No.002 召喚の真実その1とチョロさ
現代から異世界へと召喚された旭ユウは、どこか知らない建物の中で周りを人に囲まれながら魔法陣の上に立っているわけでなければ、いきなり鬱蒼とした森に落とされ、モンスターとの戦闘が始まるわけでもなく、美少女と強面の男のいる部屋で目を覚ました。
つい先ほど、その少女と男が話している内容を聞き、なぜ自分が召喚されたかを知ったユウは少しばかり憤りを感じたが、自分が望んだことでもあるため、そこまで気にした様子はなかった。寧ろ、その少女と男から、
「「もっと砕けた感じに話して(くれないか)。」」
と、向こうから要望を言われるくらいには打ち解けたようだ。それに渋々従って、話し方と口調を改めるユウがいたが、ユウ自身も初対面でこうもはっきり言ってくる相手に少し好感を持ってもいたようである。
そんなことを経て、ただいま本題であるユウの今後について会話が開始されようとしている。また脱線する予感がするが...。
「そう、ですね。では改めて最初から始めますね。では今更な質問であまり意味は無いのですが、まずは確認です。...ここは、俺がいた所とは違う所なんですよね?」
「そうd」
「待ってジョン、私が話すよ。ユウをこっちに連れてきた元々の原因は私だもん。」
そういって、ユウは今一番確認しておきたかったことを聞いたが、答えたのはジョンではなくリーズだった。
「...そうか。では話してやってくれ。ユウもそれで構わないか?」
「あ、はい。話してもらえるならそれでも構いません。...それじゃあリーズ、教えてくれる?」
そうしてユウは、リーズに向かい直って話を促した。
「そうだね。ここはユウがいた"地球"っていわれているところとはだいぶ違う、というよりも"世界が違う"っていた方がいいかな。ちなみにこの空間は、わたしが魔法で作った空間だから、ちょっと違うけどね。」
「へぇ~、つまり、俺の中の言葉で表すなら、この部屋も含めてここは"異世界"っていうことなのかな?」
「うん、その解釈であってるよ。この世界にもその概念はあるから。ただ、聞いていたと思うけど、異世界から召喚する方法は私がやったやり方ぐらいしか分からないし、人為的に行う方法はほとんど見つかっていないかな。」
「それじゃあ、異世界からやってきたのは俺が初めてなの?」
「ううん、人の手でやってきたのは私が知る限りユウだけかな。極まれに空間が歪んで別世界、ユウが住んでいたところ以外からもやってくる存在はあるけど、基本は歪んだ空間の中で精神と体が分離しちゃって、こっちの世界にやってくるときは魂の抜けた肉体だけになってるの。つまり、死んじゃう、かな。生き物以外の物体や植物は別だけど。」
「っ!?ちょ、ちょっと待て!じゃ、じゃあ俺もその危険があったてことか!?そんな危険を犯してまでこの世界に召喚しようとしたんなら、お前、正気か!?絶対、頭いかれてるか、バカだろ!」
そういって、ユウは今目の前にいる少女に凄まじいくらいの怒りと呆れが湧いてきた。突然のこと過ぎて思わず、気をつけて喋っていた口調の皮が剥がれて、だいぶぶっきらぼうな口調になってしまった。それをリーズは不思議に思い、
「あ、あれ、ユウ?元々そんなしゃべり方だったの?それなら最初からその口調でいれば良かったのに。」
「あ、えっと、その、本当はこんなしゃべり方じゃなくて、もっとやんわりしたしゃべり方が本当の俺で、今のはちょっと感情が表に出ちゃったからであって...」
「ふむ、ユウはそういった口調のときだと"素"の感情を出しているのだな。それならば、ずっとその話し方で良いだろうに。」
「そうそう、その口調の方がなんか距離が近い感じがしていいよ!むしろ、それがいい!何でそのしゃべり方にしないの?」
というように、リーズだけでなくジョンもユウの話し方に興味を持った。そんな中、ユウはいったん落ち着きを取り戻し、理由を話した。
「...はぁ~、いや本当にこの話し方の方がいいんだよ。ただ、感情が高ぶったりイライラしたりすると、無意識のうちに言葉が荒くなっちゃうんだ。普段は気をつけてるし、かなり親しい相手か年下にしか使わないから、そこまで気にしたことはないんだけど。...それに、荒い口調より柔らかい口調の方が相手を威圧しないから、面倒なことに巻き込まれないしね。そんなわけで、普段の俺は今みたいな口調なんだよ。」
そう話したユウからは、一切嘘を言っているようには見受けられなかった。それに対しジョンは、
「ふむ、そうか。そうした理由なら私からは何も言うまい。先ほどもユウの意思を尊重したのだからな。」
そういって、強制はしなかった。
「ありがとう、ジョンさん。」
「それに、親しくなれば先ほどのような口調で話してくれるのだから、今は我慢しよう。」
「あ~、それはちょっと無理かも知れないですね~。」
「む、なぜだ?」
「いや、今よりもっと砕けた感じにはなれるとは思いますが、さっきみたいな口調にはジョンさんが相手だとなれないんじゃないかと...。」
「そ、そうか。それは、その、なんだ。少し、寂しいな...。」
「...すみません。」
「い、いや、気にするな。ユウがそう感じるのならば仕方ないことだ。それに、今よりも砕けた話し方になれることを知って、うれしいぞ。」
そういってジョンはうれしそうに、しかし若干寂しそうにしていた。ユウがそういった理由としては、"顔が強面だから"であるが、このことを知っているのは、ユウとおそらくリーズだけだろう。
そんなリーズはというと、
「う~~、私は少しぐらい話し方が荒くても構わないのに~。」
と、あまり納得していないようである。
「いや、そこは納得してよ。ジョンさんだって理解してくれたんだから。」
「そうはいっても、結局今の段階でも壁はあるってことでしょ。それは結構寂しい、かな。」
「う~ん、確かにそこまで親しくなったわけでもないけど、この短時間でここまで話せるようになったんだからいいじゃないか。」
「う~~~、どうしてもだめ?」
「うっ、...どうしてもって訳じゃないけど」
「っ!じゃあ!」
「それでも、もっと交流を深めることが必要でしょ。俺は別にリーズのこと嫌いなわけじゃないけど、それだけじゃ無条件で好感が持てるようにはなれないよ。」
「そ、そうだよね。たしかに、もっとおしゃべりして一緒に過ごせば仲良くなれるもんね!」
そういって、リーズは納得しユウと親睦を深めようと決意した。
「そういうこと。どんなことも、焦りは禁物だよ。特に、調子に乗って異世界からの召喚魔法を使っちゃうとかね。」
「へ?」
「...いや、リーズがそれやったから俺がここにいるんだけど...」
「え~~~っと...」
「...えっ」
「「......」」
「あ、あぁ、そ、そうだったね!うん、そうだった。全くもってその通りだよね!」
「...リーズ、もしかして素で忘れてた?」
「うっ」
「...まぁ、今は気にしてないけどね。それでも、やっちゃったことに対しての責任はちゃんと持たないといけないよ。俺みたいに許す人だけじゃなくて、自分で決めたことなのに勝手なこと言って喚く人とか、泣き出す人とかがいるんだから、気をつけないと。」
「そ、そうだね、ごめん。いや、ごめんなさい。これからは、自分のやったことには最後まで責任を持って対処していくようにします。」
リーズがそう謝罪すると、
「うん、それが分かればいいんだよ。それに俺はそこまで気にしてないし、元々冗談で言ったようなものだから、そんなに気負わなくてもいいよ。」
と、ユウはそんなことを言った。
「ふぇ?冗談?」
「そう、冗談。だって、根に持ってなかったからってやっぱり鬱憤は残したくないじゃないか。だから、それを晴らす意味と、もう一つ、ちょっとした冗談も言えるくらいには、リーズに対して好感は持ってるよ、って意味もあるんだ。どう、驚いた?」
そんなことを言ってのけたユウに、当然リーズは怒っt
「...そんなやり方、ずるいよ。そんなこと急に言われたら私、どう接していいか...///(小声)」
......え~っと、お、怒るはずもなく少々ときめいたようだ。......チョロすぎる少女、略してチョ女である。
「ん?どうしたのリーズ?そんなに冗談って言われたこと気にしたの?」
「...ううん、なんでも無いよ。
それよりやっぱり怒ってたんだね!そういうのはちゃんと言ってくれなきゃストレスになっちゃうよ?」
「そうだね。今度からは、適度に発散させてもらうよ。」
「そうそう。我慢は体に悪いからね。」
そういって、二人の距離は少しばかり近づいた。というより、めっちゃ急接近しているように感じる。しかし、見事に話が脱線している三人であった。
「それじゃあ話を戻すけど、そんな危険なことしてどうして俺の体は無事なのか。空間の歪みを通ってきたなら、今頃俺の精神は消滅しているばずでしょ。けど、今こうして喋ったり動けたりできてる。なんで?」
そんな当然の疑問をユウはリーズに問いかけた。すると、
「それはね、歪んだ空間の中を通るときに精神と肉体が分離するなら、別々に通ればいいんだよ!」
「別々に?...つまり、どういうこと?」
「えっとね、空間内で分離するなら元々一緒にしないで、分けて召喚すればいいことに気づいたんだよ。
具体的に言うと、まずは召喚対象を気絶させて、その間に魂だけ抜き取るの。そして、精神だけ最初にこっちへ連れてきて、次に精神が抜けて肉体だけになったものを召喚する。そうすれば、空間内でそもそも精神が抜けている肉体は、そのまま召喚されるってこと。で最後に、こっちに連れてきた両方を再び元の状態に戻して終了っ、とまぁ一種の禁術に等しい行為で強引に召喚したって所だね。」
「え、もしかして俺って一度死んd」
「いや、ち、違うから!あ、安心して。別に死んだわけじゃないから。覚醒状態なら精神を抜くことに対して無意識に抵抗があって、精神崩壊があり得たけど、今回は完全に意識が無い状態で精神だけ抜き取って召喚させたから完全に健康そのもの。
死ぬってのは、精神が一度完全に消滅することを指すから、今回の召喚は全然セーフ、何の心配もいらないんだよ!」
「わ、分かった、信じるから落ち着いてって!」
ユウは、そんな弁明するリーズから妙な必死さを感じたが、不思議と嘘を言っているようには見受けられなかった。さらにジョンからも、
「そのことに関しては私からも保証しよう。たしかに、召喚魔法も抜魂魔法も禁術にあたる危険なものだ。一般的な魔法の使い手では発動することすらできずに、暴走してしまうだろう。
その点、リーズの魔力コントロールならば暴走することもなく、確実に成功させることができる。だが、多大な魔力を消費するため、私の魔力と併せて行使したのだがな。...その、信じてくれるか?」
そうジョンは言ったが、ユウは、
「えぇ、お二人は信用していますからご心配には及びませんよ。安心してください。」
「そうか、ありがたい。」
「よ、良かった~、信じてもらえてうれしいよ。」
そう言って、特に気にすることなく受け入れた。普通なら唖然として、理解が追いつかないはずだが、実際召喚されたものにしか分からない、妙な理解力が働いたのだろう。
と、こんな具合に召喚の原理は説明された。
「では、ユウからは他に私たちへ聞きたいことはないか?無ければ、今後の君のことについて話しておきたいのだが。」
「えぇ、いいですよ。聞きたいことがあったらその都度伺いますので、どうぞ続けてください。」
そういって、漸くというか、やっとというか本当の本題へと突入した。
「まず始めに、ユウに言っておかなければならないことがある。心して聞いてくれ。」
「...っ」
そういって、ジョンは真剣な面持ちに迫力のある声で話し始めた。リーズはその先の言葉を理解しているようで、だいぶ顔がこわばっている。
ユウは、そんな二人の様子からこれから話される内容が大変重要であることを察し、緊張しながらもジョンに先を促した。
「は、はい。何でしょう?」
「う、うむ。非常に言い出しづらいのだが.........っよし、では、話そう。」
そういってジョンは文字通り、非常に言いにくそうにしながらその先を告げた。
「実は、ユウをこちらに召喚させることには成功したが、その逆、つまりは元の世界に送り返す方法は、"存在しない"」
「っ本当に、ごめんなさい!」
「...」
そういって、リーズとジョンは頭を下げた。
ユウは黙って先ほどのジョンの言葉を思い返した。
『元の世界に送り返す方法は、"存在しない"』
"存在しない"、つまりは実質、元の世界には"帰れない"のである。
「本当に、申し訳ない!!」
それは、あの落ち着きのあるジョンが、ユウに会ってから初めて見せた、苦痛に滲む必死の謝罪であった。
若干内容に無理矢理感があるかも知れませんが、それも含めて内容に不備がございましたら、ご意見ください。