No.015 魔物&魔獣との戦いとリンの本気
先ほど緑大猩々を一撃で倒したユウに向かってきたのは、気狂鳥であった。
その鳥は魔獣の一種で、茶色と黄色の中間ほどの色をしている羽毛で身体を覆っている。まるで薬をキメた人間が鳥になったように、口を半開きにしてそこから止めどなく涎を垂らしている。まさに、気狂だ。
「はぁ~...、しょうがねぇ、また一撃でぶちのめすか...。」
そう言ってユウは、見えている気狂鳥に向かって、迎え撃つ構えをした。しかし、
〈!待ってください、主。どうやら一体だけじゃなくて、複数体いるようですよ。それもかなりの数...。〉
と、すぐに異変に気づいたリンが、それをユウに伝えた。
リンの言う通り、気狂鳥が群れをなして飛んできた。その数、約二十体程である。
「おぉ、マジだ...結構いるなぁ。」
〈そうですね。あれだけの数だと一体一体倒している間に、もし主が一撃貰ったら少しまずいですね...。〉
リンの言っているのは、気狂鳥の固有魔法である"狂乱同調"のことだ。
これは、気狂鳥に噛まれた者は耐性がないと、気狂鳥と同じく狂ったように頭が混乱状態になるのだ。人によって差は出るが、どれほどのものか見当がつかない今は、わざわざ噛まれる危険を冒すことはないだろう。
ちなみに緑大猩々の固有魔法は"激口臭"という、異臭を吐くことだったが、それすら出来ずにユウに吹っ飛ばされたのだ。
リモコンの"字幕表示"によってそれらを知っていたユウは、
「まぁ貰うつもりは微塵もないけど、一匹ずつ相手するのは疲れるし、全体攻撃の魔法で片づけるか。」
と、リンの心配はほとんど気にしていなかった。それでもあの数は厄介だったのか、魔法による攻撃に切り替えた。
「気体球、タイプ"水素"。」
そう呟いたユウは、自身の右手から透明な塊?を生み出し、それを気狂鳥の群れへと放出した。そして、
「爆ぜろ!」
と、ユウが叫ぶと、先ほど発射した球が空中で弾けた。そしてすかさず、ユウは右手の親指に魔力を込めて、溜めた魔力をはじくように発射した。
それは先ほどの球が弾けたところへと向かっていき、
爆発した。
"バッゴォオオオオオオオン!!"
そんな轟音を出して、空中にとんでもない規模の爆発が起きた。
「ん~、"粉塵爆発"と同じくらいかそれより大きいか?」
〈うわぁ......主、えげつないですねあれ...。一体どんな魔法使ったんですか?〉
そんな感想を抱いたリンに対しユウは、
「ん?ただの爆破魔法だけど?まぁ、最初は気体魔法と重力魔法の複合で下地を作ったから、あんな威力になったんだけどな。」
と返した。原理としては簡単で、ユウが昔やった理科の実験での水素の特徴を生かし、そこに爆破魔法の"小爆球"で着火したものであった。
水素は酸素のように火を燃え続けさせることは出来ないが、瞬間的に爆発する性質を持っている。地球でも、水素を燃料に走る車がつくられただけあり、その火力は高いのだ。いわゆる、"水素爆発"である。
ちなみに重力魔法は、水素を拡散させるために使った。
「しかし、思った以上の威力が出たな。これなら、集中するだけで魔力消費は抑えられそうだ。」
〈それにしてはあの魔法、気狂鳥にとってやり過ぎなのでは...?〉
「いや、あれでもそれなりに抑えた方だぞ。やろうと思えば、全部の魔法の威力をもっと上げて、さらにでかく出来るけどな。」
〈そ、そうだったんですか。...すごいです、主!〉
そんなことを言ってのけたユウに対し、リンはますます尊敬の眼差しを強めた。
空中では、弾け飛んだ気狂鳥の残骸がほぼほぼ塵と化し、残った残骸も地面へと落下して土の栄養分となっていた。
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「それにしても、全然強そうな魔物や魔獣いねぇなぁ。」
〈...いや、主が強すぎるんじゃないですかね?〉
「まぁ、リーズやジョンさんに比べたらまだまだだけど、それなりに強くなった自覚はあるからな。これくらいで倒れるわけにはいかねぇよ。」
そんなやり取りをして、ユウ達はここまで遭遇してきた魔物や魔獣を思い出していた。
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『気狂鳥』
魔獣。通称"発狂する鳥"。さっきの奴。
『緑大猩々』
魔獣。通称"暴れる森獣"。固有魔法は"激口臭"。
全身、緑色の毛で覆われている。手には常に、自身と同じくらいの大きさの棍棒を持っている。
『舞踏樹木』
魔物。通称"踊る木"。固有魔法は"暴れる枝"という縦横無尽に動き回る枝(硬さは鉄並み)。
基本は動かないが、近づくものに対しては無差別に攻撃する。
『仕掛地面』
魔物。通称"不可避の罠"。固有魔法は種類によって様々だが、基本はすべて地面と同化している。
魔法は、"落とし穴"・"噛みつく大地"・"底なし沼"等々。
『猪蛇』
魔獣。通称"猪頭蛇尾"。名前の通り、猪と蛇の合体生物だが、どちらにも脳が存在している。そのためどちらか片方が生きていると、永久に動き続けるため、両方の頭を潰さなければならない。固有魔法としては猪の方で"嗅ぎ分ける鼻"による識別、蛇の方は"熱源察知"による体温を持つ生物の感知がある。
ちなみに、蛇とその他の生物との組み合わせは比較的多く、兎と蛇で"兎蛇"、牛と蛇で"牛蛇"となる。
さらに、魔物や魔獣との合成タイプも存在し、その強さはかなりのものがある。
『飢餓狼』
魔獣。通称"飢える狼"。文字通り、常に空腹状態の狼である。
固有魔法は"胃酸牙"で、噛まれた瞬間から噛まれた箇所が焼け爛れるように、溶ける。
基本は単独で行動する(複数だと共食いするため)。しかし、稀に複数で行動し獲物を仕留めることがある。
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以上が、ユウ達がであった魔物の種類である。しかしこの後、ユウにとって避けられぬ戦いが待っているのだった。
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"......カサッ"
「...何か来てるな...。」
〈そうみたいですね。今度は飢餓狼ですかね?それとも...。〉
そんなリンの言葉を遮るかのように、"それ"はユウの目の前に飛び出してきた。
「っ!」
〈主!?〉
いや、飛び出してくると同時に、ユウに向かって攻撃してきたのだ。そしてそのまま、近くの草むらへと隠れた。
すんでの所で躱したユウは、先ほどの相手からの攻撃を思い返し、
「"鎌"、か?」
と、呟いた。そして、ユウを襲った敵は、草むらから出てきた。そいつは、
"キシャァアアアアア!!"
と、そんな鳴き声をあげて、威嚇してきたのだ。その姿は、蟻であった。
「とうとう出てきたか、虫型の魔物!って足が鎌になってんのか!?」
ユウの言ったとおりそいつは、蟻の足の前方2本が鎌の形になった姿をしている魔物であった。しかも、体長がユウと同じくらいの。
「リン!」
〈了解です!〉
そうユウが指示すると、リンはリモコンの姿でユウの右手に収まった。そしてユウがリモコンの、字幕表示で調べると、その蟻の説明が画面に表示された。
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『刃物蟻、モデル"鎌"』
魔物。通称"切り裂き蟻"。固有魔法は"同族通信"といい、刃物蟻同士で鳴き声による電話が出来るような能力である。
そして、名前の通り刃物を持つ(というか自身が刃物の)蟻で、刃物の種類も鎌の他に、剣・鋏・鋸・回転刃(所謂チェーンソー)・刀・斧、等々。
基本は単体で獲物を探し、固有魔法で居場所を仲間に伝える。
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「なるほど...ってもしかしてさっきの鳴き声って...。」
そんなユウの考えは正しく、先ほどの蟻の鳴き声が響いた後、周囲に同じような気配がしたと思ったら、既に数十匹の群れの中心にユウはいた。
「これは...。」
〈ちょっ!?これ大丈夫なんですか!?〉
リモコンの状態でユウに問いかけてきたリンの様子は、姿が見えなくとも、かなり慌てていると分かるくらいであった。
それに対しユウは、
「なに、これくらいの虫っ。ジョンさんに投げ込まれた虫穴に比べたら、全然怖くねぇつぅーの!」
といって、一番近くにいた蟻に向かって、跳び蹴りをかました。
その動きは速すぎて、攻撃された蟻は全く反応しきれなかったらしく、ユウの蹴りによって後方にいた蟻共々吹っ飛ばされていた。
"ギャガァアアアアっ!!?"
吹っ飛ばされた蟻(複数)は、地面を数回跳ねながら身体の部位を飛び散らせて、最終的にその動きを止めた。そう、ご臨終である。
「おら!次はどいつが来るんだ!」
そんなユウの挑発に蟻たちは、仲間がやられたためか、それともユウを未だに獲物とみているためか知らないが、一斉にユウに向かって自らの武器で攻撃してきた。
「はっ、上等だ。かかってこいやぁ---!」
そうして、ユウと刃物蟻たちの戦闘は始まったのだ。
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十数分後、そこには様々な刃物の足を持った蟻が、そのほとんどが身体を半分に引き裂かれているか、黒焦げにされているかのどちらかであった。
「ふぅ~、殲滅完了っ!」
〈流石です、主!〉
「まぁ、気狂鳥よりは動きが遅かったしな。それでも、さっきみたいに全体攻撃は使わないで、一体一体攻撃したから少し疲れたな。」
そう言ってユウは蟻の死骸が転がっていない、比較的綺麗なままの地面に胡座をかいて座った。
ユウとしては、もう少し虫に抵抗が出るかと思っていたが、ジョンの特訓のお陰もあって、虫から出る体液もさほど気にならなくなるほどに、自身には耐性がついていることに気づいていた。
「...さて、早いところこんな森抜けるか。」
〈そうですね。主の力なら、ここらで出てくる魔物や魔獣のほとんどは、敵じゃないですもんね!〉
そんなことを言うリンに対しユウは、
「...リン、それってふらg "ズシーーーン" ...ヌーン...。」
と、リンが盛大に立ててくれたお約束をしっかり回収したユウは、今自分たちに迫ってきている聞いたことのない音に、若干げんなりした様子でその音のする方向にリモコン(リン)を向けた。
そして、出てきた相手に字幕表示を発揮した。
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『丘陵蜥蜴』
魔物。通称"動く山蜥蜴"。体長は悠に二十メートルを超える。でかい。
固有魔法は"岩の息吹"といい、口から息を吐き出すように直径一メートルほどの大きさを持つ岩を、次々と飛ばしてくる。
それはまるで流星群のように降り注ぎ、周囲を更地にする。単純だが、それ故に数の暴力をそのまま表したような魔法である。
基本は、こちらから攻撃しない限り襲ってこない。が、自身の周囲で騒がしくされると、怒りの咆哮を上げながら魔法を解き放つ。
危険度は極めて高い。
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「ふむ、なるほど。騒がしくすると。」
"ガァアアアアアアア!!"
「こんなふうに咆哮を上げて。」
"ヒュウ~~~"
「こんな感じに岩が降ってくるのか...ってぇ!?」
〈ちょっ!何のんびり観察してるんですか、主!?早く逃げてくださいよ!〉
ユウがそんな風にのんびり構えていると、リモコン状態のリンがあまりにも焦りすぎて、ユウに突っ込みを入れていた。
実際、"なにやってんだ、あのバカ..."とリンでなければ言ってるであろうぐらいには、先ほどのユウはマヌケ面だった。
「な、何でいきなり攻撃してきたんだ!?特に騒がしくなんて......してたか。」
〈もう!それはいいですから、この状況から早く脱出してくださいよぅ~!〉
「...いや。」
そう言ってユウは、落ちてくる岩の嵐をうまい具合にかいくぐり、丘陵蜥蜴に接近していた。
〈な、何やってるんですか主!?早く逃げましょうって!〉
「ん~......いや、倒せるんなら倒した方がいいと思ってさ。実際、向こうから仕掛けてきたんだし...」
〈そ、そんなぁ~。無茶しないでくださいよぅ~〉
そんな弱気な発言をしているリンがいたが、ユウはそんなのお構いなく駆けていた。そして、そんなリンに対し、ユウはとんでもないことを言い放った。
「ったく...俺の魔具精霊なら、もう少し俺のこと信用しろって。」
〈えっ、今何と...。〉
「だから、もう少し俺のことを信用しろって言ったんだよ。」
ユウは、岩を避けながらそうリンに返した。しかしリンは、
〈い、いえ、その前です!さっき、もしかして、...「俺の魔具精霊」って言ってくれたのですか...?〉
と、若干控えめに聞いた。
「ん?確かに言ったけど?」
〈!!も、もう一度言ってもらえませんか!?〉
「お、おぉ、別にいいけど......リン、お前は俺の魔具精霊だ。だから、俺を信用しろ!」
(アチャ~)...そう言い放ったユウの言葉に、
〈ハァ~~~~~~♪もう、さいっっこぉですぅ~~~///〉
と、恍惚とした声を上げて、リンは悶えた。
「あの...リン?一応今は戦闘中なんだけど...。」
〈!あぁ~~、主の声が聞こえますぅ~~。もぅボクって、ほんっとうに幸せな精霊ですよぅ~~~♪〉
「...お~い、リンさ~ん。聞こえてますか~?」
そう呼びかけるユウだったが、現在リンは自身の嬉しさの最高点にいる状態のため、都合のいい耳になっている。どうやら既に、自分にとって嬉しい言葉しか聞こえていないようだ。
そんなリンはユウに対し、
〈主~~、今度は『お前は俺の所有物だ、絶対に離さないぞ』って言ってください~。〉
と、ユウにとっては呆れ果てるような要求をしてきた。ユウは少し悩んだ末、
「......オマエハオレノショユウブツダ、ゼッタイニハナサナイゾ。......これでいいのか?」
と、ほぼ感情が籠っていないような声で、答えた。しかしリンとしては、それだけでも脳内変換により、
『お前は俺の所有物だ、絶対に離さないからな、覚悟しとけよ!』
と、真剣な口調に変わっていた。ホントにリンは、ユウのことになると途端に頭が弱くなるようだ。
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〈あぁ~~~、ありがとうございます、主~~!〉
「これでいいだろ...そろそろ集中してくれ。」
〈はっ!そ、そうでした。すみません...。それでは早速、この魔具の能力『映像世界』を使ってみてください。〉
そうしてリンは、真剣な声になり、自身を使うようにユウに言った。
「ん?別にリモコン使わなくても勝てると思うけどな...。」
〈そ、そう言わずに使ってくださいよ~!これじゃあ、ボク何もしないで終わっちゃいますよ~!ボクだってちゃんとお役に立てるところ、主にしっかりご覧に入れたいんですよぅ~!〉
そう言うリンは、どこか泣きそうな声だった。ユウは流石に、(さっきのはないか...。) と反省し、リモコンの機能を使うことにした。
「はぁ~、悪かったよリン。じゃあ、とりあえず俺はどうすればいい?」
〈!は、はい!では、魔具の下のところにある、『一時停止』と書かれたボタンを押してください。〉
「分かった。一時停止っと...。」
そうやってユウは、リモコンを押しながら魔力を注ぎ込んだ。すると、
〈じゃあいきますよ!『一時停止』発動!〉
と、リンが叫んだ。そして、周囲の光景が完全に、
"停止した"。
「ハ?...な、んだ、これ...。」
〈どうですか?これがこの魔具の最強能力の一つ『映像世界』の『一時停止』ですよ♪〉
リンがそう言って、大層誇らしげにしていたが、そんなことに呆れる暇もなく、ユウはこの現状を唖然とした表情で眺めていた。
そこは、すべてのものが停止していた。
風にそよぐ木々も落ちてくる岩も丘陵蜥蜴すらも、ユウやリンを除いたこの場に存在するすべてが、その動きを止めていたのだ。
「こ、これは...いくらなんでも、反則過ぎる能力だな...。」
ユウは引きつった顔を戻せないでいた。そして、
〈ねぇ、主、早くあの魔物倒しましょうよ!〉
と、こんな空間に唯一馴染んでいるリンの声が、ユウの頭の中に響いていた。
ということで、いろんな魔物や魔獣が出てきました。
もっとかっこいい名前をつけられることを目指して、日々精進していきます。
では。




