No.043 ユウの器用さとフードの秘密
「...こんな感じですか?」
「いや、もう少し呼吸方法を一定にさせた方がいいな。今は若干不規則だから、もうちょい自分でリズムを取れればいい具合になると思うぞ?」
ユウからのそんな問いかけに、聞かれた側のグランはそう答えた。
現在ユウの乗る定期便は一夜明け、ウィースへと続く街道を進んでおりそんな車内でユウは、昨夜出会ったグランから名称の"隠者"の獲得法を学んでいるのだ。だがそれも、基本器用なユウにとっては徐々に獲得しつつあるようで、それを教えているグラン自身も感じており、若干表情が引きつりそうではあったが...。
さてそんなグランであるが、どうして彼がユウに同行しているのかというと、ある理由が存在する。
まず、飢餓狼の群れによる直接的な被害者であること。
次に、グラン自身ウィース在住であり、丁度いいから同行して帰ろうと思ったこと。
最後に...
「しかし、グランさんがアリザさんと、その......恋仲だったなんて、驚きました...」
「ん?...ハハハ、まぁ、な?正直もう二度と会えないと思っていたから、ユウが連れ戻してくれてマジで感謝してるんだぞ?」
と言うやり取りから、グランがアリザと恋人同士であることが理由であった。実際昨晩も、グランが無事であったことを関係者全員に伝える際、一番泣いて一番喜んでいたのがそのアリザであったのだ。
その様子をユウも含めた全員が温かく見つめていると、その視線に気づいたアリザはその顔を俯かせて恥じらっていたが、グランが
『心配させて悪かったな......おいで...』
と言って自身の両手を拡げると、アリザはその腕の中へと飛び込み何度も自身の頭をグランの胸に擦りつけ、「よかった......本当に......よかったです...」 と言いながら、暫くそうしていたのだ。
そんな光景を見てユウを含めた全員は内心、「(か、可愛い(です)...)」 と思ってしまい、その場ではグラン以外が顔を赤く染めるという、凄まじくほんわかな空間が完成していた...。
「アハハハ......まぁ、あんなやり取り見せてもらったので、十分ですよ。正直見ていて、こっちも何だか嬉しくなりましたしね...」
「そうですよ。...ホントに、良かったですね...」
昨夜の様子を思い出しながらユウがそう言うと、当然の如くユウの隣に座っているサーシャが話に混ざってきた。どうやらサーシャも、グランとアリザの仲睦まじさを見て心がほんわかした内の一人のようで、その表情は心の底から二人の再会を喜んでいることが分かる。
そんな二人からの言葉に、グランと先頭の魔動車から移させて貰いグランの隣で静かに座っていたアリザは、
「うっ......そう言われると、嬉しいより恥ずかしさの方が勝るな...」
「は、恥ずかしいですぅ...」
と、グランは頬をかきながら若干恥ずかしそうに、アリザはというと......既に沸騰しそうなくらい顔を上気させているのが、例えそれが俯いている状態だとしてもはっきり分かるほど、恥じらっているのが分かった。
そんなアリザを見てユウとサーシャは、お互いの顔を見合わせ、『ホントに良かったね...』 という顔をして頷いている。流石にアリザやグランはユウよりも四つ上であるからして、ユウとしては「『可愛い』とかは、思っていても口には出さないでおこう...」決めているようで、必死に堪えていた...。
ちなみにサーシャの歳は、本人曰く「今年で十九ですね」だそうで、ユウとしては年上でなくてよかったと内心安堵していたが.......まぁその話は置いておいて...。
「...今度はどうですか、グランさん?」
「ん?......おおっ、そんな感じだな。正直呼吸法しかまともに教えていなかったのに、ここまで周囲と同化するなんて随分とセンスいいな...。もしかして、魔法を行使する系の名称でも持ってるのか?」
ユウがグランに自身の状態を確認して貰うと、グランはだいぶ驚いた声を上げながらも上出来であるという旨を伝えた。そんなユウが何故ここまで易々と隠者を取得したのかというと、グランが話の最後で聞いてきたことが関係している。
実は、狙撃手や剣士といった『武器』を扱う名称ならともかく、隠者や拳士のような己の魔力が大半を占めるような名称や称号は、基本として魔力操作がどれだけできるかで決まってくるのだ。それはものに頼らない名称ならではであるし、武器に比べていくらでも伸ばすことが可能であるとも言える。
よって、あの空間でリーズやジョンから魔力操作に関して徹底的にたたき込まれたユウとしては、本来の器用さと相まって、こんな
「ア、アハハハ......まぁ、そんな所ですかね...」
と誤魔化しながらも、内心やり過ぎたかもしれないと本人が思うほどに、魔力の扱いがずば抜けて高くなっていたのだ。そんなユウの返答に 「ふ~ん、そっか...」 と軽い感じでグランは納得しつつ、ユウのことを高く評価していた。
本来ならばユウのセンスに若干嫉妬心を抱く者も居ることが考えられたが、グランはそうではなくしっかりと相手の能力を受け入れ、確実な判断と考察が出来ている。そんな所からも彼の人間性が垣間見え、おそらくそんなグランだからこそアリザのような、自分のことを泣くほど心配してくれるような女性に好かれるのであろう。
さてそんなやり取りをしている中、今まで鱗駝鳥に乗りながら魔動車と併走していたベイジが、
「おい、そろそろウィースに着くぞ。
街の入り口に着いたら血表示板の提示があるから、今のうち準備しておいた方がいいぞ?」
と話しかけてきた。そんなベイジの言葉にユウは頷きつつ、開きっぱなしの窓から外の景色を眺めると、昨日の雨が嘘のような快晴と呼べる天気の下、周囲に広がる田園地帯にはまばらに家屋が存在するだけであった。
だがそんなのどかな風景の先に、そんな家屋とは建築方法からして違いがはっきりと分かる建物がいくつも連なり、まさに中世のヨーロッパを醸し出す、そんな外観が見えてきたのだ。
「あれが、ウィース...」
「へぇ~、初めて見ましたけど、建築様式は魔人族領と殆ど同じにしてるんですね...」
ユウがそう呟くと、それに重なる形でユウの隣に居たサーシャがそう言葉を漏らした。
本来人間族・魔人族・獣人族・亜人族と、各種族で建物の構造や町並みが違ってくるのだが、この大陸はほぼ全土が魔人族領であることや、景観の統一を重んじる魔人族の考え方から、このように人間族の国だとしても魔人族と同じような町並みにすることが取り決められているのだ。
この内容は、『イリスの歴史』と言う本に書かれていたのだが、ユウは完璧に頭から抜け落ちていたので、ここで補足しておく......。
「そうだ、ユウ君。名称の方ですけど、目的のものは取得できましたか?」
「ん?...そういえば、準備するついでだし丁度いいかな...」
未だに遠くに見えるウィースの外観を眺めていたユウだったが、サーシャからそんなことを言われ、思い出したかのように自身の血表示板を取り出すと、そこに名称を使う際の自身の魔力を注ぎ込む。そんなユウの血表示板は赤い魔力を纏うと、裏に表示される内容が若干一部変わっていたのだ。
その内容は、
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『職業及び名称・称号のランク』
《職業》
冒険者:ランク1
《名称・称号》
武闘家:ランク3 / 探索者:ランク2
(忘却者:ランク4 / 飛翔者:ランク2 / 魔術士:ランク4 / 魔具所有者:ランク3 / 精霊士:ランク1 / 耐え忍ぶ者:ランク3 / 弩使い:ランク2 / 隠者:ランク1)
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と言うように、若干上がったものや新たに増えたものが様々であった。その内容を見ていたユウは内心 (思った以上に、俺も規格外なのかも...) と、今更なことを考えていた。
そんな自身の成長に少しばかり感慨深くなっているユウを余所に、魔動車はウィースへと向かっていく。もうじき到着の時間である。
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「?あれ?......グランさん、あの行列、三つにも分かれてますけど、なにが違うんですか?」
「ん?...あぁ、あれはな、一番右が個人だったり職業や身分がごちゃ混ぜになっているところで、一番左が俺たちの乗っているような団体や商人の乗ってくる貨物車が並ぶところ。
そんで、真ん中が...」
現在ウィースの街の入り口にさしかかったユウの乗る魔動車から、そんな入り口に並んでいる行列が目に映った。その行列に関してユウが近くにいたグランに聞くと、彼が言ったように、右はそれこそ風貌から果てには種族までばらばらな人が行列を作っており、左では多くの魔動車や馬車のように何体かの生き物に引かせている乗り物が待機していた。
そしてグランが言葉を句切った真ん中には行列などなく、入り口付近に作りが見事な魔動車が二、三台あるのみで、明らかに両側の人々を受け入れられるほど空いているのだ。ならばそこで代わりに受け入れを行えば良いのではないかという考えが浮かぶが、そうもいかない理由が存在する。
その理由とは...
「あそこは貴族や国認級の人間しか通れない、好待遇の通路だ。だから俺たちにみたいに、こうして定期便に乗れているやつはまだ良い方で、そうじゃない奴らはあのクソ長い行列に並ばなきゃならんのだ...」
「なるほど...そういうわけなんですね...」
そんなグランからの説明をユウが受けている間にも、車は左方向へと逸れて行き、乗り物の行列の最後尾に到着し停止した。それから暫く待っていると(ユウの体感的には一時間ほど)、徐々に前の方で並んでいた待機車両が少なくなっていき、同時に前方から兵士らしき人物が三人ほど、各車両に乗り込んで確認作業を行っている。
おそらく、何か危険物や危険人物などの異常がないか調べるためらしく、その三人がユウの乗る車両を引く前方の魔動車から出てくると、ユウたちの方へと歩いてきて、
「それではこれから街に入る際の審査を行いますので、血表示板をお持ちの方はこちらの魔具にスキャンをお願いします。
お持ちでない方は、後ほど入り口付近で発行致しますので、この場で申告してください」
と、三人の内一番真面目そうな人物がそう言った。
先ほどベイジに促されたユウは既に自身の血表示板を手に握っていたので問題はなかったが、隣にいたサーシャに兵士の一人が、
「あ、...すみませんお客さん。出来れば被っているフードを取って、確認できるようにして貰っても良いですか?」
と言って、申し訳なさそうに頼んできたのだ。
実はサーシャ、今の今までフードを被っており、宿にいるときも誰かが近くにいるところでは外していなかった。入浴時も、誰に気づかれることもなくいつの間にか上がっていたらしく、顔は見えてもその全体像はよく分かっていないのである。
ユウとしても、何か理由があってフードを被っているものだと思い、特に触れないままきていたのだ。よって、先ほど兵士からフードを取るように言われたサーシャを横目に、ユウは内心だいぶ心配していたのだった。
そんなユウの心配は、
「へ?.....別に良いですけど...」
と、若干ノリ気ではないサーシャの言葉と共に、彼女が何の躊躇いもなく外されたフードを見て、どこかに消え去っていた。
サーシャが外したフードの中から見えてきたのは、ユウの瞳のような漆黒のような色の髪で、長さは肩よりも若干長めである。黒い髪というのは見た目だと少しばかり重そうな雰囲気があるが、サーシャの髪は何処か明るいイメージを感じさせている。
きっとそれはサーシャのたまに見せる、ころころと変わっていく表情が関係しているのだろう。
兵士がそれを見て、「はい、ちゃんと血表示板通りに人間族の方ですね」と言って離れていくと、ユウはサーシャに問いかけた。
「サ、サーシャ?もしかして、フード被ってた意味って特にないの?」
「?いえいえ、ちゃんと意味はありますよ?」
ユウからの問いかけに一瞬惚けたサーシャであったが、すぐに言葉を理解しフードを被っていた理由をユウに打ち明けた。
まぁその理由とは簡単なのだが......サーシャ曰く、日の光にあまり髪を晒さないようにフードを被り続けていたら、いつの間にかそれが癖になってしまい、常に何かで頭を覆っていないと落ち着かないとのことである。
ちなみに入浴の件は、単にサーシャがのぼせやすい体質だからであるが、その事情はユウの知るところではないので今はいいだろう。
「なるほどね......いや、ゴメンね。いつ見てもフードを被っている姿しか見たことがなかったから、てっきり深い事情でもあるもんだと...」
「ムッ...ユウ君?女の子の髪の毛事情は、十分に重要なことですよ。こういうことは、常日頃気をつけて生活する方が当たり前ですからね?」
ユウから若干無神経なことを言われたサーシャは、その顔の両端に付いている頬を可愛らしく膨らませて、不機嫌さを表している。まぁ髪の毛や服装など、そんな外面を誰よりもどうでもいいと思っているユウからすると、そんなサーシャの言っていることがよく理解できないようだが、
「ア、アハハハ.....ゴメンね、サーシャ。もう少し言い方に気をつけるべきだったよ...」
と、分かりやすい表情を見せてきたサーシャのお陰で、先ほどのような無神経な言葉を再度漏らさずに済んだユウは、しっかり反省した様子である。
そんなユウを見て 「まぁ、別にいいですけど...」 と言って、自分の髪の毛をいじり始めたサーシャは、まだ不機嫌モードであった。
そんなサーシャを見てユウは、どうにか気をよくして貰いたい一心で
「で、でも!そんなサーシャの日頃の頑張りで、こうして綺麗な黒髪になれてるんだもんね?それは素直に凄いと思うよ。......うん、なんだか清楚っぽくてお嬢様みたいだよね、サーシャって」
と、前半は素直な感想で、後半は今までのサーシャから受けた印象と、今の黒髪で静かな感じでギャップを感じ、若干テンパった末の言葉であった。
ユウ自身 (最後のは余計だったか...?) と考えていたが、言われた本人はというと
「エ、エヘヘヘェ~~~......そ、それほどでもないですよぅ...。ま、まぁ、そう言って貰えるのなら、素直に受け取っておきましょうか...」
と言いながら、今までいじけた感じで触っていた自身の髪を、人差し指で"クルクル~"といった感じに回し始めている。その姿からは、サーシャ自身随分とご機嫌な状態に戻っていることが見受けられ、ユウとしても内心ホッとしていた。
「フフフッ......随分と仲がいいんですね、お二人は」
「!もちろんd「へ?」......え?」
そんなユウとサーシャのやり取りを、グランの隣に座っていたアリザは微笑ましく思い、二人に対しそんな言葉を掛ける。そんな言葉にサーシャは、一瞬びっくりしながらもその言葉に同意しようとしたのだが......ユウからの疑問を含んだ声に若干表情を固めると、
「ちょっと、ユウ君?それはどういう事ですか...」
と、今度は所謂『ジト目』によって不機嫌さを表してきて、再びふくれっ面になってしまった。そんなサーシャにユウは、
「い、いやね!?サーシャみたいに可愛い子と、こんなにも早く仲良くなれたことがあまり無くてさ!それで一瞬、アリザさんの言葉に驚いちゃったんだよ。本当にそんな風に見えてるのかな、って...」
と弁明していた。ユウとしては、リーズやセリア(リンは例外として)といった、この世界でここまで女の子と触れ合う機会が来るとは思わなかった上、今度はそこまで接点がなかったサーシャと、こんなにも話すようになったことに少しばかり戸惑いがあったのだ。
確かにサーシャから敬語は無しという許しは貰っていたが、まさかこんな短期間でそんな風に見られるほど関係が進んでいたことに、僅かな驚きが生まれているということも関係しているのだった。
よってユウは先ほどのように、一瞬だとしてもその言葉の意味が理解できなかったのである。
「で、でも......俺としては、そんな風に見られるくらいにサーシャと仲良くなれて嬉しいし、今後も俺なんかでよければ仲良くして欲しいな...」
「......はい!もちろんです!寧ろ私からもお願いしたいくらいですし...」
若干恋愛ボケが激しいユウだが、自身の顔を若干赤らめながらそんなことを言うと、言われたサーシャはユウのその反応を素直に喜びつつ、随分と満面な笑顔を見せながらそう返した。
そんな二人の様子を見ながら、
「へぇ~、ほんの数日前にあったばかりなのに、随分と接近したなお前ら」
「なるほど。ユウの好みは胸の大きい敬語の子か...」
「ちょ、ちょっと、グラン!何でそんなこと言ってんの!ご、ごめんなさい、サーシャちゃん!」
と、ユウたちよりも年上である三人の冒険者達が、それぞれの反応を見せていた。そんな言葉を受けて、内心羞恥心でいっぱいのユウは、(早くこの場所から抜け出したい...) と切に願っていたのは......誰も知るわけがないことである...。
さてそんなユウたちを乗せた車も、漸くウィースへと入ることが出来るようで、ユウは様々な感情の渦をその胸に抱えながらも、これから経験するであろう新たな冒険への入り口をくぐっていくであった。
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(どうにか誤魔化せましたか......ハァ、一応固有の能力のお陰で街への侵入はバレる心配がなかったですし、ユウ君からの質問にも無難に返せましたが......正直、こういうのは慣れないものですね...。
まぁ、そんなユウ君とはある程度信頼関係が結べているようですし、今回の件も良い方向に働いたと思って良しとしておきましょう......待っていてね、ミュウ...)
次話でウィースに入ります。




