No.044 ディランの屋敷と興味を持たれるユウ
ウィースへと入った一行であったが、通常の利用客はそのまま街へと向かい、ユウやその他の領主の屋敷へと向かう者達は、街の中を移動する専用の魔動車に乗り換え目的地へと向かうようである。
そんな中、ユウの所へと歩いてきた人物がいた。その人物は、今回ジルトの代わりに報告の任務を任されたドーマという騎士であり、彼はユウを一瞥するとグランの方を向き、
「では、アサヒ殿と......出来れば、グラン殿もご一緒に来て貰ってもよろしいですか?」
と言って、グランにも一緒に付いてくるよう頼み込んだのである。その理由として、グランもアリザやザルバと同じ飢餓狼の群れを最初に目撃した人物であり、状況の報告には必要であるとドーマが判断したからであった。
「ん?...あぁ、別に構いませんよ。俺としても、アリザや......たぶんそっちの奴は、ザルバですよね?」
「...ええ、その通りです...」
「なら、生き残った俺たち当事者が全員して説明した方がいいでしょう。その方が状況も分かりやすいし、何より俺だけのけ者って言うのは少し寂しいですしね」
そんなドーマからの申し出をグランは受け入れるとともに、そんなドーマのすぐ近くにいたフードで顔を隠していた人物がザルバであることを理解していた。
実はグラン、昨晩ユウに連れられてシルビアの下へと行くと、そこで今回の一件について聞き、その話の中でザルバがどんな立場にいたのかを知ることになったのだ。
そしてそんな話の流れからして、おそらくザルバも同行しているであろうことを察したグランは、このようにザルバのことを見破ったのだ。
そんなグランは、ザルバの方を向きながら苦笑いを浮かべ
「そういうわけだからさ。......ザルバもいい加減、顔くらい見せてくれよ...」
と、少し寂しげな声とともに頼み込んでいた。
グラン自身今回の件に自分は関わらず、解決するまでの間ずっと森の中で隠れていたことから、正直なところザルバとは顔を合わせづらいと感じていたのだ。......が、今はこうしてお互い無事に再会できたのだから、出来れば喜びを分かち合いたかった彼からすると、そんなことをザルバに言ったのであった。
実際こうして面と向かって話をするのは、あの気襲われた日以来であったりする。
そんなグランの言葉を聞いていたであろうザルバは、
「アハハハ......悪いけど、俺としては今ここでお前らと話すわけにはいかねぇんだ。
話すのは、俺の今後が決まってからにしてくれると助かる。......自分勝手だとは思うが、これが俺の中で決めたことなんだ...」
と言って、グランの申し出を断った。そんなザルバの表情はフードによって殆ど分からないが、僅かに見える口元から笑みを浮かべているように見えた......がそんな笑みも、彼の言葉が合わさることによって、随分と寂しい印象を与えてくる...。
ザルバの言葉を受けグランも 「まぁ、今すぐじゃなくてもいいけどな...」 と言うと、諦めたように肩を竦めそれ以上は何も言わなかった。そんなグランだが心の中では、今のザルバとはおそらく今までのように接するだけではダメだと理解しており、これからどうしていくか整理する必要があると思っているのだろう。
そんな二人に対し、
「安心してください、お二人とも。必ず僕が、ザルバさんの潔白を証明して見せますから!」
と言って、随分と張り切った様子の男がいた。その人物こそ、今回特別に同行することになった"旭ユウ"本人であり、若干ザルバの内面に憧れを抱いている奴である。
ユウがザルバに対して憧れを抱いていることなど、この場にいるメンツでは誰も知るわけがないので
「あ、あぁ~......その、ユウだった?......お前が助けてくれたってことは、俺自身感謝しても仕切れないくらいなんだが......何でお前は俺のことをそんなに思ってくれるんだ?
正直お前と会ったのなんて殆ど無いだろ...」
と、代表して...というよりも、一番疑問に思っているであろうザルバが聞いてきた。ザルバの中では、ユウという人物とは確か自身がセリアに告白して振られた、途轍もなく情けない場面でしか会っていないはずと思い出しているようだ。
まさにザルバの感が通りその場面のみなのだが......ユウとしては、その場面を見たからこそこんなことまでやっているのである。
ユウ個人としては、そんな理由できたと言ってしまった場合、この場にいる全員からおそらく呆れかえった目で見られると確信していたため...
「ア、アハハハ.....ま、まぁ、いいじゃないですか、別に。僕はザルバさんを助けたくて、ザルバさんはそれを唯々受け取るだけ。
ほら、誰も何も損をしないやり取りです!」
と、だいぶ不審な態度でユウは返したのだ。ユウとしても殆ど面識がないような相手から、こんな無償の助けを受けるなんて、普通ならばだいぶ不気味なことである理解しているつもりである。それでも自身の保身のためにもここは流して欲しかったユウは、そんなことしか言えなかったのである。
そんなユウの必死さが伝わったのかザルバは、
「......お前がそう言ってくれるなら、俺も甘んじて受けるが......これだけは言わせてくれ...」
と、ユウの言葉を飲み込むと共に、その先の言葉を言おうとして......ユウに止められた。
「ザルバさん、それは結果が満足のいくものであった場合だけです。もし上手くいかなければ、僕はその言葉を貰うわけにはいきません...どうか、もう少しだけ待っていてください...」
「......クククッ、それもそうだったな......んじゃ、期待してるぜ、ユウ?俺にちゃんと、お前に対する詫びくらい言わせてくれよ?」
ユウからの説得にザルバが今度は本来に意味での笑みを浮かべると、ドーマと共に魔動車へと乗り込んでいった。その背中にグランやアリザも
「おいおい、俺だってちゃんと話くらいできるんだからな?安心しとけ!」
「そ、そうです!私だって、ザルバが戻ってこれるように努力します!」
と声を掛けていた。まぁ、二人には飢餓狼の群れの実体くらいしか話せないとは思うが、それでもザルバを思う気持ちは掛けられた本人に響いたのか、片手を挙げると
「サンキュー、二人とも。俺だって、全部他人任せじゃなく、少しくらい自分のことくらい自分で弁明してみせるさ...」
と、これから待っているだろう取り調べに対する意気込みを込めた声を上げながら、そんな言葉を返したのだった。どうやらザルバ自身、先日のようなネガティブ思考がだいぶ改善しており、いくらか前向きな気持ちへと変わっている様子だ。
そんなやり取りを眺めていたユウは (流石ザルバさんだ...) と、再びザルバという漢に対し羨望の眼差しを向けている。
「あの...ユウ君って............男色なんですか?」
「......なんでやねん...」
ザルバの去って行く姿を見ていたユウに、そんなノンケからすると若干不本意な言葉を投げかけてきたのは...サーシャであった。
ユウはその言葉についつい出身以外の言葉で返してしまったが、瞬時にサーシャへ如何に自分がノーマルであるかを説くことになったのだが......長いししつこいので、割愛し結果のみ言うと...
「ユ、ユウ君!!こ、公衆の面前なんてこと言っているんですか!?」
「......ちゃうねん...」
といった具合に、若干言い過ぎたユウの自爆という終着点に落ち着いたのである。......まぁ、逆にこれくらい堂々としゃべれれば、これから行う弁明も滞りなく出来そうではあるが...。
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「こちらが現ウィースの領主、ディラン・リュート・レイモンド様のお屋敷でございます...」
「ありがとうございます、ジーク殿。では皆さん、行きますよ」
そう言って魔動車から降りたドーマは、ここまでの道のりを案内してきたご老人にお礼を言うと、同じ魔動車に乗っていたユウ・グラン・アリザ・ディスパー・ゼブ、そしてザルバの六人についてくるよう言葉を掛けた。
そんな六人は漸く到着したことを悟り、次々と魔動車から降りていく。
「あの、ドーマさん。随分と親しげですが、もしかして前にもあちらのご老人と面識はあったのですか?」
「ん?......ま、まぁ、昔だいぶ面倒を見て貰った人であるからな...当然だ」
降りてきたユウからそんな風に聞かれたドーマは、若干言い淀んだ気がしつつも大雑把に理由を教えた。何故ユウがそんなことを聞いたかというと、そのジークという人物とドーマが今まで乗ってきた魔動車の中で、随分と親しげ印象を受けたからである。
それだけならば特におかしな点はないのだが、ジークは領主であるディランの執事であり、よくよく考えればミミ村での防衛を行っているドーマとの接点が殆ど無いことが分かるのだ。
だがそれも、ドーマが話してくれたように『昔世話になった』と言うことならばユウも納得したのか、それ以上はなにも聞くことはなかった。
さてそんなこんなで、漸く目的の場所である屋敷へと着いた一行は、早速屋敷の玄関を開けて中へと入っていく。
「お、おぉ~......やっぱり領主の屋敷となると、外観だけじゃなくて内装もレベル高ぇな...」
「そ、そうですね...あっ、あそこにあるのって!」
そんな風に驚いていたのはグランとアリザであった。それもそのはず。彼ら二人は言うなれば普通の一般市民であり、こうした機会が無ければわざわざ屋敷へと入る理由も許可も無いのである。よって、そんな風に驚く二人の反応は当然の結果と言えるだろう。
そんな中冒険者の中では一番年上であるディスパーは、「...確かに凄いな...」と、だいぶ声を抑えた感じで感想を述べるのみであり、ザルバに至っては特に何も言葉にしていない様子だ。それでも内心、
(こ、こんな所初めて入ったが......き、緊張してきたーーーーー!!)
と、若干今後に控えている出来事と合わさって、だいぶ平常心から遠い状況であったのは言うまでもないことであった...。
ちなみにドーマ以外の騎士であるゼブはというと、
「ちょ、ドーマさん!す、凄いですよ!ほら、あそこ。あんなの普通飾りますか!?あっ、あそこも!」
「......お前、ちょっと黙ってろ...」
「え?なんでs"ゴキッ"......」
といった感じに若干はしゃぎ具合が酷すぎたため、先輩であるドーマに気絶させられていた。...まぁ、"なにで" とは言わないでおこう...。
そんな光景を見ていたユウは、(......うん、黙っとこう) と、よく話したこともないゼブのお陰で自身も同じ目に遭うことを回避でき、内心感謝していた...。
(しかし、本当に豪華な作りだよなぁ......まさか現実に大理石で埋め尽くされた床を歩くことになるなんてな...)
周囲を改めて見渡したユウは、そんな感想を心の中で抱いていた。ユウの言うように床、と言うよりも壁も含めたほぼ全てが大理石で出来ており、見事な光沢を放っているのだ。それは、十分に手入れが行き届いている現れであり、その光沢を放つ原因出る光は天井に吊されている、一見アートと見間違えてしまうほどの美しさを持つシャンデリアから発せられている。
そして極めつけは...
「では、皆様用にご用意させていただきましたお部屋がございますので、そちらへとご案内させていただきます......こちらです」
と言って、恭しく頭を下げてきた女性の格好である。その姿はまさに、 『メイド』 であった。それも、よくメイド喫茶などで見かけるミニスカタイプではなく、しっかりと足下付近までありそうな機能性重視のメイド服である。
そしてなにより、メイド服を着ているのがそこそこお年を召されたご婦人ではなく...
(う、美しい.........って!いやいやいや!?なに考えてんだ俺!)
と言う若干テンパり気味なユウの思考通り、目の前にいるメイドさんはユウと殆ど年が変わらない少女でありながら、所謂綺麗系の美少女であったのだ。
今までユウが接してきた女性の殆どが、容姿もしくは性格がかわいい系であったのだが、目の前のメイドさんは立ち振る舞いからして"キリリッ!"とした印象を放ち、ユウの心を一瞬奪ってしまったのである。
そんな風に見とれているユウに対しそのメイドさんは、一瞬何故見られているのか分からないように首を傾げるのだが、すぐさまその表情を和らげ
「いかがされました、お客様?」
と言って、ユウに笑顔を向けてきた。
そんなことをされれば、純情系男子であるユウは
「い、いえ!!にゃ、にゃんでもありましぇん!!」
と、随分テンパってしまった様子で、そのメイドさんや、周りにいたメンバーから温かい視線を向けられるのだった...。そのことに暫く経ってから気づいたユウは、その顔を俯かせ、当分の間上げることが出来ないようで、かなり心に羞恥という傷を負ったのだったが......まぁ、そのことはどうでもいいだろう。
そんなユウを余所にメイドさんは一行を部屋へと案内しするため、「では...」 と言うと先頭に立ち奥へと進んでいく。
ちなみにこの屋敷は土足で構わない作りのようで、特に別の履き物に履き替えると言った動作は必要なく、各々メイドさんの後に続く形で歩いて行く。
「ほら、ユウ。いつまでも落ち込んでないでさっさと行くぞ。確かに綺麗な女の子からの言葉に対してあんな返しをしたんじゃ無理もないが、元気を出せよ」
「グ、グランさん......はっ!!だ、大丈夫ですって!あのくらいで落ち込むわけ無いじゃ無いですか!へ、平気...です......たぶん...」
先ほどのことを引きずっているユウに対しグランはそう言うが、ユウはそんな気遣いを受けるほど今の自分は情けないのではないかと考えたようで、若干無理がある空元気を見せていた。
そんな様子のユウに (サーシャ相手にもこんな調子だったし......こいつ、確実に童貞だな...) と、グランが密かに思っていたのは誰も知るところではない。
そんなことを思っているグランだったが...
「グラン......今あのメイドさんのこと『綺麗』とか言ってましたよね?......どういう意味か、後ほど『く・わ・し・く』教えて貰いますからね?」
「......ウッス...」
といった具合に、グランの発言に対し若干不機嫌モードのアリザからそんなことを言われた結果、彼自身もユウと同じく俯いた様子である......理由は全く違うが...。
さて、そんなやり取りをしつつ一行は、メイドさんが案内してくれた部屋へとやって来た。どうやらまだ王都からの調査団は到着していないらしく、もう暫く余裕があるようだ。
よって、この部屋にて時間が来るまでの間休む手筈となったおり、ユウは内心安堵していた。
そしてユウたち一行が部屋へと入ると、
「ん?どちらさん?」
と言って、ソファーらしきモノに寝転がりながら口にはビスケットらしきお菓子、両手には絵が描かれた分厚い冊子を持ち、言うなれば『休日の一時』をそのまま切り取ってきたような状態で、一人の人物が絶賛くつろぎ中であったのだ。
その様子を"ポカ~ン"といった感じで眺めている一行の代わりに、
「申し訳ございません、ネイサン様。実はこちらのお部屋は、先日ミミ村で起こった事件に関する報告をするため、本日お越しになった皆様のための待機部屋となっているのです。別のお部屋の方をご用意いたしますので、どうかご理解ください...」
と、随分申し訳なさそうに頭を下げて頼み込んだのは、ここまで案内してきたメイドさんだった。ユウが(何でそこまでするんだろう?)と考えていると、そのネイサンと呼ばれた人物は徐に起き出すと、
「ああ、そうだったんだ。ゴメンゴメン......て言うか、リーリエちゃんもそんなに畏まらなくていいから。僕と君とじゃそんなに年齢離れた無いでしょ?
大丈夫だよ。ちゃんと出て行くからさ」
とそのメイドさん(改めリーリエ)に言うと、すぐさま部屋から出ていこうとして......ユウの目の前で止まった。
ユウはネイサンのそんな行動の意味が一切理解できなかったが、何故か目の前にいる人物から向けられる視線から、自身の目をそらすことが出来ず、暫くな間見つめ合う形となった。
そんな状態が数分続いたと思ったら、ネイサンが
「...ねぇ、リーリエちゃん?」
と、リーリエの方に向き直ると、彼女の名前を呼んだ。
呼ばれた方のリーリエは、ユウとネイサンが見つめ合っている様子を若干上気した顔を見ていたようだが、自分が呼ばれたことに気づくと、すぐさま顔を元の"キリリッ!"としたものに戻していた。
「コホン......何でしょうか、ネイサン様?」
「うん、実はさ。この少年とちょっとだけ勝負してみたいんだけど、いいよね?」
問いかけてきたネイサンに対しリーリエが聞き返すと、ネイサンはユウのことを指さしてそんなことを言ってきたのだ。
瞬間指さされたユウとしては、一瞬の思考停止の末
「へ?」
という、当然だがあまりにもリアクションとしてイマイチな反応を返していたのだった。まぁ、いきなりそんなことを初対面の人間から言われれば、当たり前と言えば当たり前の反応ではあるのだが......まぁ、そのことは置いておくとして...
「いえ、その方も今回の報告に参加されるお人ですし、何より王都から来られる方々もこちらの方に興味を示されているので、少々難しいかと...」
「あっそ......まぁ、今じゃなくてもいいんだけどね。そんじゃ、終ったら報告して。それでは皆さん、失礼しました~」
リーリエからそう言われたネイサンは、特に残念がる様子もないままその場を後にした。その様子を見ていた一行は、暫く誰もなにも言動を起こさなかったのだが...
「あ、あの、ドーマ副隊長?もしかしてあの青年って...」
「...あぁ、おそらくスロームの国認魔導士の一人、ネイサン・カトラー本人だろう...」
と、前者がゼブ、後者がドーマと、若干信じられないものを見たように話す二人を皮切りに、
「ネ、ネイサンって、確か僅か二十歳で国認魔導士になったっていう、天才魔導士だよな...」
「す、凄いです......こんな間近で見たの初めてです...」
と言ったのはグランとアリザの二人である。そんな四人の様子を、よく状況が理解できないでいるユウに対し、残っていたザルバ...ではなく、ディスパーが簡単に説明してくれたようだ。
「彼は、ネイサン・カトラーという国認魔導士の一人だ。年齢は二十五歳とかなり若いが、その力は歴代の魔導士の中において、あまりにも年齢と力が釣り合っていないと言われるほど桁外れらしい。
実際このウィースは、相当な規模があるにも関わらず、あのネイサン一人しか魔導士がいないからな...」
「な、なるほど...」
突然話しかけてきたディスパーの声に若干ビビりながらも、ユウは先ほどの人物が如何に有名かつ実力者なのかを理解したのだった。同時に、先ほどネイサンが言っていた内容を思い出し
(何であの人、俺なんかと勝負しようとしたのかな?)
と、若干脳内が混乱状態に陥っていた。
さてそんな一行であったが、暫く傍観に徹していたリーリエから 「では皆様、暫くの間こちらでおくつろぎください...」 と言う言葉が発せられると同時に、各々部屋に置いてあるソファーへと座っていく。
だが当然として、先ほどの話題が治まるわけがなく...
「それで?ユウ、何でお前が国認魔導士なんかから勝負を挑まれてんだ?」
「もしかして、お知り合いとかですか?」
「俺も、それは気になるな...」
と言う何人かからの質問を受ける羽目になり、ユウとしても原因が分からないこの事態に若干パニックになったいたのだが.....それも、暫くして
「すまない、失礼する」
という声とともに、ノックも無しに入ってきた人物によって中断された。
その人物とは、
「!お、お久しぶりでございます、ディラン様!」
「おぉ、こちらに来たのはドーマだったか。ジルトはどうした?」
「はっ!ジルトの方は流石に村の護衛として必要と本人が判断したため、私がこちらに赴く形を取らせて頂きました」
というやり取りから、その男がこのウィースの領主である"ディラン・リュート・レイモンド"であることが分かる。
その様子を見ていたユウは、ドーマが随分と慌てて経緯を答えており、いくらか緊張しているように見えたのだが、それもすぐに終りディランがユウの方を向いて、
「なるほどな......それで、そちらの少年がユウ・アサヒで間違いないのか?」
と、ユウ本人に問いかけてきた。ユウはディランが領主であることを考え、絶対に無礼な態度は見せてはいけないと思い、すぐさまソファーから立ち上がり気をつけの姿勢を取ると、大学入試の面接のように
「は、はい!私が、ユウ・アサヒです。え、えっと....ほ、本日はお日柄も良く、ディラン様に至っては益々の...」
と、前半は定型文通りで、後半はおそらく日本語そのものからおかしな感じに答えており、半周回って失礼な挨拶になってしまっていた。
そんなユウを見ていたディランの表情は随分と厳しかったが、ユウが悲壮感にまみれた顔をすると
「....クックック......お前、随分と面白いな」
と言って、笑いを堪えるポーズを取り、ユウのことを褒めて(?)いた。その様子を見たユウは、内心
(やり直したい......もう、ウィースに入る前から色々リセットしたい...)
と、今までの失態を含め、非常に憂鬱状態になっていたのだが......まぁ、基本脳天気なユウならばその内忘れるので、特に気にしないでおこう。
『王都から調査団が到着するまで時間、後二時間』
若干最後詰め込んだ感はありますが、どうかご了承ください...。




