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No.011 "耐え忍ぶ者"と三ヶ月

※2017/06/25 魔力付与→魔力強化 に変更 




「ハァ、ハァ、ぜ、全然追いつけない...」



 現在ユウは、そんな愚痴を言って走っていた。

 前回から三日、今は絶賛進行形で、ジョンとの鬼ごっこ中である。



「まぁ、そうだろうな。

 逆にこの場所で、それだけの重りを付けていながら走れているだけでも、普通では相当な辛さのはずなのだかな」



 そんなことを言いながらジョンは、呆れ半分、感心半分な表情をしていた。

 それも当然である。今のユウは重力十倍の場所で、"走っている"のだから。実質今のユウの体感重力は、重力十倍の影響もあり、自身の体重も合わせると約2トン弱ほどであった。...乗用車2台分である。


 ちなみにリーズは自室にいる。



「そ、そう思うなら、これ外してもいいですか...」

「いや、それはまだ早い。

 その重りは、ユウが"憂さ晴らし"を使うのに、一度鬱憤を溜めるためのものだからな。もう少し我慢してくれ」

「は、はい。ですけど、未だにコツが掴めないんですよ。

 ....どうやってその鬱憤を放出すればいいですかね?」

 


 そんな当然の疑問をユウは、ジョンに投げかけた。



「ふむ、予想でしかないが、名称や称号の能力は基本、魔力操作の延長であるからな。

 体内の魔力をその事象に変質させることや、ユウの場合その溜まった鬱憤を、何かしらのエネルギーに変換することで攻撃へと変質させるのではないか?」



「う~ん、なるほど。確かに、思うとおりに動けないことに対する憤りは感じますが、それを攻撃に変換ですか...」

「なに、そう深く考える必要はないだろう。基本はイメージが大事だからな。

 試しに、その憤りを怒りに変えて思い切り踏み込んでみたらどうだ?」



 そうジョンはユウに言った。ユウも、このまま辛い思いをしながら、ただの筋トレのように走り続けたくはなかった。なので、その豊かな想像力を使って足全体に怒りエネルギーが溜まるイメージをしてみた。


 そしてそのイメージを維持しつつ、感情にまかせて思い切り踏み込んでみた。



「行きますよ、...せーのっ!」



"バコンッ!"



 ユウの踏み込みによって、そんな音を出して地面が盛大に抉れた。その瞬間ユウは、前方へと飛んでいった。



「ぅえ!?あ、ちょっ!?」



 いきなり凄まじい速度で飛び出したことに、ユウ本人は慌てていた。

 当然ジョンも、



「おぉっと!」


 

と驚いたが、その突進を反射的に避けた。

 そのため、ユウはそのまま直進していき壁に激突した。



「くっ!」



 いや、ぶつからずに空中でうまく体勢を立て直し、壁を足場にして「バコン!」と再び足に力を入れ、斜め上へと跳び上がり、勢いを殺しながら地面へと無事着地した。さすがこんなマンガみたいな空間で、二週間近くも特訓しているだけはある。



「お、おぉ、凄まじいスピードだったな...さすがに今のはここまで来ると知っていなかったら、少々危なかったぞ」

「そ、そうですね。

 さすがにあんな速さ、自分でも出せるとは思いませんでした...」

「しかし、それだけの力を引き出せるということだな。

 それにしても、今の踏み込みはどのくらいの強さで解放したか、自分で分かるか?」

「そうですね...。具体的には分かりませんが、全力のはずでしたが、この前みたいな限界までという感じはしませんでしたね」


 

 そう言ってユウは、先ほど感じたスピードアップに関して伝えた。



「ふむ、力の解放の方法が分かったのならば、次はどのくらいの割合で解放したらいいか確認するか」

「えぇ、そうですね」

「うむ、では試しに先ほどのように力を溜めてみてくれ。

 ちなみに今回は、拳をつくってそこに溜める感じだ」

「分かりました」



 ユウはジョンに言われたとおり、自身の拳に先ほどのような怒りエネルギーを溜めていった。

 すると、先ほどは分からなかったが、ユウの拳が赤いオーラを纏っていた。



「ほう、ユウの魔力は"赤"か。あまり安定していないが、そこはこれからの特訓でなんとかなるだろう」

「そうですか...あれ?そういえばジョンさん、魔力って青白いものですよね?なのに俺や、この前見ていましたけど、リーズは銀色、ジョンさんは藍色のオーラでしたよね?

 あれって...」



 ユウはずっと、そのオーラと魔力は同じものだと思っていたが、ジョンの言葉から、魔力は青白いものであったことを思い出した。だから、それは当然の疑問であった。



「まぁ、今は称号の力を試している最中だからな。そのことについては、後ほど話そう」

「それもそうですね。すみません。

 ...ではこれはどうしましょう?体感では、3割ほどのはずですが...」


「うむ、ならば思い切り地面に叩きつけてみるがいい。その威力で判断すればいいだろう」

「分かりました。...では、いきます!」



 そう言ってユウは地面に向けて、拳を振り下ろした。すると、



 "バゴンッ!!"



と言う音を出して、地面に直径2メートルほどのクレーターが出来た。



「ぅわっ!」

「おぉ、なかなかの威力だな。これで3割なら、これから鍛えていくことで、さらに威力の増加に期待が持てるな」

「は、はい!頑張ります!

 ...あれ?ジョンさん、なんだかまだ赤いオーラが残ったままなんですが...」


 

 そういうユウの拳には、未だに赤いオーラが纏われていた。それを見たジョンは、



「...どうやら持続する能力のようだな。これなら強化魔法のように、肉体の強化をしながら戦闘できるだろう。

 いや、本当に見事な能力だな」


 

と言って、ユウの称号の力に驚いていた。



「あ、ありがとうございます!じゃあ、これを生かして、さっきの続きに戻りましょう」

「うむ、だがその前に、先ほどのユウからの質問に答えようと思うが、いいか?」

「あ、そうでした...。

 では、お願いします」

「あぁ、分かった」



 そうしてユウが先を急ぎつつも、ジョンから先ほどの疑問について教えて貰った。



「では...

 名称や称号の力であるオーラは、通常の魔力が個人の特性に合わせて変化したものなのだ。一般的な魔力は青白いが、それはあくまで魔力自体の特質を表したものだ。

 個人が使う名称や称号の能力を使うときの魔力は、本人の特性が色濃く表れるため、それぞれが微妙に違った色に変わっているのだ。もちろん、同じ名称を持っているもの同士だと、似通ってくることもあるが」

 


 そう言ってジョンは締めくくった。



「なるほど...ちなみに、色によって何か明確な違いはありますか?」

「ふむ、まぁあるな。だが、単純に

 赤=火魔法、青=水魔法、緑=風魔法、黄色=土魔法、白=光魔法、黒=闇魔法、茶色=物理魔法、紫色=干渉魔法に適性があると云われているだけだがな。ちなみにその他の色は、色の偏りによって魔法が別れていく」

「そうですか、では俺は火、ジョンさんは水か闇、リーズのあの銀色のオーラは光?ですか?」

「あ、あぁ、その認識で構わない、ぞ」

 


 若干ジョンが言い淀んだかに思えたが、そこまで気にするほどでもないと考えたユウは、特に何も言わなかった。...少々怪しいが。



「まぁ、自分の得意な魔法が分かって良かったです」

「そうか、だが魔法についてはリーズに聞くとして、この後は引き続き称号の行使について特訓するか。重りもそのままでな」

「え、マ、マジですか...」

「あぁ、その方がユウの称号にはちょうどいいし、何より次の特訓に対してもそのままの方が鍛えやすいからな」


「?次の特訓とは?」


 

 そうユウが問いかけるとジョンは、



「次の特訓は、"魔力強化"による肉体強化の行使方法だ」



と言った。



==========


 『魔力強化(まりょくきょうか)』 

 これは自身の魔力を、身体もしくはものに纏わせて、強化させる"強化魔法"の1つである。

 この魔法は、単純に肉体や物の強度を増したり、性能を引き上げることが出来る。さらに上位の魔法になると、視力や聴力といった感覚器官の発達や、最終的に"運"といった抽象的なものの強化まで出来るようになる。


==========

 

 しかし今回は、そこまでいかないで、単純に肉体強化のみに重点を置くようだ。



「そういうわけでこの特訓では、称号を使わない肉体強化の方法を教えよう」

「なるほど、強化魔法ですか...それならかなり汎用性が高いですね」

「まぁ、そうだな。本来なら、魔法はリーズが教えることになっているが、これからの特訓では、実際に私と組み手をして貰うことになるからな。早い段階で覚えて欲しいのだ」

 

「そういうことなら、俺は大丈夫ですよ。魔法に関しては、そろそろ使えるようになりたかったですし、リーズに教えて貰う上で、先に体感していた方がいいですからね」

「そうか、ではまずは、私がやってみせるから見ていてくれ」



 そう言ってジョンは身体から青白い魔力を出しながら、



「"強化"」



と、呟いた。すると、放出した魔力が、ジョンの身体に薄い膜のようにまとわりつき、そのまま身体の中へと消えていった。



「へぇ~、なんだか魔力操作に似ていますね」

「あぁ、確かにそうだが、少し違う。

 魔法というのは知っての通り、自身が持つ魔力を現象へと変化させることで始めて、望んだものを得ることが出来るのだ。


 確かに単なる魔力の塊ならば、鍛えることで威力の高い攻撃は出来るし、身体に纏えば防御にもなる。咄嗟の行動には便利だろう。それでも魔法として発動すれば、常に魔力を放出状態にせず、魔力解放状態よりも、効率のいい強化が出来るのだ。そこが、魔法として行使する大きな理由だな。

 では次はユウの番だな」



 そう言うジョンは、自身の強化を解きながら、ユウにも強化を促した。



「はい、分かりました。やってみます。」

 


 そうしてユウは、自身の魔力を放出し、



「"強化"」

 


と、先ほどのジョンと同じように呟いた。そして、周囲の魔力が収束していき、ユウの中へと吸い込まれていった。



「ほう、さすがに飛空者を得られるだけあって、魔力操作は問題ないな。

 それに、少々手こずるかと思ったが、魔法の行使も問題ないようだな」

「はい、おかげさまで」

「よし、ではそれを生かして特訓の続きだ」

「了解です!

 あ、ちなみにこの重りは...」


「ん?もちろん付けたままだが?」

「えっ...マジですか」

「あぁ、その方がユウ自身の強化に適しているだろ。ほら、始めるぞ」

「...はい.....」



 そうしてジョンとの鬼ごっこ(鉄球継続中)は、再開された。


 




 一方その頃のリーズはというと、



「ふふ、ユウ私からの贈り物喜んでくれるかなぁ。いや、もしかしたらすっごい驚くかも♪

 ...よし、そのためにも頑張って調整しなきゃ!」



と、なにやら楽しそうに笑っていた。このリーズによる行動が、ユウの力をどんどん人間離れさせていくのであったが、ユウもリーズ自身ですらも、まったく予想していなかった。



 ユウが自身の称号の能力を使えるようになってから、三ヶ月が過ぎようとしていた。

 その間も、


-----------------


~ある日のジョンとの特訓(ユウの限界)~



「...ジョンさん」

「ん?どうしたユウよ」



 特訓中唐突に切り出してきたユウに対しジョンは、少し疑問に思いつつも、先を促した。



「いえ、大したことじゃないんです。...ただ、一度俺のことをとことんいたぶってくれませんか?」

「......ユウよ、疲れているのならそう言ってくれ。私としては、お前がこの前のようになって欲しくないのだ」

「いえ、健康ですよ。だから頼んでいるんです」

「...すまない、疲れているのは頭の方だったな...」

「?何のことかは分かりませんが、試しに殴ってみてください。

 一度俺の名称である"溜め込む者"が、どこまで溜め込めるのか試してみたいんです」

「あ、あぁ~、そういうことか。いや、すまない。私は少々、勘違いをしていたようだ」

 


 そう言ってジョンは、ユウがとんでもないカミングアウトをしてきたと思った自分の考えを訂正し、ユウの望み通りに、ボコボコにした。




・・・・数分後、




「も、もう結構ですゴフッ!これ以上は...オェッ。た、溜まりません...ガフッ」

「う、うむ...私も少しばかりやり過ぎてしまったようだ...」

「いえ...お陰で自分の限界が見えました。

 試しに、溜まった鬱憤で"憂さ晴らし"を発動してみたいと思います...せーのっ!」



 そう言って、相当ボロボロのユウは、近くにあった岩に対して一割ほどの威力を込めて解き放った。いつもなら、岩一つ分が崩れるくらいの威力だ。

 すると、



 "バッゴォオオオオオオオン!!"



と、そんな音を立てながら破壊の波は、直線で約20メートルの地面を抉りながら、岩を吹き飛ばしていった。



「こ、これは...」

「う、うむ...」


 

「「えげつない(な)(ですね)...」」



 こうしてユウは、自身の中に鬱憤を限界まで溜めないように誓った(環境保全のためにも)。



―――――――――



~ある日のリーズとの会話(ユウの試したいこと)~



「あ、リーズ~」

「ふぇ?どうしたのユウ?」



 リーズが自室で作業をしていたとき、ユウが訪ねてきた。



「あ~、この前教えてくれた生成魔法って、俺の世界のものでも出来るのかな?」

「う~ん、分からないけど、イメージが細かく出来るならあるいは...」

「そっか、それだけ聞ければいいや。ありがとね」

「あ、ちょっと、ユウ!...って行っちゃった。

 もう、せっかく来たんだからもう少し話そうよ...バカ」



 そんなリーズの声は聞こえなかったようで、ユウは一人重力室へと向かっていった。



「もし、もし"小麦粉"が生成できたら、俺の得意魔法の"爆破魔法"と合わせたら...粉塵爆発、できんじゃね?」



 そんな地球では危険すぎて試せないようなことに、ユウは期待で胸を膨らませながら通路を走っていた。



「さて、じゃあ早速始めようか」



 そうしてユウは、生成魔法によって、小麦粉の生成に取りかかった。が、中々うまくいかない。



(う~ん、まだイメージがいまひとつなのかな?...えっと小麦粉は、白くて、ふわふわしてて、それでも握ると固まるやつで...)



 ユウは必死に記憶の中を探って、小麦粉のイメージを固めていった。すると、



"シュゥウウウ~"

 


と、魔力が収束していき、それが形を作っていくと、白い粉の山(合法の食品だよ、ホントだよ?)が出来上がった。

 試しに触ってみると、



「(おぉ~、まさに小麦粉)ホントに出来た...」



といって、内心自身のやった行動の結果に驚きつつも、次の作業に移る。



(えっと、次は出来た小麦粉を土魔法の重力魔法でいったん"収縮"して...)



 そうして、ユウは重力魔法の"収縮"を使って、小麦粉の山をソフトボールくらいの大きさに収縮させた。



(ではでは~、これを空中でこの"小爆玉"と一緒に拡散させるか)



そうして出来上がったものを、天井高く放り投げた。



「(そんじゃ)っ"拡散"!」



 そう叫ぶと、小麦玉が爆発するように破裂し、空中を舞っていた。そこですかさず、



「次に、"爆破"!」



と、ユウが叫ぶと同時に小爆玉が爆発し、周囲の小麦粉に燃え移った。その瞬間、




 "ドカンっ!ドカンッ!ドカンッ!ドッガァアアアアアアン!!"




といった轟音を響かせ、粉塵爆発が発生した。

 そのあまりの衝撃にユウは、



「ヤバッ!」



といって、全力で"耐え忍ぶ者"の『完全防御体制』を自身の周囲に展開した。

 それを張り終えた瞬間、ユウの周りを紅蓮が染めた。




(こ、これは...。うん、暫く封印しよう。)



 ユウはそんなことを思いながら、周囲の火の手が収まるのを待っていた。



----------------


と、充実した日々を送っていた。



(バカやったなぁ~)



 そんな、高校時代を懐かしむ卒業生のようなことを思いながら、ユウはこの三ヶ月を思い返していた。



(この三ヶ月、かなり強くなった実感がある。

 正直まだ不安だけど、そんなこと思ってたらいつまで経っても、旅立てないしな。...よしっ、明日ここから出て行こう)



 そう決意したユウは、リーズとジョンにそのことを伝えるため、一度彼らの元へと向かった。   いよいよ出発の時だ。



後半若干卑怯かもしれませんでしたが、どうかお許しください...

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