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No.001 出会いと口調


 そこは、白い空間であった。


 いや、空間と言うよりも、天井から部屋全体を照らしている照明や、壁際には扉が存在していることから、1つの部屋と呼べるだろう。 

 そんな部屋の中で、今作の主人公である旭ユウは未だ気絶した状態から目覚めていない。


 だが、それも無理のないことであった。

 正直、個人が心の底から嫌悪している存在むしによって埋め尽くされた部屋に閉じ込められ、あまつさえ強制的に気を失わせたのだ。

 

 いくらなんでもこれはやり過ぎで、ユウの個人的判断で傷害罪にかける程である。と言うか、それだけでも納得いくのか心配である。



 しかし、そんな当の本人は未だに気を失ったままだ。このままでは、物語が進まない。誰か起こしてくれないものか。 

 


「...よし、こんなもんで大丈夫かな?」



 どうやら、既に誰かが近くに居て、なにやら作業をしていたようである。だがユウを起こそうとしないのは、何か理由があるのだろうか...?



「さて、...だいぶ手荒い方法で召喚したけど、大丈夫かな?見た感じうなされているようには見えないけど、起きて事情話した瞬間機嫌最悪だったらどうしよう...。」 



 誰かは分からないが、その容姿を見れば女性であることが分かる。あえて付け加えるならば、美女である。いや、若干幼さが感じられ、美少女が当てはまるだろう。


 髪は神聖さが感じられる上品な銀色の長髪。

 瞳はエメラルドグリーンよりもさらに深い色を帯びて、口元は薄い紅色をしている。

 胸元は決して大きくはないが、主張が乏しいというわけでもなく、言うなれば"美乳"である。

 そして、それらに劣らないほどのスタイルを併せ持ち、それらを覆うように白と金の衣を、日本の和服のように合わせて羽織っている。


 しかし、そんなことは今は関係ない。

 たとえ相手が美少女であろうが、美男子であろうが、はたまたガチムチの両刀バイであろうが、油断が出来ない人物であることは変わりがない。

 よって、最大限に警戒はするべきなのだ......が、流石にそんなことを寝ている相手に求めても意味がないので、非常にどうでもいいことである。



「今更何を言っている...。あんな方法をとったの君自身だろうに...。」



 するとそんなことを言いながら、先ほどの少女が独り言を呟いているときに、別の人物が近づいてきた。


 見たところだいぶ大柄なことが窺える。おそらく男性だろう。



 深い海を連想させるほどの濃い藍色の髪を短く切り揃え、邪魔にならないようにしている。

 瞳は鳶色で、鋭さを感じさせる三白眼。

 

 体はほっそりとしているように見えて迫力を感じさせるほどの存在感を放っている。紺色のマントを羽織っているため、詳しくは窺い知れないが、筋骨隆々で相当腕の立つ者だろう。


 その男は、客観的に見て厳しめの表情に、少しばかり呆れの色を浮かべている。

 


「...まぁ君の言う通り、見たところ特に言及すべきところはないようだが...。」

「そりゃそうだよ!できる限りあの光景が記憶に残らないように、ガッといって、スゥって気絶できるように容赦なくやったんだから。...おかげというか何というか......それでも!見るからに気持ちよさそうな寝顔だよね?」

「まぁ、否定はしないがな......それにしても確かに、普段では見ることもないほどの数だったな。しかし、たかが虫ごときに気絶するほどか?いくらなんでも、反応が過剰すぎないか?」



 そう言って男は、先ほどのユウの過剰反応に少しばかり疑問を感じていた。

 だがそれも、少女からの言い分によって解決することになる。



「仕方ないよ。確かに私もあそこまでの数じゃないにしても、すぐに駆除するぐらいには耐性あるけど、彼の居た世界では人の目の前にはそんなに現れないもの。むしろ、私やあなたのような感覚を持つ人の方が珍しいみたい。認識の違いってやつだよ。」

「そうなのか?...まあ、そうなのだろうな。先ほどの彼を見たら、その解釈が正しいのだろう。それにしても、たかが虫の数百匹ごときで気絶するようでは、これから先苦労するだろうなあ。」


「そうだね。まあ、それは彼自身が克服しなきゃならない試練みたいなものだから、私たちじゃどうしようもないよ。」

「それもそうだな。これからこの世界で暮らしていく上で、虫にいちいち驚いていては身が持たないだろう。」

「そうそう。あんな小さいものとは比較にできないようなサイズがこの世界にはたくさん居るし、慣れなきゃやってらんないよ。」

「確かに。...それより、こうやって話しているが、当の本人を起こさないことには何も始まらない思うのだが...。」



 そんな当然のことを言って、男は少女にそう投げかけた。

 それでもこんなに長々と話していれば、もうじき本人も起きそうなものであるが...



「あぁー、そうだった!早く起こして事情話さないと。うぅ~、納得してくれるかなぁ?」

「なに、本当のことを話すわけではないのだから心配いらないだろう。」

「いや、本当のことは話せないから作った内容が、だいぶふざけてるなぁ~と思って、これで納得する人居ないだろうが!って自分でも突っ込めるくらいなんだよ~。」

「それでいいじゃないか。君自身も、「ノリと勢いと気合いがあればなんとかなる!」と言っていたではないか。その心意気や"あっぱれ"だったぞ。」

「ぐっ、...だって~、どこの誰が「新魔法の研究してたら異世界からの召喚魔法ができて、とりあえず試したいから、ランダムで選んで当たったのが君だったのだよ。一応、言質はとったんだからいいよね!ごめんね!」っていう、聞いた人が全員ゴミを見る目で蔑むこと確定な内容で納得するの!」



 そんなことを言って、少女の方は少し愚痴を言っていた。確かにそんな形がぐちゃぐちゃな理由、ユウでなくとも納得出来なさそうではあるが.........ん?



「いや、私に答えを求められても...。な、何よりその内容で行くからこそ召喚するときの会話であのように言ったのだろう?」

「うぅ~、そうだけど~。」

「なに、君が選んだ人物だ。きっと寛大な心で許してくれるさ。」

「そ、そうだよね。どんなこともまずはやってみないと始まらないよね。よし、腹はくくった。ばっちこい!」

「うむ、その意気だ。では、とりあえず彼起こそうk」

「どうしたの?早く起こs」



 長い間続けられた会話も区切りのいいところで切り上げ、彼らがユウのことを起こそうとしたとき、彼らは文字通り固まった、いや、僅かに男の方はため息をつき、もう一方の少女の方は顔を青ざめさせている。なぜなら、



「あ、俺のことは気にせず話し続けていて結構ですよニッコリ。決して邪魔なんかしませんからニッコリ。どうぞごゆっくり。俺のことは、さっきみたいに無視し続けていて結構ですから二~~ッコリ。」



 そこには、胡座をかき満面の笑みで「自分は全然気にしてませんよ」と、如実に怒りを感じさせる声で答えているように思われるユウの姿があった。そう、ばっちりお目覚めである。


 

「ぇ、えっと、おはようございます。旭ユウさん。え~っと、どの辺りから聞かれてました?」

「あ、はい。えっと、朧気にお二人が会話していることは認識していたのですが、如何せん頭が重くて、中々覚醒しなかったんです。それで、またうつらうつらし始めたときにある会話で覚醒したんです。」

「か、会話の内容は...?」

「えっと確か、


 

「だって~、どこの誰が『新魔法の研究してたら異世界からの召喚魔法ができて、とりあえず試したいから、ランダムで選んで当たったのが君だったのだよ。一応、言質はとったんだからいいよね!ごめんね!』っていう、聞いた人が全員白い目で睨むかゴミを見る目で蔑むこと確定な内容で納得するの!」

 


っていう内容だったはずですね。いや~、そんな理由で召喚された事実に少しのショックと莫大な怒りがわいてきたんですがね、とりあえず冷静になるべくお二人の会話を聞いていたんですよ。ほら、なにより短絡的思考は誤解の原因ですから。まずは、事実確認をと、そういうわけで今まで黙っていました。」



 そうユウが淡々と話した。いくら召喚のためとは言え、"あんな方法をとったのだから、もう少しまともな理由で召喚して欲しかった" と、ユウから心の不満が聞こえてきそうな言い方であった。それに対し少女が、



「あ、あぁ~、それはその~何といますか~。その言葉自体に、すご~~~く語弊があるといいますか~、本心じゃないと言いますか~、え~っt」

「いや、そのままの意味で受け取って欲しい。」

「なっ!?」


 

と、煮え切らない返事をしていると、それを遮るように男の方が答えた。



「そのままの意味ですと、俺は貴方たちの実験のための生け贄だったというわけですか。」

「そうだ。だが納得して欲しい。いや、納得できなくとも受け入れてもらえないだろうか?」



 そう言って男は座り込み、頭を下げた。



「あ、えっと、別に謝って欲しいわけじゃないんです。俺も、何かしら起こることを理解した上で選択しましたから。俺自身の問題でもあるんです。た、確かに実質実験のための生け贄になったことには少し衝撃を覚えましたが、それも含めて俺自身の責任でもありますから。」



 突然頭を下げてきた男に、目立つのが苦手なユウは生来の性格故か、少しばかり恐縮しこちらもそこまで気にしていないことを伝えると、目の前の男に向き直った。実際、召喚方法や理由に対して憤慨していたが、よくよく考えてみると、ユウの行動が発端であったはずだ、とユウは思い直していた。



「そうか!それはありがたいが、本当に良かったのか?」

「はい、大丈夫ですよ。俺としても、貴方たちから感謝の言葉を受け取る理由がないですよ。」

「う、うむ。では、何か望みはあるか。仮に君がこちらに召喚されることに同意したとしても、こちらの都合で巻き込んだことには違いない。私にできることがあれば可能な限り協力しよう。」

「え~っと、それは確かに魅力的なことですが、そちらの方を話に混ぜなくてよろしいのですか?」

「ふぇ?」



 ユウと男が話している中、突然話題を向けられた少女は、容姿に見合った実に可愛らしい声をあげた。



「おぉ、そうだった。リーズも黙っていないで謝罪の一つも言ったらどうだ。」

「あ、そうだった!」


 

 そういって、リーズと呼ばれた少女はユウの前に来て座り、謝罪した。


 

「本当にごめんなさい!」

「まぁ、さっきもそちらの、えっと、」

「あぁ、私の名前は...ジョンだ。以後よろしくな。」

「はい、よろしくお願いします。えっと、その、ジョンさんにも言ったのですが、別に謝って欲しいわけではないのです。だから、頭をあげてください」

 


 そういって、ユウはリーズに向き直って述べた。

 


「え、えっと。もう怒ってない?」

「はい。少しばかり腑に落ちないこともありましたが、それでも俺が選んだことですから、文句なんかありません。」

「そ、そっか~。」


「しかし、もうあんなやり方で召喚されるのは嫌なので、これからは自重してくださいね。」

「う、うむ。」

「う、うん。」



 ユウからの、未だに怒気(というよりも既に呆れ)が籠った注意を受け、二人は気まずそうにしていた。

 そんな二人に、


「はい、お願いしますよ?」



と、表情を緩めたユウがそう答えた。






 こうして、誤解は解けた?のだった。





 そして話題は、ユウの今後のことについてに変わった。

 


「まずは最初に質問なのですが、」

「あ、ちょっと待ってくれ。その前にひとついいか?」

「はい?なんですか?」

「その、なんだ。君のその丁寧口調はどうにかならないのか。」



 そんなユウの話を遮って、ジョンが問いかけてきた。



「どうにかとは、もう少し砕けた口調に、ということでしょうか?」

「あぁ、そうだ。どうもその口調で話されるとこちらとの壁を感じてしまう」

「確かに。もっと軽い感じで話そうよ、私みたいにね!」

「そうですか。こちらとしては、できる限り相手に不快感を与えないように注意した結果だったのですが。」

「あ~、そういうことだったのか。それは気を遣わせてしまったな。...すまない。」

「あぁ、別に大丈夫ですよ。そこまで苦痛ではありませんし、むしろ癖みたいなものになっていますから。」

「そ、そうなのか。」

「えぇ、ですのでお気になさらず。」

 


 そういってユウは話を再開させようとしたが、



「じゃあ、今から全員丁寧口調禁止ね!」



 「「え」」



 直後リーズからの宣言?によって阻止された。



「え、えっと、リーズさん。」

「リーズ!」

「へ?」

「だから、これから私のことはリーズって呼び捨てで呼んで。私も君のこと"ユウ"って呼ぶから。あ、もちろん口調は直してね。」



 そんな様子のリーズは、それ以外の意見は聞かないとでも言うかのような迫力を、その言葉に宿していた。



「お、おい!リーズそれはちょっと。」

「ジョンも!」

「っ!?」

「ユウのことは"君"じゃなくて"ユウ"って呼ぶこと、いい!?」

「う、う~む。それはいいが、リーズを他者が呼び捨てにするなど...。」

「いいの。私がいいって言ったんだから大丈夫!」


「はぁ...まぁ、別に構わないが...」

「よし!じゃあ、ユウもそれでいいかな?」

「へ?」



 しばらくリーズの独壇場に思われた会話も、急にユウに振られ本人は空返事である。



「だから、もっと砕けた感じで話すこと。いい?」

「い、いや、突然言われてもすぐには...」

「ど、どうしてもだめかな?」

「い、いや、どうしてもというわけでは。」

「じゃあ、決定!これからこの3人で話すときは全員丁寧口調禁止の、名前呼びね」

「うむ。了解だ。」「...はぁ、分かったよ。」

「はい!それじゃ、話進めようか!」

  


 こうして、ユウはリーズの勢いに押されて、口調を直した。



「...それでは、先ほどの話の続きですg」

「だ・か・ら、その口調直してよ!さっき言ったことは嘘だったの?」

「......じゃあ、さっきの話の続きだけど、俺はこれからどうすればいい、の?...これならいいよね?」

「ん~、まだ若干砕けた印象は感じないけど、まぁいいか。それじゃ、そんな感じでよろしく!」


 

 未だに口調を直そうとしないユウにリーズが不満を漏らした。渋々話し方を変えたユウだったが、リーズからは、まだ及第点レベルらしい。



「うむ、確かにだいぶ話しやすくなったな。では、改めてよろしく頼むぞ、ユウ。」

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします、ジョンさん。」

「ん?私には、その口調のままなのか?私に対しても、リーズと同じように話して構わないぞ。」

「いえ、ジョンさんには壁とか関係なしにこの口調の方が安定するので...、ジョンさんさえよければこの口調でも構いませんか?」

「そうか、ユウがその口調を敢えて使うのであれば、私から特に何も言うことはないな。いや、その口調のままで大丈夫だ。」

「そうですか。ありがとうございます。」



 ジョンからそんなことを言われ、理由を話したユウ。ユウ自身の考えとしては、見た目同じくらいに見えるリーズにはすぐ順応できたが、雰囲気が完全に年上に感じるジョンに対してはどうしても抵抗があるのだ。



「そんな~、それじゃ私に威厳が無いみたいじゃないの...。」

「いや、リーズが望むならさっきまでのしゃべり方に戻すけど...。」

「あ、違うの!そうじゃなくて、その話し方で全然構わないんだけど、その、ちょっとジョンと比べちゃっただけだから。気にしないで!」

「そっか。俺も一度変えたのに元に戻すのは気まずかったから助かるよ。」

「そ、そう。なら良かったよ。うん、私もその話し方のままがいいかな。」



 そんな少し拗ねたリーズとそこまで気にしていなかったユウとの会話が終わった辺りで、



「では、先ほどのユウの今後について話そうか。」

 


 そうジョンが切り出した。

 


人の容姿って、説明するの難しいです(泣)


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