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第7話 究極(?)の悪役・前編

 前回(第6話)まではラスボスの類型と物語のタイプA・B、葛藤する悪役、葛藤のない悪役について考察してきました。


 これら以外にどんな切り口があるだろうと考えていたところ、ポンと浮かんだパターンがありました。王道でありながら葛藤する/しないを選べる、しかもタイプA・Bどちらの結末にも持っていける悪役!


 ズバリそれは、「敵は自分自身」というパターンです。


 クローン人間、同じ特殊能力を持つ敵、他人とは思えないほど似た過去を歩んできたライバル、過去や未来の自分……等々。「自分自身を乗り越える」は成長譚における普遍的なテーマですから、枚挙に暇がないほど多くの物語で取り上げられています。




 まずはざっくり、四種類に分類してみます。分類する基準は「物理的に存在するか否か」、「自分の中から生まれたものか否か」の二軸です。



(1)物理的に存在し、自分の中から生まれたタイプ

 (クローン/コピー人間、違う時間軸の自分など)



(2)物理的に存在し、自分の中からは生まれていないタイプ

 (よく似た性格や過去を持つ他者、生き別れの兄弟姉妹など)



(3)物理的には存在しない、自分の中から生まれたタイプ

 (精神世界における、自分の恐怖や過去の記憶など)



(4)物理的には存在しない、自分の中からは生まれていないタイプ

 (上記(2)の精神体や記憶など)




 おそらく最も多いパターンが(1)で、以下(2)、(3)、(4)と続くのではないかと思います。読書歴や好みのジャンルによって個人差が大きいでしょうから、あくまで私個人の感覚ですけれどね。強いて言えば「自分を乗り越える」というテーマに合致し、かつ物語に登場させやすい順番を考えると、上記の順になりそうな気がします。




 さていつもどおり、それぞれ例を挙げて考察してみます。



(1)物理的に存在し、自分の中から生まれたタイプ

 (クローン/コピー人間、違う時間軸の自分など)


  →「Fate/Stay Night -Unlimited Blade Works-」の英霊エミヤ、「ルパンvsクローン」のクローン人間など



 このタイプは本当に、枚挙に暇がないほどサンプルが出てきますね。何と言っても見た目のインパクトが強く、主人公=敵が強ければ強いほど「どうやって勝つの!?」とワクワクせざるを得ません。エンターテインメント性が最も高いパターンかもしれません。


 このタイプでカギとなるポイントは、「どうやって勝つのか」と「なぜ物理的に存在できるのか」、そして「何人いるのか」の三点だろうと思います。



 どうやって勝つか。主人公が弱点を乗り越えるなどして新たな力に目覚め、一対一で勝つ? 仲間の助力を得て友情パワーで勝つ? そこは作品のテーマに合わせて選べます。個人的には一対一で勝つ方が「成長」というテーマには相応しい気がしますが、その場合は苦戦を制するロジックが必要です。


 例として挙げた英霊エミヤと衛宮士郎の戦闘は、バトルとしても自我のぶつかり合いとしても屈指の名シーンではないでしょうか。剣を合わせるごとに主人公が強くなっていき、互角のバトルが成立するロジック。一方で未来の自分が経験する苦難と絶望を味わい、心が折れそうになりながらも、自らの信念を再確認し立ち上がる主人公。物語の構成上、英霊エミヤはラスボスではありませんが、彼を打ち倒す展開こそがUBW編の存在意義と言っても過言ではないでしょう。



 なぜ物理的に存在できるのか。これは意外と頭が痛い問題です。


 先述の英霊エミヤの場合は、「聖杯」という度外れた魔法により、違う時間軸から現代へと召喚されます。そもそもの物語が聖杯をめぐる戦いであり、英霊召喚のルールに準じている以上、そこにケチをつける余地はありません。さらには過去の自分を殺したらどうなるか、というタイムパラドックスすらも利用している点は見事の一言に尽きます。


 こうした魔法が存在しない場合は科学頼みになりますが、クローン技術を安易に使うと厄介な問題が生じます。というのも、通常クローンというのは細胞一つや二つの話ですので、それを培養し数千億個の細胞からなる人間を育成するには時間がかかるのです。よって、主人公から髪や爪を奪ってクローンを生産しようとすると、「実用化」できるのは十数年後になってしまいます。


 このあたりを上手くクリアしているのが「とある科学の超電磁砲」の御坂シスターズ。悪役ではありませんから参考例ですが、彼女たちは急速培養によって短時間で成長し、かつ機械で知識を脳へ流し込むことで教育と自我の育成も実現し、次々と量産され実用化されました。その代償として能力や寿命が劣化したため、別の使い道に転用され悲劇が起こる。これもクローンの特性を考え抜いた設定です。



 全部で何人いるのか。私が考えるに、ここがタイプA・Bを分ける重要なポイントです。


 先述の英霊エミヤや御坂シスターズが、重厚な人間ドラマの基点になり得る理由。それは「個」としての存在と葛藤が描かれ、読者に強い印象を抱かせているからです。


 シンプルに、主人公のクローンが何体も出現し、一斉に襲い掛かってくる展開を想像してみてください。読者は驚くでしょうし手に汗握るでしょうが、敵の一人ひとりに感情移入しているでしょうか。おそらくしていません。それどころか追いかけっこは一種のコメディ感覚であり、爆弾で敵を一気に吹き飛ばしても痛快に感じるのではありませんか? ルパン一味とクローンの対決は、この特性を利用したエンターテインメント的バトルになっています。やっつけて万事解決、タイプAです。


 また人間、単調な繰り返しには慣れやすいですから、クローンが強敵でも二度、三度と出てくると「またか」と思うようになります。その心理を逆に利用し、お決まりのパターンにして笑いをとることも可能です。


 例としては「Angel Beats!」の天使こと、立華かなでのコピーたち。あるエピソードで生み出された彼女のコピーたちは強力かつ残忍な性格で、主人公たちは一人ずつ命と引き換えに倒す(押さえ込む)ことになります。しかし最初こそ決死の作戦だったはずが、だんだん「次は誰が行く?」とか、「今死んだあいつ、名前なんだっけ」といった悲壮感のないコメディになっていきます(絶対的な死が存在しない世界だからこそですが……)。最終的にはシリアスな展開に戻るものの、結局コピーはどうにか退治され、ほっと一息のタイプAエピソードとして幕を閉じます。



 ところが御坂シスターズは明らかに違います。彼女たちの誰か一人が死ぬだけで、ストーリーはタイプBになります。この違いは、シスターズの一人が「感情を持った普通の女の子」として登場し、事前に強く印象付けられているからです。だからこそ彼女の最期と、同じ顔の姉妹たちが次々と現れるシーンは衝撃をもたらします。そして読者が、一万数千人の彼女たち一人ひとりに感情移入できるという「異常事態」が起こるのです。


 たくさんいる「記号」に過ぎないクローンなら、彼らの内面を描かずに次々と出すことでコメディっぽい展開に持っていき、やっつけて爽快なタイプAのストーリーにできます。しかし一人をクローズアップし、葛藤を描いて感情移入の対象として認識させると、彼/彼女の存在そのものにドラマが生じてタイプBに誘導できる。なかなか便利な悪役/敵役ですよね!




 案の定(1)だけで長くなってしまったので、残りは次話へ…。

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