No.040 停止の能力と次元
この話には、作者の解釈が多分に含まれているので、あまり深く考えないで読んでください。
そこはとても美しかった...。
言葉に表すのならば、その場所はまさに"幻想的"と言えるものなのだろう。部屋......というよりも空間といった方が分かりやすい。
というのもその空間は、ユウの記憶の中にある映画の "フィルム" のようなものが終始流れ続けており、それが見渡す限り無数に存在し回り続けているのだった。
そんな異様な雰囲気を出している空間は巨大なドームのような、はたまた広大な吹き抜けの大部屋のような印象を与える作り(?)となっている。
そんな場所でユウは、その目をゆっくりと開いていく...。
目を開けたユウは自身の周囲を見渡すと、そのあまりにも幻想的な光景に目が留まり心を奪われ、暫くその光景から目を離せないでいた。それだけその空間は、ユウや、おそらく誰もが見とれてしまうほどで美しく、そして神々しくもあったのだろう。
そして漸くすると、ユウはそんな状態から抜け出し、その光景に対して自然と口から言葉が零れ......
(すげぇ......って、あれ?なんか、声出ねぇな...)
と感嘆の言葉を発しようとしたら、ユウが思うように自身の声が出せなかった。
いや、ユウ自身の声自体は脳内に響いているのだが、それが己の口から発せられていないことにユウは疑問を感じていたのだ。だがそれも、
〈それは仕方ないですよ。だってここは、生物が存在するはずの無い世界ですからね。
よって、声どころか思念ぐらいしかここでは存在しないんですよ、主〉
というリンからの説明により、その言葉の意味は分からないとしても、ここが普通ではなくユウの中の常識が通じないことを彼は理解していた。
そう、ここはリンが言ったように、生物......というよりも普通は物質が存在しない世界であり、さらに言うと "時間" という概念すらも無い世界なのだ。
(......やっぱり、話を聞くのと実際にやってみるのとじゃ、全然違うしやってみたところで全く理科不能だな...。
悪いが、リン。もう一度、この空間...というより世界か?を説明してくれるか?)
〈了解です!ではまず、『停止』のボタンの説明から始めますね?〉
ユウがこの世界の理解に苦しみ、以前リモコンの説明をリンからして貰ったときの内容を、再びリンに頼んだ。
そんなユウからの頼みにリンは元気よく了承すると、最初にユウがここに来る原因にもなった『停止』の能力に関して話し始めた。
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主が押した停止と書かれたボタンの能力は "全流停止" と言って、流れる空間を停止させる事が可能です。これは認識の範囲内だけではなく、世界そのものを停止させます。
ですが同時に、その世界の存在である主やボクも停止してしまい、再び動き出すことが不可能となってしまうんです...。
そこで停止の能力を発動する直前、思念のみこの場所に送って、帰りは主の戻りたい時に戻れるようになっています。...まぁ戻ったとしても、結局は停止した瞬間から始まるんですけどね...。
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「そういえば、そう言ってたよな...。しかし、何度聞いてもとんでもなさ過ぎだろ、時間まで止めるとか...」
そう言ったユウは、今回でリンによる能力説明が二回目でもあることで、どうにか能力の内容は理解できたようである。ユウの言うとおり、普通なら限定的であるにしても空間を止めているだけで、十分異常すぎる能力を持っているというのに......逆に恐ろしくもある...。
そんなユウの様子を確認したリンは、
「まぁ、主とボクの愛の結晶ですからね!こんなの当然の結果です!!」
と、声だけであるが、自然とその様子が頭の中にイメージできるような感じであった。
ユウはそんなリンの様子を思い描きながら若干その言葉に照れると、リンに今度はこの世界について話を促す。
(まぁ、そのことはまた今度ゆっくり聞いてやるから。今はさっきの話を続けてくれ)
〈えっ?......そうですか...。では、続きをお話ししますね〉
リンはユウからの言葉に若干話したり無い感を出しながらも、ユウに迷惑をかけないために話を続ける。どうやらここ数日で、ユウに対する愛情を一方的にぶつけず、ちゃんとユウのことも考えた上でやるように成長したらしい。
とまぁそんなわけで、リンはこの世界について話し始めた。
〈...話の最初の部分で、通常この世界では物質が存在しないことはお伝えしましたよね?〉
(あぁ。確かその影響もあって、こうして思念だけしか転移出来なかったんだろ?)
リンがそう話し始めると、ユウはリンがこの世界に来て始めに教えてきたことを思い出していた。それは、この世界では生物どころか物質も存在しないということである。
リンはさらに話を続ける。
〈まぁ、そういうわけなんですが...。実を言うと、この世界に来るのはボクも初めてでして、そこまで多くは分かっていないんです......〉
(えっ?そうなのか?雰囲気的にてっきりこの世界出身だと思ってたわ...)
〈うぅ......申し訳ありません、主......あぁ!こんなボクが恥ずかしいです!!〉
リンからの説明に意外そうな声を上げたユウに、リンは随分と申し訳ない声を上げて悔しがっていた。
だがそれも当然のことで、リンは本来精霊族である上に、本人曰く "自分は生まれたばかりの存在" と言うことからも明らかであった。
だからこそ謝るべきなのは、そのことを意味不明な発言と共に、理不尽に図々しく言ってきたユウのはずであるのだが......
ユウ本人そのことを完全に忘れているし、リンは基本的にユウに対し強く言わないため、この場においてユウを裁くはずの存在は...いなかったのだ。......そう考えると、謝ったリンが随分可哀想である...。
〈それでも、ある程度のことは分かっているので、それだけでもお伝えします!ですから...〉
(?...あぁ、さっきのことならそんなに気にすんなよ。寧ろ少しだけでも教えてくれるんなら、これ以上無いくらい助かるってもんだ)
リンが言うとユウは、寧ろリンが少しだけでも知っていたことに安堵し、そのことを素直に喜んだ。
こうした面があるのに、人の話を忘れやすいというのは非常にもったいない......まぁ、それ以外にも色々と欠点はあるが...。
〈っ!!ありがとうございます、主!では早速、この今いる世界についてお話ししますね?〉
ユウからの言葉を聞き嬉しそうな声を上げながらリンは、この今いる空間の説明を開始した。
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この世界は所謂、先ほどまで居た世界のさらに上に存在する世界......と言うより、『次元』と言った方がいいかもしれませんね。
主の記憶の中だと、一番近いのが『四次元』と呼ばれているところだと思います。まぁあくまで、一番近い言葉で例えると、ですが...。
とまぁそんなわけで、本来下の次元である主やボクはこの次元に無理矢理存在してはいけないはずなんです......が、言ってみれば物質で無ければいいので、こうして思念だけならば存在することが可能みたいです。
それでもこうやって高次の世界に干渉すること自体は難しく、そうそう誰もができることではないですね。
そして、そんなことが出来るのがボクのように時魔法と空間魔法を操る精霊と言うわけです。それは、この世界自体が『時間』という概念を司ると同時に、空間という"世界そのもの"を管理している存在だからなのです。
よってボクのように、時と空間に干渉できる存在の中でもほんの僅かのみが、この世界に干渉し思念だけですが送れるんですよ。
ではこの世界ですが......ここはあらゆる時間軸と世界が存在し、それらが常に同時並行で流れ続ける "思念界" という場所です。
ちなみにボク達が居た世界はここで言う"時空界"というところですね。
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(......よく分からんが、なんか凄いところなのは分かった...)
〈ア、アハハハ。ま、まぁ、ボクとしても、これで本当に合っているのかよく分かっていないんですけどね...〉
ユウが盛大に自身の頭をフル回転させて、なんとかリンの説明してくれた内容を理解しようにも、完全に意味不明な事柄ばかりで脳が混乱していた。リンもそんなユウの答えから、自身が言っていることにあまり自信が無いことが窺える。
(...ちなみにだが、他の次元とかもあったりするのか?)
〈へ?......まぁ、あるにはありますが......確か、一番次元が小さいところからだと、"無界"・"時界"・"色彩界" と、イリスでは呼ばれていますね〉
(......うん、やっぱりあるんだ...)
ユウはリンが答えてくれた内容を聞き、また新たに覚える言葉が出てきたことに疲れていた...。
ちなみにリンが答えてくれた各次元は、それぞれ以下の通りである。
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『無界』
何もない世界。だが存在している。そんなわけで、"有るけど無い、無いけど有る" という若干意味不明な次元。
『時界』
時間の流れと"方向"が初めて出来た次元。たが流れるものが出来ただけで、その他には何もない次元。
『色彩界』
時界に"色"ともう一つの方向が出来た次元。ここで言う"色"とは"存在"のこと。そして方向が二つ出来たことにより、時間を経るモノが現れた。
『時空界』
色彩界に"空間"と"形"出来た次元。この"形"が、今の"生命"の原型であると言える。
『思念界』
本来時空界に存在しない "思念" が存在する次元。それ以外は存在することが稀。
ここにおける思念は、それぞれ一つ下の次元に行くと『形』に宿り、生命にとって "魂" と呼ばれる存在となる。
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〈ですが、思念が存在するのは時空界と思念界のみなので、それより下の次元は確認が出来ても行くことは出来ないとされています〉
(へ~......そういうものなんだな...)
リンからの追加説明にそう言って納得したユウは、別段残念がっている様子は無い。まぁ、それもこんな訳の分からない次元転移なんかそう易々と出来るものではないことくらい理解しているし、そもそも行けたところで何が起こるか分からないのならば恐ろしくて挑戦する勇気も無いのだろう。
それでも普通は、ここにいるのに全く動揺していないことからして若干オカシイのだが、本人は特に何とも思っていないようである...。
〈それと、通常思念体は時空界における"形"を持たないので、こんな風に半透明なのです〉
(あぁ、そういうわけだったんだな......聞くタイミング逃してたけど、分かってよかったわ...)
ユウがリンからそう説明を受けると、リンの透けた身体と自身の身体(?)に視線を向けその状態を確認した。確かにリンの言う通り、本来手があるはずの部分は感覚がなく、逆に見えているのに存在感が薄い受けているようだ。
さて。そんな風にリンから説明を受けていたユウは、自分たちの方に向かってくる存在に気づいた。思念のみの次元であることから、それが生物であるはずが無く、......まさしくユウたちと同じく、"半透明"の存在であった...。
(な、なぁ、リン...。なんかアレ、こっちに近づいて来てんだけど...?)
〈?...あぁ、それなら別に問題ないんじゃ無いんですか?実際ここは先ほど言ったように、全ての思念が存在する次元ですから、ボク達以外の存在がいるのは当然ですよ〉
ユウからの問いかけにリンがなんてこと無いように返してきたが、ユウとしては自分やリン以外に初めて見た"それ"が、完全に記憶の中にある"アレ"と一致しており...内心ビビっていた...。
そう、それは
(なんだ、お前らも死んだのか?)
(ア、ハハハ...やっぱり、そういうことっすか...)
という相手からの言葉により、ユウの中で一つの確信が生まれた。つまり、今の自分たちも含め"思念体"とは............."幽霊"のことであるらしい...。




