番外その1 とある少女の二日間
今話はセリア視点でのお送りです。
これから話すことは、私"セリア・ゲートルト"が体験した少しだけ怪しい少年と、長いようであっという間の二日間を駆け抜けた物語である。
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その日はいつもと同じように自分の任務を行っていた。
任務と言っても、強力な魔物が生息している森に一番近い村を警備することの一環で、こうして森側の入り口にを見張っているのだ。
たとえこの任務が他の騎士達からあまり進んでやるようなものでないにしても(理由はつまらないやら、面倒やら...たるんでいる!)、私個人としては村を守る重要な役割だからとても誇らしい。
(ん?誰か近づいてきているな...。しかし、あんな奴冒険者の中にいたか?...見たところかなり軽装備だし、パーティーメンバーもいない...)
私はそうして近づいてくる人物を凝視した。
通常クルスの森に行く者は冒険者か騎士のどちらかしかおらず、村人が行くことは皆無と言っていいほどだ。
だからこそ向かう際に私や他の騎士達に報告をするはずなのだが...まぁ、近づいてきたとき確認を取ればいいか...。
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「...というわけで、明らかに怪しい人物ですので私としてはこれ以上の接触は反対です」
「まぁ、普通はそうだよなぁ...」
現在私は、直接の上司であるジルト騎士隊長のいる部屋へと赴き、先ほどの不審者に関して報告している。私個人の意見を伝えると、隊長はその意見に納得しているように見えてあまり賛成とは言えない表情をしていた。
「...私の意見は間違っていますか?」
「いやいや、そういうことじゃねぇけど......流石にあんな森を抜けてきた奴を直接対話もしない状態で判断して、そのまま突き放すのも俺自身心苦しいと思ってな...」
「...そう言われましても...」
ジルト隊長の意見ももっともであるが、最悪此方に危害を加えようとする者だとしたらそう易々と受け入れるわけにはいかないと私は内心反対していた。
私が少しの間黙っていると、そんな私の心など見透かしているかのようにジルト隊長はその場にいた他の騎士達にも意見を聞いていた。
「おい、ドーマ。お前の考えとしてはどうしたらいいと思う?」
「私ですか?そうですね......個人的な意見を言えば私もセリアの意見に賛成の立場ですね...。
正直あの森を一週間も彷徨っていたという情報が本当であるならば、それだけ力を持った人物であるということですから......少々危険かもしれませんね...」
ジルト隊長はそばにいたドーマ副隊長に意見を求めており、副隊長も私と同意見だった。......良かった...。
しかしそんな中
「いやいやいや、それは流石にかわいそうでしょう、そいつが...。
少しくらいは話を聞いてからでもいいんじゃないですか?もし本当に危険な奴だったらそもそもセリアからの問いかけにそんな暢気に答えてはいないでしょうし...」
と反対意見を述べてきた人物がいた。私はその人物の発言に一部不服があったため、即座にその人物...私の兄でもある"ガルシオ・ゲートルト"に食ってかかった。
「なっ!?暢気ってどういうことですか、兄さん!!そもそm」
「ちょっと黙ってろ、セリア。俺は今、お前じゃ無くて隊長達に聞いてんだ」
私からの問いに対し兄さんは若干言葉を強めて言い放った。その様子はまさに、 "邪魔するな" という言葉が付け加えられているかのようであった。......怖くなんて無かった...ぞ...。
「それと、仕事中は名前で呼べっていっただろうが。忘れんな...」
「......申し訳ありません、ガルシオ殿。出過ぎた真似をしました...」
「あぁ、そうだな。盛大に反省しろ。......ってことで、ジルト隊長、ドーマ副隊長。俺の考えはこんな感じですが、いかがでしょう?」
私からの謝罪に対して軽く受け流したにいs...ガルシオ殿は、隊長・副隊長に改めて問いかけた。......っていうか、さっきの言い方はかなりムカついた...。だからこそ私は密かに心の中で兄さんに復讐を誓った...。
「まぁ、俺もガルシオの考えに近いことは思っていたからな......ってことで、ドーマ。悪いが、そこんところ納得してくれねぇか...?」
「...別に私は構いませんが......最大限に警戒はしてください。相手はあの森を抜けてきた者なんですから...」
兄さんからの問いかけにジルト隊長は頷き、ドーマ副隊長も少しばかり反対の雰囲気を漂わせていたが、この場においてジルト隊長の方針が決定事項なので明確な反論は言わなかった。
...が、それでもあまり奴のことは私同様警戒しているようであり、ジルト隊長にもその旨を伝えていた。
「まぁそういうことだから、セリア。悪いがその"アサヒユウ"とか言う奴だが、ここまで連れてきてくれ。......俺としては話に応じるが、くれぐれも用心しろよ...」
「...分かりました。では、連れてきますので暫しお待ちください...」
ジルト隊長からそう言われた私は、隊長達に一礼し部屋の扉を開けて一度出て行った。
どうやらジルト隊長も奴のことを怪しんでいる様子みたいだ。......良かった...。
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......結果だけ述べると、私の家(正確には私たち兄妹の家)に居候が一人増えた(監視付き)。
......何を言っているのか分からないと思うが、大丈夫だ。
"私も、どうしてこうなったか分からない!!"
「え、えっと...。セリア...さん?少しの間だけど...よろしくおねがいします...」
「...別に。監視を任されたのだから仕方なく、だ。...いいか、仕方なくだからな?そこの所、勘違いするな」
「...そうですよね......じゃあ、身体洗ってきます...」
そう言って不審者改めユウ・アサヒは若干落ち込みながら湯浴み場へと消えていったが、私としてはそんなことどうでも良かった。
こうなったのは、ジルト隊長の所まで連れてきた所までは良かったのだが、その後長くかかるかと思われた話し合いは一時間もしない内に結果が出されたことに繋がる。
...そう、それが今この現状だ...。
(はぁ...、何でよりにもよってこの家なんだ...。まぁ、ジルト隊長からの命令だし、私も引き受けたからにはしっかりとこなすつもりではいるが......はぁ...)
そんなことを内心呟きながら先ほど兄さんに手渡されたユウの衣服を洗濯しに向かった。私としては奴自身に洗わせればいいと進言したのだが...
「え~?セリアったらそれくらい監視役として当たり前のことじゃないか~~~」
「...ですが、兄さん...」
「い・い・か・ら...さ?頼んだぞ、"セリア"?」
「...分かりましたよ...」
といった具合に、兄さんのしゃべり方が有無を言わせない感じであったため渋々了承した。......あの顔は絶っっっ対!面白がってるに決まってる!!
......今度またからかうことしたら、本当に後悔させてやる...。
「......そう思いながらもこうして洗っているのは、私の性格のせいなのだろうか...?...はぁ...」
私はそんな独り言を呟きながらも、奴の衣服を抱え洗い場へと向かっていた。......だがこの後、私にとって一番消し去りたい光景を目の当たりにすることになるのだが、そのときの私は知る由も無かった。
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「...というわけで、主がお一人で本を読んでいる間ボクがこうしてここにいるというわけです!」
「なるほど!」
「...まぁ、私も納得したからいいですけど...」
現在は日が落ちて夜になっている。
ユウを冒険組合まで連れて行った後に、話の流れ的に兄さんのことを口撃する機会があったのでついでに小一時間ほどやっていたらユウが戻ってきたので、そのまま家まで帰宅してきたのだ。
そして今目の前にいるのは、ジルト隊長達やユウ自身から聞いた魔具精霊の"リン"という精霊であった。
「...さて、自己紹介が終ったところで......セリア!」
「へっ?な、なんだ?いきなり......」
突如そのリンから名前を呼ばれた私は一瞬変な声が出てしまったが、すぐさま平常通りに戻りリンの話を聞くことにした。......あまりいい予感はしないが...。
「実際のところセリアとしては、主のことはどう思っているのですか!?」
「......どういう意味だ...?」
そんな突拍子もないことを突然聞いてきたリンに私は、言葉通りどういう意味なのか分からなかった。
リンの言葉をそのまま解釈すると、ユウの現在の印象と言うことだろうか?それならば本人にも伝えたようにもうそこまで警戒してはいないし、ある程度行動に関しては信用してもいいかもしれないくらいではある。
そんな内容をリンに伝えると、
「そうですか......ということは、主のことを狙っているわけではないんですね?」
「?...狙っているとはどういうことだ?」
と、よく分からないことを言ってきたので私は再度リンに問いかけた。先ほどからどうも私の考えていることとリンの考えていることが食い違っているように思える...。
「勿論!主はボクといずれ結ばれる運命ですからね!それなのにセリアが主に好意を抱いている場合、諦めて貰う必要がありますので、念のために聞いておいたんですよ」
「好意?私が...ユウに............っ///!?ば、バカなことを言うな!誰があんな得体の知れない奴に...そ、その......恋するか!」
リンの考えが漸く分かった私は、自身でも若干過剰すぎ居るのではないかと思うくらいに反応してしまっていた。......実際ところユウの人柄自体はそこまで嫌いではないし、話していていい奴であることは伝わってくる。
が、それが果たして恋愛なのかと問われれば否定するくらいによく分からなかった...。
私がそんな風に考えていると
「そうかぁ~?俺の目線からだと、随分ユウのことが気になっていると見た!そこんとこどうなんだぁ~、セリアぁ~?」
と、兄さんが凄まじく鬱陶しいしゃべり方で聞いてきた。......どうやらまだ反省していないようですねぇ~?
だからこそ私は、そんな兄さんからの言葉をリンが真に受けないように
「リン。そこの"愚"から発せられた文言は一切合切事実無根の内容なので気にしないでくれるとありがたい。というよりも、こんな輩の話は内容の三割も聞いていれば十分だ」
と、そこでへらへら笑っている"モノ"を睨みながらリンに伝えた。
「へぇ~、そうですかぁ~......で、実際の所どうなんですか?」
「いや、どうもこうも今述べたように私は何とも...」
リンに伝えたところ、納得してくれたようにも見えたのだがどうやらまた疑い始めたらしい。...全く、さっきの兄さんの発言がなければ終っていたものを...。
そんなことを私が考えているとリンが
「まぁ、さっきのセリアの様子から素直に話してくれるとは思いませんから......こうなったら、身体に聞くしかありませんねぇ~?」
と言いつつ薄く笑うと、私目がけて突っ込んできたのだ。
私はギリギリでそれを躱し、すぐさまその場から離れるとリンに
「い、いきなり何をする!?そ、それに.....身体に聞くとは...その...どういう意味だ!」
と、少々大きめの声を張り上げながら問いかけた。万が一私の予想通りなら......正直何としてでも逃げ切りたい...。
「へ?単にくすぐるだけですよ?」
「なんだ、そんなことk......いや待て、なぜくすぐるのかを聞いているのだが...」
リンからの返答があまりにも簡潔すぎて、一瞬なんでもないことかと思ったが、よくよく考えてみるとその行動そのものが突飛すぎることに気づき、自身の判断に待ったをかけた。......危なかった...。
「まぁ理由としては、限界まで笑えば脱力して本音を吐くかと思いまして......てなわけで、大人しく捕まってください!」
「っ!?全力でお断りだ!!」
リンが再び此方に向かってくるのを再び躱し、私はすぐさま二階にいるユウに助けを求めに行った。......流石にあんな状態のリンに話が通じるとは思えないし、ユウが言えばどうにかしてくれるはずだ。
だからこそユウのいる部屋まで行ったが、その行動が全く意味を成さなかったのはかなり虚しかった...。
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「いや~、今回の件は思ってたよりも被害が少なくて良かったよなぁ...」
「あぁ、あんだけの飢餓狼の群れに加えて新手まで出てきたときは正直うんざりしたが、あの兄ちゃんが殆ど倒してくれたみたいだったから、後から出てきた奴らくらいしか相手しなかったよなぁ...」
現在は飢餓狼の撃退に加えて、その後に現れた人物による一騒動も解決した日の夜。ここ冒険組合の前では、組合が依頼に関わった全員に対し労いの意味も込めて食事を振る舞っている。
まぁこの料理の殆どの準備は、国から送られてきた私たち騎士への報酬の内から出ているというのは冒険者達には秘密だ。......正直、村を守るはずの騎士がこんな事態になるまで事件を放置していたのが原因でもあるため、 "こうでもしないと面目が立たない" というのがジルト隊長からの言いつけであった。
当然そんな隊長の考えに異議申し立てをする者はいなかった......というよりも、ユウのお陰で今回の件を収束できたと言っても過言ではないのだから、各人思うところはあったのだろう。
さてそんな食事を取っている人の中を私は、シルビア姉さんからの伝言を届けるべくジルト隊長を探していた。
そんな中ユウを見つけた私はユウの近くに向かうと、その隣にジルト隊長がいたので本来の目的を告げると隊長は組合の中へと消えていった。しかし隊長は去り際に、ユウに対し若干気がかりなことを言っていたので私がユウに問いかけると...
「実は俺、早くても明後日にはここから出ようと思うんだ...」
と返してきた。
なんでも今回の件は全部自分のせいだというのだ。自分がこの世界にとって異分子であることで、その自分を排除するためにあのレビアとか言う人物は、飢餓狼の群れやその他の魔物や魔獣を使役して今回の騒動を起こしたらしい。
だから村に迷惑をかけないように早く村から離れようと思ったようだ。
その話を聞いて私の中では
(ならばまた追い返せばいいだけではないか?見たところあいつよりユウの方が強いように見えるし、そんな時こそ私たちが協力するのに...)
と若干ユウの言葉に疑問を抱いていた。
確かにユウがいるせいで襲われたのかもしれないが、そのせいで私たちがユウのことを邪険に扱うわけがない。少なくとも私はそのつもりであった。
だが、ユウが私たちのことを思っての決断をしてくれたのだから、その思いを揺らがせるような発言は控えて私はユウの出立するという言葉を受け止める。だからこそ、
「それでもまぁ...今では私たちの中で気軽に話せる"友"と呼べる存在でもあるんだ。この二日間で良くもまぁここまでなれたものだ...」
といった言葉によってこの二日間を思い出し、少しだけしんみりとした空気を紛らわせることしかできなかった...。その言葉を聞いていたユウは少々気難しい顔をしていた。......ちょ、ちょっと馴れ馴れしかったか...?
「?なんだ、私と友達では、嫌、なのか...?」
「そんなこと無いよ。俺としても女の子とこうして話すのは少し緊張するけど、凄く楽しいし嬉しいからさ。
寧ろ、セリアの方が嫌なんじゃないかって、その方が心配なくらいだよ...」
私が少しだけ不安そうに尋ねると、ユウはすぐさま表情をいつも通りにして微笑みながらそう言った。......良かった...。正直自分からこうした話をするのは皆無だったからな。......間違ってたらと考えるだけで顔が熱くなる...。
「...そうか。
ならばいつまた会えるか分からないが、どんなときでもユウと私は友人同士だ!」
「うん。俺の方からもよろしくね、セリア!」
そう言って互いに握手を交わすと、ユウの顔をが徐々にその色を真っ赤に染めていった。...はて?一体どうしたのだろう?もしかして疲れが溜まっていてそれが原因で体調を崩したのだろうか...。
「どうしたユウ?そんなに顔を赤らめt」
「い、いや~~~!そろそろ俺は部屋に戻って寝ることにするよ!あ、あーーーー!今日は疲れたなぁ!さっさと身体洗って糞して寝るかぁ!」
私が心配してユウのに近寄るとユウはさらに表情を赤くして行き、突然早口でそんなことを言い終えると、とんでもない速さで去って行った。
私はそんなすぐに見えなくなったユウの後ろ姿を呆然とした様子で眺めていたが、ふと先ほどの握手の記憶が蘇ってきた。
(ユウの手、あまり男らしい手ではないように見えたが実際に触ってみるととてもがっしりしていたな...。とても、たくましくて......って!何を考えているんだ、私は!)
そんな脳内で一人自分の考えに突っ込んでいたが次第に冷静になると、そこまで嫌なものではなかったようにも感じ始めた。
あんなに男性がそばにいたのは正直言って経験がないが、存外悪くなかった......というより、かなり居心地が良かったようにも思える。
(もしかしたら、こうした気持ちがゆくゆくは "恋愛感情" というものに発展していくのだろうか...?
まぁ、ユウと私では絶対にあり得んな。そもそも友人同士にそんなことまずないし......な?)
私はそう自身に結論づけると、食事が並んでいる方へと向かった。......今夜の監視任務は止めておこう...。
正直書いてて "キャラぶれぶれかなぁ~?" と考えましたが、気にしないことにしました。
そして、前回久しぶりの投稿をしたら思った以上に呼んでくださっている人がいることに驚くと共に、嬉しかったです。
こんなド素人の妄想作品を読んでくださる皆様に感謝しつつ、ペースはこのままで気が向いたら投稿という形が暫く続きます。では次話でまた会いましょう~。




