No.042 森での遭遇と日を跨がぬ再会
「......よしっ」
そんな声が漏れると共に、ユウが手に持つボウガンから発射されたぶっとい針(材質は石)は、少しばかり離れた位置にいた飢餓狼の頭に突き刺さった。だがその一撃のみでは当然として倒れてくれる相手ではないので、今度は針に魔法を発動させ属性を纏ったものへと変え、同じように攻撃をする。
ちなみに言うと、その属性はユウの得意魔法である火の中でも、爆破であったりする...。
"バンッ!"
「...やっぱり、名称を得ると照準とか射程距離とかが向上するんだな...」
〈そうですね......それよりも、想像以上に名称を得るのが早いんですね、主って...〉
繰り出した攻撃により頭が爆散した飢餓狼をユウは確認し、その攻撃から自身が新たに得た名称"弩使い"の力に感心していると、ユウの脳内にリンがそう話しかけてきた。
リンがそう言うのも無理がなく、本来であれば名称の取得というのはそれほど簡単なことではない。
その点ユウは、日本にいたときから基本なんでも初見で真似が出来るほど器用であったことが幸いし、こうして常人よりも早い段階で名称を得ることが出来ている。
その代わりなのか、それらの技術を発達させるとなると常人の何倍もの時間がかかるので、スポーツに例えると "出来るけど、上手くない" というまさに残念な器用貧乏であると言えるのだ...。
とまぁそんなこともあって、ユウは大体のことはそつなくこなせる。加えて感覚派なこともあり、こうした身体を使う物事は覚えやすいのだ......が、逆に頭を使うことは極力嫌がるという難ありな性格であった。
結果、未だに魔法の中でも構造や構成、現象発動の原理を理解することが要求される一部の属性の魔法は今でも苦手で、現在においても名称が魔術士のままなのだ...。
「それにしても、俺自身こんなに早く名称を取得出来るとは思わなかったな......まだ、使い始めて数時間しか経ってないはずなんだが...」
〈まぁ、主のセンスがいいからではないですか?流石、主です♪〉
そんなやり取りをしているユウとリンは、再びクルスの森を徘徊していた。そういうのも、先ほど『停止』の能力によって思念界に行っていたところから、再びイリスへと戻ってきた後、今のように名称の取得及び進化に向けて戦闘を繰り返しているのだ。
ちなみに言うと、思念界から戻ってきた際に、ユウの身体の魔力がほぼほぼ枯渇状態であったことは、本人からして洒落じゃ済まないくらいに危険な出来事であった...。(←※時空を止めている間は、常に魔力を流しっぱなしにしている状態のため、放置は非常に危険です)
そんなわけで、ユウはイリスに戻ってきた際に、すぐさま魔力を回復する用の食べ物によって魔力回復に努めている。その食べ物とは、旅立つ前にリーズから渡された
「にしても、この飴(?)を舐めてるとホントに魔力がどんどん回復してる感じがするな......名前忘れたけど...」
〈まぁ、形的にチュッパチャプスみたいなモノですし、名前もそれでいいんじゃないですか?〉
......といった具合に、ユウもリンもその飴のようなものの正式名称を忘れていた。
ユウの代わりに説明すると......この飴の名前は"チューカ"と呼ばれる魔力限定の回復アイテムで、本来かみ砕いて飲み込む必要があるほど、"渋い" と言うのがこの世界では一般的だ。
だが現在ユウの舐めている飴は、リーズが改良し味的に言うとまさにイチゴ味となり、ユウ自身美味しそうに舐めながら、徐々に魔力を回復しているのだった。
そうは言っても、基本周囲の魔気を取り込めばいいのだが、それでは時間がかかるのでこうした措置を執っているようだ。
とまぁそのことは今は置いておいて......ユウは今しがた倒した飢餓狼の下へと近づくと、胴体を左手で、頭が吹き飛んだため代わりに首あたりを右手で掴む。
そして、徐にそれぞれの部位を逆方向に引っ張ッたと思ったら......まぁ、端的に言うと "引き裂いた" のだった...。
「流石に、解体とか採取の仕方くらい教わった方がいいかもな......これはいくらなんでも残酷すぎるか...」
〈主...ワイルドです...!〉
ユウがこうやったことにはちゃんと理由がある。前提として魔核を取ることが目的なのだが、実を言うとユウは生き物の解体方法を知らないため、こうして力業による採取法を取らざるを得ないのだった。
リンからしたらその行動が格好良く見えているようなのだが、ユウ本人としては非常に情けないと考えたようで、一刻も早く生き物の解体方法を学ぼうと決意した様子である...。
それでも今のユウには、ベイジから聞いたように魔核を取りだした死体に対し腐敗魔法をかけ、それを土へと還していくことが現状のベストであった。
徐々に腐り始める肉体を見つめながらユウは、
「それじゃあ、もう1時間くらいしたら帰るか」
と声に出すと、暗い森の中を歩き始め
"グニッ"
......たのだが......そんな歩みも、突如としてユウの足裏に現れた違和感によって止まることになる。
そんな音から連想できる違和感とは、
「......明らかに他の地面と固さが違うんだが...。これって、仕掛地面...ではないよな?」
というユウの言葉からして、仕掛地面という魔物を連想したようだがどうやら違うことにユウも気づいたようである。ではなんなのか?ということになるのだが、ユウが地面を凝視すると...
「う、うわあぁああ$#ふ&じ%にゅ#=!?」
〈ど、どうしたんですか、主!?〉
と言った具合に、地面を見たユウが叫び声を上げ、それに驚いたリンが動揺するという事態に陥っていた。
何故そんな事態になったかというと、ユウの踏みつけた地面に、まるで人の顔のようなものが浮き出ていて、不気味であったからだ...。
ユウ目線からすると、足下に人の顔が生えているという錯覚を覚えるような恐怖であったため、先ほどのような叫び声を上げざるを得なかった......はっきり言って、気味が悪いのだろう...。
そんなユウとリンであったが、その顔が目を瞑りまるで寝ているように見えたため、干渉しないようにゆっくりとその場を離れることにしたようだ。
だがその行為も虚しく...
「......おい、お前人間族か?」
「(...何でだよ...)......そうですけど?」
「おぉーーー!!それは良かった!!悪いが、助けてくれ!」
と、話しかけてきた顔は、ユウの種族が人間族である事が分かると助けを求めてきた。ユウとしては、できる限りこんな不気味な存在と関わり合いになりたくはなかったのだが、取りあえずは事情を聞くことにしたのか、その顔に問いかけた。
「助ける前に......あなたはなんですか?新種の魔物?」
「いやいやいや!!違うから!俺も同じ人間族だって.....って、流石にこんな状態じゃ信用できねぇか...」
ユウの問いかけに慌ただしく自身は人間族だと答える顔は、今の自分の状態を見返して "そういえば..." といった感じに納得すると、同時にユウの立っている地面の周辺が揺れた。
ユウはその現象が地面に生えてる顔のせいだと考えると、自身の表情を警戒の色に染め同時に拳へと赤い魔力を纏う。その魔力はユウの称号の能力であるのだが......ユウは結局、その力を使うことはなかった。
なぜならば...
「いや~、数日前飢餓狼の群れに追いかけられたときは、正直もうダメかと思ったぜ!うん!でも、生きてる!俺ってば、運がいい!!お前も、そう思うだろ?」
「......(なんか出てきたーーーーーー!!)」
今ユウの目の前に、ユウよりも十センチ以上背の高い男が立っていたのだが、その男からは全く敵意が感じられず、寧ろ脳天気そうな印象をユウに与えてきた。
正直ユウとしては瞬間的にパンチを打ち込みそうになったのだが、その男の表情を見て自身の拳に込めていた魔力を徐々に薄めていくことにしたらしく、今は少し落ち着いている様子だ。
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「そうか...オルバとムーナは死んじまったのか...」
「そうです...ね。僕も直接見たわけではないですから何とも言えませんが、先ほどお話ししたようにザルバさん自身がそう言っていましたので、間違いないかと...」
現在ユウは地面の生えていた顔の正体である男"グラン"に、先日の一件について話していた。実はこのグランという男、ザルバやアリザのいたパーティーの一員であり、てっきり飢餓狼に襲われ死んでしまったものだと思われていたのだ。
だが本人の話によると、先ほどのように名称の能力により隠れ続け、どうにか飢餓狼の追随から逃れたそうな...。そして先ほどユウに見つかり、現在に至るとのことである。
ちなみにグランの使用した名称は"隠者"といい、隠密に長けた名称であるが、それでもまだまだ未熟な名称であった。
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『隠者』
この名称は基本が気配を断ったり、自身の姿を認識できなくする能力を持つ。だがこの『隠者』はその系統だとまだまだ下の方で、使えるのが擬態のみである。その他として、当然気配などは薄くさせる能力は高いが、それほど高度ではない。
《擬態》
周囲の風景に溶け込む。というよりも自身の身体を魔力で覆い、それが周りから風景に見えるように錯覚させている。ただし直接触れると丸分かりであるし、進化した後の名称達に比べれば気配も濃い。
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そんなグランだったが、ユウから事情を聞き自身が今の今まで森の中に隠れていて、今回の件に関われなかったことを悔やんでいる様子であった。だがそんなグランにユウは、
「取りあえず、グランさんが無事だったことをミミ村にいるジルトさんや、ウィースに向かっているザルバさん......そして、一番心配していたアリザさんに伝えましょう?」
と提案した。
確かにこんな所で話し続けていても仕方がないし、グランが無事であったことを早い段階で伝えておいた方がいい。だがグラン自身ユウに見つけて貰ったはいいが、果たしてここがクルスの森のどの辺りなのか分からないし、どうやって村に戻るのかが問題だと考えているようだ。
「けどよ、ユウ。俺は飢餓狼から逃げるのに必死で道なんて覚えてねぇけど、大丈夫なのか?はっきり言って、方向が分からねぇとキツいぞ、この森は...」
「あぁ、その点は大丈夫ですよ。(...リン)」
〈はいは~い!了解です、主!〉
グランからの問いかけにユウは安心するように言うと、心の中でリンに合図を送り自身の右手にリモコンを出現させた。当然グランはその現象に驚いたが、ユウがこのリモコンは自分専用の魔具であること伝えると、その表情を興味深そうなものへと変える。
どうやら個人専用の魔具を持っているということは、そこまで一般的ではないらしい。
さてそんなグランの視線を若干気にしながらも、ユウはリモコンの転移能力を発動させ転移した。場所はミミ村で、勿論グランも連れてである。
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先ほど森でグランを見つけ、一先ず名称の訓練は中断させてミミ村へと転移してきたユウは、グランと共に組合の方へと向かった。そしてそこにいたジルト...は居なかったので、代わりに取り次いで貰ったシルビアに事情を説明することにしたようだ。
だがそれも、現在時刻はだいぶ遅いこともあり、組合の方は外側にあった警備担当の人物くらいしか居なかったため、当初はユウはどうしようか悩んでいたのだ。が、そこで丁度よく退勤する瞬間のミルトに出くわした。
このミルトという人物は、ユウが冒険組合にて冒険者登録と血表示板を作った際にお世話になった女性である。ユウはそのミルトに事情を説明すると、ミルトの方もユウのことを覚えていたようで、警備担当のひげ面の男に話をつけてくれたのだった。
こうしてシルビアに取り次いで貰い、同時にグランを組合の方へ残してユウはある人物を訪ねに行った。その人物とは...
「それで?こんな夜更けに訪ねてきたことに関してはいいとして......これはどういう事だ、ユウ?」
「ア、アハハハ......どういう事でしょうねぇ~...?」
そんな会話と共にユウは目の前に居る半日ぶりの人物、セリアと向き合っていた。何故ユウがセリアとこうして話しているのかというと、村を数時間前に出たはずのユウが、どうしてここに居るのかと言うこととを説明する必要があったからだ。
別にわざわざセリア会うことも無かったのだが、シルビアと再会している以上自分のことがセリアに伝わるのは確実であるし、それならば自分から会いに行こうと考えた結果、こうしてセリアと対面しているのだ。
そして、ユウがここに居る経緯を話す上で、どうやってもリモコンの転移能力を話さざるを得ない事案が発生したため、それに伴った携帯送受箱の存在価値が絶賛希薄状態であることを伝える必要が生まれたのだ。
貰ったユウとしては大事に取っておくつもりであったし、何だったら使うつもりでもあったのだが、如何せん転移の方が便利である事実は変わらない。結果話の流れ的に、高い金を出しユウのために用意した魔具が、現在要らない子状態であることをセリアに伝える形になったのだった...。
まぁ、今後セリアとの関係が切れることはないので、早い段階で教えておいた方が後々後悔しないのでいいのかもしれないが。
「...とにかく、どうしてユウが今ここに居るのかは分かった。しかし、何故森などに行っていたんだ?何か用事でもあったのか?」
「あ、あぁ、まぁそんな所だよ。実は...」
ユウの返答に呆れていたセリアからそんなことを聞かれ、ユウは森にいた目的と大まかな経緯を話した。セリアはそんなユウの話を聞いていると、何か考えて様子で黙り込み、
「渡したいものがある。ちょっと待っていてくれ」
と言って、部屋から出ていった。そして、玄関のドアを開ける音がしたので(外にでも出たのか?)と考えていたユウは、少し胃ばかり肩の荷が下りたように見受けられる。
だがそんな時間も、なにやら外で "ガタンッ!" と言う音が聞こえたと思ったら、再び玄関の開く音がしてセリアが部屋へと帰ってきた。
そんなセリアが持っていたのは、ユウが持っていた片手ようのボウガンではなく、両手持ちの大きなボウガンであった。言ってみれば、『クロスボウ』である。
「セリア?それは?」
「なに、家の倉庫に閉まってあったものだが、おそらく使う機会がないと思ってな。ならばユウに使って貰った方がいいと思って、持ってきたのだ」
「......マジで?」
ユウからの問いかけにそう答えたセリアは、両手に持ったクロスボウをユウに手渡してきた。ユウとしてはとても信じられない様子だが、セリアからの厚意を素直に受け取るべくそれに手を伸ばした......が、
「それじゃあ、通常の値段の三割減くらいで売ってやるから、大体銀貨一枚に銅貨十枚だな」
「......アハハハ......そっか...」
と言うやり取りから分かるように、セリアはユウに取引をしていた。まぁ、普通自分の持ち物を無償で手渡すのは愚の骨頂であるし、ユウはそれなりにお金を持っているのだから、セリアとしては遠慮する理由がないのだ。
よって、若干ユウが顔を引きつらせていることに対し、悪びれる様子は一切セリアにはなかった。
まぁ、その厚意の中に若干の悪巧みが潜んでいたのは、ユウの知るところではないのだろう...。
「...よしっ、確かに受け取った。それとユウが王都に行くのであれば、この手紙を私たちの両親に渡してくれないか?本来なら定期便の方で頼むべきだったのだが、すっかり忘れていてな...」
「ん?まぁ、それくらいはいいけど、どうやって渡せばいいの?確かセリア達の両親って、どっちも城勤めでしょ?」
ユウが渡したお金をセリアが確認すると、彼女はそう言ってユウに頼んできた。ユウとしてはそのこと自体に何の躊躇いもないようなのだが、仮にも城勤めの人物に手紙を届ける役が、自分のような怪しいやつでいいのかと、若干不安な様子である。
加えて、面識のない男から "娘さんから預かっています" という言葉を聞けば、どんな親も速攻で表情が凍り付くはずだとユウは考えており、それもあって流石に直接渡す勇気がなかったのだ。
「あぁ、それなら城門付近に居る誰かに『ルドルフ隊長へ娘のセリアさんよりお手紙です』と言ってくれればいい。そうすれば誰かしら理解してくれて、取り次いで貰えるはずだ」
「ん、了解。それじゃあ、預かっておくね?」
セリアからそう説明のよりユウの疑念は解消されたので、彼女からの手紙を受け取りリモコンの収納空間に閉まった。これならば無くすことはないが、何だかユウの性格上忘れそうなのは気のせいだろうか...。
とまぁそんなわけで、セリアから貰ったクロスボウの『鬼瓦』(←※ユウ命名)を手紙同様収納空間にしまい、その後暫くの間セリアと話していたユウであったが
「...っと、そろそろ戻ろうかな?たぶんグランさんとシルビアさんの話も終った頃だろうし、もうこんな遅い時間だしね...」
と、話の区切りがいいところを見計らい、そうセリアに告げた。
それを聞きセリアは、「......そうか...」と呟くと、今まで座っていた椅子から立ち上がり、
「では、また会えるのを楽しみにしている。...絶対、また顔を見せに来い......いいな?」
と言って、ユウに念を押していた。そんなセリアの言葉にユウは 「もちろん!」 と明るく答えると、セリアに別れを言ってゲートルト家を後にした。
ちなみにガルシオは森の監視任務に行っており、帰ってきてからセリアにユウのことを聞いて若干悔しがっていたが......まぁ、それはいいだろう。
こうしてユウはグランを連れて、数時間前に居た宿へと戻っていたのだった。...もちろん、転移で。
「なぁ...。もう一度言っておくが......お前、常識って知ってるか?」
「ア、アハハハ......僕も、そう思います...」
ユウが発動させた転移によって一瞬のうちに移動した事実を、同行していたグランがそうまとめると、ユウは乾いた笑みと共にそう言った。
どうやらユウの認識通り、このリモコンは魔具の中でも規格外に異常であるようだ...。
と言うわけで、殆どの人は前の話で予想はついてたと思いますが、生き残りは居ました。
ウィースへは次の話でやっと入れると思いますので、もう暫くお待ちください。




