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extra edition side 晶  作者: 宇部松清
7/20

♭7 ざわめきと発熱(os-26)

 何だか最近もやもやする。

 いつも通りに過ごしているはずなのに、心臓の辺りがざわざわする時もある。

 千尋のことがバレたりとか、いろいろあったしなぁ……。

 そう思いながらベッドに横になる。

 このざわざわは寝ても治らない。


 いまはユニットの準備期間ということで、余程のことがない限りサポートにも呼ばれないから、自分にしては規則的な生活をしていると思う。


 朝は5時半に起きて、リビングに向かい、コーヒーを飲みながら『WAKE!』を見る。番組自体には特に興味がない。目的は、5時40分、6時40分、7時40分から始まる章灯(しょうと)さんの『ホットニュース』だ。

 一度、直接スタジオに行って見たのだが、普段と違う彼の姿を見るのは面白いと思ってなるべく見るようになった。よくもまぁ、こんな笑顔を保っていられるものだ。話し方もはきはきとしていて聞き取りやすい。家では結構くだけた、だらしない話し方をすることが多いのに、やはりプロは違う。

 1日3度同じニュースを紹介してくれるおかげで、何となく、その時の話題のニュースは頭に入った。

 テレビ画面の中の章灯さんは、黒縁の伊達眼鏡に、パリッとしたスーツ姿だ。背筋もピンと伸びていて、とても家でだらしなく胡坐をかいて酒を飲んでいる人と同一人物とは思えない。共演者から突っ込まれても動じず、笑顔で切り返す。こんなこと、絶対に自分には出来ない。

 こんないかにも真面目そうなアナウンサーが、自分の作った激しいロックを歌うのだと思うと、笑いが込み上げてくる。いまこの番組を見ている人は、きっと驚く。


 11時半になると、朝食と兼用の昼食を作る。どうせ食べるのは自分1人だから、朝と昼は1食で済ませることにした。作曲中はついそれすらも忘れがちになるということがバレてしまい、章灯さんから9時と12時に電話がかかってくる。朝食はそういう時しか作らないし、食べない。

 4時を過ぎると夕食の準備だ。帰宅時間がまちまちなので、いつも出来たてを食べさせられないのがやや残念である。

 

 何となく鶏肉が食べたいと思って、今日はから揚げにすることにした。 

 揚げ物をしたからか、何だか、今日はやけに暑いなと思った。

 調理台の上のから揚げの皿にラップをかける。ちょっと時間配分を間違えて早く出来てしまった。

 リビングを見ると、もう真っ暗になっていて、ああ、電気を点けなくちゃと思った。ついでに何だか暑いから、エアコンの温度も下げよう。

 キッチンの電気を消して、リビングに向かう。キッチンの電気も消してしまうと、思った以上に暗くなってしまい、ちょっと失敗したな、と思う。少し目が慣れるのを待って、記憶を頼りに歩いた。

 

 何だか、本当に、暑いな。

 リビングまでって、こんなに、遠かったっけ。

 そういえば、年末か。

 今日は、章灯さん、少し、遅くなるって、言ってた、ような。

 それなら、そんなに、急いで、揚げなくても、よかった、なぁ。

 ああ、床って、冷たくて、気持ちいいなぁ。


「アキ! おい! しっかりしろって!」

「アキ! アキ! おい!」 


 何だ、うるさいなぁ。

 ああ、章灯さんか。お疲れさまでした。夕飯は、調理台の上に。


 目を開けると、顔の半分をマスクで覆った章灯さんが見えた。あれよあれという間に車に乗せられ、病院に連れて行かれた。

 診察室までついて来ようとしたが、さすがにそこだけは阻止しなければならない。さらしを巻いているのを見たら、さすがにバレてしまうだろう。

 

 朦朧とする意識の中でもそこは死守したのにも関わらず、結局その日のうちに、自分が女であることがバレてしまった。




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