No.035 決意と新友
かなり間が空いてしまいましたが、投稿します。
前回の答え『スローム王国の中心部』
セリアとの話し合いが終った頃。既に時刻は夜。
今夜は飢餓狼の群れを討伐してくれた冒険者や騎士一同に、組合からねぎらいと感謝の意味も込めて豪勢な食事が振る舞われていた。メニューは、
『豚蛙の丸焼き』
『火の野草と地駆鶏の香草炒め』
『大根と弾け豆(ポッピン)のスープ』
等の、様々な料理が組合前の広場に設置されたテーブルの上に出されていた。冒険者や騎士達は料理が出てくるたびに我先にと掻っ攫っていき、すぐさまその数を減らしていった。...まぁ、その量もすぐに追加が来て暫くは無くならないとは思うが。
ユウもその品々を見てかなり興味津々であった。実はユウ自身、食うことと寝ることに関しては最大限の欲求を隠さず表に出す性格で、日本にいたときもバイト代は殆ど食費にしか使わないくらいには食うことが好きであった。
だからこそ、今現在見たことのない食材で調理されたものが出てきたことに興奮していたのだ。
そんなユウに
「おい、ユウ。見てるだけじゃ腹は膨れねぇぞ?...ほらよ」
と、出されていた料理の内"豚蛙の丸焼き"を切り取って持ってきた人物がいた。ユウはその人物を確認すると、
「?...あぁ、ありがとうございます、ジルトさん...」
と言って、ジルトが持ってきてくれた皿を受け取った。ユウはその皿に乗っている肉にかじりついた。
"パリッ"
そんな香ばしく焼き上がった表面の皮が破られる音が鳴ったと思ったら、噛んだ所から油が次々に溢れてくる。ユウはそれを零さないように必死になって吸い取ると、意外にもあっさりとした油の先にかなり身が引き締まった肉があった。
豚肉のように柔らかいように感じるが、対して若干歯ごたえのある食感は今まで食べた肉料理には無く、さらには全く臭みが無い、油もしつこくないため鶏肉のようにも感じていた。
何より...
「うめぇ......」
と、つい独り言が漏れるくらいにその料理は美味しかったのだ。
それもそのはず。この猪蛙の肉は所謂品種改良のような方法により、豚肉の良い面と鶏のササミに近い食感である蛙肉のあっさりとして歯ごたえがある面を掛け合わせたものなのだ。
ユウの満足そうな表情を見てジルトは、自身も持ってきた猪蛙肉の串焼きをかじってその味に満足していた。そんな中、
「...ユウ、今日はありがとよ。
今回の件、ザルバのことや飢餓狼の群れのことはお前の尽力が大きかった。お陰で死傷者が殆ど出なかったからな」
と、ジルトが賑やかに騒ぎまくっている冒険者や騎士達の方を見ながら、ユウにそんな言葉を投げかけていた。
どうやらジルトは、セリアにユウが伝えたことをセリアからかなり大まかに伝えられたらしく、方法についてはともかくユウがやってくれたことは聞いていたらしい。
そんなジルトの言葉を聞きユウは、
「ハハハ...、まぁ、ザルバさんの件や群れの殲滅に関しては偶々解決方法を俺が持ってたってだけですから。......ですが、死傷者が"殆ど"出なかったというのは......悔しいです...」
と、どうやって助けたかについてはセリアに話した内容を伝えずはぐらかし、今回の件で亡くなったと思われるアリザ達のパーティーの三人に関してその表情を暗くしていた。
そんなユウに
「確かにそうだが、最悪飢餓狼の群れやあのレビアとか言う奴に攻め込まれたら、村そのものが甚大な被害を受けちまってたからな。これでも運が良かったくらいだ」
と、ジルトはユウの言葉に付け加えるように今回の事件に関して自身の考えを述べた。ジルト本人としては、ユウがこの件に協力してくれたお陰でこうして殆どの人々が無事に明日を迎えられるのだ。
そんなジルトからの返しに
「っ、そ、それでも......死んでしまった事実は取り消せません...」
と、苦虫をかみつぶしたような表情をユウは変えることがなかった。
「分かってるさ。
あの三人、それとザルバが犠牲になった上でのこの現状は決して素直に喜べるもんじゃねぇ...。これは、俺たち騎士の責任だ。だから...お前がそこまで悔やむことじゃねぇ...」
「......そうでしょうか...」
ユウの言葉にそんな返しをしたジルトに、ユウは今回の件に関して誰にも打ち明けられない理由を抱えていた。それは、あのレビアという人物が言っていた"この世界の異分子"という単語と、この騒動を起こした目的がユウの排除であったからだ。
だからこそユウは、内心
(確かに、あれだけの群れやあのレビアとか言う奴をどうにかしたのは俺自身だけど、あいつの言う通り俺がこの場所に来たからこんな事態が引き起こされたんだよな.........よしっ!)
と考えており、何か決心するとジルトに向き合って真剣な表情になった。どうやら、何か重要なことを伝えるようだ。
「ジルトさん...」
「ん?どうした?」
「はい、実は......俺はこの村に二週間滞在するつもりでしたが、早ければ明日にでも発つつもりです」
そう言い切ったユウの瞳は"絶対"といった決意が色濃く表れており、ジルトは突然そんなことを言ってきたユウに疑問を抱くと共に、何故そんなことに対してそこまで気持ちを込めるのか気になっていた。
「別に構わないが......なぜ、そんなにも悲しそうな表情をしているんだ?」
「...いえ、特に話すほどのことでも無いですよ...。
ただ、そうして方がいいと俺が思ったので言っただけです...」
ジルトからそんな疑問を投げかけられたユウだったが、理由を話せばユウがどうして狙われているかという点から異世界召喚という言葉が出てくる恐れがあるため、安易には話せないのだ。
だからこそこうした言い回ししか思いつかず、ジルトには申し訳ない気持ちでいるユウであった。
そんな空気の中ユウとジルトのいる所へ誰かがやってくるようであった。
「なんだユウ、こんな所にいたの...って、ジルト隊長...此方におられたのですか...」
「あれ、セリア?どうしたの?」
「あ?どうした、いきなり...」
ユウとジルトがその人物に視線を向けると、その声の正体を認識しユウがその人物 "セリア" と呼んだ。当然ジルトも分かっており、セリアがこんな所に来た理由を問いかけた。
実際ジルトもセリアや他の騎士達と同じ所で食事を取っていたのだが、ユウの様子見とお礼の言葉を述べるためここに来ていたのだった。
「いえ、私としてはシルビアさんからの伝言をジルト隊長にお伝えするために探していたのですが...丁度良かったみたいですね...。
ジルト隊長...なんでもウィースの領主様からの今回の件について詳しい情報が欲しいとの連絡がありまして、出来れば代わって欲しいとのことなのですが...。
今お時間よろしいですか?」
そんなジルトからの問いかけに答えると共に、セリアは本来の目的であったジルトの捜索が意外と早く終ったことに若干呆気としていた。とまぁ、そのことは置いておいて...。
セリアからシルビアの伝言を聞き、 「ったく、事情は数時間前にも簡単に説明しただろうが......はぁ...」 と、少しばかり肩を竦めながら冒険組合の方に向かっていった......が、
「あぁ......おい、ユウ!」
と、少しばかり離れたところから少々大きめの声を出してユウに呼びかけた。どうやら、今その瞬間思いついたようで戻るのが面倒なのかその場で話し始めた。
「はい?なんですか!」
「もし出発するなら明日じゃ無く、明後日にしとけ!
その日ならウィースの街に向かう定期便が出るはずだから、もし徒歩で向かうつもりだったんならそれでも利用するといい!徒歩で行くよりだいぶ早く着く!」
そう言ってジルトは、今度こそ冒険組合の扉を開けて中へと消えていった。恐らく、中にシルビアがいてそこでその領主様とやらに連絡を引き継ぐのだろう。
そう感じたユウは、先ほどのジルトの言葉から疑問を抱いているであろうセリアに向き直った。その予想は正しく、
「...ユウ、確かお前は後二週間弱は居るのではなかったのか?」
とまぁ、ユウの想定内の問いかけをセリアはしてきた。ユウはその問いかけに特に戸惑うことも無く頷く。
「...別にユウの考えに関して私から言うことは無いが......理由は教えては貰えないのか?」
「う~ん、そうだねぇ......たぶんセリアも聞いてるから別にいいけど、だいぶ大まかに話すよ?それでもいい?」
「ああ、それでも構わない。続けてくれ」
ユウからの確認に対し素直に肯定の意思を示すセリアを見てユウは、掻い摘まんで理由を説明した。その内容は......
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恐らくあのレビアという人物はセリアも聞いたようにユウを排除するためこんな事態を引き起こしたと考えられるため、ここにいるとまた同じことを引き起こしてしまうかもしれないと思ったこと。
もう一つはレビアとの決着をつけるために、あちこちを探し回って情報を集めたいということ。
以上の理由からユウは、できる限り早い段階でこの村を発つことを決めていたのだ。
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そう話し終えたユウだったが、レビアが言っていた"召喚者"という単語に関してはセリアであっても安易に話せなくて、その部分を含めた都合の悪いところは伏せたようだ。
だからこそ、そんなユウから理由を聞いたセリアは、
「何もそこまですることは無いだろう。奴が来たら今度は私たちがユウに協力する番だ。
あいつが言っていた "この世界にとって異分子" とかいう文言に関しては、私としても納得していないんだ...。とても許せる言葉ではない...」
と、 "当然だ" と言わんばかりに堂々と言ってのけた。
そんなセリアの言葉を聞いてユウ自身は、それがとても心に響きセリアに対してお礼を言おうとした...が、
「それでも確かに、最初はこの村にとって不穏分子だし胡散臭いし、絶対に近づけたくない奴ではあったがな!」
と、セリアが一切包み隠さず本心をぶちまけたため "お礼を言う" という思考回路が強制的にシャットダウンされた。
まぁ、セリア自身ユウからの感謝の言葉を期待して言ったわけでもないし、ユウも何でかんで言うべき事柄では無いのだが、
(...それでも、もう少しくらいは気遣いってもんを見せろよ......)
と、セリアには届かぬ愚痴を内心呟いていた。比較的セリアは己の感情に嘘はつかず、常に自身の判断に従う性格をしているためこんな結果になったのだ。
ユウがセリアからの言葉に固まっていると、
「それでもまぁ...今では私たちの中で気軽に話せる"友"と呼べる存在でもあるんだ。この二日間で良くもまぁここまでなれたものだ...」
というセリアからの言葉によって、ユウの固まっていた表情は徐々に微笑ましいものへと変わっていったのだった。
「(そっか...友達か...)」
「?なんだ、私と友達では、嫌、なのか...?」
ユウがセリアからの言葉を受けて何も返してこないことを心配したのか、セリアが若干不安げにユウへと確認の意思も込めて問いかけてきた。
実際セリアとしては、今まで騎士になるための人生を送ってきてそこまで親しくなれた人間は多い方では無かった。
ガルシオのお陰もあってか、そこまで人付き合いに不便を感じたことは無いが、生来の性格でもし一人だけならば今以上に親しげにはほど遠いものであったと考えられる。
よってこうして仕事以外にここまで話が出来る存在がいるというのは、セリア自身嬉しいことなのであった。
そんなセリアの心情を、同じような気持ちを抱いたことのあるユウは何となく察し
「そんなこと無いよ。俺としても女の子とこうして話すのは少し緊張するけど、凄く楽しいし嬉しいからさ。
寧ろ、セリアの方が嫌なんじゃないかって、その方が心配なくらいだよ...」
と、できる限り相手に負担をかけないように、自分も不安なこと・嬉しいことを伝えた。
ユウ自身あまりこうした気遣いが得意な方では無いが、女性に対するものではなく人に対するものと考えることで照れを無くし平常通りの受け答えに成功したのだ。
「...そうか。
ならばいつまた会えるか分からないが、どんなときでもユウと私は友人同士だ!」
「うん。俺の方からもよろしくね、セリア!」
そんな言葉を交わしユウとセリアは互いの手を握り合い、所謂 "握手" をしてその気持ちを確かめ合った。ユウはその握った手を見つめ、
(や、柔らけ~~~~!!リーズやリンの頭を撫でることもあったからある程度は慣れてると思ったけど......こうして見るとあの二人が特別なだけで、セリアとかには緊張するってーーーーの!)
と、内心もやもやが止まらなかった。......何処まで行っても所詮、純情は純情だということなのだろうか......いや、そうなのだろうことをユウの表情が物語っていた...。
「どうしたユウ?そんなに顔を赤らめt」
「い、いや~~~!そろそろ俺は部屋に戻って寝ることにするよ!あ、あーーーー!今日は疲れたなぁ!さっさと身体洗って糞して寝るかぁ!」
セリアから自身の顔を覗かれたユウは、セリアの顔を直視できずにその場を去り、ゲートルト家へと戻っていった。
後に残されたセリアは去って行ったユウの反応を顧みてその理由に思考が至ると同時、自身もその顔を若干赤く染め、今日だけは監視という役目は置いておいて別々の部屋で寝ることを決めたらしい。
.....中々に初な二人であった...。
当然そんな二人の間を黙ってユウの視界を通してみていたリンはというと...
(...セリア...明日が貴様の "命日" だ。...覚悟しろ......)
と、内心に怒りというか嫉妬の炎を燃え上がらせて、静かにその感情を蓄えていた。
どうやら明日は『セリアvsリン』というリンだけが一方的に勝つ戦いが繰り広げられるようだ......が、当の本人であるセリアは現在そんなこと知る由も無かった...。
当然ユウに至っては、起こっても知ることは絶対にあり得ないだろう......なんだかなぁ...。
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セリアとユウが食事をしながら談笑している中、そんな二人の方を見ながら僅かにその表情を微笑みへと変えている人物がいた。
「へぇ~、"やっぱり"セリアさんと随分仲がいいんだなぁ、彼。それにしても今日の活躍はかなりいいものだったねぇ...。
それなら...あれだけの力......十分、利用価値はありそうだね......」
そう誰にも聞き取れないくらいの声量でそんなことを呟いた人物の目は僅かに光り、その顔は微笑みと言うよりもまるで獲物を見つけた狩人のように楽しそうな笑みを浮かべていた。
「それにしても、話を盗み聞きした限りウィースに早くとも明後日には旅立つみたいだね...。
じゃあこっちも準備しておこうかな...」
そう言ってその人物は再び食事を味わい始めた。その口に運ばれた肉は、絶対に逃れられない捕食者に捉えられ逃げ場の無い状態で "バクッ" と、飲み込まれていった。
それはまるで、その人物に目を付けられたユウのようにも見えたが......気のせいなのだろうか...。
季節は秋。地球でいうところの現在地は南半球であることから、徐々に暖かくなる季節ではあるがそれでも日が落ちてからは少々肌寒い。
少しばかり冷たい風が吹く中そんな不穏な気配を漂わせ、こうしてユウのミミ村で過ごす日々が徐々に終わりを迎えるのだった。
さぁ、ユウの目指す次なる目的地は"ウィース"である。
しかしユウはそこで、この世界が地球の辿ってきた歴史とそんなに変わらないと言うことを知ることになる。......それも、嫌な共通点というものによって...。
といった具合に、何話か閑話を挟んで新章へと入りますが、更新はかなり遅れます。
それと今後は問題も気が向いたら載せていくことにしました。勝手で申し訳ない...。
では。




