No.037 出発の時と少女の目的
さて、漸くユウが登場しますが、ウィースに着くまで暫く話は続きます。
現在の時刻は朝7時頃。場所はミミ村にあるゲートルト兄妹の家。
その家に只今居候中である旭ユウへ、外からの清々しい目覚めの合図を放つ生き物達の可愛らしい声が聞こえてきた。
"カァ~、カァ~" "ワン!ワン!"
「......まぁ流石に、この違和感にも慣れたわな......」
「...ムニャムニャ.........えへへぇ~♪」
そんなことを思いながらユウは、寝起きの頭でそんな日常を受け入れつつ、現在進行形で自分の身体へ跨がっている相手に呼びかけた。
その人物は...
「おい、リン。悪いが、ちょっと動くぞ...」
「...うぅ~?........あ~、主ですぅ...。...おあ(は)よう、ございまふぅ...」
というユウの声に応じたリンであった。
実はリン、一昨日に引き続き昨日も今日もユウが寝ている間に人型になって現れ、こうして朝起きてみると元の小型サイズへ戻り、ユウに抱きついた状態で寝ているのだ。
ユウ自身別に抱きついてくることはそれほど重くはないので構わないし、逆にリンのその行動はだいぶ可愛いものだと感じて容認しているのだ(昨日ユウにキスしようとしてきたのは、流石に焦ったが...)。
「よっと......さて、リン。今日が、いよいよ出発の日だぞ」
「ふあぁ~~~......う~ん......あ~るじぃ~。もう少しだけぇ、お互いの温もりを~、高め合いましょ~よぉ~♪......クゥ...」
ユウがベッドから抜け出すと、リンに向けてそう言った。が、リンは未だに頭が覚醒していないのか若干ふらふらした様子でユウの下まで来ると、徐々にその高度を下げていき"あわや!"床に激突するかに思われた。
そんな様子のリンを見てユウは慌てて駆け寄り、リンの事を上手い具合にキャッチした。ナイスだ、ユウ!
「っと。...お~い、リン?そんなに眠いんなら、俺の中で気の済むまで寝てろ~」
「ですが~......まぁ、主の体内も、それはそれで "格・別♪" ですし......
ではもう暫く休ませていただきますねぇ~。......ミュゥ...」
ユウからの許しを得たリンはだいぶ悩んだ末、やはり眠気には耐えられないのか随分と可愛らしい寝息を立てながら、ユウの身体へと同化していった。
ユウはそれを確認すると現在着ている寝間着(昨日買った)から、此方はリーズがユウに作った服 "第二号" へと着替える。
この服は一昨日、ユウが着ていた柔剛蜘蛛の素材で作られたものよりも若干この世界寄りの服装で、前述のものより丈夫さは劣るが動きやすさを重視した作りとなっている。
(...予定よりも早く出ることになったけど、それでも仕方のない事なんだからしょうがないか...)
ユウは服を着替えながらそんな事を考えていた。実際この村に来るのは予定にはなく、正直な話不安であったのだ。
それでも昨日までの三日間は、今のユウの表情を自然と笑顔に変えてしまうくらいに充実したものであったらしい。
だがそれも、ユウが部屋の窓から見える景色を視認することにより、その表情に若干の濁りが生み出されることとなったのだ。
その理由は...
"ザァアアアアアア!!"(※雨の音)
「...アハハハ......流石にこれは......俺でも、素直に嬉しくねぇぞ...」
ユウがそう呟くと、窓の外から見えている雨はその勢いを若干強めたように感じられたが......まぁそれはきっと、ユウの気のせいであったのだろう...。
さて、...ご覧の通り本日は、まさに絶好の"雨日和"であった。どうやら先ほど聞こえてきたあの生き物たちは、こんな大雨の中でも元気いっぱいなご様子であるらしい...。
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ユウが起きてから一時間後。本来あと二時間後に出るはずの定期便は、この雨のせいで少しばかり早めに出ることになったらしい。
本当であればこんな雨の中わざわざ出る必要も無いのだが、
「昨日ユウも聞いたように、王都から調査団がウィースに向けて向かっている。でもって、それが到着するのが遅くとも明日の昼みたいなんだと。
そしたら、"この雨の中でも進むことは出来るのだから、必ず遅れずにウィースへ向かうべし" って言う連絡が、今朝ジルト隊長のところに急に来たんだよ。だから今日は若干時間を早めて、暗くならない内に一度街道沿いにある宿屋まで向かうみたいだ」
と、朝食の席でガルシオから聞いたユウは納得した。
実は昨日ジルトから呼ばれ向かった先でユウは、ジルトから渡された道具によって調査団の話は聞いていた。ちなみにその際使用したのは、生活魔具の一種である。
ユウはそんな調査団からの話を聞き終わると、
「だったら僕が同伴して、もうザルバさんは絶対に大丈夫であることを証明します。それでいいでしょう?」
と言って、防衛省の人間に確認を取り、同伴を決めた。
その理由としてザルバに同情したところが多かったのだが......実を言うと、セリアに告白した後、あそこまで男らしい振る舞いが出来たザルバという漢に対し、ユウは憧れを抱いていたのだ。
だからこそ今回の件に関しては、自身の責任を感じると共にザルバをなんとかして助けたいという気持ちがあったらしい。
こうしてユウは、ザルバの弁明という名目の下、その一向に同伴することとなった。
ちなみに、先ほどの機器についてジルトに聞いたところ、その魔具は"送受箱"と言うらしい。
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『送受箱』
魔鉱脈から採掘できる、"送石"と"受石"と呼ばれる魔石。さらにそれらへ音魔法の力を持つ精霊の力を組み込むことで出来る、魔具の一種。
基本は遠方にいる相手との会話が出来るが、それに加え文書なども表示される機能が存在する。ただし繋がるのは、魔具生成士によって識別番号を刻んだ受石が組み込まれたものだけで、それ以外のものは殆ど繋がらない使用となっている。
通常は街の中や何かしらの建物に設置されていて、有料だが誰でも使えるようになっており、若干地球における"公衆電話"と同じだと言えるだろう。
ちなみに言うと、文書が表示されなかったり、屋内での使用が出来ないなどの欠点がある代わりに、小型化して比較的値段が安いのに、殆ど同じ事が出来る魔具が存在する。その名も、
"携帯送受箱"
と呼ばれている。
文字通り、送受箱の小型バージョンであるのだが、機能面では劣化型と言える。
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「ちなみにこの送受箱は国との連絡専用だから、普段は一般人の使用が禁止となってるから、もし今後こういう機会があったら気をつけろよ?」
ユウに送受箱の説明を終えるとジルトはユウから受話器?を預かり、再び話し始めた。......ユウとしては、今後こんな国のお偉いさんと話すような機会出来れば遠慮しておきたいと、密かに願っていた...。
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現在ユウは、定期便が出発する地点に来ていた。するとそこには、ユウの知っている人物が何人か居た。ユウはその人物の内、二人に話しかけようとして近づいていった。
その人物達とは...
「どうも、ベイジさん、サーシャさん。お二人ともウィースに向かわれるんですか?」
とユウが話しかけたように、ユウの視線の先にはベイジとサーシャが居た。ユウの声に最初に反応したのはサーシャの方で、現在は屋根が設置された所謂"停留所"らしきところで出発時刻まで待機しているらしい。
「あっ、ユウ君!ユウ君も今日の便に乗るんですか?」
「うん。......流石にこの雨だからそんなに利用する人も少ないですね...」
ユウは辺りを見渡し、停留所にいる人たちの数をざっと確認するが、ドーマや(フードを被っているが)ザルバ、その他同行するもの以外は冒険者を含めても、その数は非常に少なかった。
ちなみにダイマとクックも本来はこの便に乗る予定であったそうだが、この雨を見て次の定期便に乗る事を決めたらしく、もう暫くはこの村に滞在するらしい。
「それにしても、何故お二人はこんな雨の中の便に乗ろうと思ったのですか?」
「俺は組合の方から出された依頼を受けただけだが......そこの嬢ちゃんは知らねぇな」
ユウの問いに対しそう答えたのはベイジの方であった。ベイジの言っている依頼というのは、この定期便の護衛である。
基本この魔人族領は、周囲の魔気や魔鉱脈の濃度や密度が高いため、魔物や魔獣の発生が多い。そんな中たとえ街道だとしても、そうした相手の襲撃は少なくない。だからこそこうして安全面を考慮し、組合に依頼という形を取っているのだ。
ちなみに異世界で有名な"盗賊"であるが、当然この世界にも存在している。
だが先ほども言ったように、ここ周辺は基本的に魔物や魔中の巣窟と言っても過言ではない。流石にどこもかしこもクルスの森ほどではないが、そこそこ強めの敵は居るには居る。
そんな中でわざわざ待ち伏せして数日間隔で通る対象を襲うという、そんな非生産的なことをするほど盗賊だって馬鹿ではない。
よって盗賊はこの魔人族領において、逆に町中や人の多いところで気をつけた方がいい。寧ろこの大陸では魔物や魔獣の方が驚異であると言えよう。
とまぁ長々と述べていったが、本題に入ろう。
ベイジから話を振られたサーシャは、ユウから見て一瞬悲しげな表情を見せたような気がしたが、それも彼女が被っているフードによって "見間違いだったか?" とユウに思わせ、なんでもないかのようにサーシャは話し始めた。
「実は私......妹を探しているんです...」
「「 "妹" ?」」
そう彼女が呟くと、それを聞いていたユウとベイジが同時に聞き返してきた。サーシャはその反応を一瞬確認すると、もう一度口を開くと話を続ける。
「はい。お二人は"袋猿"っていう略奪集団って知ってますか?」
「あぁ。...確か十年前、人間族領で初めて事件が起こってから、今では既に獣人族領や亜人族領までその勢力を伸ばしている犯罪集団だよな?」
「はい、その"袋猿"のことです...」
サーシャからの問いかけに答えたのはベイジであった。当然ユウはそんな集団知るはずがなかったので、サーシャとベイジが話している隙を見て瞬時にリモコンを取り出すと、"字幕表示"にてその"袋猿"について調べた。
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『袋猿』
十年前、人間族領における "連続大量略奪事件" を皮切りにその勢力を徐々に拡大していくと、ここ数年で反対側にも関わらずに獣人族や亜人族の大陸まで浸食していった。
さらにここ最近になると、その構成員も人間族だけではなく、魔人族、獣人族、亜人族と他種族も加わり、その規模をより大きくさせていると言われている。
なぜその集団が袋猿と呼ばれているのか。それは、袋猿の発端やその犯行の規模にある。
通常袋猿が略奪事件を起こすと、その規模は必ず人なら二桁に上り、モノなら建物の中身が丸ごとなくなることもあった。
それ故、まるで巨大な袋で袋詰めにし持ち去っているかのように噂されていたり、さらには発端である人間族が比較的猿に似ている種族であることから、"袋猿"と呼ばれているのだ。
ちなみに通常の盗賊と比べ明らかに違う点を挙げるならば、規模と犯罪者としてのランク等全てにおいて違う。
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「なるほど。.....まぁ、出来ればこういうのに関わることが今後無いように、十分気をつけないとな...」
ユウは現在画面に表示されている内容を見ながら、そんなことを考えていた。実際、無差別に狙われている事から、ユウも決して狙われないとは言い切れない。
だからこそユウ本人は、できる限りそういうのは余所様に任せていくスタイルを貫きたかったのだが.......
「...ん。......くん。..........ユウ君!!」
「ふべ!?な、何!?何かあった!?」
ユウが自身の今後について若干真剣に考えていると、自身の名前を呼ぶ声に驚き、本来出すはずのない声を出してユウは周囲を確認し、声の主を確認した。
そしてユウがその人物を見つけると、どうやらご本人は若干ムスッとした表情を見せていた。
「え、えっと...。何かご用ですか、サーシャさん?」
「...ユウ君。今の私の話、聞いてくれてましたか?」
サーシャにユウが問いかけると、彼女は少しばかり肩を落としながらユウに確認を求めてきた。当然ユウはそんなことを言われても、知るはずがなかった。なぜならばユウは、基本的に目の前のことに意識が集中すると、その他のことが完全にシャットアウトされるのだ。
......恐らく、聖徳太子を真逆にリメイクしたら、このユウ(ポンコツ)になるのだろう。
そんなわけでユウは完全にサーシャの話を聞いていなかったため、素直にそのことを打ち明けた。すると、
「...まぁ別に構いませんが、......もう一度話すので、聞いて貰ってもいいですか?」
「...了解」
と、先ほどの話をもう一度してくれるようで、ユウも今度はそちらに意識を向けて真剣に話を聞くことにした。
それを確認したサーシャは、若干緊張した様子のまま口を開き......
「お願いです!どうか、妹を助けるために力を貸してくれませんか?」
と、ユウに頭を下げてきた。その様子は、如何に妹のことが大事なのかが伝わってきて、普通の人間なら助けてあげたいと思うだろう。だが、当の本人であるユウはというと......
(......何でだよ!!)
と、逃れられない運命に心の中で嘆いていた。だがその嘆きは、
〈...いやぁ~、主ってば本当に "オ・モ・テ" になるんですねぇ.....〉
と、何か勘違いしているリンにしか届いてなかった。......どうやらリンにとっては、ユウが女性と仲良く話しているだけで浮気であるようだ...。
(↑※リンの一方的な考えです。これに関して私は一切容認していませんので、その点ご注意ください。...割と本気で...byユウ)
というわけで少しばかり短いですが、一度次話に引き継ぎです。今後はサーシャやベイジがユウと共に行動することが増えていきます。そして、久しぶりに...
《問題》『ユウの装備には、衣服や靴以外だと何が装備されている?』
それと投稿は22:00に決定して、おそらく今後変えることはないと思われます。




