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第9話 究極(?)の悪役・後編

最後の(3)と(4)は、少し分類が曖昧になってきます。



(3)物理的には存在しない、自分の中から生まれたタイプ

 (精神世界における、自分の恐怖や過去の記憶など)


 →「ザ・サード -虚ろなる幻影の墓碑-」のウイルス型心理兵器、

  「ゲド戦記 影とのたたかい」の「影」など



(4)物理的には存在しない、自分の中からは生まれていないタイプ

 (前述(2)の精神体や記憶など?)


 →「攻殻機動隊SAC」の笑い男、「同SSS」の傀儡回し(くぐつまわし)など




 まず(3)。これはいわゆる「もう一人の自分」で、かつ実体がないタイプです。実体がないだけにどんな形にもなり、主人公の心のトラウマを突いてきます。これを打ち倒す、あるいは自分の中に取り込むことを通じて、主人公は自分自身を再認識し、一回り大きく成長する……というパターン。



 有名どころでは「ゲド戦記 影とのたたかい」の「影」でしょう。見習い魔術師のハイタカは妬みや驕り、功名心で禁断の術を行使したがゆえに、正体不明の「影」を呼び出してしまいます。ハイタカが怯え、逃げている間は地の果てからも忍び寄ってくる「影」ですが、彼が立ち向かうことを決意してからは、「影」は力を失い逃げるばかりとなります。


 やがてハイタカは最果ての海で「影」を追いつめ、その名を呼ぶことで「影」を自らの中に取り込み、あるべき姿を取り戻しました。自分の心の闇を見つめ、受け入れることで人間として成長する。ファンタジー世界における成長譚として、これを超える作品は滅多にないのではないでしょうか。



 SF作品では、「ザ・サード」の主人公・火乃香が遭遇する、幻の「火乃香」がこれに該当しそうです。


 幻の正体はウイルス型心理兵器。敵の心に入り込んでトラウマを見つけ、精神攻撃によって肉体反応を誘発し、ショック死させる特性を持ちます。初めて人間を殺め、罪の意識におののいていた火乃香は、「遠慮なく人を殺す自分自身」という幻影から致命的な精神攻撃を受けることになります。


 死ぬほどの激痛と、奪ってしまった生命の重さに苦しみながら、火乃香は「それでもヒトは最後まで生き抜かなければならない」と決意し、幻を打倒します。これも自らの弱さを受け入れ、より強い人間として立ち上がる成長譚です。



 このタイプの敵が出てくるストーリーは、「なぜそんな敵が登場したのか」という理由がたいてい重く、また苦悩や葛藤を真正面から描くことになるため、結末がタイプBになりがちな気がします。タイプAで爽快に終わらせるには、主人公がトラウマを乗り越えることで十分に癒され、かつ輝かしい未来への展望を用意する必要がありそうです。





 最後の(4)は、だいぶ特殊なパターンです。正直なところ、あまり例が思いつきませんが、「攻殻機動隊SAC」の笑い男や「同SSS」の傀儡回し(くぐつまわし)などはこれに該当しそうです。


 ネット空間に存在するかもしれない、人々を突き動かす集合的無意識のような何か。自然発生的に生まれた意思のようなものが、現象として犯罪や「正義の行為」を引き起こす。


 何より不気味な点は、自分が感染していないと誰も断言できないことでしょう。「それ」と相対した時、「それ」が絶対に自分ではないと言い切れない。自分の中から生まれたものではないはずなのに、いつの間にか自分の一部になっているかもしれない「何か」。SF作品でありながらオカルトじみており、そのくせ本当に起こりそうなリアルさがあります。



 もう少しシンプルに考えると、特定の誰かが自分の意思をプログラムとしてコンピューターやネット上に残し、本人がいなくなった後も「生き続けている」パターン。その誰かが主人公の同志だったりすれば、「実体のないもう一人の自分」との対決になります。「○○、お前なのか……! あの悪夢を蘇らせるつもりなのか!」とコンソールに向かって叫ぶようなパターンです。ファンタジーものなら残留思念や呪いという形で再現できそうですね。


 ただ残念ながら、私は最後のパターンについて適切なサンプルを知りません。おそらく世の中に多々存在していると思いますので、よろしければ私に教えてくださると嬉しいです。


 この手の敵も、基本的にはストーリーをタイプBへ導く力が強いと思います。正体がはっきりと分からないだけに、第二第三の魔王が現れる不安が残るからです。タイプAへ持っていくには「敵が完全に消滅した、満足して成仏(?)した」ことを描く必要があるでしょう。




 総じて、葛藤を真正面から描くとタイプBのストーリーになりやすい傾向があり、「もう一人の自分」と戦ってタイプAの結末を迎えるには工夫が必要そうです。


 おそらく、その際にカギとなるのは「葛藤の先に救いがあり、関わった者たちが癒されるか否か」でしょう。


 特に、敵として出現した「もう一人の自分」が救われるかどうかで、ストーリーの印象は大きく変わるものと考えられます。万事めでたしになるためには、敵も救われなくてはなりませんからね。




 さて、「究極(?)の悪役」論はこれにて終了です。


 あと予定しているネタは「AI」および「悪の動機」の2つ。しっかり構成が固まっていませんので、書ききれるかどうか分かりませんが、生暖かくお待ちいただければ幸いです。

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