No.017 見えない村と最初の人間
※森の中での行動を、二日から一週間に変更しました(2017/07/17)
ユウがリモコンの"字幕表示"によって、人が住む一番近くの集落(というか村)を見つけ、現在進行形でその表示された"ミミ村"へと、歩みを進めていた。その間にも、
"ガァアアアアアア!!"
「ッチ、今度は飢餓狼かよ...」
〈アハハハ...まぁ、気狂鳥じゃないだけいいじゃないですか?〉
と、前方から迫ってきている飢餓狼に対し、ほとんど緊張感なし状態のユウとリンが、そんな会話をしていた。実際のところ、今日の計算では飢餓狼はこれで十五体目であった。
ちなみに、気狂鳥や緑大猩々の方は途中で数えるのも諦めたようである。
とまぁ、そんなことは置いておいて、今は前方からやってきている飢餓狼の撃退だが、
「はぁ~...そうだけど、さ!」
とユウは、リンからの問いに答えると同時に、飢餓狼からの攻撃をその身に受ける前に、飢餓狼の顔の左側を右足で蹴り飛ばすと同時に、飢餓狼の身体を吹き飛ばした。今のユウには、単純な攻撃では当てる前に瞬殺されてしまうため、遠距離からの攻撃の方がまだ通用するかもしてない。しかし、そんな攻撃もユウにとっては、効いても掠り傷に程度ではあるが。...不憫な魔物や魔獣たちであった。
「しっかし、まだミミ村は見えないなぁ。...もうあれから、丸々一週間は歩いてる気がするぞ...」
〈ア、アハハハ...、そうですねぇ......そもそもこんな森の中に村なんてあるんでしょうか?〉
「さぁ?もしかしたら森を抜けて、その先の開けたところに村があるんじゃないか?流石に、こんな魔物や魔獣がいるど真ん中に、村を作ろうと考える方がおかしいだろ」
そんな会話の中で、ユウは自身が考えていた予想を話した。実際ここらの魔物・魔獣は、先ほどの飢餓狼も含めて、十分に危険なレベルの存在だと思われる。
個体ごとに差は出るが、それでも気狂鳥や飢餓狼の持つ"固有魔法"は、常人にとって絶対に回避しなければならないものであり、危険な魔法である。そんな魔法を使う存在がうようよと出てくるようなこの森では、ユウのようにそもそものレベルが高いものでないと、入ることすら無謀なことであるだろう。
それだけユウ自身の力は、相当な強さになっていたのだ。さらにそこへ、リンというチートと言える魔具の存在が加わると、過剰装備ともとれる。それでもユウは、この世界の魔物や魔獣は、こんなもんなのだろうと思っていた。
そんなユウが自分の考えを述べ終わった頃、遠くの方に木々が生えておらず、草原のようになっているところが見えてきた。
「おぉ~~~!!漸く森を抜けたか!!......あぁ~...長かったぁ...」
〈ええ、体感的には一週間どころか、その倍くらいかかったような気がしますよ。あぁ~、疲れました~...〉
そんなため息混じりの言葉を述べながら、リンは疲れた声を出していた。そんなリンに対し、
「...おい、歩いたり戦ったりしたのは、大半俺なんだが...」
と、少々不満げな声でユウがツッコんだ。
〈な!?それは酷いですよ、主!だって主、全部自分一人で倒しちゃうじゃないですか!それも一撃で!〉
「うっ...ま、まぁ、そうだけど...」
〈そ・れ・に、ですよ!ボクがここまでやったことと言えば、敵や場所の情報、時間を止めること。これしかやってないですけど、それも全部主からの魔力供給ですからね。実質ボク、何にもしないで主の中にいるだけですよ...不憫です...〉
そう言って、今までの不満をぶちまけたリンは、声から想像できるくらいにいじけていた。ユウは少々言い淀みながらも、
「わ、悪かったって...。まぁ俺も今度から、もっとリンに頼るからさ。そのときが来たら、俺と一緒に戦ってくれるか?...だから、その、機嫌直してくれよ...」
と、声をかけた。そんな言葉は当然リンに、
〈~~~///!!っはい!!もっちろんですよ!あ・る・じ♪〉
......といった具合に良く効いていた。 (『ユウの こうげきは リンに こうかは ばつぐんだ!』)
「...まぁ、これで漸く人のいそうなところに行けるな。...よしっ、もう少し頑張りますか!」
〈はい!行きましょう、主!〉
そんな二人は気持ちを引き締め、前方に見えている森の出口と思しき方向へ、再び歩みを進めた。もうじき、ミミ村が見えてくる頃である。しかしユウ達はそこで、この世界がどれだけ元の世界とは違っているのかを理解することとなる。
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...そこは、だだっ広い平地だった。
そんな感想を抱くくらいには、何もなかったのだ。
「いや~、今まで木に囲まれた空間にいたからか、ここが異常なくらい何もないように見えてきたな...」
そんな言葉を呟いたユウに、
"ポンッ"
と言う音を出して出てきたリンは、
「...いや実際のところ、本当に何もないですよ。...一体、ミミ村は何処にあるんでしょう?」
と、そんな当然の疑問を呟き、一度周囲を自身の目で確認していた。
リンの言う通り、事実周囲には不気味なくらい何もなかったのだ。...まるで、元々そこにあったものが、忽然と消滅してしまったかのように。
「どういうことだ?」
〈う~ん...試しにもう一度、字幕表示でミミ村を調べてみますか?〉
困惑しているユウに、そうリンが問いかけた。実際のところ、字幕表示によってこの方向に来たのに、この有様では、これから先どうしようもない。そのため、
「...んじゃ、よろしく頼むわ、リン」
〈はい!了解です、主!〉
と、ユウからの返答に元気よく答えたリンは、その姿をリモコンにし、ユウの右手へと現れた。そしてユウは (ミミ村の位置は?) と問いかけ、リモコンの"字幕表示"を発動させた。すると、画面表示による半透明の画面にはこう表示されていた。
『およそ前方1キロのところに、ミミ村の入り口が存在している。』
「ん?全然見えねぇけど...」
〈主。ならどうなってるか、字幕表示で調べてみては?〉
「そっか、それもそうだな」
そう言ってユウは暫く進んでいって、前方の何もない空間(おそらくミミ村の入り口であろうところ)に向かって (この現象は何だ?) と、問いかけた。すると、画面の表示が更新され、こう表示されていた。
『前方にあるのは光魔法の派生、"結界魔法"による、"魔除け(マジックシャウト)"である。さらに、外からは中の様子が見えないように、火魔法と水魔法の複合魔法"屈折鏡"が張られている』
「なるほど、そういうことか。...だったらどうするべきなんだ?」
〈そうですねぇ...試しに呼びかけてみては?〉
「それもそっか、...よしっ」
そんなリンからの言葉に、納得したようにユウは頷き、
「すいませ~~~ん、ミミ村の方々~~~!どうか僕を村に入れてくれませんか~~~?」
と、久しぶりに出したユウの付与名称"猫かぶり"によって、随分と人懐っこそうな声で問いかけた。なんだかんだで、不満に思っていた名称を知らないうちに使いこなしている辺り、生粋の猫かぶりなのだろう。......本人は無意識に使っているのだろうが。
とまぁ、そんなユウの問いかけに、何もない(ように見える)ところから唐突に、
「まず名を名乗れ!話はその場で聞こう」
といった、いかにも生真面目そうな声が聞こえてきた。おそらく、決まり事を破るような奴を一番目の敵にしそうな性格である。
「それはいいですけど、一体何を言えばいいんですか?」
「では、貴様の名前、種族、出身国、身分、そしてなぜこの村の存在が分かったのかをまず述べろ」
「え~っと、まず俺の名前は旭ユウです。種族は...たぶん人間族です。出身国は、えっと......シェール王国...です。身分は~~その~~...」
自身の身分に全く見当がつかないユウは、字幕表示で対象を自身に設定し、身分について調べた。すると、
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『旭ユウ』
身分:流れ者
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と表示されていた。
「おい、早く身分を答えろ!」
そんな少々せっかち気味の声に、少しばかりげんなりした様子のユウは、
「...流れ者ですけど...」
と、投げやりに答えた。
「なんだ、国捨て人(スロージャー)だったのか。それも、あんなに平和なシェールを捨てるなど...何か訳ありのようだな」
「...そ~なんですよ~、いや~色々とありましてね。シェール王国から出てきたんですよ~」
ユウは、急に反応を変えてきた相手に合わせるように、相槌を打った。勿論、シェール王国出身などただの嘘である。しかし、ここで正直に"日本"などと言ってしまえば、今の問答がさらに長引いてしまう。
それに、できる限り自身が召喚者だと周囲には気づかれたくはなかったのだ。
そんなこともあり、ユウは相手の対応に合わせていた。が、
「まぁ、そのことは後で聞くとして...貴様、どうやってこの魔法を見破った。そもそも、貴様どこからやって来たんだ?」
と、今ユウが一番答えに悩むことを、その声は容赦なく聞いていた。
「あ~~~、それはですね~......」
そう言い淀みながらもユウは、できる限り事実をぼかしながら、かつ先ほどのような明らかな嘘にはならないように、言葉を選んでいた。実際ユウとしては、先ほどの出身国に関して相当考えなしであったと反省していたのだ。
運良く相手がそんなに追求してこなかったから良かったものの、今のユウにはシェール王国に関しての質問に答えられるほどの知識はないのだから、危険な発言であったのは明らかであった。
そんなこともあり、ユウはできる限り相手からツッコまれても対応できるように、細心の注意を払って、言葉を発した。
「...実は、先ほどまで僕は"クルスの森"にいまして、そこから出てきたと思ったら、こんな平原が見えたんです。以前に、この周辺には『ミミ村』があると聞いていたので、おそらく魔物の襲撃に備えて村の位置は森から離していると考えていたんですよ。ですので、暫く進んでからこうして確認の意味でも声をかけたのです。
実際もし返答がなかったら、もう暫く進んでから再び声をかけるつもりでしたので、そちらから答えてくれて、助かりました」
そんな、ありきたりな返しが出来たことにユウとしては、"上出来だな"と確信していたのだが、先ほど考えた "事実をぼかす" はあまり出来なかったようで、
「っ!?ちょ、ちょっと待て!貴様、今どこから出てきたと言った!?」
と、非常に慌てた様子の声が返ってきた。
「えっ?......あっ」
「あの森は、危険な固有魔法を使う魔物や魔獣が多く生息しているんだぞ。熟練の戦士や討伐者でもない限り、入ることすら危険とされているのに...貴様、ただの流れ者ではないな?」
「...まぁその話は長くなるので、出来ればどこか落ち着けるところで話したいのですが...」
声の主にそう、ユウが提案すると、
「...この村に入りたいのであれば、少し待っていろ。私一人の判断では、決めかねる。私たちの隊長に確認を取ってこよう」
と、比較的冷静になり、他の者(おそらく上司)に確認を取ってきてくれるようだった。ユウとしては、こんな簡単に掛け合ってくれるとは思っていなかったが、下手なことを言って相手の気を変えてしまってはいけないと思い、ただ一言、
「ありがとうございます!どうか、よろしくお願いします」
と、最低限の礼を伝え、その場に待機していた。声の主は、その"隊長"なる人物へと確認を取っていったのか、どこかへ行ってしまったようで、声は聞こえなくなり、その場には僅かな静寂が出来ていた。
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声の主がいなくなってから、二十分以上が経過した。
「いか」
〈からす〉
「すいか」
〈かもめ〉
「めだか」
〈うっ...かつら〉
「...ライオネス飛鳥」
〈ちょっ、主!それはいくらなんでも...〉
「知るか。ほら次リンだぞ」
ユウ達は、この二十分以上の間ずっとしりとり(地球のもので)をしていた。何か魔法を試したり、下手な行動を取って相手が見ていたら、面倒なことになると思ってできる限り静かに過ごし、かつ退屈しないようにしりとりという結論に至ったのだ。
言ってみれば、凄く暇なのだ。
〈うぅ~...じゃあ、カタパルト〉
「だいぶ変なのになってきたな....とさか」
〈またですか!もう...主、イジワルです!〉
「そう言うなって。...それにしても、よくもまあそんなに出てくるな...。正直十回過ぎた辺りから、俺も"か"で終わるのキツかったぞ」
そんなことを言ってユウは、リンのしぶとさを素直に賞賛していた。実際、リモコンの記憶しかないリンにとって、地球の知識はそこまで多くないだろうと思っていたユウは、リンの知識量に驚いていた。
〈そう思うなら、少しは別の言葉で終わってくださいよぅ~...カビ〉
「それもそうだな。何より俺がキツいしな......ビーカー」
〈...あ~る~じ~~~?〉
「...これで最後だからさ。次はちゃんと別の奴で終わらせるって」
〈...はぁ~...〉
そんなユウの信用できない言葉に、リンは少しばかりげんなりした声を出していた。そんな二人の会話を遮って、先ほどの声が聞こえてきて、
「おい、そこのお前。先ほど隊長に確認してきた。...まだ、村の中に入るのは禁止だが、我ら見張り番専用の建物へは入れよう。今からそちらに私が行って案内するから、そのまま待っていろ」
と、言うなり、何もないところから扉が開かれ、中から腰に剣、身体の至る所に防具を着けている、"ザ・兵士"が出てきた。いかにもまじめそうな感じを漂わせている顔で、かなり警戒しているようだ。
「もしかして、さっきまで話していたのは貴方ですか?」
「あぁ、そうだ。それはともかく、いいからついてこい。村に入りたくないのならば、別にいいがな」
「...そんなことありませんよ。ありがとうございます」
こうしてユウは、この世界で本当の意味で、最初の人間に出会った。それも女性であった。
新キャラ登場です。そう簡単に物語は進まないのですね...。




