No.023 約束とリンという存在
「...で、その女の子は何だ?...まさか、しらばっくれるわけじゃねぇだろうなぁ?」
「で、出来れば、黙秘を主張したいのですが...。」
ジルトがそうユウに問い詰めると、ユウは黙りをきめたい心の内を伝えた。
「......それも "事情" の一つか?」
「...はい、そうです。」
「...理由を聞いても良いか?...流石に、こんな現象を見せられて"はいそうですか"って頷けるほど、俺は物分かりが良い方じゃねぇからな...。」
そう言ってジルトは、苦い顔をしながら自身の今持っている疑問をユウに伝えた。ジルトはこう言っているが、本来なら "洗い浚い吐け!" と、尋問されてもおかしくはないのだ。
そう考えると、ジルトがユウに向けた疑問で許されるのであれば、安いものだ。こういったところから、ジルトの人間性(器が広い)が垣間見える。
「はい、...全部はお話しできませんが、大まかな理由はお伝えします。」
「...まぁ、それでもいい。それじゃあ...。」
「...了解です。では...。」
そう言ってユウは、リンのことを隠さなければならない理由を、ジルトに話し始めた。というのも、そもそもリンの存在(リモコンも含め)を秘密にするように言ってきたのは、手渡したリーズだったのだ。
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リンが魔具の説明を終えて、まだまだ話し足りなそうにしているとリーズが、
「そうだ!...ユウっ。」
と、ユウの名前を呼んできた。
「何?リーズ。」
「うん、実はリンちゃん...というか、この"リモコン"っていう魔具のことに関して、約束して欲しいことがあるの。」
「?約束?」
リーズからのそんな言葉にユウは "一体何のことだろう?" と首を傾げた。まぁ、リーズからの頼みならば、大抵のことは聞こうという気持ちがユウの中にはあるので、そこまで無理なものでなければ許容しようと考えていた。
「...別に良いけど、どんなこと?」
「うん...出来れば、リンちゃんやユウの魔具のことはあまり周囲に広めないで欲しいんだ。...ユウの今後の旅において、その方が良いからさ...。」
「?......あ~、確かにそうか。」
そう言ってユウは、リーズの言葉の裏にある意味をなんとなく察した。
理由としては、リンが大変珍しい"魔具精霊"であるということがある。そんなことがもし、どっかの研究者に見つかったら、確実に捕まって調べられる。それはユウだけでなくリンも対象となるため、たとえ出会って少ししか経っていなくとも、この元気な精霊が危険に晒されるのは、非常に心苦しいことであったのだ。
もう一つの理由として、このリモコンの性能である。
そもそも魔力の行使にブーストがついたり、物がしまえたり出来るだけでも十分使えるのに、そこに転移や追跡、さらには時間や空間を操ったり、物体そのものの支配権を得られる機能まであるのだ。そんなもの、たとえ魔法があるこの世界においても、相当に魅力溢れる魔具でありながら、同時に危険視される魔具とも言えるのだ。
その他にも、その魔具を手に入れた経緯を語る上で、ユウ自身の召喚やリーズ、ジョンのことも話さなければならないことは必然であった。だがそれは、ユウの中で大切に留めておきたいことであったため、無闇に人に話したくはなかったのだ。
そんなこともありユウは、
「...なんとなくリーズの言いたいことは分かったよ。俺も、無闇に話して面倒なことに巻き込まれるのは嫌だからね......それに、ここでのことも含めて、俺にとっては大事な想い出だし、立ち入って欲しいことじゃないからさ...。」
と、自分が考えていたことを話した。ユウも、そんなことで自身の旅の妨げになるくらいなら、隠していた方が良いと感じていたのだ。
「そっか......うん、ありがとね、ユウ。」
そんな言葉とともに、リーズはホッとしていた。しかし、
(...それに、こんなおかしい精霊が一緒とか知られたくないし...。)
と、ユウは密かに心の中でそう呟いた。
リンが聞いたら、いじけること間違いなしである。
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「...とまぁ、渡してくれた人からできる限り秘密にするよう言われていたんですよ。」
「なるほど......しかし、話には聞いていたが、ホントに存在するとはなぁ。...たしか、"魔具精霊" だっけか?」
「はい。...魔具の能力のすべてをお伝えするわけにはいきませんが、お話ししたとおり、こいつが宿っている魔具の能力で現在地や、このミミ村の場所が分かったんです。」
そう言ってユウは、自身の持つリモコンの能力 "字幕表示" を大雑把に説明した。流石にその他の能力を話すと、リーズとの約束をさらに破ってしまうことになるため、ユウとしては言えなかったのだ。
「まぁ、言えないなら仕方ねぇか......それでも、その精霊のことはお前の監視役であるセリアや、泊まってるところの家主であるガルシオには話しておくからな?」
「それは......はい、そうですよね。...分かりました。」
「...まぁ、そうしょぼくれんなって。そんなことで、お前のことを危険に思ったりしねぇよ。」
そんなことを言うジルトは、ユウが自分の隠していたことを知られて "ジルトからまた信用がない頃に戻ってしまうのではないか?" と、不安に思っているのではないかと考えていた。
実際ユウとしては、上記のような理由もあるにはあるが最大の理由として、リンのせいでこうなってしまったことに相当落胆していたのだ。それなのに、
「♪...ん?......もう、主ったら~///...そんなに見つめられると、昂ぶってしまうじゃないですか~~~...えへへ///」
といった具合に、今までユウの中でじっとしていたことによる反動なのか、こうしてジルトに問い詰められている中でも全く動じた様子がなく、ユウの腕に抱きついている。...まぁ、流石に人型のサイズでいるとユウから注いで貰った魔力がどんどん消費されていってしまうため、今は元の大きさまで戻っているが...。
そんな様子を見てジルトは、先ほどまで感じていたユウやリンへの警戒心が抱くこと自体バカらしく思えてきて、つい苦笑がその口から漏れていた。
「くっくっく...。」
「?...どうしたんですか、ジルトさん?」
「ん?...いや、なんでもねぇよ。それより...ユウ、お前の精霊は随分と感情豊かなんだな。普通精霊といったら感情があるにしても、そこまで面白い反応を示す奴は俺の知る限り聞いたことねぇぞ。」
ジルトは先ほどまで見ていたリンの表情や言動から、リンがユウに持っている好感度やリン自体の豊かな感情を非常に興味深い様子で観察していた。
ジルトの言う通り、精霊族という種族はあまり感情豊かな者達ではないのだ。その理由としては、精霊族は人間族やその他の種族のように生物といった括りより、生命体や魔力に近い存在であるとされている。なぜならば、精霊族には魔力を蓄積しておくための"核"が無いのに魔法の行使が可能という点が判明しているからだ。
そんなことから、精霊族であるはずのリンがそこまで豊かな表情をしていることに、ジルトは珍しいものを見る目でリンを観察していたのだ。......ロリコンではないぞ。
「そうだったんですか......俺としては、リンはこういう性格なので特に気にしたことはなかったのですが...。」
「あぁ、別に俺の知ってることが全部ってわけじゃねぇからな。そこまで気にすんな。そもそも精霊族自体未だに謎が多い種族なんだよ。」
「...あれ?そういえば魔具って言うのは、精霊の力が付与されているものもありますよね?日常的に使っている魔具に関わっている存在なんですから、ある程度研究は進んでいるのでは?」
ジルトからの返答にユウは以前、リーズから魔具の生成過程について聞いていたことを思いだしジルトに問いかけていた。もしそれが事実ならば、人々は得体の知れない精霊族の力を日常生活に取り入れていることになり、『少々危機感が薄いのではないか』とユウは内心疑念を抱いていた。
「俺もそこまで魔具に詳しいわけじゃねぇけど、そもそも精霊族と関わる名称が精霊士しかいない上、精霊族は滅多に人前に現れないからな...交流自体が少ないってのが遠因の一つなんだろうよ。まぁ、だからこそ精霊士っていう名称を持っている奴が、国規模で重宝され点だろうけどな。」
「へ、へぇ...なるほど...。」
ジルトからの答えにユウは、若干顔を引きつらせながら感心していた。と言うのも、今しがたジルトから説明された内容の殆どが、ユウ自身初めて聞いたものばかりだったからだ。まぁ、出立前の数時間の間に教えられただけの内容だったため、記憶に残っている方が珍しいのかもしれない。
それ故、今この場でジルトから新たな常識を聞いたことは、ユウにとって非常にありがたいことであったに違いない。
「まぁその話は置いておいて...あまり情報が少ないにしろ、精霊族の印象がそんな感じだったからよ。そこのお嬢ちゃんが、俺のイメージしていた精霊族と違っていて、ちっとばかし戸惑ったんだわ。許してくれ...。」
「いえっ、そんな...。俺としては、もう少し落ち着きのある性格が良かったんですけどね...。」
そうして、未だにユウにべったりくっついているリンを眺めながらユウはそんな感想を抱いた。そして、ジルトとの会話を再開しようとしたそのとき、
「...お~い、そろそろ話の方はいったん中断して貰ってもいいかい?」
と、非常にいいにくそうな声を出しながら問いかけてくる者がいた。......そういえば、すっかり存在を忘れていた。
「はははっ、...悪いルビア。完全に忘れてた...。」
「はぁ~...まぁ隊長さんからしたら、その精霊ちゃんのことは早い段階で聞き出しておかないといけないことだから仕方ないにしても...、この場所は別に聞き取りするような場所じゃないんだからさ、さっさと用事を終わらせて欲しいんだけど...。」
「だ、だから、悪かったって...ったく。...ユウ!」
「!な、何ですか...?」
シルビアからの文句に何も言い返せないでいるジルトは、"仕方ないか..." といった表情とため息をしながら了承し、唐突にユウの名前を呼んだ。
「分かってるとは思うが、これだけで済むとは思うなよ。お前がこの村にいる限りは事情聴取はずっと続くと思え、...いいな?」
「...はぁ~、...分かってますよ...。」
「...なら、よし。それじゃあルビア、後よろしくな!」
ユウからの承諾を得て満足げな様子のジルトは、自分の仕事は終わったとでもいうかのように自身が座っていた椅子に深く腰掛けると、そのままだらけていた。......切替がしっかりしているのか、それともただの面倒臭がりなのか。
「はぁ~、まったく...最後まで気を張ってなよ。そんなところ見せるから、ガルシオがそこだけ真似してあんな性格になってるんじゃないか...。」
「ん?...いいんだよ、別に。これが本来の俺なんだから、ガルシオがどうとか関係ねぇっての。...それに、あいつはあいつで俺とは違ったところでちゃんとしてるぞ?」
「......まぁそういうときも、あるにはあるけどねぇ...。」
そんなやり取りをしているジルトとシルビアの二人は、まるで弟のことについて話しているかのような感じであった。...ガルシオがこの場にいたらおそらく、天を仰ぎながら "神は死んだ!!" とか言いそうである。
とまぁ、そんな二人のやり取りを傍目から見ていたユウは、リンの存在について隠すようにいってきたときのリーズとの会話を再び思い出していた。
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「そっか......うん、ありがとね、ユウ。」
リンからそんな風にお礼を言われたユウは少しばかり沈黙した後、再び口を開いた。
「いいよ、礼なんて。寧ろ、俺の方から礼を言いたいくらいだしね...。」
「?なんで?」
ユウから突然そんなことを言われたリーズは、首を傾げていた。そんなリーズにユウは、
「......ここでの生活は、今までで一番楽しかったんだ。地球に居たときは、どこかで刺激を求めてたのに、自分からやろうとは思わないで、諦めていた...というより怠けていたんだ。そんな中強制的とはいえ、こうして召喚してくれて、地球では絶対に味わえなかった体験を出来るきっかけをリーズはくれたんだよ。...だからさ、今までありがとう、リーズ。」
と、自身の思いの丈を打ち明けた。それくらい、召喚されてからユウは幸せであったのだ。そしてユウは、今まで黙って聞いていたジョンに向き直って、
「ジョンさんも、今まで本当にお世話になりました。リーズだけではなく、ジョンさんからも沢山のものを貰ったけど、その中でも、この世界を生き抜く"力"をくれたことは、凄く嬉しかった......本当に、ありがとうございました。」
と、頭を下げて言った。
「...ふむ、これほど感謝されると流石に照れるな...。」
「はははっ、...それだけ、二人にはいろんな物を貰ったってことだよ。」
「そうか、...しかし、本当にこれで良かったのか?ユウとしてはやはり、地球での生活にまだ未練があるんじゃないか?」
ユウからの言葉に応えながらも、ジョンはそんなことを聞いてきた。その訳としては、ただの"予想"でしかなかったのだが、今のユウにとっては、少しばかり心を揺らがせるものだった。
「...そうだね。...確かに、未練がない状態でこっちに召喚されたのは確かだけど、それでも今まで、そのことを一度も考えなかったわけじゃない。」
「...やはり、そうだったのか...本当にすまn」
「!あ、あ~、いいんだよ、ジョンさん。別に、いまさら召喚されたことを恨んでないって。...ただ、自分の選択に少しだけ疑問を感じることがあったってだけだよ。」
ジョンからそんな風に謝られて、少々慌ててそれを止めたユウは、そんなことを言った。
ユウ自身は、自らの選択が今更間違っていたとは、ほとんど思っていない。...が、地球に居る家族や友達のことを考えると "選択するには早計であったのではないか?" という考えが浮かぶことがあった。
それでも、自身が選んだ結果である今の状況は決して間違ってはいないとも思っていた。だからこそ、
「...それに、俺の人生は俺が決めたようにしか動かないんだ。だから、選んだ後のことは一々気にしないで、その選択が正しかったんだって、俺自身が認められるような生き方をしていきたいって、...まぁそんなわけで、召喚されたならその分、後悔だけはしないでいきたいなぁと思ってるんだ、俺は...。」
と、自身の心の内にある考えを伝えた。それは、ユウがいままでの特訓の中で抱き続けた思いであるとともに、自身の選択を今度こそ貫き通そうという意志でもあったのだ。...今度こそ、絶対に後悔はしたくないという決意を持って...。
「分かった...それじゃあユウ、召喚しておいて勝手な言い方かもしれないけど......頑張ってね!」
「...うん!」
リーズからのそんな言葉に、ユウとしてはこれからの自分の生き方は悔いのないものにしようと決意を新たにしていた。
これが、ユウが出発する少し前の出来事であった。
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「...ぃ、...ぉい、......お~い、少年?」
「......っは!」
「あ、やっと戻ってきた。」
ユウが暫く想い出に浸っていると唐突にユウを呼ぶ声が聞こえてきて、ユウを現実に引き戻した。その声の人物は、さきほどジルトと話していたシルビアであった。
「あれ?お話は終わったのですか?」
「...いや、終わったも何も、ずっと放心状態だったあんたのことをずっと待ってたんだけど...。最初は直ぐ声をかけようと思ったけど、凄く嬉しそうな表情だったからさ、少しだけ待ってから声をかけたんだよ。」
「そうでしたか......それは失礼しました。少しだけ想い出に浸っていたので......もう、大丈夫ですよ。」
そう言ってユウは、自身の先ほどまでの非礼を詫びた。実際そんなに時間が経っていないとしても、今はこのシルビアという女性に厄介になるのだから、そんなマイペースに構えているわけにはいかなかった。だからこそユウは、すぐさま姿勢を正しシルビアに向き直った。
「そっか、それじゃあ話を始めようか。」
「はい。...ではまずは俺から簡単に自己紹介をしますね?」
「はいよ。そんじゃ、お願い。」
シルビアからそう促されたユウは、自身の情報と簡単にこの村へと切った経緯・目的を話し始めた。
「では。......俺の名前は"旭ユウ"です。種族はご覧の通り人間族で、身分は"流れ者"です。この村に来た理由はご存じかもしれませんが、ある出来事により突然この大陸に飛ばされて、一先ず人のいるところへいこうとしたら、ここに行き着きました。
ここに来るまでずっと旅をしていたのでそこまで苦労はしませんでしたが、折角来たので旅の目的のためにもいろいろと情報収集をしたいので、こうしてこの場所へとジルトさん達騎士の方々に取り次いで貰ったのです。」
そうして話し終えたユウはシルビアの様子を観察していた。すると、ユウが話し終えたことを理解したシルビアがゆっくりと口を開いた。
「...そっか。...いや、話としては隊長さんから簡単に聞いてはいたんだ。だけど、少年の口からちゃんと聞いておきたかったっていうのが、理由かな。...ありがとね。」
「いえ、これからご厄介になるのにそれくらいの礼儀は弁えているつもりです。...どうかよろしくおねがいします。」
「はははっ......しかし、話に聞いていたとおりホントに礼儀正しいね、少年。そういうのはずっと大事にしていきなよ?」
「...ありがとうございます。」
シルビアから自身がいつもやっていたことに対し、ここまで褒めて貰えるとはユウ自身少々気恥ずかしく思っていた。それでも、そんなシルビアからの評価は非常に嬉しいこともまた事実であった。
「...さて、ユウ。...そういえば、少年のことは名前で呼んでもいいかい?」
「ええ、そうして頂けると嬉しいです。」
「そっか、それじゃあユウ。今からあたしも自己紹介するね?」
そんなことを言ってシルビアは、自分も自己紹介をすると言い出した。当然ユウは、
「はい。お願いします。」
と、了承した。そしてシルビアは話し始めた。......その内容は、非常に興味深いものであった。
「それじゃあ......あたしは、魔人族領における人間族の使国"スローム王国"の国認魔術士"シルビア・ラングレン"って言うんだ。ここにはクルスの森に対する抑制のために、ここにいるジルト隊長達と一緒に一年前国から遣わされたんだよ。ちなみに、この村の村長と国との間の連絡は私が代わりに仲介をやっているからさ、こうして組合に対する便宜も図れたってわけさ」
そう言ったシルビアは、少しばかり鼻が高そうだった。実際、三十歳(ガルシオ曰く)という若さで村の守備に使わされてあまつさえ、国との連絡という重要な役目を与えられているというのはかなり評価されるべきことであった。
しかし、ユウはそのことではなく、
("国認魔術士"って何だ?俺の持つ名称の"魔術士"と同じ感じなのかな?)
という考えが浮かんでいた。そう、既にユウはリーズとの特訓を経て "魔術士" という名称を取得していたのだ。
というわけで、お姉さんの正体が判明しました!これが今後ユウの旅にどう関わってくるのか、もしくはポッと出のキャラなのか?
まだまだ続きます。




