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異常なリモコン片手に放浪旅 ~主人公は主観的で感情的~  作者: アヤミ ナズ
魔人族の大陸:スローム王国ミミ村編
23/64

No.021 冒険組合と生活組合


「...さぁ、ここがトルマーク戦闘・探索合同組合、通称"トルマーク冒険組合"のミミ村支部だ。......はぁ~」

「お、お疲れ様、セリア...」



 そう言ってユウは、心底疲れたような声を出して、最後にはため息まで吐いたセリアのことを労っていた。それも、つい先ほどここまでの道を歩いてきた最中、道行く人々から温かい目で見られ続けていたのだ。



==========


 あるときは、雑貨屋の主人に、



「お~い、セリア!さっきのザルバからの告白、なんで振っちまったんだ?そろそろ恋人の一人でも作って、兄貴のガルシオに見せてやれよ。それとも、兄貴よりいい男がいねぇからって諦めてんのか?」



といったことを言われ、またあるときは花屋の女主人に、



「あれ、セリアちゃん?その隣の男の子どうしたの?...はっ、もしかして!......なるほど~、だからさっきのザルバ君からの告白断ったのね?それなら、早くお兄さんに伝えなきゃね!あ、もしかして既に公認の元......もう、若いんだから~♪」



と、凄まじいくらいの勘違いをされていた。セリアはそれらを否定するために、



「全っ然!違いますから!!」



と、顔を真っ赤にしながら言い放った。近くを歩いてたユウとしては "それって所謂(いわゆる)、逆効果なんじゃ..." と、マンガで見た展開そのままが、自身の近くで繰り広げられているのを黙って見ていた。......自分もその輪の中心に居ることは、どうやら頭の隅に追いやっているようだ。



「セリア、これ以上言っても逆効果だからさ、それよりも急ごう?ジルトさん達が待ってるんでしょ?」

「...言っておくが、貴様が一緒だから、勘違いされていることもあるんだからな?そこのところ、分かっているのか、あ?」

「まぁ、そうなんだけど......それでも、急ぐことは間違ってないでしょ?...ほら早く」

「むぅ...たしかに、それもそうだった。...では向かうか。...はぁ~」



 そう言ってセリアは、ため息をつきながら歩き始めた。...それも、さっきまでの数倍の速さで。

 まぁユウにとってはそんなこと、なんともないのだが。



===========


 そんなこんながあり、ユウとセリアは少しばかり急いで(というか後半、ほぼダッシュで)ここまで来たのだ。ここに着く直前に至っては、ユウとの関係についてしか言われなかった。そのため後半は、ユウも含めて気恥ずかしさに襲われていた。

 そんな共通点を得られたこともあって、



「...まぁ、その感謝の気持ちは嬉しいから、礼は言っておこう。...ありがとう」



と、セリアは少しだけユウに対する考えを改めてくれた。まぁ、色々と面倒なことはあったが、それでもセリアとの壁がこうして少しだけ薄くなって、ユウとしては嬉しかったのだ。まさに、"結果オーライ"である。

 そんな、少しだけ打ち解けたユウとセリアは、ジルト達が待っている"トルマーク戦闘・探索合同組合ミミ村支部"を見上げていた。



 その建物は木造3階建てになっており、地球に居たときに見た"ロッジ"をさらに良い造りにして、奥行きを少しだけ延ばした形となっていた。

 さらに注目すべき点は、同じような建物が隣にもう一つあったことだ。しかし、セリアは迷うことなく自身が示した方の建物へと向かった。



「あれ?セリア、こっちの建物は?」

「ん?あぁ、そっちは"トルマーク生活補助・管理合同組合"の方だ。似ているが、この赤い紋章の方が"冒険組合"、そっちの緑色の紋章が通称"生活組合"だ。気をつけるんだな」

「そっか...ありがと、セリア!」

「...別に。...気にするな」



 そう言ってセリアは、そっぽを向いてしまったが、ユウの中に居たリンは知っていた。 "セリアが今、照れたことを!!"



〈ムムムゥ~~~。.....主とセリア、随分と仲良くなりましたよね...?〉

(ん?...まぁ、気持ちは察してるからさ、そんなにいじけるなよ)

〈(......ホントに分かってるんですか...)うぅ~、...後で抱きついてもいいですか?〉

(う~ん...撫でるだけじゃだめか?)



〈......1時間ぐらい撫でてくれるのであれば、それでも...〉

(......よし、抱きついて良し!)

〈わ~い、ありがとうございます、主♪〉



 そうしてリンは、セリアとは正反対の理由でユウを悩ませていた。それでも、本気で嫌がらない辺り、ユウも好かれるのは嬉しいようだ。......たまにドン引きするが。



 ユウとセリアが扉(木製)を開けて中へと入ると、そこにはまるで市役所のようなカウンターと、病院のような奥へと続く通路がいくつかあり、さらにはそれなりに広い空間を多くの人々が埋め尽くしていた。



「火の3の11でお待ちの方~、こちらの窓口で承ります!」

「ん?...あ、俺です!」

「はい!ではこちらに、お名前とご職業、受ける依頼内容をお書きください」



 そんなやり取りをして、カウンターに居た女性(これもテンプレ)は、番号で待っている男を呼び、その人物が希望していることのための、必要事項を記入する用紙を手渡した。



「分かりました。えっ...と、依頼内容は"接近中の飢餓狼の撃退"っと...これでお願いします」

「はい、かしこまりました。複数人での受託ですか?」

「あぁ、五人で受けます」

「でしたら、こちらにパ-ティーの申請をお願いします」

「いや、既に登録済みのパーティーだから大丈夫です」

「そうですか、失礼いたしました。...では、飢餓狼は単体ではなく複数体で襲ってくることもありますので、十分お気をつけて向かってください」

「勿論!それじゃ、ありがとう。...お~い、終わったぞ~」



 そう言って、受付が終わったようで男は自身が所属している"パーティー"というものの仲間に呼びかけていた。これからその"接近中の飢餓狼の撃退"という依頼に向かうようだ。ユウもその魔獣と戦ったが、固有魔法の脅威を受ける前に吹っ飛ばしてしまったので、本当の意味での恐ろしさは感じていなかった。

 まぁ、感じないほどユウにとって飢餓狼とは、脅威でもなんでもないのだが...。



「...すいませんセリア。少しだけお手洗いに行ってもよろしいですか?」

「ん?...まぁ、そんなに時間がかからないようであれば、別に構わないが...。ここで待っているから、早く済ませてきてくれ。トイレなら、そこの受付の脇にある通路にある」

「そうですか。...ありがとうございます、セリア。では少しだけ失礼して...」



 ユウはそう言って、トイレのある通路へと向かっていった。しかし、ユウの本来の目的はトイレではなく(それでも用は足すが...)、



(...リン、少し良いか?)



と、リンに対しての用事であったのだ。ユウからの呼びかけに対し、先ほどまで静かであったリンは、



〈ん?どうしました、主?...はっ!...もう主ったら///そういうことなら早めに言ってくださいよ~

///...そりゃボクとしては、いつでもばっちこいの態勢ですけど......その...心の準備というものが...えへへへぇ~~~♪〉



と、いつもの"ユウ好き好き節"が炸裂していた。まぁ、久しぶりに(というほど経っていないが)ユウとの接触が出来ると思い、さらにはその先まで想像し頭がおかしくなっていたリンであったのだが、そんなリンの言葉に対しユウは、



(いや、ただリモコンの"字幕表示"を使いたいだけなんだけど...)



とツッコんだ。"そういうこと"がどういうことか、今までのリンの発言からなんとなく察したユウは、素直に真実を述べた。

 流石にここで、リンの言葉に同意しようものなら、えらいことになるかもしれないとユウは本能で察したのだ。まぁ別に、リンと仲良くすることが嫌いなわけではないが、今はセリアのことを待たせている身でもあるため、そういうことは後にして欲しかったのだ。


 ......それでも、リンが妄想しているようなことは、"絶対"が頭につくくらいには遠慮したい行為だが。



〈......まぁ、知っていましたけどねぇ。...それでも、望んだって良いじゃないですか。ボクは主のこと、こんなにも好きなのに、主は毎回ボクのこと子ども扱いして......そろそろ、一歩先の段階になっても良いでしょ?〉

(だから、お前とは無理があるっての...。いいから、早くしてくれ。あんまり時間がないんだから...)

〈うぅ~......分かりました。ですが!後で、ボクのこと"ギュッ!"って抱きしめてくださいね?〉

(あ~、うん...。まぁ、時間が空いたらな...)



 ユウは若干興奮気味なリンからの要求に "どうせ、十分以上はされるんだろうなぁ..." と、諦めムードになっていた。事実、森の中でもリンがいじけるたびに撫でたり、抱きしめたり(基本リンから)していたので、慣れていたのだ。


 まぁそんなわけでユウは、リモコンへと変化してユウの右手に収まったリンを操作し、リモコンの固有魔法"字幕表示エグテンス"を発動した。調べる内容は勿論、



(トルマーク冒険組合とは何だ?)



である。



==========


『トルマーク戦闘・探索合同組合』


通称"トルマーク冒険組合"。

元々は、"トルマーク労働組合"という大きな組合、というよりも会社であった。

設立者は"ディグルス・トルマ-ク"という商人である。組合の内容は、戦争の最中職を失った者に仕事を斡旋したり、仕事に就けるように関係各所へと紹介したりなどがある。


そして現在はあまりにも規模が大きくなったので、組合の役割に応じて二つに分け、それぞれを自身の子どもに託したのである。

そしてその片方"トルマーク冒険組合"の責任者は兄のガディル・トルマーク。もう一方の通称"生活組合"の責任者は弟のベディル・トルマークだ。


==========


 そんな説明が画面に表示された。それを見てユウは、二つの組合にどんな違いがあるのか気になって、それに関して問いかけた。



(二つの組合には、それぞれどういった違いがある?)



==========


 二つの組合はそれぞれ、"冒険者"と呼ばれる者達が主に利用する "冒険組合" と、住民やその他の職業を営む者達が利用する "生活組合" に分かれている。

 当初は生活組合の仕組みしかなかったのだが、そこで紹介できる仕事の種類にも限界があり、中々思うような仕事を見つけられない者が居た。


 それならば、誰もが自由に自分がやりたい仕事を見つけられるようにするため、片っ端から依頼を受けて、それを希望者に受注させれば良いことにディグルスは気づいた。依頼の内容はどんなものでも良く、依頼に応じた報酬を用意し組合に内容と一緒に提示することで、誰もが自由に依頼を出せるのだ。


 そして、受注者が依頼を達成し、その証拠を提示することで、報酬を組合から受け取る仕組みとなっている。しかしその受け渡し額は、依頼者が用意した分の2割が組合に納められている。


 

 そんな経緯があり、"トルマーク労働組合"は現在の"冒険組合"と"生活組合"に分かれたのだ。実際の管理体制は以下の通りである。


『トルマーク戦闘・探索合同組合』


【火】《主に魔物や魔獣の撃退や討伐》


【水】《人物の護衛や、危険生物(野生動物や力の弱い魔物・魔獣など)の駆除》


【風】《採取や運搬》


【土】《その他、上記に含まれない依頼(監視や偵察、研究など)》



『トルマーク生活補助・管理合同組合』


【火】《住民情報の管理》


【水】《関係各所への手続き・紹介》


【風】《仕事の斡旋や手助け》


【土】《国外者への対応及び外交・国外(ミミ村の場合村外)との連絡》



 そして、どちらにも存在する総合受付には、金銭のやり取りや、組合への登録が出来るようになっている(生活組合の方は住民登録)。


==========


 ちなみに、それぞれを火・水・風・土で分けているのは、その方が人々に馴染み深く、分かりやすいという単純な理由であったことは、流石の字幕表示でも表示されなかった。



「ふぅ~、どうにか理解できたか...」

〈主、お疲れ様です!〉

(あぁ、...にしても、随分かかっちまったな。...早く戻らねぇと、セリアが怒っちまうな...)

 


 そんなやり取りをしながらユウは、急いでリモコン(リン)をしまい、トイレを出て行った。



「おっと、折角来たんだしついでにやっておくか」



 そう言ってユウは、トイレの本来の使用法に則り、用を足していた。そこのトイレは、地球の男子トイレにあるような便器の造りであったため、ユウは特に戸惑うことなく用を足せた。

 しかし、セリアが待っているのにユウはかなり余裕のようだ。



......湯浴みの時に怒られたばかりなのに、この男は....。



 

「遅い!何をやっていたのだ、私が待っていると知りながら!」

「ご、ごめんって...」



 現在ユウはセリアと再び合流し、ジルト達が待っているという冒険組合の"所蔵庫"に向かっていた。しかし向かう途中では、ユウがあまりにも長い時間トイレに居たため、セリアからお叱り(という名の不満)を受けていた。......まぁ、"自業自得" という言葉で片付くのでどうでも良いが。



「まったく...、かなりの時間待たせてしまっているのだから、その自覚ぐらいちゃんと持て!」

「り、了解...」



 そんな、社会人として当たり前のことを、自分より三つも年下(どちらかというと二つのような気もするが)の女の子から言われ、ユウとしては落ち込んでいた。

 自分としては日本に居たとき、時間を守る方だったのだがこちらに来てからは、そんなことを気にしなくなってしまっていた。その事実を知ってユウは、かなり反省していたのだ。......良い薬である。



「はぁ~...まぁいい。とりあえず......さぁ、着いたぞ。ここが組合の所蔵庫だ」



 そう言ってセリアは通路の途中で、壁沿いにある一の扉の前で止まった。

 セリアの言う通り、ここが所蔵庫のようだ。......まぁ、扉のプレートに『所蔵庫』と書かれていれば誰でも分かるが。


(※ユウはリーズの力によって、すべての言葉や文字が日本語に見えたり、聞こえたりします)


 まぁ、そんなことは置いといて、セリアが扉を開けて入っていくのに続き、ユウはその後について行った。

 もうすぐ、ユウがこの村に来た最初の目的が果たせそうである。












〈むむぅ......セリアのくせに、主に向かってあんな口をまだ聞きますか...。お仕置きでもシてやりましょうかねぇ?フッフッフッフッ...〉




(...もう少しまともな精霊いなかったのか?......はぁ)




というわけで少々短くなってしまいましたが(十分長いっての...)、こんな感じでいったん次回に持っていきます。

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