No.013 ボクっ娘精霊"リン"と旅立ち
そこにいたのは、体長二十センチほどの少女だった。
髪は根元が真っ赤で、毛先に行くほど黄色に近づいていくように変化しているショートであり、サイドに僅かばかりはねているのが特徴だ。
目は爛々と輝く金色に近い色をしており、少女というだけあって、顔は童顔である。
服装は、肩紐から中は白いワンピースのような物だと分かり外には、橙色の肩出し七分袖のシャツを着ている。下は、膝より少し高いくらいの丈のショートパンツを穿いている。
「どうぞよろしくおねがいします、主!!」
そう言って自称魔具精霊の少女は、ユウに向かって丁寧にお辞儀をした。
「え、えっと......その"主"っていうのは、俺のことかな?」
「その通りです!
ボクが宿っている魔具の持ち主である貴方こそ、ボクの主なのです!」
「いや、確かにそのリモコンの持ち主は俺だけど、魔具にまでしたのはそこのリーズだが...」
ユウは、とりあえず事実を述べて、これに至った原因であろうリーズに矛先を向けた。
「へ?でもその魔具は、ユウ専用って言わなかった?」
「まぁ、そうだけど...でもこの精霊とか言うのが宿ったのは、リーズが調整したからだよね?
だったら、直接的には俺だけど、リーズの方が主に当たりそうだけど...」
そう言ってユウは、自分を主と呼んでくる少女(極小サイズ)へ向き直った。
「まぁ、そうなんですけど。
でも、今のボクにとっては貴方が主って心の中から刻まれているんです!
それに、ここではない違う場所にいた記憶も残ってて、それも合わせて、貴方がボクの主だって確信してるんです!」
「違う場所って言うと...元の世界にある俺の部屋のことか」
「ん~、多分そうだと思います。この世界にはないような、薄い板に動く絵が描かれていて、それがボクの身体に主が触れるたび、変わっていくんです。...主がボクに触れる...///」
「なぜそこを繰り返す...。
...ま、まぁ、お前がただのリモコンだったときの記憶を持ってることから、ホントにこの魔具の精霊ってことは分かったし、俺を主って呼ぶこともなんとなく納得した」
「じゃあ、ボクを主の魔具として認めてくれるんですね!?」
「まぁ、俺の魔具だって言うなら認める以前に、契約みたいなことはしてるけど...いきなりそんなこと言われてもな。こっちも、何が正しいのか...」
ユウはそんなことを言って、少しの間考えることにしたかったが、リーズは、
「別に精霊さんが、それがいいって言うなら、そのままでいいんじゃない?」
と、ユウに伝えた。
「そういうものなの?」
「う~ん、精霊そのものが宿るなんて無いわけじゃないけど、そこまで多くはないから...。
それでも、せっかくユウのことを慕ってくれてるんだから、そのままの呼び方でいいと思うよ」
「...そっか。
俺もそこまでいやなわけじゃないから別にいいぞ。...少しだけ恥ずかしいけどな...」
「はい!」
「うん。...そういえば、お前の名前ってなんて言うんだ?」
そんな当然のことに漸く気づいたユウは、その魔具精霊に聞いた。
「ん~、ボクって生まれたばっかみたいな存在でして、名前とかないんですよね...」
「んじゃ、なんて呼べばいいんだ?」
「そこは、ほら!主がつけてくださいよ!」
「(うぇ、やっぱし...)俺より他の二人につけて貰った方が...」
「いや!主じゃないとボク、さみしいです!」
「うっ、そう言われても...(俺にネーミングセンスなんてねぇよ...)」
「いいから、ほら!何か言ってみてくださいよ!」
そうやって魔具精霊は、ユウに自身の名前をつけるよう催促した。
「...じゃあ、"リモコン"から取って、"リモ"っていうのは?(何か、どっかのクマノミみたいだな)」
「...え、えっと...う、うれしいなぁ~」
「...いや、すまん。さすがにないな、これは」
「い、いえ!主がつけてくれたんですから、う、うれしいですよ?」
「いや、さっきのは忘れてくれ。今度は、もっとちゃんと考える」
「は、はい...」
そうしてユウは、魔具精霊の名前を必死になって考えた。
(リーモ、モコ、コン、コーン、リモ子...ってなんでリモコンから取ろうと考えてるんだよ!
...いや、まだこれがあったか。これなら...)
そう心の中で確信し、ユウはその名前を口にした。
「"リン"っていうのはどうだ?」
「"リン"...はい!良い名前です、ありがとうございます!
ちなみに、何か意味があるんですか?」
「あ、あぁ、もちろん。"リン"っていうのは、その、......そ、そう!綺麗で、凜とした様子から取ったんだ!」
「そ、そんなぁ~、主ったらボクのこと、そんな風に思ってくれていたんですね...///」
「そ、そうだ。いや~、"リン"!いい名前だよなぁ~...」
「はい!ありがとうございます、主♪。
...そっか~、綺麗で凜としているのかぁ~...えへへ///」
そんなことを言いながら魔具精霊、改めリンは、とてもうれしそうに身体をくねらせていた。
しかし、名前をつけた本人であるユウは、
(これは、"実はリモコンの真ん中の文字だけを抜き取って、残った文字をくっつけただけ"っていうのは、黙っておくか...)
と、嬉しそうにはしゃいでるリンを見つめながら、そんなことを思っていた。
現実はいつも、非情である...。
「とりあえず、リンのことは納得したとして...リーズ」
「ふぇ?どうしたの?」
「いや、このリモコン...じゃなくて、リンの使える力って何?」
「あぁ~、そういえばまだ話してなかったね。
うん、それじゃあ今から説明するよ」
そう言ってリーズが説明を始めようとした。しかし、
「あっ、ちょっと待ってください!」
と、慌てた様子でリンが遮った。
「ん?どうしたの、リンちゃん?」
「え?リン"ちゃん"?」
「うん、リンちゃん。わたしのことは、リーズって呼んでいいよ。」
「あ、えっと...分かりました。では、"リーズさん"とお呼びしますね!」
「うん、それでいいよ。
それで、どうしたの、突然に...」
「あ、はい。お話中、突然遮ってしまって、すみません。
実は、ボク自身のことでもある、この"リモコン"というものの能力については、ボクから説明しようかと思いまして...」
そう言ってリンは、先ほどの行動を謝罪し、事情を説明した。
「そっか、確かにリンちゃんから説明した方が、わたしよりもいいかな」
「はい!お任せください!」
「それじゃあ、お願いね。...ユウもそれでいい?」
「ん?...俺としては、能力が分かれば別にいいけど?」
「了解です!それでは説明しますね」
こうして、リンによるユウの武器となる、魔具についての説明が行われた。
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名称:リモコン(正式名称:万物管理者)
所有者:旭ユウ
内包精霊:リン
固有魔法:画面表示、入力切替、映像世界、遠隔操作、録画保存、字幕表示、音声設定、記録管理、対象選択、
固有魔法の内容(一部のみ)
『画面表示』
使用者の目の前に、半透明の画面が表示される。そこで自身の情報確認したり、リモコンの機能の内、該当する機能を使う際に必要となるもの。基本は、使用者や使用者が認可したものしか見れらない(リンは例外)。
『入力切替』
基本は、1~12までのチャンネルがあり、それらと合わせて、入力切替のボタンがあり、そこで入力を切り替える。
入力の種類は1~4まであり、入力1には場所を登録することが出来、登録した場所へと転移出来る。さらに、ボタンを空欄にしておけば、そこに行きたい場所を念じるだけで転移が可能となる。
そして、"番組表"というボタンと併用することで、メニューに登録先の状況が見えるようになるのだ。
入力2には、チャンネルの総数分(合計12個)自身の使える魔法を予め登録しておけて、そこに魔力を流し込むことにより、その魔法を行使できる。どんな複雑なイメージが必要なものでも、一度登録してしまえば、魔力のみを注ぐだけでいいのだ。
入力3には、個人に印をつけておき、メニューで確認が取れるように出来る。しかし、最大12人までだ。この機能は、対人以外に対無機物にも使える。さらにはチャンネルを空欄にしておけば、具体的に対象をイメージすることで、そのものに印を付けることが可能となる。...まぁ、大変難しいが。
最後に入力4には、収納空間を組み込んでいる。
具体的に言うと、物をしまえる空間が12個存在し、1個の空間には最大で30種類の物を収納できる。1種類10個までだが。
それでも単純に、10×30×12で合計3600個の物を収納できるのだ。実に便利である。
『映像世界』
これの機能は、早送り・早戻し(ユウ曰く"巻き戻し"だが)・一時停止・次へスキップ・前へスキップ・○○秒送り・○秒戻し・再生・停止というものがある。
この機能は後々紹介するとして、現段階で言うならば、"時を操り、未来視が出来る能力"とだけ言っておこう。
その他に、火・水・風・土・光・闇・物理・干渉それぞれの魔法を、対応するボタンを押しながらのイメージは必要だが、ブースト機能がつくようになる。
まだまだ紹介するような機能がたくさんあるが、それはまたの機会に...。
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「...で、その他にもまだまだ能力がありまして、特にこのリモコンの蓋を開けるt」
「ちょ、ちょっと待てリン!そんなに一度に言われても整理がつかない!いったんストップだ」
「あ、はい。了解です、主」
リンは、まだまだ話し足りないようで、少しそわそわしていた。
「しかし聞いてて思ったけど、とんでもない魔具だな。正直、持ってることが怖いくらいだ...」
「まぁ、わたしも調整してて感じてたけどね。
これってこの世界の魔具の中では"一番強力だ"って断言できるくらいに、桁違いの能力を持ってるよ...」
「あぁ、ここまで高性能の魔具は、私が知る限りの魔具でも例がないな」
「当たり前です!なぜならこれは、ボクと主の絆による究極の魔具ですから!」
そんなリンの発言に対しユウは、
「ハハハッ......(いや、原型を作ったのはSH○RPだから)」
と、内心ツッコんでいた。しかしユウのそんな思いは、当然リンには届いていなかった。
......ユウの"溜め込む者"を発動せざるを得ない...。
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そんなやり取りをしながら、ユウは話が一度途切れたタイミングを見計らって、
「それじゃあ、そろそろ行こうかな」
と切り出した。
「そっか、そうだったよね...さみしいなぁ...」
「あぁ、確かにユウが行ってしまうと、やはり寂しいものがあるな」
リーズとジョンは、それぞれがユウに対して同じく寂しく感じていることを伝えた。
「...そりゃ俺だって、リーズやジョンさんとは離れたくはないけどさ。
...それでも、俺がここに留まっていた最初の目的のためにも、ここから出て行かなきゃならないから...。
...もう、決心はついてるよ」
そう言ってユウは、自身の気持ちが揺らがないように必死に堪えていた。そんな中リンが、
「...えっと、出来れば事情の説明を求めたいのですが...」
と、申し訳なさそうに聞いてきた。
「あぁ、それは...」
~事情説明中~
「なるほど。主はこれから旅に出るから、その餞別としてボクが渡されて、リーズさんによる説明の瞬間ボクが出てきたと...」
「そういうことだ。ってな訳で、これから俺の旅に付き合う形になるけど、リンはそれでもいいか?」
「主、ボクはいつまでも主と一緒にいることが一番嬉しいことで、楽しいことなんです。ですから、その問いは不要ですよ」
「そうか...なら、とことん付き合って貰うぞ」
「はい、共に参りましょう!」
そう言ってリンは、とても嬉しそうに微笑んで、一度リモコンへと姿を変え、ユウの中へと溶け込むように戻っていった。
「...それじゃあリーズ、ジョンさん。これで一度お別れだね。
だけど、またどこかで会おう!」
「うん...またね!」
「あぁ、達者でな」
「うん。
...それじゃあリーズ、よろしく」
そう言ってユウはリーズに、ここから出るための魔法を頼んだ。
「うん、了解。
......ねぇ、ユウ」
「ん?どうしたの?」
「わたしからの最後のお願い。...聞いてくれる?」
そう言ってリーズは、少々言い淀みながら顔を赤く染めていた。それを見たユウはなんとなく先を予想して、
「...あぁ、そういえばリーズにはまだお礼してなかったね。
ありがとう、リーズ」
といって、徐にリーズの頭を撫で始めた。
「ふぇ?」
「あ、あれ?もしかして違った?」
「い、いや、そうじゃなくて...ユウから言ってやってくれたのは、初めてだったから...その、う、うれしくて...///」
「そ、そっか。それは、その......良かったよ」
「うん!ありがとう!」
リーズは満面の笑みで、そう返した。
暫くリーズの頭をなで続けたユウは、リーズから手を離した。
そのとき、捨てられている子犬のような表情をしたリーズがいたが、誰もツッコまなかった。
「ではジョンさん、お元気で」
「あぁ、ユウもな。
存分に世界を旅し、思い切り楽しんでこい!」
「うん!」
「...それじゃあリーズ、お願い!」
「うん!それじゃあ、いくよ......"門"」
そう唱えたリーズによって、人一人が通れるほどの門が地面からせり上がってきた。
「それじゃあ、行ってきます!」
「うん、行ってらっしゃい!」
「気をつけてな!」
そしてユウは門をくぐり、この空間から出て行った。
・
・
・
ユウが出て行ってから、暫くして。
「...とうとう行っちゃったね。
...あ~あ、なんだかこの数ヶ月、短かったなぁ~。それくらい...楽しかったな...」
「うむ。まぁ、ユウが望んだことだからな。今更とやかく言う必要もあるまい」
「...うん、そうだね。...それにしても」
そんな会話をしつつ、リーズはジョンへある言葉を投げかけた。
「ユウに自分だけ正体見せてズルいなぁ、ジョンは...」
「いや、私が竜族ということだけしか教えていないぞ。
その他のことについては、秘密のままだ」
「そっか、それならいいかな」
「それに、自分の正体を教えたくないと言ったのは、君自身だろう?リーズ」
「まぁ、そうなんだけどね...それでも寂しかったんだよ。
ユウはかなりこっちに心を開いてくれたのに、結局わたしは何も教えないまま別れちゃったから...」
そう言ってリーズは、少しばかり気落ちしていた。それを察したジョンは、自分から別の話題を振った。
「そういえばリーズよ。前から聞こうと思っていたことがあったのだが、いいか?」
「うん?別にいいけど?」
「あぁ、では......どうして召喚したのが、ユウだったのだ?」
そうジョンは聞いた。
実のところ、ユウが召喚されたのはリーズによる悪ふざけでも、ランダムでもなく、リーズ自らがユウを指名して召喚したのだ。
ジョンの問いにリーズは、
「あぁ、それはね、ユウのことを"空間遠視"で見てたんだ。
そしたら、いつも自分のやりたいこと、言いたいことを我慢して生活してて、顔は笑ってるのに、心が無表情だったんだよ。
それなのに、そんな生活を受け入れちゃってる自分がいて、それにすら諦めていたんだ。たぶん、ユウ自身から見たら、元の世界は酷くつまらない物だったんだろうね」
そんなリーズからの真実を、ジョンは黙って聞いていた。
リーズは続ける。
「それでも何か面白いことがあれば、率先して行動することがあったみたい。...だけど、いつも他のどうでもいいことに邪魔されて、思うように出来なくて、結局途中で諦めていたんだ。そのたびに、悔しそうに耐えていたね」
そんなリーズからの言葉を聞く限りユウとは、ただのめんどくさい人間に聞こえるだろう。
だがリーズからすると、
「でも、そんなユウを見てて思ったんだ。
"あぁ、この人は本当に欲の強い人だ"って」
と映ったようである。
「だって、そんなに欲が強い人が溜め込んで溜め込んで、それが消えないどころか、次への原動力になるんだもん。欲と言っても色々あるけど、ユウのはなんだか純粋に"知的好奇心"に溢れたものだったんだよ。
それだけ"欲"が強い人なら、この世界の現状を知っていって、いつかどんな考えにも染まらない、純粋なまでの答えに辿り着けるんじゃないかなと思ったんだ。
これが、わたしがユウを選んだ理由の一つかな。他にも、我慢強いところやどんなところでも溶け込めるような人間性とか」
そう言ってリーズは締めくくった。
リーズが話し終えたところを見計らって、ジョンは、
「ふむ、ユウはこんなにもリーズに愛されているのだな」
と、言った。当然リーズは、
「ちょっ、ジョン!なんでそういう風にまとめるの!?」
と、盛大に憤慨していた。
そんな二人とユウは、またそう遠くない未来に再会するだろう。......しかしそれは、決して平和的な再会とは呼べないものだったが...。
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「ん?誰かこの世界にやってきたのか?珍しいこともあるんですね...。
まぁ、不安な異分子には変わりありませんから、とりあえず魔人族の大陸にでも送り込んでおきますか...」
ユウが、リーズ達のいた空間から旅立ったのと同じ時、どこか暗い部屋の中でそう誰かが呟いた。
これが、この物語においてどう作用するのか、この時点では誰も知らない...。
やっと...やっと旅立ちです...。
ちなみにボクっ娘なのは作者の趣味ですが......どうか、引かないでください...。
次話は閑話となります。




