No.024 新たな名称とシルビアという女性
この前書きで、次から少し趣向を変えてみたいと思います。ちなみに、後書きから変えています。
「さて、そういうことで自己紹介も終わったし、本題に入ろうかね...」
そう言ってシルビアは椅子から徐に立ち上がると、部屋の隅に置いてある観音開きの戸棚に向かって歩いて行った。どうやら、本題に入るためには何か用意するものがあるようだ。しかしユウは、先ほどの"国認魔術士"と名称の魔術士の違いが知りたかったので、
「あ、あの、シルビアさん!先ほどのお話の中でお伺いしたいことがあるのですが...」
と、シルビアの背中に向かって呼びかけた。
「ん?一体どのことだい?」
「はい。実は俺、国認魔術士って言う役職がどういったものなのかよく分からないんです。...ついでに言うと、名称の"魔術士"とどう違うのかも教えていただければ嬉しいのですが...」
そう言ってユウは、自身が抱いた疑問をそのままシルビアに投げかけた。実際のところユウは、リーズからなんとなく魔法に関わる名称は聞いていたが、それでもリーズが持つ"魔導士"という名称(特訓中に教えて貰った)やユウ自身が持っている、さきほどの"魔術士"くらいしか情報がなかったのだ。
そんなユウからの質問にシルビアは、
「あれ?国認魔術士ってそんなに有名じゃなかったっけ?」
と、椅子に座りだらけていたジルトにそう問いかけた。そんなシルビアの問いかけにジルトは、
「あ?...んなわけねぇだろ。魔法を使う奴がなりてぇ職業に "国認魔導士" を除けばトップになるくらい、国認魔術士は一般的なはずだぞ...。それを知らねぇって...ユウ、ホントお前って大陸で生まれたのか?そんなにいろんなことに対して無知すぎると、お前が人間族っていうのも疑わしいぞ...」
と、シルビアの問いに対して答えるとともにユウへ呆れを通り越し、そこまで何も知らないことに感嘆の声を上げそうになるほどであった。
それくらい、"国認" と名がつく職業はこの世界において有名なようであった。しかしそんなこと、元々この世界の存在ではなかったユウにとっては、 "んなご無体な..." と不満を感じるだけであった。
あぁ、話したいけど話せない......見事にジレンマの完成である。
「...」
「...まぁ、別に良いけどな。ルビア、...悪いけど」
「?......あぁ、別にそんなことくらい、いくらでも話してやるさ。...ユウ」
「?はい、何でしょう?」
ユウが話せないことや、自分に対する疑惑の視線に気を落としているとシルビアが話しかけてきた。どうやら、先ほどのユウの質問に答えてくれるらしい。...流石姉さんだ。
「とりあえず...ユウは何処まで魔法を行使する名称について知ってるんだい?」
「...そうですね。種類としては"魔術士"と"魔導士"がいるくらいで、能力は補正みたいなものがかかるくらいですかね?」
「う~ん、凄い大雑把な解釈だね...。よし、あたしが一先ず国認のことも含めて説明してやるよ!」
そう言ってシルビアは、"自分に任せろ!" といった感じに引き受けた。ユウはそれを聞いて、
「あ、ありがとうございます!...では、お願いしますっ」
と、シルビアに対し頭を下げた。そうして、シルビアによるユウへの説明が開始された。
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『魔法を使う名称』
魔法を使う名称はいくらでもあり、行使する魔法やその魔法の活用法によって名称は変化していく。
例えば、土魔法の鉱物魔法を使う者は比較的その魔法を生かせる、土木や農耕系の"建築者"や"農耕者"といった名称を持つことが多い。その他に、光魔法の回復魔法を使える者は治療や修復系の"治癒士"や"修繕家"などの名称を持つことがあるのだ。
ここに挙げた以外にも、熱・鉱物魔法が得意なら"鍛冶士"に 液体・気体魔法が得意なら"浄化者"といった名称を得ることに繋がるのだ。
...では、以上の名称と魔法を使うという点で同じであるはずの魔術士や魔導士、そしてそれらが進化する前の名称"魔法士"は何処が違うのか。それは以下の通りである。
『魔法士』
名称の一つ。基本は自然属性の魔法をすべて中級まで使える者に与えられる。生まれながらにして持つ者もいるが、その多くは両親が魔法の行使に秀でているか魔気や魔鉱脈の多いところで生まれたかという説が有力である。
能力は、"同時発動"・"効率化"がある。
『魔術士』
名称の一つで"魔法士"の上位版。魔法士よりも必要とされる魔法のレベルが高く、自然魔法は二つ以上を上級に、無属魔法は干渉の時魔法を除いてすべてを中級以上まで使えるようにしなければならない。
魔術士以上の名称は生まれながらにして持っている者は存在せず、後天的に進化させなければならない。
能力は魔法士のものに加え、"複合魔法"・"魔力付与"がある。
『魔導士』
名称の一つであり"魔術士"の上位版。必要とされる魔法のレベルは......自然魔法がすべて上級以上かつ一つだけでも超級まで使える魔法が存在する属性を持つこと。さらには無属魔法も、二つ以上を上級まで使えることが条件となっている。それだけ、なることが難しい名称なのだ。
能力は魔術士のものに加え、"特殊魔法作成"・"魔力支配"が存在する。
ちなみに、これらの名称はすべて魔法を行使する際に魔法士から、『一・一倍 → 一・三倍 → 一・五倍』と徐々に威力が増していくのである。"ズルい!" と思われがちだが、名称を得るのはそれだけ難しいのだ。
次に、それぞれの能力について説明する。ただし、同時発動や複合魔法は文字通り、同時に魔法を発動したり魔法同士を掛け合わせて別の魔法を作ることである。
『効率化』
・魔法を行使する際の魔力消費を少し抑える。
・魔法を行使する際に、使用者がイメージするのを簡略化させる。
『魔力付与』
・魔力を他者へと譲渡する、もしくは他者の身体に纏わせる。
・物体に纏わせたり、注ぐことで魔法の現象を物体にも与えることが出来る。
・上記のことは、対人(または自身)も可能
『特殊魔法作成』
・属性に分けられない魔法の行使が可能
・簡単に言うと、"名称"や"称号"の能力が魔法によって再現できる(あまり強力なものは無理だが)
・使用者のイメージにより何度でも変えることは可能
『魔力支配』
・魔力の供給・吸引が可能
・魔気や魔鉱脈など魔力が宿っているものの様々な行使が可能(例:魔気を収束させ、巨大な魔力球を作り出すなど)
こんな感じに名称には一つの分野をとっても多くの種類が存在するが、魔法を全体的に高レベルで扱える者は上記のような名称を得ることが多いのだ。
さらに言うならば、後天的に魔法士へなれる割合は十人に一人と意外と多いが、それでも本人の努力や生活環境によって、それは絶対とは言えない。そして、魔法士から魔術士になれるのは一気に低くなって魔法士百人の内一人ぐらいかそれより低いのである。ちなみに、魔導士は正確な値が出てはいないが、それでも一国に十人いれば多い方といわれている。
一国あたりの人口を一億と考えると、普通の人が魔導士になれる確率は高くて十万分の一、低いと一千万分の一である。
それだけ魔導士という名称はなることが難しいのだ。
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「...とまぁ、こんな感じで『魔法士』『魔術士』『魔導士』と分けられていて、その順番で名称を進化させていくんだよ」
「なるほど...」
そうしてユウは、この村に張られていた火と水の複合魔法である"屈折鏡"を張ったのは目の前のシルビアであることを理解した。実際その通りであるため、誰も何も言わないだろう。
そんな考えを一人勝手にしていたユウに、
「...ちなみに、名称や称号は分かるんだろうね?」
とシルビアは少々訝しんだ様子で、そう問いかけた。
「はい、その二つに関しては既に十分なくらい知識はありますよ」
「そうかい...じゃあ、魔導士が称号に進化するときの名前は知っているかい?」
「...いえ、それについては存じ上げませんね...」
シルビアからのそんな問いかけに、ユウは当然 "知らない" と答えた。実際本当に知らなくて、ユウとしても聞いておきたいことではあったのだ。しかし、
「まぁ、あたしも詳しくは知らないんだけどね!」
とシルビアが言い放った瞬間、 "ズコッ" という音が聞こえそうなくらいユウは盛大にずっこけた。
「...シルビアさん...」
「?...まぁ、そんな恨めしそうな視線を向けなさんな。実際魔導士よりも上の存在な"称号持ち"は存在するけど、中々世間には存在自体が知られていないんだよ。歴史上居たということは分かっているんだけど、今も存在するかどうかは...」
「...そうだったんですか......いや、これは失礼しました」
そう言ってユウは、シルビアに先ほどの非礼を詫びた。流石に、歴史上の人物となるとシルビアも直ぐには答えられなかったのだろう。そのことを察したユウは、自身の手でその存在の痕跡を調べてみたいと思っていた。
「いや、こっちも勿体ぶった言い方をして悪かったね...。それでも、称号の名前は知ってるよ。確か...... "魔王" だったかな?」
「ま、魔王...ですか...」
「あぁ、記憶違いじゃなかったらね」
シルビアの口からそんな名前が出てきたことに対しユウは、地球に居たときに見た物語における魔王という存在がどういうものか、なんとなく想像が出来てしまった。だが、
(いやいや、あくまで称号の名前であって必ずしも俺の考えが正しいとは限らないじゃないか。......後で字幕表示で調べとこう...)
と考えを改めると同時に、やはり少しばかりの畏怖をその称号名に抱いていた。
「まぁそれは置いといて、国認の話をしてもいいかい?」
「あ、はい。すみませんでした。...では、お願いします」
シルビアからそう問いかけられたユウは、すぐさま自身が陥っていた思考を一度切り上げて、その先を聞くように努めた。シルビアはそんなユウの様子を見ながら、
「...まぁ、そこまで複雑なもんじゃないけど、貰ったら貰ったで結構名誉なことなのさ」
と前置きをしてから話し始めた。
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『国認』
正式名を『国家認定』と言って、文字通り"国から認められた"者へ付けられる一種の役職のようなものだ。
基本は職業や名称の上に付けられ、シルビアの"国認魔術士"以外にも
"国認剣闘士" "国認研究者" "国認鍛冶士" "国認治癒士" 等々
今挙げたもの以外にも細かく分けられており、国の機関にその存在が登録されているのだ。いわば、国お抱えの "名称持ち" と言うことになる。
国認を持つ者、通称"国認者"は特に名称というわけではない。ただの役職なのだ......と言いたいところだが、具体的に言うとその国の象徴でもあるため、外交や他国に訪れる際待遇が良くなったりするのだ。一種の来賓扱いである。
そんな国認者は国に対して有益と判断された者、国で...言い方は悪いが所持しておきたい者に付けられるのだ。
通常は自由なのだが、国から何かしらの依頼を頼まれたら拒否権は殆どない。...と言っても過言ではないほど国からの束縛を受けてしまうのだ。だからこその好待遇なのだが...。
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「とまぁそんなわけでちょっと面倒だけど、仕える国を決めた人なら直ぐにでも認定を貰いたいぐらい魅力的な職業なのさ。なんせ、扱いが貴族とほぼ同格にまでなれるんだからね」
「...そういうものですか」
シルビアはそう言ったが、ユウ個人としては国とか組織に縛られた生き方はあまり好きではなかった。だから、
「シルビアさんもその優遇さに惹かれて国認者になったのですか...?」
と聞いた。しかし、その答えは予想外な人物から発せられた。
「...それは違うな」
「?ジルトさん?」
そう。ユウの問いかけに対し返してきたのは、シルビアではなくジルトであったのだ。その様子は何処か悲しそうな表情にも捉えられるものであった。そんなジルトからユウは、聞いてはいけないような気がして、
「...申し訳ありませんでした、シルビアさん。先ほどの質問は聞かなかったことにしてください...」
と、酷く申し訳なさそうにしていた。流石に、その人の生き方に対して外野からとやかく言うのはあまりにも不躾であると感じ取ったユウは、シルビアに対し謝罪した。
ユウだって、この村に来てから話していないことだらけであるのに、自分からずけずけと相手の領域に入り込むのはおかしいことであると理解した。
「ん?...良いって、別に。何なら話しても構わないけど?」
「い、いえ...流石にそれは」
シルビアは一瞬考えるような仕草を見せたがそれも直ぐにどこかへ行き、先ほどのように凜とした表情で話そうとした。がユウはそれを聞くことに対し抵抗があったので、咄嗟に否定の言葉が出た。そうしなければ、自身が決めた先ほどの決意が揺らいでしまうからだ。
「だから、別に良いんだって。...隊長さんも気ぃ使ってくれて嬉しいけど、あたしは大丈夫だから心配しないで?」
「...そうか......悪い、話の邪魔をしちまったな...ユウも、すまなかったな...」
そう言ってジルトはユウとシルビアの両方に頭を下げてきた。...さすがは騎士隊長と言ったところか、礼節が日本人のそれと遜色ないほどに徹底されている。
そんな謝罪を受けて、
「...はい、俺の方も考えなしの発言が過ぎました。...すみません」
と、ユウも自身の言動を反省していた。
そんな謝り合戦をしている中シルビアが、
「まぁ、そんな複雑な話でもないんだけどね。あたしの家は父親が何にも職に就かなくて、いつも怠けていたんだ。だからその影響もあってずっと貧しかった。...だからこそ努力して、国認魔術士になって家を養おうとしたんだ。ただ、こんだけさ」
と、一気に話し終えてしまった。...何だか、本当に"姐さん!"とお呼びしたいくらいに格好いい、女性であった。
そんな光景を唖然とした表情で見ていたユウは、心の中で、
(シルビアさん、マジでかっけぇ......)
と、かなり尊敬していた。普通は、家の事情や自分の生い立ちなんかは話しづらいものであるが、そんな様子を微塵も感じさせないシルビアの性格は、男女どちらの目線からでも "かっけぇ..." といえるものであった。
「まぁそんなわけでさ、ご覧の通りあたしは国認になって家族を養ってるから、そうした理由があるってことだけ覚えといてくれたらいいよ」
「...はい、ありがとうございました」
あんな身内話をしてくれたシルビアに対し、感謝の言葉しか言えなかったユウは本当のことを話せない自分が情けなかった。...それでも、リーズとの約束のため破るわけにはいかなかったのだ。......我慢である。
「...さて、予想以上に長くなっちゃったけど、そろそろ本題に入りますか」
「...そうですね。では、お願いします」
ユウがシルビアの言葉にそう答えると、シルビアは先ほどと同じように戸棚の方へと向かっていき、観音扉を開けた。するとそこには、アルミのような色をしている金属製(っぽい)板があり、シルビアはそれを自身の右手で持つと、こちらに持ってきた。
「シルビアさん、これは...」
「ん?...これはね、この所蔵庫にある書物を管理している"記録型の魔具"だよ」
「?記録型の...魔具?」
そんなことを言ったシルビアに、ユウは自然とオウム返しをしていた。
それだけ、聞き慣れない単語が聞こえたのだ。
「そう。この魔具にはここにある書物の基本内容が登録されているのさ。使い方は、使用者がこの板に触れて、自分が欲しい情報で書物を探すんだ。長い文章は無理だけど短い単語ぐらいなら複数念じるだけで、欲しい情報が書かれた書物が表示されるのさ。そうして、実際にこの中からその書物を探すってことだよ」
そう言ってシルビアは、その板をユウに手渡し使うように促した。そんな説明と板を見てユウは、
(まんま、ネット検索やん......ていうか、自分で文字を打たなくていいから地球のよりも高スペックですわ......)
と、心の中で誰にも理解されない感想を抱いていた。事実、この世界に存在する魔具を地球に持っていって使うとなると、高確率で科学が衰退する。......だって、魔具ってメッチャ "エ・コ" 何ですもん...。
「ん?どうしたんだい、ユウ?」
「...いえ、なんでもありません。...では早速、使わせていただきますね」
「あぁ、どうぞ」
そんなユウの心情を察することの出来ないシルビアは、ユウの僅かな沈黙に少々疑問を感じたが、結局特には気にしないことにした。......まぁユウとしては、たとえシルビアから聞かれたとしても、そんなこと話せないのだからいいのだが...。
とりあえずユウは、その"記録型の魔具"に魔力を注ぎ込み起動させ、魔具の能力を使った。
『お探しの書物は何ですか?』
(?...あぁ、こうやって見るのか)
ユウが魔力を注ぐと、板の表面にそんな文字が浮かんできた。こうしてヒットした書物を、実際に自らの手で探し出すようだ。
そんな原理を理解したユウは一先ず頭の中にいくつかの単語を思い描き、書物検索を実行した。そうしてヒットした書物は画面に表示され、
『イリスの誕生と歴史』(ジャンル:歴史文献)
『イリスの生物大辞典』(ジャンル:辞典)
『暦と文化』(ジャンル:民族文献)
『名もなき英雄』(ジャンル:準創作物)
という候補が出た。
「...出てきました」
「ん?...それじゃあ、その中からユウが読みたいものを選んで。あたしが探してやるからさ」
「はい、ありがとうございます。...では」
そう言ってユウは、シルビアからの厚意を素直に受け取り(実際ユウが見つけ出せる"わけがない")自身が読みたいものの書物を選択した。ユウはそれらの名前を、
「では、『イリスの誕生と歴史』と『暦と文化』、それと『名もなき英雄』の、合計三冊をお願いします」
と、挙げていった。
というわけで、
《問題》『ユウの得意な自然魔法は何でしょう?』
...と、こんな感じにしていきます。解答は次話にて公開です。




