No.041 思念界と管理者
(ってなわけで、俺は"ビネア"って言う世界で通り魔に殺されてここに来たって訳だ)
(へ、へぇ、なるほど~...)
現在ユウたちは、先ほど話しかけてきた幽霊(思念体)のリュートから、彼がこの次元に来るまでの経緯を聞いていた。
なんでもリュートはイリスとは違う世界から来たようで、ユウがイリスのことを話したら、
『えぇ~!!お前あの魔法がある世界の一つに転生してたのか!?......あぁ~、魔法なんかがあるなんてうらやましいなぁ...。
俺の居た世界なんて、生き物が巨大すぎるだけでメチャクチャ生きづらかったんだからな!』
と、盛大に悔しがっていた。だがユウが思ったのは、 "そんな生き物がいる中で、死因が通り魔て..." ということであり、若干悔しがる部分違くないか?と考えていた。
が、リュート本人は死んでしまったことに関しては諦めがついているので、特に問題は無さそうである。それでも若干、不憫ではあるが...。
とまぁそのことは別として、ユウはリュートから次元とユウたちが生きているような世界の関係を教えられた。それは...
==========
まずお前がいた"イリス"だが、俺はそんな世界ここに来るまで全く知らなかったな。っていうのも、世界自体はこの次元にそれこそ数え切れないくらいあるんだ。
でもって俺が居た世界はビネアで、お前達が居た世界が...イリスか...。
まぁそんなわけで、世界はいくつもこの次元で流れ続けていて、その世界で形が壊れたらこうして思念になり、この次元に送られるんだよ。......っていうよりも、"戻ってくる"て言った方がいいかもな。
そしてここから大事なのが、ここにいる思念は戻ってきてから暫くすると、また下の次元に送られて生物としての生活を送るらしい。つまり、"転生"だな。
ちなみに言うと、転生するのはいつになるか分からんし、どの世界に行けるか、またどの時間軸に行けるかもそのときにならないと分からないみたいだ。
そして転生する際は、自身が持っていた記憶の全てが失われるようになっているらしい。
まぁそれでも、話に聞くところそうでもない思念が稀に存在するらしいが、俺はよく知らんな。
==========
という感じで、リュートはこの次元に関して随分詳しかった。というのも、自身がこの次元に送られる際、なぜか頭の中にこの次元で過ごしていた記憶が僅かに蘇り、何度も転生と死を繰り返すことで自然とこの次元に関する知識がたまっていったらしい。
そんなリュートにユウは、
(...ちなみになんですが、リュートさん。この次元で、"地球"というところから戻ってきた人とか知りませんか?)
と問いかけた。そんなユウの考えとしては、世界がいくつもあるのならば自身がいた地球も例外では無いという考えの下からである。
そんなユウからの問いかけにリュートは、
(あぁ、あの一瞬で何百人も戻ってきたと思ったら、今度はその倍くらいの数が一気に転生していく世界のことだな...。正直あの世界の生物はあまりにも数が多すぎて、そのうちこの次元から修正が入るぞ...)
と、若干げんなりした様子で返答した。リュートが話した内容とは、この次元が時空界の管理をしているということに繋がる。
というのもこの思念界は、いくつもある時空界をより良いものにしていくため、常々手を加えているのだ。その一つが世界への直接的な干渉で、もう一つが平行世界の創造である。
(...なぁ、リン。平行世界って、俺の抱いてる認識で合ってるか?)
〈そうですねぇ......まぁ、間違っているわけでは無いですが、若干補足しますと "世界の保険" ですね〉
ユウがリュートの言葉を聞き、先ほど彼が話した内容に含まれていた"平行世界"というものを、おそらく知っているであろうリンに聞いた。そんなユウに対しリンは、若干の補足を加えながら平行世界について説明を始める...。
==========
本来時空界は、常に一つの流れとなっています。が、そんな世界で万が一悪い方向へと流れが向かってしまったら、この思念界としてはあまり好ましくないようなのです。
そんなわけで、世界が悪い方向へと向かい荒廃と化したときのために、平行世界は存在します。
地球を例に挙げますと......『核で環境が破壊された世界』と『自然が豊かで人も動物ものんびりと過ごせる世界』。
この二つですと、後者が思念界にとって好ましい世界となります。すると世界は平行世界の方へとシフトしていき、元の世界は改善の余地が無ければ徐々に滅んでいくのです。
これが全世界における、平行世界の存在理由みたいですね。
==========
(滅ぶのを待つとか......思念界、えげつねぇな...)
〈...まぁ本来は、その世界に住む存在に思念界から何かしらの干渉があり阻止されるのですが、それでも荒れ果てる運命の世界は滅び、代わりに平行世界がその世界になるようですね〉
リンの話を聞きユウは、この次元自体に若干恐怖を抱いていた。
だが実を言うと、平行世界は元となる世界の分身的存在であり、元の世界が滅んで平行世界が成り代わると言うよりも、代わりとなる平行世界をベースに、元の世界がそれに合わせて修正されるといった方が正しい。詰まるところ、世界同士の"合成"である。
平行世界同士は謂わば、『鏡の中に映ったもう一つに世界』。よって、存在全てが同じ世界であるので、合成する上で全く問題はない......が、そんなことユウたちは知ることがないのでここでは割愛する...。
・
・
・
(そういえば、リュートさん。先ほどから他の思念体の方々を見かけないのですが、皆さんどちらにいるんですか?)
(ん?それなら、ほら。あの流れ続けるそれぞれの世界を観察して、皆暇をつぶしてんだよ)
ユウがリンとの話を切り上げると、今頃気づいたその疑問に関してリュートに問いかけた。するとリュートは、ユウがこの次元に来て初めて見た、あの流れ続けるフィルムのようなモノの方を指し、そう説明する。
ユウがその方向をよく見ると、確かにフィルムの隙間から何千、何万という膨大な思念体が浮かんでいるのが目に入った。実際には万どころか、その総数はざっと兆を超えている。
そんな膨大な存在に若干引きながらも、ユウはその中に何か赤く発光している物体をいくつも見つけた。ユウがその存在を見つめていると、その赤い発光体の内、一際強く発光している存在がユウたちの方へと一瞬のうちに迫ってきたのだ。
(うぉっ!?な、何!これ!?)
(おっと。...あぁ、これは俺たちみたいな思念体とは違って、形を持っている存在だな)
ユウがそう言うとリュートが答えてきた。だが形が存在することが稀であるこの次元において、目の前の存在も含め、あれだけの数がいるというのはどういう事なのか?
ユウがそうリュートに問いかけると、
(いや、俺もこいつらに関してはよく知らねぇな......ただ、こいつらが世界の管理を直接やっている様子から見て、たぶんこの『次元の管理者』みたいな存在じゃないかと俺は思ってるぞ?)
と、自身の首(?)を捻りながらも、この存在について己の見解をユウに話した。
リュートの言う通り、この生物(?)は世界をより良くするために平行世界を生み出したり、新たな流れを持つ世界を創造したりしているのだ。
そんな生物はユウの記憶の中だと、何だかどっかの衰退した人類に出てくる妖精みたいな形をしていた。
するとその生物はユウの方を見て次にリンを見ると、一瞬リンに向け柔らかい微笑みを浮かべたようにユウには見えた。だがそれは見間違いだったかのように、次の瞬間生物は無表情になり
《旭ユウさん。出来れば、あまり世界の流れを止めないで貰えますか?
この次元としては、他の世界との間に時間の齟齬を無くしたいので、どうかそろそろ帰ってくれませんか?》
と話しかけてきた。
ユウはその声にびっくりしたが、近くにいたリンとリュートの方を見ると不思議そうな顔で見つめてくるので、もしかしたらと思いその生物に心の中で問いかけた。
《もしかして、俺にだけ聞こえるように話しているの?》
《えぇ。どうやらあなたとそこの彼女は、まだ死んでいない上、世界の流れを止めてここに来たようですからね。先ほど言ったように、今後こういうことは控えてください。......では、さようなら》
《......えっ?》
そう言って生物は先ほどまでの発光より強く光出すと、驚いているユウと何も分かっていないリンをその光で覆った。ユウとリンは当然そのことに慌てていたが、
(おぉ、なんだもう転生か?随分と早いが、まぁ転生した世界でも頑張れよ~)
とリュートが話したように、どうやらこの光は転生する際に行われる事だそうで、そこまで珍しいものではないらしい。
だがそれでもユウとリンはその事実を聞いたことで、
(いやいやいや!!転生されたら困るんだけど!?)
〈そ、そうですよ!!転生しちゃったら主と離ればなれになっちゃうじゃないですか!!イヤーーーーー!!そんなの絶対にイヤーーーーーーーーー!!!〉
と、さらに暴れていたが、次の瞬間ユウの脳内に響いてきた先ほどの生物からの言葉により、その行動の意味をユウは理解した。
《別に転生させるわけではないですよ?ただ、目の前にいる思念体の方が元の世界に戻るあなたたちを不審に思わないように、こうしてカモフラージュしているだけですので》
《あ、そういう。......なんか、ごめんなさい...》
その生物からそう教えられたユウは、漸く落ち着きを取り戻し未だに慌てているリンに
(リン、落ち着け。どうやらこのまま元の世界に戻してくれるみたいだぞ?)
と言うと、目の前の生物から教えられたことをリンにも伝えた。するとリンは理解したようで、大人しくなったようだ。
するとその生物は、そんな大人しくなったリンを確認すると、今度は逆にリンにのみ聞こえるよう脳に言葉を送った。
《リン...と言いましたか?》
《へ?......もしかして、ボクに話しかけてるのは、貴方ですか?.....それと、ボクのことを"リン"と呼び捨てにしていいのは、主だけです。それ以外の人は『ちゃん』か『さん』を付けてください...》
その生物が話しかけてくると、リンは一瞬戸惑いながらもそう返していた。......どうやら相手が誰であろうと、リンにとってユウと自分に関することは基本踏み込んではいけないことのようだ。......よくこの状況で強気に出られるものである...。
《アハハハ......じゃあ、リンちゃんって呼ばせてもらいますね?
確かに、あなたに話しかけているのは私です。実は、リンちゃんに聞きたいことがあるんです》
《?聞きたいことですか?》
《はい。
......今リンちゃんは、そこにいるユウ君と一緒にいて......楽しいですか?》
その生物はリンの言葉に少しばかり微笑むと、リンにそう聞いてきた。それを聞いたリンは当然の如く、
《そんなの楽しいに決まっているじゃないですか!寧ろ主と一緒にいられるのなら例え身体が無かろうが、性別が男だろうが、そんなことどうでもよくなるくらいにボクは主のことを愛しているのです!
だから、......えへへへぇ~///今後も、"な・か・よ・く" 日々を楽しむ予定なので~、もし離れ離れにでもしたら............ケシマスヨ?》
と、若干最後辺りが不気味であることを除けば、実に甲斐甲斐しい言葉と共に肯定した。......ユウが今後女性と関わる上での一番の障害は、自身の性格では無くリンになりそうである...。
とまぁそんなリンからの返答を受けその生物は、優しく微笑むと
《そうですか......ならば何も心配要りませんね。...では、イリスに向けてお二人を送ります》
と言って、後半はユウにも聞こえるようにすると、ユウたちをイリスに向けて送るためその光をさらに強めた。
そんな中リンは、その生物に向かって
《よく考えれば、ボクだけ一方的に知られているのは不公平ですよ!あなたも名前くらい名乗ってください!》
と、中々に威勢よく問いかけた。当然ユウもその言葉を聞こえており、ユウ本人もその生物の名前が気になった様子である。
そんな二人に注目された生物は、少しばかり悩む素振りを見せると、
《では、 "リア" とだけ名乗っておきますね?まぁ、そんなに頻繁で無ければまた来ても構いませんよ》
と言うとその姿が光に霞んで、徐々に二人の視界から見えなくなっていく。どうやら、もうそろそろユウたちはイリスに戻されるようだ。
こうしてユウとリンは、この思念界においてとても不思議な体験をし、漸くイリスへと帰還するのだった。
・
・
・
・
・
・
そんなユウたちを静かに見守っていた生物 "リア" は、完全に二人の思念がイリスへと戻ったことを確認すると、
《フフフッ......私としては、またリンちゃんとお話がしたいですね。そして......そのリンちゃんが、あそこまで好意を寄せているユウさんにも、ね?》
と呟いていた。
そんなリアの下に徐々に他の生物たちも集まってきて、その中のある生物が
《ねぇねぇ、あのユウっていう思念体、もしかするとこの前ここを生命体と一緒に通っていったやつだよね?》
と口に出し、同時に周囲の生物たちからも同じような言葉が上がった。彼らが言っているのは、ユウが召喚されたときのことである。
実は、ユウが召喚された際リーズが言っていたのは、この次元のことであったのだ。
本来、時空界と思念界の間を通る際は思念のみの行き来しか出来ないのだが、別に形が存在できないわけでは無い。実際、各世界の流れがこの思念界で非常に近くなり、同時に空間に歪みが出来れば、いくらでも違う世界のモノは通過していく。それが各世界において、 "未知" と呼ばれる存在なのだ。
だがそれもそんなに多く起こることではないし、そもそも思念は切り離されてこの次元に取り残される。結果、形のみしか別の世界には行けないため、ユウのような事例はリーズが"特別"であったからであって、そうそうあることではない。
付け加えると、ユウの意思の強さも関係してくるのだが......それは、またの機会で...。
とまぁそんなわけで、ユウは一度この次元を通っていたのだが、リーズにより精神をご臨終させられていたため記憶になど全くなかった。
《そうですよ。それと......ふふっ...。まさかこんな形であの"二人"に再会するとは......また来てくれると嬉しいですね...》
《そうだね!!》《また来て欲しいな!》《今度来たら、時空界のこと聞いてみようっと!!》
先ほどの生物からの問いかけにそう答えたリアは、自身と同じように考えていた仲間達に少しばかり嬉しい気持ちになると、
(それにしてもあの人は......仮にもあの世界の"代行者"なのだから、今後は気をつけてほしいものですね...。今度、お説教しに行きますか...)
と、心の中でため息を吐いていた。
そんなリアは、先ほど去って行ったユウのことを思い出し、少しばかり興味を持っている自分に気づいていた。それは、リンに好かれていたりこの次元を渡ってきたこともあるが、一番大きいのは...
(旭ユウさん......あの人は、これからの成長次第で、随分と面白い存在になってくれそうですね♪)
と、ユウから感じ取った"何か"を期待し、ユウの今後に何かあることを楽しみにしていたことであった。
どうやらリアという存在は、イリスとだいぶ深い関係があるようなのだが......この時点において、その可能性はリア本人にしか分からないことであったのだった。
・
・
・
・
・
・
現在リュートは、目の前に群がっている赤い発光生物を見て、一体何をしているのか思考の海に沈んでいた。何故そんなことなんかを考えているのかというと、こうした"考える"ということぐらいしか、この次元においてはやることが無いのだ。
事実、各世界を見ている他の思念体もそうして理由から、暇だから見ているだけであって、別段見たいから見ているわけではない。
とまぁ、そんな『考える人』になっているリュートへ、なにやら二つの思念体が近寄ってきていた。その思念体とは、
(どうも、リュートさん...って、何しているんですか?)
(あぁ?って、なんだお前か。確か...... "オルバ" だったか?)
という相手からの問いかけに対してリュートの口から発せられた名前から、その思念体はオルバという存在である事が分かる。そういえば、以前にもその名前をどこかで聞いたことがある気が...
(ええ、そうっすよ。...ちなみに、さっきの思念体はなんだったんですか?)
(...見た感じ、少年みたいな容姿でしたけど...)
(あぁ、あいつな......そういえばあいつも、お前ら二人と同じイリス出身って言ってたな...)
オルバと呼ばれた人物と、もう一つの思念体がそう聞くと、リュートは思い出したかのように二つの思念体に確認を取った。リュートの話を聞く限り、オルバと呼ばれる思念体はおそらく...というか確実にザルバに殺された男のことであることが分かる。すると、オルバと一緒にいる思念体はムーナであるのだろう...。
そんな二人がここにいるということは、つまり現在行方不明の"もう1人"もおそらくここに...
(!!そ、それじゃあ!そいつ何か知りませんでしたか?例えば、クルスの森についてとか...)
(そうそう!リュートさんにもお話ししたように、私たちを殺した仲間以外に"グラン"や"アリザ"って言う名前の二人がいたんですが、未だにここに来ていないところを見ると、まだ生きているらしいんです......リュートさん、さっきの少年から何か聞いてくれました?)
(......何も聞いてないな......)
オルバやムーナの言葉から、自分たちを殺したザルバ以外にもう二人、あの幸薄そうな女性のアリザとその"グラン"なる人物が、未だに思念界に来ていないことを二人はずっと気がかりであったようだ。そしてそのことをリュートや、その他の思念体にお願いして見かけたら教えて貰うように頼んでいたのだが......リュートは完全に忘れており、聞いていないことを隠すためにどちらにも解釈できる言葉で回避していた。......中々にセコい行動であった。
思念界。ここは、死んだ思念が戻ってきて、そして違う世界へと転生する間における思念達のための次元。ここへ行く条件は、唯一 "死ぬこと" である......。
この次元は特に物語の中心ではないので、現時点ではあまり頻出するところではないです。




