♭13 ざわざわの原因を探る (os-42)
章灯さんの部屋はいつ見てもきちんと整頓されている。自分の部屋とは大違いだ。
リモコンや目覚まし時計の配置も決まってたりするのだろうか。郁の部屋も綺麗な方だったが、この部屋には負けるだろう。
章灯さんは最初、ベッドの上に仰向けに寝転んでいたが、素っ気ない言葉を発した後は寝返りを打って自分に背中を向けてしまった。
その時またちくりとした痛みが胸を刺す。
この頃、何となく、この胸の痛みは章灯さんに関係があるのではないかと思い始めていた。
思い返すと、心臓がざわざわしたり、ちくちくとする時は決まって章灯さんが近くにいた。
しかし、それが何なのかがわからない。
何せ、コガさんやオッさん以外の人とここまで深く関わったことがない。
何だろう。これは何なんだろう。
もし、この痛みの原因が本当に章灯さんだとしたら、自分が取るべき行動は2つしかないと思った。
1つは徹底的に避けること。関わらなければ、きっと痛むこともない。しかし、ユニットの相棒である以上、それは無理だ。そんなことをすれば、もうこの声を聞けなくなってしまう。それは嫌だ。
もう1つは、逆にもっとよく観察するなりして、章灯さんの何に反応しているのかを探ること。もっとピンポイントで原因がわかれば、それを避ければよいのだ。
そうと決まれば早速近づいてみなければ、と持っているトレイを置くところを探す。しかし、章灯さんの折り畳みテーブルはリビングに置いたままだ。仕方なく、持ったままベッドに腰掛ける。
章灯さんは自分が足元に座っていることに気付くと、身体を起こし、顔を覆ってしまった。
ここに残ると言うと、コガさんの指示かと聞かれた。
たしかに、おにぎりを握ったのは、コガさんの指示だ。しかし、いまの行動は自分の意思だ。
「……そんな恰好で『私』とか言うんじゃねぇよ……」
下着は女物を着けていても、服は男物だ。こういう恰好の時は『私』とは言わない方がいいらしい。
自分は極力一人称を避けるようにしている。男になりきるには、『俺』や『僕』と言った方がいいのはわかる。でも、それを口に出す度に嘘をついている気がして嫌だった。男の振りをしている時点で、自分は嘘を身に纏っている。これ以上嘘の重さを増したくなかった。それをわかっているのか、コガさんやオッさんも自分を人に紹介する時も絶対に『彼』とは言わない。それもありがたいと思った。
章灯さんは出て行った方が身のためだと言う。
身のため、ということは、八つ当たりで殴られたりするのだろうか。痛いのは嫌だな、と思った。
「……そういうことじゃねぇよ。わかれよ……」
わかれよ、と言われても、じゃあ一体どういうことなんだろうか。
今日の章灯さんは、やっぱり全体的におかしい。怒ってるというか、やけになっているというか……。
普段とは違う声のトーンと表情を見ると、また心臓がざわざわしてくる。もしかして、原因はこれなんだろうか。
再度顔を覆った隙に持っていたトレイを床に置いてベッドの上を移動し、もっと近くで見てみようと章灯さんに近づいた。至近距離まで近づくと、章灯さんが顔を上げた。この表情が原因なんだろうか……。
もっとよく見ようと思ったところで顔を背けられてしまう。するとやはり、ちくりと胸が痛む。痛いけどこの際仕方がないと思って、以前章灯さんにされたように彼の頬を両手で挟んで正面を向かせる。章灯さんは驚いたような顔をしている。どうしてだろう、この表情でも心臓はまだ騒がしい。せっかく原因を究明したと思ったのに。
しばらく観察していると、その手を外され、抱き付かれた。
何だ? 何が起こっている?
コガさんからはよくこうされる。でも、何かが違う。
コガさんはもっとくだけた感じというか、じゃれている感じだ。でも、これは何だ。
そして、自分の心臓は一体どうしてしまったのか、と思うくらいに脈打っている。ざわざわだとか、そんなレベルじゃない。
いよいよ病院に行かなきゃダメかもしれない……。




