする。
彼らが居るこの建物の名前は『スローム王国軍防衛省ウィース支部』と言って、ウィースの街を中心とした防衛及び治安の維持を受け持つ国軍の...まぁ駐屯地のようなものであり、当然そこに居る彼らもそこに属している。そして今回領主であるディランから、例の組織に対する調査を行うよう命令を受けたのが、現在椅子に座っている男"イズラ・グラハム"であった。
そして、そのイズラに対し報告をしている二人の内、赤毛で短髪の方が"ルロイ・ラン"、茶髪で癖毛の方が"ガレア・パレンバーグ"と言う名で、彼らは基本イズラのそばにおり、他の部隊とイズラとの連絡のやり取りを受け持っている。
「まぁこの話はこれで一度切り上げよう。では次に、今回ミミ村で起こった飢餓狼の群れに関してだ。専門の学者に聞いたところ、今回のケースは非常に稀で、今後起きるとしても可能性は限りなくゼロに近い、とのことだ。」
「...ですが、実際起きていることを踏まえると、もう少し生態調査やミミ村駐在の兵士の増員を考えてみた方がよろしいのでは?」
「いや、生態調査はまだしも、これ以上ウィースから兵士やそれこそ騎士や魔法士を派遣すると、確実にここの防衛に回す人員が足りなくなるぞ。確かに異常事態なのは分かるが、ここも王都も今はそれどころじゃないし、もう少し待つべきじゃないか?」
イズラからの報告を受けルロイとガレアは、それぞれの意見を述べた。確かにルロイが言う、事態への急速な対応は当然のことであり、特に人命に関わることである以上、先送りにすることは非常に危険である。しかし、ガレアの言う通り現在のスローム王国軍は、緊急事態が起きたからと言ってそう簡単に人材を派遣することは難しい。ましてや一地方都市にすぎないウィースにとって、現状袋猿の件を並行して事に当たることは、結果どちらも危うい事態にしてしまう恐れがあると考えていたのだ。
一応王都からの調査団がミミ村に向かっているとは言え、その数はごく少数である上、その活動は一度きりに終わってしまうと考えた方が妥当であった。
ルロイとガレアの主張を聞いていたイズラは、話が落ち着いた隙を見て
「取りあえず、だ。...飢餓浪の群れ自体は、当分の間落ち着いていると考えた方がいいだろう。実際、百匹以上の群れに加え、それ以外の魔獣や魔物すらも討伐したとの報告があった以上、クルスの森における魔獣や魔物の数は大幅に減少したと思われる。後は、現場指揮を任せているジルト達からの報告を待とう。」
と言って、話を仕切り直した。と言うのも、この場では対策を考えるわけではなく、あくまで各部隊と情報を共有するべく二人に伝えるのが目的であり、話し合いはもっと上の者が下すことになっている。そのことをイズラの少しばかり不機嫌な様子から察した二人は、即座にその口を閉じたのだった。
ちなみに魔獣や魔物は、通常の生物や物体が周囲の魔気を排出することなく溜め続けるか、もしくは魔鉱石を体内に取り込んでしまうことによって、身体が変化してしまった姿である。故に、生物に魔気や魔鉱石が溜まるまでの間は、魔獣や魔物が発生する割合が減り、個体数が増えないことが判明しているのだ。
「っと、すまない。いやなに、実は飢餓浪の群れに関しては今回そこまで重要視していないのだ。危険は少ないとは言え、念のために冒険組合の方と連絡を取って、飢餓浪の討伐を国自体から常時依頼し、それなりに報酬を与えるよう伝えている。万が一の場合は今回同様、冒険者達に協力を仰ぐ形で対策が取られるだろう。」
「なるほど、そういうことだったのですか。...それで、今回最も重要視していることとは?」
「あぁ。現段階では完全に確定していないのだが、今回の飢餓浪の群れを率いていた者がいたらしい。しかもその姿が"魔人族"だった、と報告を受けている。」
「「なっ!?魔人族ですって!?」」
イズラの発言に対し過剰な反応を示すルロイとガレア。だがそれもそのはずで、未遂であったとはいえ、『人間族領の村』を『魔人族』が襲いかけたのだから。この事実は、この世界の住人にとっての常識でもある『種族間不可侵条約』に違反している可能性があるのだ。
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『種族間不可侵条約』
正式には『四種族間相互不可侵条約』という。
この条約は今からおよそ四百年以上前、二つの種族が地上から忽然と姿を消した数十年後に、各大陸へと引きこもっていた人間族、獣人族、魔人族、亜人族の四種族のみで交わされたものである。
この条約の最たる目的は、互いの領土及び種族に対する殺傷・略奪並びに、一方が圧倒的な不利益を被る行為の禁止、もしくは厳重な取り締まりを約束するというものである。
その背景にあるのが、神の怒りを買った二種族の完全消滅が最も大きいが、他の背景として、人間族と魔人族・亜人族の一部の者達から、
「知性ありし者同士での争いは、お互いの存続を危険に晒し、果てには文化や技術を消失させる可能性がある。その可能性は、今後世界をより良く発展させるにあたって最も大きな障害となるに違いない。これからの世の中は強者のみが蹂躙し支配するものではなく、互いの文化や技術、知識を尊重し時には共有させ、世界レベルでの文化水準の向上を目指していくべきではないだろうか。」
という大まかではあるが、こう言った類いの文言が各種族の代表者宛へと送られた事をきっかけに、各種族で何度か討議が行われ、“異なる考え方を持った知性ある者同士の相互的な尊重”という考え方が広まっていったことが大変大きかったらしい。
上記以外にも、竜族・精霊族へ現存する種族の中で諍いが起きた場合、中立の立場から判断を下すという役割を請け負って貰うこと、人間族の持つ魔具という存在の世界的な価値や魔人族の魔物や魔獣にならない特殊な身体構造、そして獣人族や亜人族にもそれぞれ失うには惜しい価値が存在し、それらを守り受け継いでいくことの重要性など、いくつかの理由が挙げられ条約は制定された。
種族間での条約は、先にも述べた『種族間不可侵条約』とそれと同時に結ばれた『種族間尊重友好条規』というものが存在する。後者は、お互い不可侵を約束しながらも、互いに有益となる行為に関しては条約を結び、例外として行使することが目的であった。
『種族間不可侵条約』
【第一項】
互いの領土及び文化を侵す様な行為(他種族に対する一方的な殺傷・略奪・詐欺行為等)の禁止。
【第二項】
互いが交流する場においては片方に非がある場合を除き、一方が圧倒的不利益になるようなことがあってはならない。
(※関税自主権を持つことも含まれる。)
【第三項】
個人もしくは組織的な犯罪行為が他種族に対し行われた場合、個人や組織は侵された側の種族によって裁かれ、その種族内で定められた刑罰を科せられる。
(※いわゆる種族単位での領地裁判権を全ての種族が持っていると言うこと。)
【第四項】
種族同士での問題により武力闘争などの過激な争いが発生した場合、中立の立場にある竜族と精霊族からの仲裁が強制的に執行される。
【第五項】
全四種族には、種族同士での諍いに対する抑止力として、各種族の大陸もしくは領土内へ他種族の国を設置する義務がある。この場合他種族の国は、対象となる領土の内陸部にある事を前提とする。
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『種族間尊重友好条規』
【第一項】
各種族同士での交易及び種族内にある国単位での交易の自由。
【第二項】
他領域への訪問の際は然るべき場所にて通行の許可を貰い、訪問先ではその種族内での取り決めに従うこと。
【第三項】
他種族同士での婚姻は許可されているが、その場合お互いが同じ種族の集団に属さなければならない。
【第四項】
宗教に関しては、種族ごとで一定までの取り決めが可能。しかし、一宗教を明確な理由や根拠もなく否定するような、集団による弾圧を禁じる。
【第五項】
各種族が制定する法律及び取り決めは、一部を除いて各種族に一任される。しかし、その取り決め内において、他種族を著しく差別する内容を含むものを制定してはならない。
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とまぁ、ここで述べたことは最も一般的な内容であり、本来はもう少し細かく制定されている。そして、各種族の中では、より細かく制定されており、さらに各国においては......といった具合に、法律や条約などの取り決めは種族ごとでも国ごとでも違ってくる。
しかし、各種族共通の決めごとは、前述で挙げた条例及び条規の二種類がある。
「あぁ。一瞬獣人族かと思ったらしいが、ミミ村駐在の国認魔術士であるシルビアからの報告だと、感じ取った相手の魔力堆積量は一般的な魔人族と同等の量だったらしい。最も近くで相対した例の少年曰く、頭と足が狼で、それ以外は人間と同じだったらしいから、おそらく"半魔"の方だろう。名前は確か...あぁ、レビアだったな。」
「種が半魔で、レビア......もしかして、昨日国から新しく追加された指名手配の奴ですか?」
「ああ、そいつで間違いない。どうやら国の方も、相手が魔人族だからかまともな調査もせずに手配したらしいな。...まぁ、当然と言えば当然か。」
ルロイからの問いかけに頷いたイズラは、小さくため息を吐きながらも国が下した内容に文句はないようだった。それも当然である。何しろ、このレビアという人物が今後人間族の国で大規模な犯罪を犯したら、ただでさえ友好的ではない種族同士で争いが起こってしまう可能性があるのだ。
そうなった場合、一番危険なのは魔人族側にあるこのスローム王国となり、ここの魔力や身体能力で劣る人間族では魔人族にかなうはずが無い。人間族は、魔具の使用と圧倒的な個体数で各種族と渡り合うしかないのだった。
とまぁ、そんな事態はそう簡単に起こるわけがない...とはいえ、可能性が無いわけでは無い。だからこそこうした小さな火種は、見つけ次第早急に対処していった方が良いのだ。それが仮に、レビア側に深い理由があったとしても...。
「と言うわけで、今後暫くの間は魔人族の出入りや動向には警戒するように。もちろんそれ以外の種族も今までと同様に、だ。」
「分かりました。」
「では、各部隊にそう報告しておきます。」
イズラからの報告を受けたルロイとガレアは、直立不動の体勢を取り、了解の意を示していた。そんな二人の様子を眺めていたイズラは、突然「あぁ、それと...。」と言いながら、おそらく伝え忘れていた内容なのか、少々慌てた様子でその先の言葉を二人に伝えたのだった。
「今回の報告で、飢餓浪の群れ以上に警戒して欲しい魔物が現れた。魔物の名前は『寄生蜘蛛』と言うらしい。」
「"パラパイダー"?...この辺じゃあ聞いたことない魔物ですね。というか、何故そんなに警戒する必要が?」
「まぁ、そう思うのも無理はない。実はこの魔物、固有魔法が生物全般に精神支配をかける類いのようで、加えてヱニスト大陸内の一部の地域にしかいない魔物らしい。」
「えっ!?精神支配って...すぐにでも討伐するべき魔物じゃないですか!早く何らかの対策を立てないと...。」
イズラの発言に各々の反応を示すルロイ(前半の発言)とガレア(後半の発言)。
ヱニスト大陸とは亜人族の大陸のことであり、こちらの方が正式な名称である。同様に、人間族の大陸をピネーブ大陸、獣人族の大陸をカスピティア大陸、そしてここ魔人族の大陸をペリケージア大陸と言う。
ちなみに、多種族が住んでいる大陸の名前を世間一般にバリート大陸と呼び、広い海洋の真ん中に浮いている巨大な島をモルレア島と呼称している。
とまぁ、各大陸の話は別の機会にじっくり話すからこのくらいにしつつ...今しがたのイズラの発言に対し焦りの色を見せたガレアへ、イズラは
「まぁそうは言っても、発見されたのは今回が初めてな上、見つかった状況が状況だ。もしかしたら件のレビアという魔人族の者が不正に持ち込んだ可能性の方が高い。その点も踏まえて、今後クルスの森における調査報告を待つほかあるまい。」
と告げた。確かにイズラの言う通り、寄生蜘蛛はレビアがユウを殺す魔物を操作する際に持ち寄った魔物である。そして、仮にクルスの森に生息していたとしても、対象の大きさが人間の手のひらと同じであることから、その危険性と相まって探し出すことが困難な状況である事は致し方ないことなのかもしれない。
つまり現段階において、レビアを捕まえ洗い浚い聞き出すことが、最も早急かつ効率が良いのであった。
「さて、だいぶ長くなってしまったが、私からの報告は以上だ。二人とも各部隊へ通達を終えたら、各々持ち場に戻って通常業務にあたれ。くれぐれも余計な噂に発展して、市民に不安を拡げることの無いよう各部隊共々、気を引き締めて過ごすように。」
「「はっ!」」
イズラからの最後の忠告を受けた二人は、イズラ一人を部屋に残し退室していった。
"バタンッ"
「...なぁ、ルロイ。」
「ん?どうした、ガレア。」
イズラのいた部屋から退室し暫く歩いたところで、不意にガレアが言葉を発した。と同時に、その言葉を投げかけられたルロイが、不思議そうにガレアの方へと視線を移し、その先の言葉を促した。
「お前的にさっきの魔人族の件、国の対応に対してどう思った?」
「対応?...まぁ、事態が発覚してから指名手配への流れは、随分と早い感じはしたな。正直、世間に発表するのはもう少し先だと思ってたが...。」
「だよな。実際村そのものに被害はなかったらしいし、そのレビアとか言う魔人族に対しても素性そのものがはっきりしていなかった。その上、起こった場所が領地の中にある一つの村だけ...そんな躍起になって対処することでも無いと思うんだがなぁ。」
そう言ってガレアは、先ほど報告を受けた内容に疑問を抱きながら、今後暫くは夜間見回りが増える事へ少しばかり倦怠感をあらわにしていた。その理由は、現在噂が流れている袋猿への予防に加え、件のレビアに対する警戒も上乗せされているからであり、通常よりも比較的忙しくなることが分かっているからだ。
そんなガレアの様子を見ていたルロイは、
「そう言うなって。あの村はクルスの森のすぐ近くにある上、森を迂回したルートは隣のソクラデッドと繋がっているんだ。森に対する防衛はもちろん、条約で不可侵が約束されている相手だからとは言え、可能な限り警戒を緩めちゃいけないんだろうよ。」
と返答していた。そんなルロイの言葉にガレアは、半分納得、半分疑念に感じている様子なのか難しい顔をしていた。と言うのも、前述でも話したように魔人族は人間族と比べ魔力・身体能力共に高いが、ここ数十年魔人族と人間族の間では、目立った諍いが起きていないのである。
まぁ、二種族間で外交上の不正発覚による緊張や個人間におけるいざこざなどを数えると、それこそ数年単位で起きているのだが、種族全体で対立した出来事となると、既に歴史上の出来事へ変わっているほどであった。
実際このスローム王国内にも魔人族はもちろん、獣人族や亜人族が合わせて約2割ほどいる。とは言えその多くは、商売人であったり冒険組合に所属している者であったりと、定住している者は少ないため、あまり一般的ではないらしい。
「まぁ村の方に関しては、たぶん体裁を守るためやお隣さんとのやり取りが目的だろうな。レビアって奴に関しては、たぶん国側がわざと早い段階で指名手配にしたんだろ。」
「?わざと?」
「あぁ。とは言え、ほとんど俺の予想でしかないし、お偉方がどんな目的でやったかなんて知らねぇけどな。」
そんなことを言ってルロイはガレアから視線を外し、比較的どうでも良さそうな雰囲気を出していた。ガレアにはその理由がよく分からなかったらしく、暫くルロイからの返事を期待しながら視線を向けていたが、ルロイにその先を話す気が無さそうなことを理解すると、自らも前方へ向き直り各部隊への連絡内容を整理し始めていた。
「...そういえば、あれってどうなってるんだろうな。」
「んだよ。黙ったと思ったら今度はお前からかよ。」
「悪ぃ悪ぃ。...いやな」
唐突に話し始めたルロイに対して、若干自身の思考の邪魔をされたことと先ほど急に話を終了させたことに憤慨していたガレアは、ルロイに向けて不満げな視線を向けていた。そんなガレアからの視線を受け申し訳なさそうに謝ったルロイは、今しがた思い出したのだろう、その先の内容を口にした。
「後十日ぐらい先に、なんかの演舞団体が広場で踊り?とかやみたいなんだけどさ、...あれって今この状況下で許可されてんのか?」
「あ?...あぁ、あれか。確か名前が..."ペルフィッシェン"とか言ったな。たぶんやるんじゃねぇの?今更延期...はないから最悪中止にするしかないけど、やったらやったで非難受けるのはレイモンド家も含めた俺ら全員だからな。そうそう切り捨てらんないだろうよ。」
「...まぁ、それもそうか。」
ルロイの問いかけに対して曖昧に答えたガレア。彼らが話しているのは、現在人間族の大陸にて非常に人気のあるダンスグループ自由な舞人のことであり、ここペリケージア大陸内にあるスローム王国には情報が入っても、生で見ることは出来ないのである。
しかし現在、ペルフィッシェンの一団体が来国しており、王都で演技を披露した後この街に来ることになっていたのだ。
ガレアからの返答を受けルロイは、何やら考える素振りを見せると、
「イズラさん自身、そんな人が集まるような催しを中止にしないあたり、あまり袋猿を警戒していないのかもな...。」
と呟いていた。その言葉を聞いたガレアは、「言われてみれば...。」と思い出すように言うと、
「確かに、それだけ人が集まる場所を袋猿が狙わないわけ無いもんな。いくら市民から非難を受けようとも、未然に対策を立てるくらいはしそうなもんだが...。」
と、先ほどのイズラとの会話から、そのてのは無しがなかったことに疑念を抱いていた。実際、先ほどの会話の中で袋猿に関する話は出てはいたのだが、イズラの様子から袋猿よりもレビアや寄生蜘蛛の話の方が多かったのである。
確かに袋猿による実質的被害は今のところ確認されておらず、あくまでどこから出てきたのか分からない噂でしかない。だからこそ、そこまで大々的な対策も立てられないというのが現状であり、イズラ自身も警戒はしつつ、それでも市民が待ち望んでいたイベントぐらいは開催しようと考えたのかもしれない。
「まぁ何か変更があればまた連絡が来るだろうし、それまでは放置で良いんじゃねぇの?もしかしたらそん時に会場警護とか任されるだろうしな。」
「確かに、それもあり得るか。んじゃ、この件は上司達に丸投げして、俺らは俺らの出来ることだけやりますかね。」
袋猿の噂に対しそこまで信じていない事も相まって、ルロイとガレアはそこまで気にすることなく話を切り上げた。それもそのはずで、彼らは一兵士にしかすぎず、疑念を抱いたからと言ってそれを行動に移せるほど、自分たちが周囲への影響力を持っていないと理解していたのだ。
だからというわけではないが、自分たちの上司の判断にわざわざ口を出すつもりもなければ、その疑問に対し何らかの対策を立てようという気は特にない今、彼らが何か行動を起こすことはなかった。
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ルロイとガレアが去って行った後、一人部屋に残っていたイズラはただ黙って椅子に座っていた。そう、書類仕事をするでもなく、ましてや何処かに出かけようという素振りすら見せずに、ただ黙って座っているのである。
そんなイズラを余所に、突然四角い箱状のものが点滅し少々高い音を発した。
"ピーッ、ピーッ、ピーッ"
「...」
イズラはそんな光を発した箱に視線を向けると、直ぐさまその箱を手に取り側面についた突起物を押した。すると現代で言うところの無線機のように、箱の上部から音が聞こえてきて、何やら話し声が聞こえてきた。
その音はおそらく人の声だと思うが、イズラにしか聞こえないほどの音量であるため全ては聞き取れない。
暫くその状態が続き、箱から聞こえてくる声が聞こえなくなったと同時に、今まで黙っていたイズラが口を開き、
「分かった。では十日後、確実に成功させろ。絶対に周囲には漏らすな。以上だ。」
と言ってスイッチから指を離し、会話は終了した。その後イズラは、今まで着ていた服の上から上着を羽織り、部屋から出ていった。
イズラが先ほど手にしていた箱は形状が似ているため、おそらくユウがセリアから貰った携帯送受箱と同様のものだろう。では先ほど、彼は誰からの電話を受け、またその電話の相手にどんなことを託したのだろうか。そして、彼がこれから向かう場所とは何処なのだろうか。
部下に伝えず内密に行っていたあたり、個人的にやっていることなのだろうが、少々怪しいことである事は事実なので......何も起こらなければ良いのだが...。(フラグ建築トントントン)
条約や条規に関しては、書いている内に色々と迷宮入りしていたので、何かご意見あれば遠慮無くお願いします。
※ここまでに至る話の中で魔具や魔具を作る名称に関する記述がございましたが、こちらの都合により、大幅に変更している部分がございます。詳しくはNo.12、15、23、27の一部が改変されています。




