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異常なリモコン片手に放浪旅 ~主人公は主観的で感情的~  作者: アヤミ ナズ
魔人族の大陸:スローム王国ミミ村編
35/64

No.033 遠隔操作と撃退

前回の答え『生物以外(体内器官は別)』



 "「なぁ...... "召喚者" ?」"



 そう言った人物は、全身を黒い体毛で覆っている魔獣の背に跨がっていた。そして、自身も同じように身体の殆どを黒い体毛で覆い、口には異様に発達した犬歯が生えている。

 そんな人間離れした容姿をしているのに、身体の構造は人間に近いものになっている。そんな純粋な人間族アビスには見えない人物に対し、ユウは



「貴方は誰ですか?......それに、召喚者とは...?」



と問いかけた。ユウとしてはザルバのことを優先したかったが、目の前に現れた人物が自身のことについて何か知っているような様子であったため、放ってはおけなかったのだ。



「あ?...まぁ、教えておいてもいいか...。 

 俺の名前はレビア。...恍けたって無駄だぞ。お前が召喚者だってことは既に知っている。だからこそこうして大規模な群れでこの付近を探してたんだよ...」

「なっ!?...ということは、今回の事態は全部俺の...せい...」



 ユウはレビアと名乗った人物から、今回のこの規模な飢餓狼の群れが偶然ではなく、自分がここに来てしまったことで起きた必然であることを知って、驚愕すると同時に納得していた。


 そんなユウをよそにレビアは続ける。



「ったく、それなのに漸く見つけたと思ったら俺の魔獣達をここまで蹂躙してくれちゃって...。その上、寄生蜘蛛パラパイダーで操ってた"刃物蟻カッティングアント)"達まで倒したみてぇだしな...」

「!?...もしかして...そこにいるザルバさんも、貴方の仕業ですか...?」



 レビアからさらに驚きの真実を聞きユウは、現在最大の難点であるザルバのことが今目の前にいる人物によって引き起こされたことを知り、愕然とした。なぜなら、そんな非人道的な行動を平気でやったレビアに対し一種の怒りが湧いたからだ。

 だがそれも



「?...まぁその男には悪いけど...そもそもお前がこの世界に来なければ、わざわざこんな事態まで起こすことはなかったんだよ。

 俺としても悪いとは思ったけど、それでもてめぇはこの世界にとっては"異分子"だ。早急に始末しねぇとこの世界としては困るんだ」



というレビアからの返答によって、別の感情となった。それは、"困惑" と "罪悪感"。なぜそんな感情がユウに生まれたかというと、前者は当然この世界における自身の存在がそんな影響を及ぼすことに対して。


 そして後者は、



(そういうことか......俺がこんな所に来なければ、ガルシオは怪我をせずに済んだし、ザルバさんは......)



と、ユウが考えているとおり、今回の事態は自身の行動の結果も関わっていることを知り、深い自責の念に囚われていたのだった。そんなユウを見てレビアは心底悲しそうな目を向け、



「そんなわけで俺としてもかなり心苦しいが......死んでくれ。なに、お前が死んでくれたらその男は解放するし、この地からも出ていくさ」



と語りかけ、その手に持った剣により、ユウの命を刈り取ろうとしていた。そんな中ユウは、


 "自分なんかの命でここにいる皆が助かるなら..."


とレビアの言葉が、まるで自身の罪を許してくれているかのように聞こえてきた。だからこそユウは、自身に迫ってきている"死"を受け入れていたのだ。


 そしてその刃がユウへと届きユウは...




 "ガンッ!"





 死ななかった。その理由は、ユウが切られる瞬間、ある人物達の声が聞こえてきて、その事態を防いだのだ。

 その人物達とは



「あるじーーーーーー!!」

「ユウーーーーーー!!」



と迫ってきた刃から守るように飛び出してきた、"リン"と"セリア"だった。

 リンはユウから貰った魔力で結界を張り、セリアはユウの身体を抱えその場を離脱することでユウを守ったのだ。その行動はまさに、"間一髪"であった。





 突然の二人の乱入にレビアは、その表情を忌々しいものを見る目に変え、リンとセリアに対して向けていた。



「......てめぇら、よくもやってくれたな。ったく、漸く任務を果たせるところを邪魔しやがって...」

「ふんっ!そんなの知ったこっちゃないです!

 それより、ボクが主に話しかけようとしても繋がりにくいようにしてくれちゃって、ボクとしてはメチャクチャ怒ってるんですからね!!」

「リンの言う通りだ。

 全く...こちらがユウに呼びかけても、まるで声が聞こえていない様子だったから近寄ってみたところ、こんなことになるとは...。だが......本当、間に合って良かった...」



 そんなそれぞれの言葉を言っている中、ユウだけはなにが起こったか分かっていないようであり、セリアに問いかけた。



「...ねぇ、セリア。なんで俺が切られるのを邪魔したの?俺はこの世界にとって、いちゃいけない存在なんだ。だから早く死ななきゃ...」

「...まだ魔法の効果が残っているのか......仕方ない...」



 そんな様子のユウを見てセリアは、自身の右手を握りしめ拳を作り、そのまま...



 "ガンッ!"



と、音が鳴りそうな勢いでユウの頬を殴った(というか実際、鳴り響いたが...)。...いやもうホント、マジで容赦なく...。

 そんな攻撃にユウは......まぁ流石に全くの無防備なら、仕方ないというか...避けられないというか...



いでぇーーーーーーーー!!」



と、目尻に涙を溜めていた。...セリアは女性でありながらも、騎士の名称を持っているだけあってかなりの実力はある。だからこそその拳は、ユウにそんな絶叫をさせるだけの威力を持っていた。


 その一撃にユウが多少大げさに見えそうなくらい痛がっていると、セリアが



「全く......ほら、早く目を覚ませ。いつまでもそんな馬鹿げた思考に陥るな。

 ...少なくとも、そこにいる精霊は貴様のことを大事に思っているし、何より私もその一人だ。だから、そんなことは...冗談でも言わないでくれ...」



と、真剣な表情で伝えてきた。......顔が若干真っ赤であることを除けば...。


 だがそんなセリアからの思い(物理)があったからこそ、漸くユウは通常の思考へと戻れたのだった。



「...ありがとう、セリア。...うん、もう大丈夫。もう、何ともなさそうだ...」

「そっか...。それにしても、さっきのは何だったんだ...」



 ユウからの返答に、ユウが既に先ほどのおかしな状態から戻ったのを確認したセリアは、先ほどのユウの状態について考えていた。


 実を言うと先ほどのユウは、レビアからの魔法の行使を受けていたようで、セリア、さらには自身の体内にいるリンからの言葉すら聞こえていなかったのだ。その魔法は...



「主、大丈夫ですか?」

「あぁ...リンもありがとうな。ホント、助かった...」

「いえいえ♪これも主の所有物であるボクの役目ですから!......どうやら先ほどの主は、あの犬頭から精神魔法の "暗示の囁き(サジェスウィスパー)" を使われていたみたいですね...」



とリンは、ユウからの言葉にいつもの感じで返しながらも、先ほどのユウがやられた魔法の正体と、やった犯人を特定した。その言葉を聞いたユウは、今までリンに向けていた視線をレビアへと向けた。

 だがその瞳には、先ほどのように優しい色は見えず、唯々黒い怒りが見えていた。


 そんなユウからの視線を受けたレビアは、



「クソッ...予定通りとは行かなかったか...。だけどよ、こっちもこれで終るわけねぇっての!」



と言うと、自身の懐からなにやら丸い石のようなものを取り出し、それを地面に向かって放ると石は形を変えていって、ドデカい箱になった。...まぁ、箱と言うよりも倉庫の方が合っているくらいの大きさだが...。


 とまぁ、そんな大きさの物体が出てきたと思ったら、突然箱の正面がガレージのように開き、中から



"キシャアァアアアアアア!!"  "ギャギャギャアァアアアアア!!"  "ガアァアアアアアアア!!"



と奇声を上げながら、この森に住む様々な魔物や魔獣が飛び出してきた。

 それを確認したユウは咄嗟に魔法で焼き尽くそうとしたが、



 "ヒュッ!"



という音と共に魔物目がけて飛んできた魔力を纏った矢が、先頭にいた刃物蟻に命中し、その身体を吹き飛ばした。その攻撃をしてきた人物は、



「ハァ、ハァ...大丈夫、ですか...皆さん!」



と、若干息切れしていそうな感じで問いかけてきたサーシャであった。さらに、



「オラァアアア!!」

「はぁっ!」



というかけ声と共に迫ってきていた緑大猩グリーンフット々相手へ、両手剣と双剣を振りかぶりぶち当てたのは、前者がジルトで後者がベイジであった。

 それに続く形でクックやケインが加勢しようとしており、ダイマやマインは魔法を、ディスパーは狙撃によってその後ろから援護をしている。どうやら、その他のメンバーも先ほどのユウとレビアの様子を見ており、新手の敵が来たと理解したようだ。


 そんな光景を見たユウは、現れた魔物・魔獣の群れはジルト達に殆ど任せ、自身はレビアに向き合った。...がその前に、



「殺す...まずは...セリアから...!」



と叫んで、セリアへと迫っているザルバをどうにかしようとした。実際、レビアを倒したところでザルバが元に戻る保証などない...というか、さっきの行動を加味するとあんな奴信用できないと考えていたユウは、



「リン。...ちょっといいか?」



と、リンのことを呼んだ。その理由としては、リモコンの能力の内、今のザルバに唯一有効だと思われるものが果たして、本当にユウの予想通りなのか確認するためであった。



「はい、何でしょう主?」

「あぁ、...確か"遠隔操作リモコン"は生物以外ならなんでもいいんだよな?...たとえそれが、体内器官だとしても...」

「?ええ、多少集中力は必要ですが、生物本体でなければ可能です。が、なぜそれを今......はっ!...なるほど...」



 ユウからそんな問いかけを受けたリンは、最初その意味分かっていなかった。が、すぐにその言葉の意味を理解し、自身の姿をリモコンへと変えた。

 だがユウとしては、その能力を使うことに躊躇いを感じていた。なぜならば、その方法は相手と同じ "非人道的" なものであると理解していたからだった。


 そんな中、セリアに対してザルバが攻撃を仕掛けていた。



「っ!ザルバ殿!なぜそのような行動をしているのですか!操られているのなら、早く目を覚ましてください!」

「俺はお前を殺"す"!お前なんか"嫌い"だ!」



 そう言ってセリアに迫っていたザルバからは、殆ど感情が見えないにしても、その言葉の節々でまるで棒読みのような言葉遣いになっていた。おそらくそれが、寄生蜘蛛によって思考が上書きされている表れなのだろう。


 本人の意思に逆らって思考を支配する魔法。それは魔物の本当の恐ろしさを知ることでもあり、同時に魔法というものがどれだけ危険なものなのかが分かる......そんな現象でもあった。

 そうユウはザルバを見ながら思っていた。


 そんな中ある人物だけはその光景を見て、


 

「いや~、ホント不運だったなぁ~、あの男。まぁ、魔物がいるこんな森の中で寄生されるような心構えだったのがいけないんだから。...自業自得だよな?」



と言ってきた。

 その人物は、レビアである。確かにレビアからの言葉も一理あるが、そもそもの原因であるこいつに、そんなこと言う資格はないと感じていたユウは、その言葉に憤りを覚えた。...だが、そんなレビアの言葉に、



「...もしかして、私があのときザルバ殿からの告白を断ったから......そんな...」



と、セリアは昨日の出来事を思い出して、その動きを鈍らせていた。ザルバはその隙をつくように、その手に持っている剣でセリアを殺そうとしていた。そんな光景を見ていたユウは、



「ッチ!躊躇ってる場合じゃねぇ!」



と言って、自身の右手に持ったリモコンを操作した。発動するのはもちろん"再生"である。



「対象"ザルバ"!...行くぞ、    "再生リザンプション"    !!」

 



 そんなかけ声とともにユウは、リモコンの『再生』のボタンを押した。

 すると、リモコンを向けられたザルバがその動きを止め、まるで人形のようにその場に崩れ落ちる。ユウはその光景を見て酷く辛い表情をしていたが、すぐにザルバへと近づき



「対象"寄生蜘蛛"、 "吸引アブソープ"  」



と左手をザルバにかざし呟くと、ザルバの頭から体長数センチほどの蜘蛛が出てきて、ユウの左手に収まった。

 ユウはその蜘蛛を左手に作り出した業火で燃やし尽くすと、ザルバに対して発動していた遠隔操作を解除し、すぐに中級回復魔法の"修復リパイン"を使う。そして、ザルバから蜘蛛を取りだした際に出来た傷を治した。


 その一連の様子を見ていたセリアは、



「ユ、ユウ?今、一体何をしたんだ?」



と、当然の疑問をユウに投げかけた。そんなセリアの問いかけに答えようとしたユウに、



「クソッ!何したか知んねぇけど、俺に背中を向けるなんて良い度胸してんじゃねぇか!!...やれ、"腐食黒狼コロードウルフ"!」


 "グワァアアアアアアアン!!"



と叫んで攻撃してきたのは、レビアから指示を受けた黒い体毛で身体を覆った狼であった。その名も"腐食黒狼"と言い、通称"腐肉を食らう狼"とも呼ばれる。飢餓狼の上位魔獣であり、固有魔法は"蝕む牙(コロプトファング)"と言って、牙に噛まれた対象を一瞬にして腐肉に変える能力だ。


 そのことを知っていたセリアは当然、



「ユウ、避けろ!そいつに噛まれたら、一瞬にして肉が腐り落ちるぞ!」



とユウに忠告した。...が、ユウはその言葉に



「大丈夫だから、セリアはザルバさんを守ってて...」



と一言だけ返すと、狼の向こうにいるレビアに向かって話しかけた。



「おい、レビアとか言ったか?」

「...あ?...おいおい、俺に話しかけてて良いのか?早く避けねぇと、肉が腐るどころか死ぬぞ?」

「...こんなの、障害にすらならねぇっての...」



 ユウからの問いにレビアはそう返したが、ユウにとってはそんなことどうでも良かった。なぜならば、



 "バリバリバリィイイイイ!!"



と言う音と共に、ユウの周囲に見えない壁が現れたのだ。それは、ユウの称号"耐え忍ぶ者"の能力の内、『完全防御体制』であった。そしてユウは、その防御を自分だけではなく自身の周囲に張り巡らせ、結界のようにすることで、そもそもの原因の攻撃を防いだのだ。

 そんなユウからの防御を突破できなかった黒狼は、自身の攻撃を何度もユウへと届かせようとしているが、そんなこと今のユウに対して全く意味を成さなかった。


 レビアはそんなユウの強さを目の当たりにし、



「クソ!そんなん有りかよ!......今回はひとまず撤退することにするけど、次は殺すからな!!」



と言って自分だけ逃げようとしていた。だがそんな行動、ユウが見逃すわけがないのは明らかなので...



「てめぇは絶対許さねぇ......決めた...てめぇは、俺の得意魔法で消し飛ばしてやる...」



と呟いたと思ったら、ユウはリモコンを自身の身体に同化させ、両手をフリーにすると、右手には炎を、左手には雷を魔法として現象化させ、その二つを混ぜ合わせた。

 そして、その混ぜ合わせたものを黒狼とレビアが一直線に並ぶ位置に照準を合わせ、



 




「覚悟しろ......"獄炎豪雷波ごくえんごうらいは"ァアアアアアア!!」




とユウが技名(若干厨二気味)を叫ぶと、混ざり合ったものがとんでもない威力の破壊を見せて、"解き放たれた"。その魔法はぱっと見、どっかの亀の爺さんが開発した技に似ていた......なにとは言わない...。


 とまぁそんなことは置いておいて......そんな破壊の暴力を向けられたレビアは、かなり驚いた様子で



「なっ!?...ッチ!」



と、そのままその魔法の嵐に飲み込まれていった。その光景を見ていたセリアは、レビアが消し飛んだと思ったのだが、ユウはレビアが最後の瞬間、自身の身体を魔法の発動によって出来た反動で、ユウからの攻撃を避けながら離脱したことに気づいていた。


 だからこそ、



「おい、レビア!!俺のことを付け狙うなら、周囲を巻き込まないで正々堂々向かってこい!こっちはいつでも受けて立つ!!」



と、大音量で叫んでいた。本来普通に叫ぶだけではレビアには既に届かないはずだが、ユウは音魔法の"拡声スピーカー"によって、レビアにまで届くくらいの声量を出したのだ。


 そんなユウからの先制布告のようなものを受け、既に見えない位置まで遠ざかっていたレビアは、



「はっ!言ってろ。......次は実験途中の奴で、てめぇを葬ってやる...!」



と、一人呟いていた。だが当然、そんな言葉はユウには届いていないのだが...。












 こうしてクルスの森における戦いは、一先ずの終わりを迎えたのだった。



《問題》『ユウがミミ村に滞在する予定日数は何日?』

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