No.036 ウィースの街と国認魔導士
新章突入です。
ですが、いきなり主人公の登場はありません。
ここはウィース。スローム王国の中でも3番目に大きい街であり、王都に近い街の一つでもある。その町並みは全ての道が石畳で統一されており、道の脇には水路があってその上を歩けるように鉄の柵が置かれている。
よって、そこも含めて道として歩けるようになっているのだ。
そんな道を挟んで建っているのはまさに、地球におけるヨーロッパの家々を若干古くしたような建物群であった。
この街は魔人族領にあるため、人間族だけでは無く魔人族も何割か在住している。しかし、それ以外の種族は殆ど見かけず、魔人族に至っても本当に少数しか住んでいないことに加え、その他の多くは出稼ぎや冒険者として訪れているだけのようだ。
そん町並みの中、複数の男達が焦った様子で走り回っている。どうやら何か...というよりも"誰か"を探しているようであった。
「クソッ!おい、お前が暢気に見張ってたからこんなことになったんだろうが!真面目に探せ!!」
「そ、そんなこと言われても......まさかあのガキにあんな能力を使える力があるなんて聞いてませんよ...」
そんなことを言い合いながら彼らは必死になって目的の人物を探していた。どうやら彼らの下にいた子どもが逃げ出したため、その行方を追っているようである。彼らの風貌から見て、あまりいい感じは受けないが......。
「ちゃんと話してたのに聞いてなかったのはお前のせいだろうが!!あぁ...このことがもしギースさんにバレたら......よしっ!もう一度手分けして探すぞ!」
「わ、分かりました!!」
男の片方が指示を出すと、もう一人は分かれ道を左に、指示を出した男はそのまま道なりをまっすぐ進んでいった。
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ここは表通りから脇道に逸れて、さらに奥へと進んだ所にある所謂裏路地といったところだ。そこは滅多に人の出入りが無く、建物同士の隙間に出来た空間はかなり狭い。光りなど、その僅かなところから差している太陽光くらいしかないほどである。
そんな所で
「ハァ......ハァ......、に、逃げ切れた、かな?」
と、誰も聞き取れないくらいの声量でそんな独り言を呟いたのは、一人の女の子であった。
髪は薄紫色。瞳は髪と同じ色だがその濃さは真逆でかなり深い色をしている。背丈はかなり低く、中学生よりも小さい感じに見受けられた。
さらに言うと、そんな幼い身体はみすぼらしい麻の服のようなもの一枚のみで覆っており、大変貧相に見える。そして極めつけは、人間族には絶対に無いはずの大きすぎる毛の生えた耳と垂れ下がっている尻尾であった。
そんな容姿から、彼女は人間族では無いことが窺える。ましてや魔人族の特徴である魔物や魔獣のような風貌よりも、獣やその他の生き物の特徴を持っているのだ。
「うぅ...、誰か、助けてよぉ......グスッ...」
少女は若干嗚咽が混じったような声を出しながら、その場にうずくまっていた。どうやら彼女が先ほどの男達に追いかけられていた人物であるらしい。
そんな風に少女が地面に座り込んでいると、
「ったく、オルトさんも人使い荒いよなぁ。そもそも交代の時間一時間以上も遅れてきたのはあの人だろうが...。
もし時間通りに交代してたら俺だって最後まで気ぃ抜くことなく逃がさなかったのによぉ......はぁ...」
という声が曲がり角の向こうから聞こえてきた。少女はその声に聞き覚えがあり、咄嗟に近くにあったゴミ捨て用の樽に忍び込み、蓋を閉じて息を潜めていた。
中の臭いは既に捨ててあったゴミの影響もあり途轍もなく臭かったが、そんなこと一々気にかけていては見つかってしまう。そう考えた少女は我慢してその中に隠れゴミを自身の上へと乗せることで、一見人が入っているようには見えないようにした。
そんな少女に気づかずに男はその樽を軽く開けて簡単に確認すると、その樽の前を素通りしようとしていた。その瞬間少女は自身の心臓がこんなにも大きな音を出すものなのかと錯覚するくらいに...もしかしたら、この音は既に聞こえているんじゃないかと思うくらい緊迫した状態であったと言えるだろう。
そんな少女のことなど知らない男は
「それよりもここ最近、こんなに女子供ばっか攫ってどうすんだよ。労働力なら、もっと力のある男の方を今以上に多く集めた方がいいだろうに...」
と、今回のことも含めて自分がやっていることに対する疑問を浮かべていた。
「そういうわけにもいかねぇんだよなぁ、ダレンよぉ...」
「(っ!?)」
その声の主が現れたのは突然のことであった。勿論男の方は驚いたが隠れている少女にとっては、背筋が凍るほどの感情を植え付けるような声であっただろう...。
「うわぁ!!...って、ギースさんですか......もう、脅かさないでくださいよ...」
「なんだ、ずいぶんな言い草だな。この俺が、お前が逃がしたって言うガキの捜索を手伝ってんのによぉ...」
そう言ってギースと呼ばれた声の主は、かなり暗い裏路地でも漸く全体像が見える程まで近づいてきた。
長い黒髪をそのまま伸ばし放しにしており、前髪によって目が若干確認しづらくなっている。口元は髭を蓄えており、年齢的にそこそこ上の人間であることが分かる。
「そ、そうだったんですか!?す、すいませんでした、俺のせいでギースさんに迷惑をおかけしてしまって...」
「なに、そう言うなって。こうやって、捜索は無事終了するんだからな...」
そう言ってギースは少女が隠れている樽の方を見た。その言葉を聞いた瞬間少女の顔が真っ青になって、小刻みに震えだす。
"まずい、見つかった"
少女は心の中でそう感じたが、そもそも男がどうやって自分のことを見つけたのかが分からない。ならば、今はその言葉を鵜呑みにせず、先ほどと同じように息を潜めたままでいる方が得策だろうと考え直した。
「ギースさん?さっき俺もそう思ってそこのゴミ樽の中調べましたが、流石にあんな所に人が隠れるとか考えられませんよ......マジで臭かったんですから...」
「......そっか。
いやな、こうして適当なこと言えば向こうから諦めて出てくるかと思ってよ。...だが、そう上手くはいかねぇもんだな...」
そう言ってギースは薄く笑い、ゆっくりとその場を離れていく。その後ろをダレンと呼ばれた男もすぐさまついて行ったのだった。
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「っぷはあ!!ハァ、ハァ、ハァ、......し、死ぬかと思った...」
ギースとダレンが去って行きたっぷり十分後、少女は樽の中から新鮮な空気を求めその身体を外へと出した。やはりダレンが言っていたように、こんな樽の中に正常な人間なら隠れようとはしないというのは当たりで、少女も相当無理をしていたようである。
「ハァ...ハァ......ふぅ...。
これからどうしよう...。流石にいつまでも逃げ続けるわけにはいかないもんね...」
そんな独り言を呟きながら少女はその場から動き出した。少女の中では取りあえず、組合のあるところへと向かうつもりのようで、念のため先ほどギース達が去って行った方とは逆の道へと進んでいった。
が...
「おぉ、やっぱり俺の勘は当たってたかぁ...」
「なっ!?」
そんな声が少女の向かった先にある角を曲がった所で聞こえると共に、先ほど反対側へと消えていったギースが目の前に現れた。突然のことに少女は動揺しつつも、当然反対方向へと逃げようとしたのだが...
「流石ギースさんですね。マジであんな所に隠れてるとは......変なところで根性あるんだなぁ、このガキ...」
と言いながら少女の後ろから歩いてくるのは、此方も先ほどまでいたダレンであった。今の現状はまさに "回り込まれた!" という状態であった。
そんな絶望的状況の中で少女は
「クッ!」
と表情をゆがめると、その背中から自身よりも大きな翼を広げ空中へと飛んでいく。その翼を広げた姿は、まるで...
「ま、マジであのガキ"蝙蝠種"だったんですか!?」
「あぁ...。そんなことより、さっさと捕まえるぞ。亜人族だとしても所詮はガキだ...」
と、そんな彼らの話から少女は亜人族の中でも"蝙蝠種"と呼ばれる存在であることがわかる。
一般的な蝙蝠はほ乳類であるから獣人族と思われるが、この世界では蝙蝠は"その他の生き物"と分類されているのだ。
とまぁそんなことはともかくとして...
「おい!待て、このクソガキ!俺から逃げ切れると思うな!」
「ヒッ!」
といった具合に、ギースが建物の壁を蹴りながら少女の下へと迫っていた。少女は勿論さらに上へと飛んで逃げようとしたが、元来蝙蝠種は翼があるにもかかわらずその飛行能力はあまり高くない。
ましてやこんな狭いところならば逆に飛ばない方が動きやすいのだが、その少女はとにかく逃げることに必死でありそこまで考えが至っていなかったのだ。
だからこそ、
「石よ その形を奇形に変え、逃亡者を捉えよ "岩石手" !」
とギースが建物の壁に手をつくと、壁の一部がせり上がり人間の手の形をかたどったと思ったら、その石の手が空中にいた少女を捉えたのだった。
「ウグッ!は、離して!!」
「はい、分かりました......で終ったらよ?こちとらこんなこと最初からやってねぇっての...。
いいから、大人しくしてろ...」
そう言うとギースは、少女の所まで行き少女の手首と足首に枷を付け猿ぐつわを付け、手に持った袋を少女にかぶせると、少女の姿が袋へ溶けるように消えていく。
ギースはそれを確認すると、地上にいたダレンと連れだって今度こそ路地の向こうへと消えていった...。
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所変わってここはウィースの街の領主である"ディラン・リュート・レイモンド"の屋敷。その一室には四十を過ぎ、もうすぐ五十になるであろう年齢の中年男性がいた。まさしく、彼がディランその人である。
そんな彼は頭を抱え、どうやら絶賛お悩み中のようだ。
「ハァ...。...ミミ村の方ではよく分からない事件が起きて犯人は逃亡中であるし、その件であと数日以内には王都から防衛省の人間が来るというのに...街には問題があるし...。
どうすればいいのか...」
そんな独り言を呟きながらディランは、自身が座っている椅子に深く腰掛け天井を仰ぎ見た。その様子は、ここ数日間の疲れ具合を体現しているかのようである。
そんなディランがいる部屋に続く通路を歩いてくる男がいた。彼の名は"ネイサン・カトラー"。
実はこの男、スローム王国で八人しかいないとされる国認魔導士の一人である。
その理由として、このウィースはスローム王国の中でも規模が大きい街であり、それに加え王都からも近い街でもあるためこうして国認魔導士が配備されているのだ。
さてそんな彼だが、なぜこの屋敷にいるかは意外にも単純な理由である。それは単に領主であるディランへネイサンが、この屋敷に部屋を設けて欲しいと進言したからだ。
実際の所、国認魔導士という存在は国にとって貴重な人材であると同時に優遇扱いされているのだ。だからこそ、本来中級貴族であるディランに対して進言できるのがネイサンという人物なのだ。
さて、そんな人物がなぜディランの部屋に向かっているのかというと...
"ガチャッ"
「ん?...おい、ネイサン。部屋に入るときは、一度声をかけてからにしてくれと前も言っていただろう?」
「まぁまぁ、そんな細かいことは気にしないで。それより、王都からの連絡はどんな内容だったの?」
と言う問答の通りに、ネイサンはディランが王都からの連絡を受けたという報告を受け、一応国認魔導士である自分が聞いておかなければいけないと考え、こうしてディランの部屋を訪ねてきたのだ。
そんなネイサンは年齢的に見て若干若い方であろう。それもそのはずで、実年齢は二十五歳という一見それなりに上かと思われるが、それでも一般的な魔導士の年齢からすると十分若い方なのだ。
「まぁ強くは言わんが......取りあえず、その話はイズラが来てから話すことにするから、もう暫く待ってくれ...」
「そっか、じゃあ僕はその辺のお菓子でも食べてくつろいでるから早くしてね?」
そう言うとネイサンは、部屋に備え付けてある紅茶のような物を自分で作り始めた。......まぁ、口にお菓子を咥えたままというだらしない格好であるのだが...。
そんなネイサンにディランは、
「なんだ、飲み物くらい従者にやらせるのだから何もお前がやらずともいいだろうに...」
と、ネイサンが自分で用意している姿を見て声をかけてきた。実際この屋敷には十数人の従者が常におり、交代制であることを考えると全部で三十人以上は勤務しているのだ。
そんな従者は、ディランが使っている机に置いてあるようなボタンを押すと、暫くして従者の一人が向かってくるようになっている。まぁ所謂、ファミレスとかにある "すみませ~ん、注文いいですか~?" ていう奴だ。
「いや、いいよ。彼女たちが来るのを待つより、僕が自分で淹れた方が早いしね。これくらい僕でも出来るから大丈夫だよ。......はい、ディランさん」
「...そうか。っと...悪い、助かる」
ディランからの申し出を断ったネイサンは、自身が淹れた紅茶のようなものをディランにも用意した。ディランはそれを受け取ると一口飲みながら、現在机に置いてある二枚の用紙を眺めていた。片方はミミ村における"飢餓狼の群れ撃退"の事後報告書。
そして
(とうとうこの街にも来たか...... "袋猿" ...)
と、ディランはもう片方の用紙を見て眉をひそめていた。ディランの見ているものは、ここ十年の間で人間族領から各大陸にその勢力を伸ばしている大規模略奪集団、通称"袋猿"と呼ばれる犯罪組織である。
この通称は、常に奪われるのが人なら十人以上、形あるものなら倉庫まるごとといった具合に、まるで大きな袋でごっそりと奪っていったかのように感じられることからきている。
「なぁ、ネイサン。お前はここ最近話題になっている袋猿について、どう思ってる?」
「袋猿?......あぁ、あの大量略奪集団のことね。
確かに人間族側の評判を下げている連中だから、さっさとどうにかしないといけないって思ってはいるけど...。全然拠点が見つからない上に、最近だと種族が人間族だけじゃないって噂まであるし、結構難題なんじゃないかな?」
ディランから話を振られたネイサンは、自身の考えを述べると共にこの件については自身はお手上げとでも言うかのように肩を竦めていた。
実際ところ、袋猿の構成員を捕まえることが出来てもその人物すらもいつの間にか略奪され、さらにはその監視をしていた施設丸ごと奪われる例もあったのだ。
そのため、全くと言っていいほど情報が集まらないのだ。
そんなネイサンからの言葉を受けディランは、
「ハァ...。正直そんな連中この街まで来ている中、娘を外出させたくはないのだが......どうやって納得させようか...」
と、ため息を吐いた。実はディラン、娘から街に買い物へ行きたいとせがまれており危険のある街に行かせたくないという親心と、お願いを叶えてやりたいという親(バカ)心の狭間で揺れていたのだ。
......ぶっちゃけ、そのことで今の今まで頭を抱えていたと言ってもいいくらいであった...。
そんな様子のディランを見てネイサンは心の中で "頑張れ、ディランパパ!" と、若干面白がりながらも応援していた。
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"申し訳ございません、レイモンド様。少々遅れてしまいました..."
「ん?...イズラか。構わんから早く入ってこい」
ディランがネイサンが淹れてくれた飲み物を飲み終わった頃、部屋の扉あの向こうからそんな声が聞こえてきた。
ディランはその声を聞き、すぐにその人物を予想し部屋に入るよう促した。そしてその"イズラ"と呼ばれた人物は、扉を開けて部屋へと入ってきた。
「...まぁ、具体的に時間は指定していなかったから気にはしていないが......何か用事でもあったのか?」
「え、えぇ。まぁ...。先ほど末の息子に "今日は一緒に遊ぶ約束だったのに!" と泣き付かれてしまって......私事で、大変申し訳ございません...」
そう言うイズラの表情は客観的に見てかなり疲れているように見え、どうやら息子を宥めるために相当苦労したことが窺える。
そんな背景を感じ取ったディランは内心
(やはり、子供を持つと誰しも苦労するのだな...)
と共感して、イズラの申し出にとやかく言うことは無かった。寧ろこういう存在が近くにいることで、互いの悩みを零し合うことが出来ると、ディランは少しばかり嬉しかったのだ。
とまぁそんなこんなで、ディランは早速ミミ村での一件に加えさらにはこの町に"袋猿"の痕跡が出ていることを告げた。ちなみにネイサンは未だにお菓子を食い続けている。
そんなネイサンに向かってイズラは
「...ネイサン殿。流石にそんな態度でいるのは、少々礼儀知らずというものではありませんか?」
と、進言した。が、それは別の人物からの言葉により打ち消された。その人物はディランであった。
「まぁ別に構わないだろう。そいつにはまだ出て貰うほどのことでもないし、いざとなれば誰よりも頼りになるからな」
「......承知致しました...」
ディランからそう言われたイズラは、内心納得していないながらも表情には出さずディランからの話を聞くことに集中した。実はイズラという人物、この街の治安維持を多忙なディラン代わりに受け持っており、謂わばディランはイズラにとって雇用者であるのだ。
よってディランからの指示には従うようにしている。
そんなイズラに対してネイサンは、先ほどのやり取りで少しばかり気を悪くしたのか、姿勢を正しディランの方に向き直った。......お菓子は未だに摘まんでいるが.........お腹、空いてるのかな?
とまぁそんなことがあったが、いつの間にかディランの話は終り(同時にお菓子も底を尽きた...)、イズラはディランにある確認を取った。
「それで。本日私をお呼びしたのはどういった理由なのか、伺ってもよろしいですか?」
「あぁ。......まぁ、流石に感づいているとは思うが、イズラ。お前には"袋猿"の件について調べると同時に、可能であれば構成員の捕縛を命じる」
イズラからの問いかけにそう答えたディランは、若干心苦しくもあった。それは、この袋猿についてはあくまで噂の範疇なのだが、それでもこの魔人族領にある国で万が一魔人族を巻き込むことがあったら、確実に魔人族側から文句を言われると思った故である。
そんな理由から本来今日は非番であったはずのイズラを、こうして呼び寄せ仕事を与えていることにディランは少しばかり罪悪感を抱いていた。だが、
「畏まりました。では今からすぐにでも兵を分担し、街の捜索に取りかかることに致します」
といった具合に、イズラは何の躊躇いもなく今後の予定を考え始めた。しかも、本日は非番であるのにそれでも案件に取りかかってくれるようであり、ディランはそのことが嬉しかった。
「.....すまないな...」
「いえ。では私はこれから編成と指揮を執りますので、これにて失礼致します。では行くぞ、ルロイ、ガレア!」
「「はっ!」」
そう言ってイズラは、部屋の隅に待機させていた自身の部下に声をかけると、部屋から出て行った。
その後部屋に残っていたネイサンは、
「ねぇ、僕は本当に何もしなくていいの?何だったら僕の空間魔法で探してあげるけど?」
とディランに提案した。だがディランはその申し出を断った。理由としては、相手の情報が無い今はその魔法は無意味であること。もう一つは...
「お前はあまり単独行動させると、すぐどこかに消えるから任せられん」
「うわぁ~、ヒドいなぁ、それは......まぁ、美味しいお菓子屋さんがあったらフラフラ~と寄って行っちゃうけどね...」
と言うことから分かるように、ネイサンは若干精神年齢がお子様なのであまり期待出来ないのだ。
...正直、天才というのは何処か確実にオカシイ点があるから、一般的に"バカ"と紙一重にされるのかもしれない...。
そんなことを言いながらもネイサンは部屋から出て行き、後に残ったのはディランただ一人だけであった。
そんな彼は窓から外を見渡し、
(袋猿の方も気がかりだが、これからやってくる者の中にいる"ユウ・アサヒ"という人物は少しばかり会うのが楽しみだな...)
と、心の中で呟いていた。実はこの情報、ディランだけが知っており、先ほどの四人も含め誰にも話していなかった。
......というよりも、ネイサン辺りに話したら絶対にしつこく聞かれると考えていたディランは、絶対に言わないようにしていた。...ネイサンには悪いが、その事実を知っているのはディランただ一人だけであったのだ...。
そんなこんなで、只今ウィースの街は慌ただしく動き出そうとしていた。
というわけで、これからユウたちが向かう街の様子でした。
次話はユウのミミ村からの出発です。




