No.009 "名称"と"称号"
※2017/06/26 付与名称の"猫かぶり"にもう一つ能力を付け足しました。
「"耐え忍ぶ者"?」
自身の称号について、事前に少しでも聞いておこうとしたユウだったが、リーズから伝えられたその名前は、そう易々と想像できるものではなかった。
「えっと、それってただ"我慢し続けられる"的な力なの?」
「いや、そんな単純なものじゃないよ。
う~ん、説明してもいいけど、実際に使ってみた方が分かりやすいかも知れないね。そのために今からさっきの場所に向かうんだから」
「...それもそうだね。うん、それじゃあ急ごうか。変なこと聞いちゃって、ごめんね...」
「ううん、別に気にしてないよ。じゃあ、行こう!」
そう言ってリーズが先を促し、それにユウとジョンがついて行くという形で三人は重力室へと向かっていった。
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重力室へとやってきた一行(ユウも流石にこの十倍空間には慣れた)は、さっそくユウの称号の能力を確認しようとしたが、リーズは、
「それじゃあ、称号の能力はわたしのを見せるね。ユウもそれでいいでしょ?」
といって、自分がお手本を見せると言い出した。
「え?...もしかして、リーズって称号持ってるの?」
「うん、といってもわたしの称号のほとんどは非戦闘系だけどね。」
「ん?称号にそんなのがあるんだ。じゃあ、どうやって見せてくれるの、というか名称は?」
「あっ、そうだね!それじゃあ、最初に名称の能力について見せようか。ジョン、お願いしてもいい?」
そう言ってリーズは、名称について教えることを思い出し、一度ジョンにお願いした。
「うむ、任された。」
「ん?ジョンさんが見せてくれるのですか?」
「そうだ。...リーズの名称は、称号よりも実践向きではないからな」
「なんだ、リーズって少し不憫だったんだね」
そんなことをユウは言った。普段のユウなら、相手のことを思いやりそこまで露骨なことは言わないのだが、ここ数日でリーズと親しくなれたことや、先ほどのこともあり、少々からかいが過ぎてしまったのだ。それだけユウは、リーズ、そしてジョンに対して感情を露にしているのである。
「(ムカッ!)そ、そんなことないから!わたしの名称は、称号にも匹敵するくらいすごいものなんだから!」
「へ~、どんなやつなの?」
そんなことを知らないリーズは、ユウのその言葉に少々憤慨し、
「いいよ、教えてあげる。わたしの名称は」
と自身の名称について話そうとした。しかしその言葉は、ジョンからの少々威圧を含んだ言葉により遮られた。
「やめろ、リーズ。」
「っ!」
「え?...ど、どうしたのですか、ジョンさん?」
「...あぁ、すまないユウ。言い忘れていたが、リーズの名称は確かに実践向きではないが、それ以上に、大変希少なものなのだ。だからどうか彼女の名称については、あまり深く聞かないでおいてくれ。それと出来れば、称号の...まぁ、内容に関してだけならばいいが、その名前までは聞かないでおいて欲しい。...頼む」
そう言って頭を下げてきたジョン。その様子は、ユウを信用していないから話さないわけではなく、寧ろユウを信用しているからこそ頼み込んでいるようだった。普通信用していない相手ならば、頼み込むよりも嘘や誤魔化しで欺けばいいはずだし、そうしないと言うことは、ジョンがユウのことを少なからず、相手の領域へと勝手に踏み込んでこない人物と信じているからこそなのだろう。
頼み込まれたユウ自身、流石に伝えてきたジョンの意図を完全に理解出来たわけではないにしろ、彼の向けてきた意思はなんとなく伝わったようで、特に追求することなく了承したのだった。
「分かりました。なぜかは知りませんが、事情があるようなら、これ以上は聞かないでおきます。それに俺の言い方も、今思えば褒められたものではありませんでしたしね」
「うむ、分かってくれてこちらとしてもありがたい」
「いえ、どうしようもないことは誰にでもありますし、隠さなければいけないことも時には大事なことです。二人は俺の頼みに対して、いろいろ教えてくれたり、特訓に付き合ってくれたりしてくれたんですから、俺も少しは二人からの要望に応えるべきです。寧ろジョンさん達から言って来てくれて、助かりました」
そんなことを言いつつ、ユウはこの数日言い出せなかったことを、二人に伝えた。そして、ジョンから話を遮られ、ずっと呆然としていたリーズに対してユウは、
「リーズ、さっきはごめんね?」
と、謝罪した。
「ふぇ?」
「いや、さっきは結構考えなしな言い方だったから、リーズを怒らしちゃったかなって」
「あ、あ~、あれはわたしもつい、カッとなっちゃったから悪いんだよ。本当なら、ジョンに言われなくてもわたし自身が、ユウに確認をとるべきだったんだから。それなのに、ムキになって...恥ずかしぃ///」
そう言ってリーズは、少し顔を赤らめながら俯いた。それをみたユウは、
「えっと、この問題は解決したってことでいいかな?...それじゃあ、さっきの続きから始めましょうか。...お願いします、ジョンさん」
と、リーズから許しを貰ったと思ったユウは、ジョンに先ほどの続きを頼んだ。しかし、
「待って!」
と言って、リーズが遮った。
「え~っと、どうしたの、リーズ?」
「ま、まだちゃんとユウのことは許してないからね!」
「へ?」
「だって、わたしに"不憫"とか言ったんだよ。あれ、結構傷ついたんだから...」
「ま、まぁ、確かにそうなんだけど。そのことは、さっき謝ったじゃないか。それで許してもらえないかな?」
「う~、べ、別にそこまで気にしてるわけじゃないけど...」
「じゃあ」
「そ、それでも!それなりのことは要求するから!
ほらユウだって、さっき"二人の要望に応えたい"っていってたでしょ?それを実行したまでだよ。」
「うっ、それはそうだけど」
「だから、わたしの許しが欲しかったら"ごめんね、リーズ、許して?"って言いながら、な、撫でて欲しい、な?」
そんなことを言いながら、ユウが撫でやすいように頭を向けるリーズ。それを見てユウは、
(あれ、なんかデジャブ...っていうか、ジョンさんの目の前で、恥ずかしくないのか?)
と感じていた。それでも、顔を真っ赤に染めながら立っているリーズを見て、ユウは折れた。
「ま、まぁ、リーズがいいなら別に構わないけど」
「ホント?」
「うん、元々は俺が悪かったんだしね。当然」
「え、えっと、ありがと。そ、それじゃあ...」
「あ~、うん」
そう言ってユウは、リーズの頭に自身の右手を置いて、ゆっくりと擦るように撫で始めた。
「...♪」
「これまた随分とうれしそうだね、リーズ」
「あ、えっと、その...。はい、うれしいです...」
「...かわいい」(ボソッ)
リーズの反応に無意識のうちに本音が漏れてしまったユウだったが、本人は気づいていないようだ。
「え、今なんて...」
「ん?何が?」
「!う、ううん、なんでもない...///」
「どうしたのリーズ、顔真っ赤だけど」
「だ、だから気にしないで!ほ、ほら続きしよ、続き!」
そう言ってリーズ(顔真っ赤っか)は、先ほどのジョンとの会話を思い出し、名称の能力の実演にユウを促した。
「そうだね。
ではジョンさん、よろしくお願いします」
「ふむ、それはいいが...リーズはこれでいいのか?何ならもう少しだけ続けていてもいいぞ」
そう言うジョンは、どこか温かい視線をユウ達、特にリーズに向けていた。
「な!?」
「いやジョンさん、さすがにこれ以上長引かせるわけにはいきませんよ。」
「まぁ、確かにユウにとっては、早い段階で称号を使いこなせるようになった方が、これから先安全だとは思うが」
「えぇ、またこの前のように豹変するわけにはいきませんし、それにその称号自体にも俄然興味がありますから」
「よし、では始めるとするか。...というわけで、すまないがリーズよ、しばらくは我慢していてくれ」
そう言ってジョンは目を細め、穏やかな表情を作りながら、リーズへと問いかけた。
「う~~、ジョン、絶対知ってるでしょ。知っていてからかってるんでしょ」
「そんなことはないぞ...と言いたいが、いや、リーズのそんな表情を見たのは、随分久しぶりだったのでな。もう少し、見ていたかったのだ」
「...はぁ~、もういいよ。
それじゃあ、まずはジョンからお願いね」
そう言ってリーズは、ジョンに先を促した。"自分はしばらく休むから"とでも言うように。
「あぁ、任された」
こうして、ジョンによる名称の実演が始まった。
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「まずユウよ。君は名称について、どういったものだと理解している?」
「え?どうって、個人を表すような呼び方で、自身の潜在的な力によって変化するもの、ですよね?」
「あぁ、その通りだ。変化と言うよりは、進化が一般的だな。さらに言うと、名称は逆に退化したり、中には名称そのものが消滅することもある」
「消滅する?」
「そうだ。例を挙げると、"剣士"と言う名称を持っている者が、剣の特訓をせずに、魔法の特訓ばかりをすると、"魔法士"という名称を新たに持つ代わりに、剣士の名称が消滅するのだ。これが、名称の進化が"変化"とも言われる理由だな」
「そうなのですか...どうやれば、どちらも失わずにすみますか?」
「簡単だ、それならばどちらも鍛えればいいだけの話だ」
「へ?」
「ん?なんだ聞いていなかったのか。名称は何も、一つしか持てないわけではない。寧ろ、一つしか持たない者の方が稀だな」
「...というと?」
「なに、誰もが自身の役割や特徴が一つな訳がない。中には、十以上の名称持ちもいるからな」
「そ、そんなに...」
「まぁ、そういう者もいるというわけだ。だから、名称はいくらでも持つことが出来るとされている。限界は知らんがな」
そう言ってジョンは、名称について補足した。
「...では、そろそろ私の名称の能力を見せようか」
「あ、はい。よろしくおねがいします」
「うむ、では最初に私の名称の名前だg」
「あ、ジョンさん!その、名称の名前に関してはいわなくても大丈夫ですよ?」
「ん?別に私は構わないが?先ほどは、リーズの名称だったからであって...」
「それでも、今はまだ大丈夫です。いずれ機会がありましたら、そのときに改めてお願いします」
「ふむ、...まぁそういうことなら、今回は別の名称を使うことにしよう。なに、この名称は明かしても特に問題はないからな」
「そうですか...では、お願いします」
「あぁ、では行くぞ。これから使う名称は"飛翔者"だ」
そう言ってジョンは、自身から"藍色のオーラ"を出しながら、突然空に浮かび上がった。
「あ、それって」
「そうだ、つい先ほどの特訓中に、ユウからの突撃を躱して見せたときのものだ」
「そうか、あれが名称の能力だったんですね」
「いや、これ自体は魔力コントロールでどうにかなるレベルだ」
「えっ、じゃあ"飛翔者"って...」
「あぁ、飛翔者はその魔力コントロール、つまりは魔力操作を高めていき、こうして飛べるようになった者が獲得できるものなのだ。その能力は、空を自在に動き回れるというものだな」
「?それは魔力操作だけでは出来ないのですか?」
「ああ、出来ない。魔力操作のみでは、精々空中を漂うだけで終わってしまう。その点飛翔者を得れば、地面を移動するのと大差ない動きを空中で出来るようになる。そこが違うのだ。まぁ、飛翔者を得るには、魔力操作を鍛えていかなければならないのだがな」
ジョンはそんなことを言いながら急に加速し上昇した、...と思ったら天井ぎりぎりで停止し、地面に向かって降下してきた。
あわや地面に衝突するかに思われたが、そんなことはなく全くなく空中を滑るように飛行し、周囲の岩の間を縫うように飛んでいく。それも、恐ろしいほどの速さで。
そんなジョンに驚いていたユウに、リーズが、
「どう?これが名称の能力だよ。少しは分かってくれた?」
と聞いてきた。それに対しユウは、
「うん...正直、すごいとしか言えないよ」
と、素直な感想を述べた。
「ふふ、そうだね。わたしもあれくらいの速さは出せるけど、ジョンはこれでも遅くしている方だからね~。ホント、恐ろしいよ...」
「え、これでも遅いの!?というか、リーズも"飛翔者"の名称持ってたんだ」
「うん、だけどジョンの方がわたしよりうまいからね。ジョンの方を見た方がいいかなって」
「そっか。それじゃあ、今度魔力の使い方について教えて貰うとき、一緒に魔力操作についても教えてね」
「うん、もちろん!じゃあ、今度はユウの称号について詳しく教えようか。...お~い、ジョ~ン~。そろそろ戻ってきて~」
そう言ってリーズは、ユウに称号の内容を教えるために、一度ジョンを呼び戻した。
・・・しばらくしてジョンが戻ってきた。
「っと、待たせたな。...どうだユウよ、名称についてはとりあえず理解できたか?」
「はい。なんとなくですけど、理解できたとは思います」
「そうか。しかし、名称にはかなりの種類があるからな...すべてを覚えるのは大変だが、それでもいいならば、教えるか?」
「あ、いや~、それはちょっと...」
「なに、本気で思ってはいない。だが、これから旅をしていく上で、名称持ちとは会っていくのだから、少しは教えておこう」
「...はい、助かります」
そんな会話をジョンが戻ってきてからしていたユウだったが、話を称号の方へと戻した。
「それでリーズ、俺の称号"耐え忍ぶ者"ってどんな能力があるの?」
「あ、うん。それはね...」
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『称号"耐え忍ぶ者"』
この称号の能力は以下の通りである
『完全防御体制』
文字通り、鉄壁の防御を持つようになる。基本的な攻撃に対してや、耐性が必要な攻撃にも効果があり、すべての防御・耐性を底上げする。
しかし、防御に特化しすぎて、攻撃などのその他の能力が下がるという欠点がある。それでも、それを補うだけの防御力が得られる。
ちなみに、他者へと少しだけ付与でき、範囲を指定すれば周囲に結界のように張ることも出来る。
『憂さ晴らし』
ユウ自身の内に溜め込んだ、怒りや不満といった"鬱憤"を、攻撃という形へエネルギー変換し、注ぎ込んだ鬱憤に応じて、威力を変化させるもの。
ちなみに、攻撃のみの適応(魔法も含む)で、適度に発散しないと爆発する。
『鬱憤爆発』
ユウの中で溜め込んだ鬱憤が限界を超えたとき、理性を代償に怒りで自身を満たして、それらを全能力の上昇に使う。一度使うと記憶が飛び、すべてを吐き出さない限り終わることはない。
本能に従って動くため、少しでもユウの気に触れたものは、誰であろうと殲滅しようとする。他者はもちろん、自身にとっても危険な能力である。
『付与名称"溜め込む者"』
どんな感情でも押し殺して、自身の心の中へとしまい込む。一種の理性の化け物。
『付与名称"猫かぶり"』
感情を押し殺すことで、誰とも話せて、決して面倒なことにならない。さらに、基本無害に見えるため初対面の相手でも信用を得やすい。
しかし、基本お人好しに見えるため頼まれ事をされやすく、断ることが苦手。
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「...」
「え、えっと。どうしたの、ユウ?」
「いや...なんか、最後の方がすっごい不愉快な内容なんだけど...」
「あ、あはは...まぁ、確かにうれしいかどうか微妙な名称がついてるね...。け、けど!称号自体の能力はすごく便利だよ!まさに、戦闘系の能力だね」
そう言って慰めるリーズだったが、ユウは、
("猫かぶり"って、そこはほら、"謙虚な者"とか、もっと言い方があるでしょうが...)
と、そこそこダメージが大きかったようだ。
「そ、そんなに落ち込まないで!ほら、ユウも自分の称号や名称が分かったんだから、それを鍛えていかなきゃ」
「うむ、そうだな。特に、"鬱憤爆発"というのは危険なものであるようだし、そのためにも、"憂さ晴らし"による適度な発散が出来るように、早く使いこなせるようにした方がいいだろう」
「...そうですね。では、これからよろしくお願いします!」
「うん!」「あぁ!」
こうしてユウの称号は、特訓の段階へと突入した。
こんな称号ですが、結構使えるんですよ?




