No.019 ジルトとゲートルト兄妹
「...つまり、お前はシェールの人間じゃなくて、あの森にいたのは突然誰かに転送させられたからだっていうことか?」
「そういうことですね...」
ジルトが先ほどまでユウが話して内容を、大雑把にまとめると、ユウはそれでほぼ間違いないと答えた。実際は、話していないこともあったが、そこはユウの気持ちを騎士達が考慮してくれて、聞かないでいてくれたのだ。ユウの先ほどの話を少し詳しくするとこうなる。
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自分は、シェール王国の住人ではない。が、何処から来たのかは事情があって話せない。名前や種族、身分などに偽りはないが、自分としても自身の情報が本当に正しいのか分かっていない。
そんなこともあり、自分が一体この世界においてどういった存在なのか知るためにも、各地を転々としながら情報を集めていた。
その途中、突然周囲の光景が変わったと思ったら、あの森の上空に投げ出されていたのだ。どうにか落下によるダメージを防いだものの、ここがどこか分からないため、自身の魔具の能力を使いここが何処かということと周囲の人が住む集落を調べたら、このミミ村が存在することが分かり、ここまで歩いてきたのだ。
当然、道中では魔物や魔獣に襲われることもあったが、自分一人だけで旅をしているだけあって、戦闘や気配察知にはそれなりに自身を持っていたのだ。そして、一週間以上も殆どぶっ通しで歩いてきて、ここまでどうにか来ることが出来たのである。
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ユウはそんなことを言った。しかし、魔具やユウ自信がなぜそれだけの力を持てているのかは、秘密と言うことで納得して欲しいと頼んだ。
騎士達も、無理にそれ以上を聞こうとはしなく、ユウとしては非常に助かった。魔具精霊や竜族が、この世界においてどれほどものか把握できていない今、流石に話すのは躊躇われたのだ。
「...しかし、よくもまぁ空中に投げ出されて無事な上、ここまで特に致命傷を負わないで来られたもんだ。普通だったら、体力や魔力がなくなったり、そうでなくとも食料や睡眠の不足で安易に動くことも出来ないだろう。...ホントに、何者だよ、お前は...」
そんなことを言ってジルトは、ユウの話を途中から半分疑心暗鬼になりながら聞いていたのだ。
「あははは......はぁ...俺だって好きであんな所にいたわけじゃないですよ。本当は、シェール王国に向かっている途中だったんですから...」
「なるほど...だからさっきまで、"自分は元シェールの人間だ" って言ってたのか」
ジルトからの返しに、本来人間族の平和な国に行けると期待していたユウは、それを裏切られた気持ちが話している途中に再び湧き上がってきて、ナイーブになっていた。
「まぁ...それも理由の一つではあるんですが...」
そう、ユウが言い淀んだ様子を見て、ジルトは、
「...まぁ、今はお前がどうしても言いたくないことを、これ以上聞き出すのも悪いしな。実際、お前自身も自分のことについて知らないことが多いみたいだし、特に危険分子っていうわけじゃないならそんなに警戒する必要もないかもな」
と、器の大きさがどれほどのものか窺い知れるくらい、広い心でユウの話を信用してくれたようであった。今のユウにとってそれは、とても喜ばしいことであった。......都合がいいとは決して思っていないのだ、本当だ。
「あ、ありがとうございます!...それでは、村の中へとはいってもいいですか?」
ユウがジルトにお礼を言い、当初の目的でもあったミミ村に入ることが出来ると思っていた。だからこそ、ジルトに確認を取ったのだが、...そんな簡単に"信用フラグ"は立たないようで、
「ああ、俺が許可する......ただし、そこにいるセリアを監視役としてお前のそばに配置しておくから、そのつもりでな」
と、お約束の言葉を言った。そのとき、その言葉に反応する者がユウの他に一名いた。
「なっ!?ど、どうしてですか、隊長!なぜ私がこんな奴の監視など...」
「あ゛?俺の命令が聞けないってのか?」
「い、いえ...ただ、私のような者よりガルシオ殿のような、この不審者と気軽に話せる者の方がよろしいかと...」
そう言ったのは、先ほどユウをここまで案内してきた女騎士であった。話の流れかすると、この女騎士が"セリア"という人物のようだ。
......まぁ、まさにテンプレのような展開ではあるが、......監視をつけられるなど、対応が不審者のままである。 信用は何処へ行ったのか。
「えっと...監視は別にいいのですが、そちらの騎士さんが嫌ならば別の方でもよろしいのでは...」
「ん?...あ~、いいんだよ、こいつで。...おい、よく聞けセリア」
そう言ってジルトは、セリアに向き合って話し始めようとした。その様子は "絶対に拒否は許さねぇぞ" と言葉にしなくとも伝わってくるほどであった。
「っ...はい、何でしょうか、隊長」
「まぁ、そういじけんなって」
「!わ、私はいじけてなどいません!」
「...ったく、分かったっての。いいから聞けよ...」
「っ///...はい、失礼いたしました」
そんなやり取りをしている二人を見ながらユウは、さきほどのガルシオとの会話を聞いていたこともあり、
(あいつ、あんな性格だったのか...それなら、俺と話すときもあんな感じに話してくれれば良かったのに...)
と、若干拗ねていた。ユウだって男だ。女性には、素っ気ない態度で接せられるより、もっと柔和な態度やそうでなくとも、平等な態度で接して欲しいのだ。
ユウがそんなことを思っている間に、ジルトとセリアの話は始まっていた。
「...まぁ、理由は簡単だ。セリア、お前がこの中で一番下だからだ」
「っ、...それは重々承知です...。っですが!」
「まぁそれ以外にも、なぜかお前だけにはこいつを未だに危険だと思ってる気持ちがあるからな。現段階だと、この場にいる奴の中だと俺も含めて、お前が一番ユウのことを警戒してるんだよ」
そう言ってジルトは、先ほどまでのただ威圧感のある表情ではなく、意思の籠った表情でセリアに伝えた。
「?と言いますと?」
「なに、この中だとお前が一番監視に適してるから頼んだんだよ。...どうにか、引き受けてくれないか?」
ジルトにそう言われたセリアは、自身にちゃんとした理由の任命がされたことを感じ取り、腰から上を軽く曲げ、一礼すると、
「このセリア・ゲートルト、その任務、精一杯勤め上げて見せます!」
と、ジルトから任命された監視役を引き受けた。
「そっか、ありがとな」
「いえ!...ですが、具体的にどのように監視すればいいのですか?」
セリアがそうジルトに問いかけた。セリアとしては、おそらく何処の部屋にユウを宿泊させ、できる限り外出させずに、その部屋を監視するのだろうと考えていた。しかし、
「あ?そんなの、一緒の部屋に泊まって、四六時中二人で行動するに決まってんだろ。監視ってのは、対象から離れたところでただ見てるだけじゃ意味ねぇんだよ」
と、ジルトから言われ、その言葉をセリアは一瞬考えていた。そして、たっぷり五秒ほど場が固まると、セリアは、
「なっ!?何を言っているんですか、たいt」
と、ジルトに突っ込みを入れようしたが、それは別の人物(達)からの声に遮られた。
「アホかーーーーーーーーーー!!」
〈ちょっとーーーーーー!!じょーだんじゃありませんよーーーーーー!!そんなことしたら、主とボクのイチャラブ(物理)が出来ないじゃないですかーーーーーーーーーー!!!〉
との声が響いた。ちなみに、リンの声はユウの脳内に響いているため、周囲にはユウの声しか聞こえていない。
「!?き、急にどうした?お前そんなしゃべり方だったか?」
「そ、そうだ!貴様、ジルト隊長になんてしゃべり方をしている!」
突然のユウの変貌に、ジルトや自身の話を遮られたセリアが、ユウの口調に対し憤慨していた。そんな中、当の本人であるユウは、
「.........ジョークです。どうです、驚いたでしょう?」
と、無理がある発言で乗り切ろうとした。ていうか、実際無理だった。
「...今更遅ぇだろ...」
「ま、まぁ...ユウとしては、いくらセリアみたいな奴でも、女と一緒に生活するのは少し抵抗があるんだろ?」
「なっ!?...ガルシオ殿、それはどういうことですか...」
「ん?言葉通りの意味だが?」
ジルト、ガルシア、セリアの順にそんな反応を見せた。そして、セリアが問うてきたことに対してガルシオは、
「頭が固い、口調がきつい、色気が一切ない、さらに言うと今のユウにとって一番一緒にいたくない奴だからな。
セリアが嫌というより、ユウが一番嫌に決まってんだろ」
と、凄まじく容赦のない指摘を挙げ、セリアに言い放った。その発言にセリアは、
「~~~っ!!......いいです、分かりました。この不審者が嫌がるのなら、私が進んで監視しましょう。それも、片時も離れないで!」
と、売り言葉に買い言葉といった具合に、ジルトに返した。
「おぉ~、よく言った!それでこそ俺の妹だな!...ということは、風呂やトイレに行くときも一緒ってことだな?」
「なっ!?......上等です。監視役なら、そのくらいのこと出来て当然です。...そう、当然ですとも!」
「おし、その通りだ。...てなわけでジルト隊長。セリアへの説得終わりました」
「......あっ」
そんなことを言ったガルシオの言葉に、セリアは "ハッ!" として、その後、膝から崩れ落ちその場に手をついて落ち込んでいた。......素は結構チョロい人物のようだ。
「...まぁ説得が省けて良かったが、ホントに大丈夫か?」
「大丈夫ですって。どうせセリアとしては、自分から認めたことに対して責任持ちますから、ちゃんとこなしますよ。...だよなぁ~、セ・リ・ア・さん?」
「......分かっています。...それに、ちゃんと監視していないと、にいs...ガルシオ殿が許さないでしょう?」
「なんだ、分かってんじゃねぇか。ま、そういうことだから、ちゃんとやれよ?」
そう言ってガルシオは、凄くムカつく笑みを顔に浮かべており、それを見ていたセリアは内心 "いつか、絶対に泣かす!!" と、怒りを溜めていた。そんな当事者同士の話し合いの中、唯一空気扱いされていたユウは、
(......俺の話も聞けや!!)
と、セリア並みに憤慨していた。しかし、その後のリンの発言を聞いて、それで良かったと思い直すのであった。
〈全くですよ!!折角主と○○や○○、さらには○○○○といった、やりたいことが山ほどあるというのに~~~!...ボクと主のセイカツを邪魔するなんて......あの女、嫌いです!〉
(あ、そういう......あっぶねぇ...。危うく色々と失うところだった。...サンキュー、ガルシオ!女騎士さん!)
漸く出てきたと思ったら、そんなぶっ壊れた発言をかましたリンにユウは、内心セリアやそれを促したガルシオに感謝していた。
...相変わらずリンは、ユウのことになると盲目(一方方向にのみ)であった。
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「...とりあえず、お前のことはミミ村に入れることにする。...が、監視付きとは言え、あまり勝手な行動は慎めよ。もしなんか問題でも起こしたら......速攻で追い出す。...覚悟しとけ」
「り、了解です!」
ジルトからの注意(というか脅し)を受け、ユウはできる限り目立たないように(監視がついている時点で無理)情報を集めようとした。その理由として、以前リーズから、
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「いい、ユウ?わたしとしては、ユウにこの世界のことを色々教えてあげたいと思っているんだけど...」
「ん?...あぁ、それならいいよ。俺としては、この世界のことは自分で見て、感じて、確かめていきたいんだ。だから、さ。リーズから言ってくれるのは嬉しいんだけど......それはいらない、かな?」
そう言ってユウは、リーズからの申し出を断った。リーズも、
「うん...ユウならそう言ってくれると思ってたよ。ありがとう......その代わり、魔法のことならなんでも聞いてね!」
と、元々ユウがそう言ってくることを見越していたかのようであった。実際のところリーズは、"空間遠視"でユウのことを前々から知っていたこともあり、ユウが、そう答えることを確信していたのだ。
勿論ユウはそんなこと知らないため、
「そっか、そういうことならさっそく......ねぇリーズ、腐敗魔法ってもしかして食品に使えたり...」
と、リーズの言葉に何の疑問も抱かず、魔法の知識を蓄えることに戻ったのだ。
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とまぁそんなこともあって、ユウとしては、この世界の現状や知識は生きていくための知識以外自力で確保していこうとしていたのだ。その方が断然面白く、何より誰も知らないことを見つけたときの喜びは、きっと表現できないほどに素晴らしいものであると思っていた。
だからこそリーズやジョンからは、旅をしていく上で必要な身体の強さや魔法の知識、この世界の簡単な情報だけを貰うのみで済まし、それ以外の知識や常識は何も聞かないで地上に降りてきたのだ。
......現状を見る限りそれは早計であったことが分かるが、それはそれ、今更後悔しても仕方ないことである。それにこういった方が、ユウとしても旅をしている実感が持てていいだろう。...全部がそうとは限らないが。
「とりあえず...ユウ。お前、ミミ村にはどのくらい滞在するつもりなんだ?」
「へ?......そうですねぇ...」
ジルトからそんなことを問われ、ユウとしてはあまり考えていなかったことであったため、少々返事をするのに時間がかかってしまった。
それもそのはず。ユウの考えでは、この世界の情報を得られれば直ぐに別の所へと向かうつもりだったため、深くは考えていなかったのだ。
しかし、自身は現在素性の知れない人物(不審者とは言いたくない)のため、滞在日数は限られているのだろう。
「...おい、もしかして何にも考えてなかったのか?」
「そ、そんなこと......大体、二週間ほどでどうでしょう?」
「ん?そんなものでいいのか?もう少しいるもんだと思ったが...」
ジルトはそう言って、少し意外そうな言葉を発した。事実、あんな森を抜けてきて漸くたどり着いた村に、二週間しかいないというのは、意外と短いなと捉えられるのであった。しかし、
「まぁ俺自身、情報を集めながら旅をしているので、そこまで同じ場所に留まるわけにはいかないんですよ。それにジルトさんや他の騎士さん達も、俺に対して温和な態度で接してくれているのは分かりますが、それでも、警戒しているのは伝わってきますよ」
とユウは、ジルト達の考えをずばりと言い当てていた。実際ジルトを含めた騎士達は、ユウに嫌な印象はそこまで持っていなかったのだが、それでも正体不明の人物であることは変わりないため、緊張の糸を緩ませるにはいかなかったのだ。
ジルトは話していなかったが、ここにいるすべての騎士達は、ミミ村近くの森 "クルスの森" に生息している魔物や魔獣に対する、国から遣わされた軍の所属騎士達であったのだ。だからこそ、そんな森からやって来たというユウの存在は、そんな簡単に看過できるものではなかったのである。
ユウに自分たちの本心を読まれたジルトは、
「......すまねぇな。これも、仕事の内なんだ、勘弁してくれ。その代わり、出来るだけお前の行動には手を貸してやる」
と肩をすくめながら、苦笑してそう言った。
「はい、ご厚意感謝します」
「ははっ、......だからって、あんまり図々しいのはごめんだぞ?」
「分かっていますよ。...そうだ、では村の中で一番書物が多いところに連れっていってもらえませんか?」
ジルトからの親切な言葉に最大限甘えるつもりのユウは、まず最初に当初の目的であった"情報収集"をしようと思い、そのためにも書物がある場所へと案内してもらえるか聞いた。しかし、
「...まぁ、まずはその身体洗ってからにしろっての。少なくても、一週間以上は洗ってねぇんだろ?」
と、ジルトにツッコまれてしまった。
「あっ、...それもそうですね。では、最初に風呂に入ってからにします。...ちなみに、俺が泊まって良い場所ってどこですか?」
「あ?...確かに、お前を普通の空き家辺りに入れるのはまずいか...」
「あれ?"宿屋"とかいうものはないんですか?」
そんなことを言うジルトに対し、ユウは率直な疑問をぶつけた。
「あるにはあるが...お前金持ってんのか?」
「......あっ」
「ったく、やっぱり持ってねぇのか......おい、ガルシオ。こいつ、お前の家で泊めてやってくれないか?」
「へ?...別にいいですけど」
ユウのそんな様子からジルトは、ユウが無一文であることを察し、ガルシオに宿泊場所の提供を頼んだ。突然呼ばれたガルシオは、会話の流れからして、ユウの世話係に任命されたことを理解した。ガルシオ本人としては別に良かったが、
「なっ!?ジルト隊長!そ、その...それはちょっと...」
と、セリアが割り込んできた。
「ん?何今更嫌がってんだ。さっきユウの監視は自分がやるって言ってただろ。寧ろ、自分家でやることになって良かったじゃねぇか」
「そ、それとこれとは...」
「い・い・か・ら!ユウの監視兼世話係頼んだぞ、ゲートルト兄妹。...いいな?」
「うぅ、了解です」 「了解でっす。よろしくな、ユウ!」
そんなジルトからの迫力に負け、渋々了承したセリアと、そんなセリアとは逆に随分と面白そうな表情を浮かべているガルシオは、まさに正反対な性格であった。
(あんたら、ホントに兄妹かよ......)
そんなことを思いながらも、ユウはそのことを口には出さなかった。こんなことはいつもの "お約束(テンプレ)" と言う言葉で片付けられるような展開である。
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「さて、ユウ。長くなってすまなかったな、ユウ。...とりあえず監視付きだが、ひとまずはこの村で気軽に過ごしてくれ」
そう言ってジルトは、ユウに握手を求めてきた。どうやら条件付きだが、正式に歓迎してくれたようである。その言葉に、
「はい、よろしくおねがいします!」
とユウは返し、差し出された手を取って握り返した。
こうしてユウは、ミミ村へと正式に入ることが出来た。
(ぐぬぬ...主とのイチャラブが出来ないとは...。これならまだ、森の中で彷徨っていた方が良かったですよぅ......)
一人?だけ、最後まで納得がいかなかったようだが、そんなことはその人物以外誰も知らない。っていうか、知ったところでどうしようもない。(例を挙げると、"ユウに阻止される"など)
そんなわけで今後、村での少しばかりな日常が続きます。




