♭5 共同生活の始まり (os-11~15)
章灯さんとの共同生活が始まった。
章灯さんは早朝の情報番組に出ているため、夜中のうちに家を出る。帰宅時間はまちまちで、早い日は5時ごろだが、遅くても8時前には帰ってくる。
どうやら章灯さんは料理がまったく出来ないらしい。しかし、掃除や片付けは得意だというので、この家での役割は、自分が料理、章灯さんが掃除・片付けと明確に分けられた。
章灯さんは自分の料理をとても美味しそうにたくさん食べてくれた。コガさんやオッさんも美味しいと言ってくれるのだが彼ほどの量は食べられない。やはり年齢的なものなのだろうか。
こんなに喜んで食べてくれるのなら、きちんと作ろう、と思った。
章灯さんとの食事は特に話題がなくても息が詰まらなかった。彼は適当なバラエティー番組を流してはその話題に乗っかり、1人でも笑っていた。アナウンサーのくせにニュースは見ないのかと思ったが、聞くほど気になるわけでもないので黙っていた。
1人の食事は気楽でいいが味気ない。郁とコガさんとの食事は、賑やかだったが何だか落ち着かなかった。だから、一緒にいても疲れない人間というのはとても貴重だ。しかし、彼の方ではどうなんだろう。こんな不愛想で、何を考えているかわからないような人間と一緒に住んで、息が詰まらないのだろうか。
ユニットの歌詞は彼が書くことになった。自分以外なら誰が書いてもいいと思っていたので、章灯さんが申し出てくれた時は、正直助かったと思った。自分が所属するユニットというものが初めてなので、歌詞をしっかり見るのも初めてである。章灯さんが一体どんな詞を書いてくるのか、気になった。彼は詞を書く前に、曲を聞いた印象を話してきた。思った以上に自分のイメージと一致していて度肝を抜かれた。もうこの人になら任せてしまって大丈夫だろう。
2曲目もあっという間に出来てしまった。我ながら、こんなハイペースは珍しいと思う。それほど章灯さんの声は魅力的だ。もっともっといろんな曲を歌ってほしい。間に合わせならカラオケでも何でもいいのだが、どうせなら、自分の曲を歌ってほしい。譜面が読めないらしいことをコガさんから聞いたので、仕方なく自分が歌ったものをテープに入れてリビングのテーブルの上に置いた。自分の声は嫌いだ。特に歌っている声は。もっと低くて、男っぽい声だったら良かった。自分が覚えている母の声は郁のような高くて優しい声をしている。さすがにそんな声じゃなくて良かったとは思ったが、男を演じるにしても中途半端だと思う。
その日は3時に店に顔を出す予定だった。章灯さんも行ってみたいと言うので、仕方なく連れて行くことにしたが、気付くと家にいなかった。まぁ、時間に間に合うように戻ってきてくれればいいかと思い、部屋に戻ってギターを弾いた。
昼食の準備をしていると章灯さんから電話がかかってきた。彼は自分が起きていることになぜか驚いていた。自分が作らないと食べるものはないというのに、なぜ驚いているのか理解できなかった。
店では、案の定、郁の顔を見て驚いていた。同じ顔だから無理もない。ここまで似てしまうと男女の双子と言うわけにもいかず、郁も男だということにする。郁はいつものことだから、笑って許してくれるだろう。章灯さんは椅子から転げ落ちるほど驚いていた。テレビに出ている人間というのは、リアクションが大袈裟すぎると思う。




