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中編④

学園の中庭が、夕焼けに仄かに色づく頃、一人の青年があるサロンの扉の前に立っていた。



学生服をきっちり着込んだ眼鏡がよく似合う彼は…スピラル・ロートス。2年魔術科トップの生徒である彼は目前の扉の前に、緊張した面持ちで立っている。


中にはすでに“あの”イリス・カメーリエがいると思うと中々足が踏み出せないのである。


イリス・カメーリエ


カメーリエ侯爵家の手中の玉と言われ、皇太子妃候補から外れた悲劇の令嬢。




だが、スピラルには違うものに見える。ただの悲劇の令嬢が、あんな量の魔力を内包しているとは…驚いたものである。


(良く生きてられる…まるで、歩く火薬のよう。)


スピラルはその黄桃色の瞳を伏せ自分の掌を見つめて溜め息を漏らす。契約した精霊を介して見える彼女は異常だった。


「スピラル先輩!」


「…ああ、リーリエさん。どうしてここに?」


鮮やかな桃色の髪を揺らして、可憐な少女が駆け寄ってくる。図書館で良く会う顔馴染みに、スピラルは目を見開く。


ここは特別棟のサロンだ。入れる人間は限られる彼女が何故ここにいるのだろうかと、スピラルは首を傾げる。


「ヴァールハイト先輩が、招待してくださったのです!」


「……キルシュヴァウム先輩が?」


スピラルは眉間に皺を寄せた。サロンの会合初日に部外者を招待するとは何事かと、眉間に皺を寄せる。


リーリエ・ボーデンは確かに優秀だ。しかし、彼女の身分は男爵令嬢。このサロンは国政を担う王子、王女、高位貴族が中心となり、それぞれの分野の知識を交換しつつ、各国の重要な政治的交友関係を結ぶ場でもあるサロンだ。政治的に関係ない男爵令嬢がおいそれと入る場ではない。


イリス・カメーリエの背景には双子の天才の兄がいる。魔法省のトップであり、国防の要たる父がいる。


難関の医学部の上位にいるのは容易な事ではない。

彼女はこの学園内では間違いなく重要人物だ。


庶民枠はカメーリエ家次期家令であるネルケ・モーナット。カメーリエ家の書類、家財の管理者になり、王公貴族の歓待し、時に主人の使者となる裏方として支える役割の彼にも資格はある。


では、このリーリエは?


はっきりいって何もない。


国を担う人物でもない、彼らを支える人間でもない。


成績だけでは越えられない壁もあると言うのに…


非常識だ。その一言につきる。



スピラルは目の前の少女とひとつ上の先輩に、失望した。


「リーリエさん、悪いことは言わない。自分のサロンに行きなさい。初顔合わせが重要なのはわかるだろう。」


「でも、」


「なら、はっきり言う。君は招かれざる客だ。先輩がゆるしても、学園はよしとしない。このサロンは政治的、国家外交の要だ。貴国の次期皇帝たるユリウス殿下と我ら諸外国、属国である我ら王家の人間と誼を結び、互いの友好と見聞を深める場所だ。君には関係ない場所だ。」


「せ、先輩、なら彼女は!?イリスさんは!」


「…君はそこまで愚かだったのか。彼女は国防の要たるカメーリエ家の令嬢で、医学科の上位成績者だ。彼女は医療分野において将来重要な職務につくだろう。皇太子妃候補から外れたとはいえ、実質的に政治的重要な地位にいる。僕は彼女の人選は当然だと思っている。」


「っ…。」


愕然とするリーリエから興味が失せたといわんばかりにスピラルは背をむけるとサロンの扉を開く。


そこには既に到着し、ゆったりと優雅に車椅子に座る金髪の少女がこちらに気がついたように顔をあげる。


やはり、凄い魔力の塊が見える。だが、そんな塊を背負いながらイリス・カメーリエは苦しさも微塵も感じさせない穏やかな様子にスピラルは苦笑する。



なんとも気構えていた自分が馬鹿らしくなるな。



そしてその傍らに立つシュタム帝国皇太子の姿にかの皇太子の思惑も透けて見える。


(…このサロンは秤だ。可か不可か見極められていると言ったところか…)


皇太子の意図は簡単だ。このサロンでは大国の属国や同盟国の王子達が集まっている。ここでの活動内容によっては




自国の将来が決まる



スピラルは気を引き締めるように一呼吸すると、一歩前へ歩き始めた。



*****




白金の間。


王侯貴族が一番配置されるサロンの部屋でもトップクラスのこの部屋は凄まじいブルジョワ臭が漂っています。


ベルサイユ宮殿のように天井にも壁にも品が良い絵が描かれ、数億価値のシャンデリアがキラキラと輝いてます。


ふかふかな高級家具や机、トイレ、給湯室も完備しており、昼食利用の際には調理人も直接きて調理します。


休憩室もあるそうですが、流石に学生に割り振られる部屋の中では度が過ぎて前世が庶民でしたわたくしには落ち着かないものでした。え?実家の侯爵家?住み慣れた場所と、初めてきた場所を一緒にしないでくださいまし!


うちは領地経営もやってますし、魔法使いの家ですから魔法具や素材の買取にお金を良く使います。


何よりわたくしが病気になってからは、治療費にお金が出てますから、高価なもの自重しています。


こんな高価なものは大体応接室しかありませんわ!


「あの、わたくしやっぱり場違いなんじゃ…。」


「そんな事はない。お前のはこのサロンに選ばれたのだから胸を張れ。」


隣に座って優雅に紅茶を嗜むユリウス様は、大変素敵なのですが、わたくしには眩しすぎまして、ええ!意識してしまうのです!


初恋の方がいますのよ!?わたくしだってドキドキしますし、ネルケは従僕らしく壁に黙って佇むだけで、声を掛けにくいし、早く誰かいらしてくださらないかしら。


そう思った瞬間、重厚な扉が開く音がしました。


おお、スピラル先輩ですわ。何度かご挨拶はしたことありますわ。いつ見てもキチッとしてて、清潔感のある方ですわね。


前世の私の推しメン第4位でしたわ。なんていいますの?恋愛方面に疎いかと思ったら、攻めるところは攻める、ちょっぴり意地悪なロールキャベツ男子とはこの人のことです。


最初はアプローチすらスルーされ、肉食系な選択肢を選ぶとドン引きされます。どうやって好感度あげるかと言うと、ひたすら挨拶と、勉強について尋ねるしかないのです。


サロン入りから2人だけの勉強会や、素材採集デートができます。サロンに入れなければ、恋愛ルートには進めないのです。


…ですけど、前半のスルーが嘘みたいに恋愛ルートでは超絶デレるのです。無意識に甘い台詞を言うわ、永遠の攻め声と呼ばれた彼の美声で、バシバシとヒロインを攻めるのが必見ですわ。


放課後2人きり図書館イベントでは鼻血が出た覚えがあります。


「来たか。」


「遅参いたしました。」


「…かまわない。扉の前のアレはどうだった?」


「僕の見当違いだったとしか。僕もまだまだのようです。」


「まあ、お前も人間だ。見誤ることもあるだろう。」


「申し訳ありません。」




何のお話をされているのかしら。と顔をスピラル先輩にむけましたら、劈くような悲鳴が響き渡りました。


「きゃあ!!な、なにこれ!」


「え?ボーデンさん!?」


そこには、結界みたいな壁に張り付きもがくヒロインさんの姿が有りました。な、なんでこんな事に!?


リーリエさんのサロンは確か南棟の詩銀の間ですよね!?


「リーリエ!」


「リーリエちゃん!!」


「リーリエさん!」


見えない壁に張り付くヒロインさんを、後から来たらしい、ヴァールハイト先輩と、ヴィント先輩、エーデル様が引き離そうとされています。


なのに接着剤でつけられた見たいに、ヒロインさんは見えない壁にくっついたままです。


「馬鹿め。」


「まったく呆れますね。あれほど忠告したのに。」


「あ、あの、これは…いったい」


冷ややかなユリウス様達と違い、わたくしは驚愕で顔をひきつらせました。何でこんなことに!?


「お嬢様、御安心下さい。害があるものではありません。このサロンはサロンに登録した人間しか入れない、特殊な結界が施されています。特に今年は王族が集うサロンなので、侵入者を拘束する機能も付けたと学院側からうかがっています。」


「なら、彼女はどうなるの!?」


「学年指導、および警備主任のフリードリヒ先生が拘束状態を解除する魔法具をお持ちですから、あちらの御令嬢は直に解放されますよ。」


「そ、うなの?」


「はい。」


にっこりとほほえむネルケに、思わず脱力してしまいました。よ、良かったですわ。流石にあの状態はかわいそうですし



とにかく、早くフリードリヒ先生をお呼びしないと、そう進言しようと口を開いた時でした。



「貴様か!イリス・カメーリエ!」


「へ?」


「貴様、無実なリーリエに因縁をつけて、変な噂をばら撒いたうえに、このような…絶対に許さん!」


「は?」


「ヴァルから聞いたよ、君、彼女に対して酷い噂を流したそうじゃないか。皇太子妃候補をはずされたのにも関わらず、あの執着でユリウス君と親しい彼女をサロンに入れないよう理事長に働きかけたのは君じゃないのか!?」


え、


ええええ!?な、なんでそんな事になってますの!?てか、チャラ男で遊び人なヴィント先輩、もうヒロインさんに攻略されてますよね!明らかに!!顔がスチルで見た恋する男の顔なんですけど!?


「あんたには失望した。覚悟してなよ!俺があんたを裁いてやる!」


あ、飛び級した天才ツンデレ年下王子なエーデル様もまさかの攻略済みですか!?なんかわたくし、完全悪役ですわね!?


ハッ! わたくし悪役令嬢でしたわ。


と、ともかく誤解を解かなくては!!


「貴様らは何を勘違いしている?」


「恋は盲目という事でしょうか。まったく頭が痛くなる光景ですね」


「ネルケ、あの女の噂とはなんだ?」


ユリウス様が目線で問われますと、ネルケは恭しくユリウス様に一礼しました。殿下がおっしゃるようにネルケだったら知ってるかもしれません。


「失礼ながらあまり良くない噂ではあることは事実ですね。婚約者がいる他国の王子にすりよるふしだらな男爵令嬢、性格が悪くて男には媚びるカマトト女、などでしょうか。とにかく男好きな女性として噂の対象になっているそうです。」


「その噂で得するのはこの女しかいないだろうが!!」


こ、こわい!


あまりに、大きなヴァールハイト先輩の声にビビってしまいました。憤怒の形相の男の人に怒鳴られては、半泣きに

なっても仕方ないでしょう!!わたくしだって女の子ですもの!!


「大丈夫だ。私が守る。」


カタカタと震えるわたくしの手をユリウス様が握って下さいました。温かい温度に思わずホッとしていると、スピラル先輩が冷ややかな視線をヴァールハイト先輩に向けられていました。


「くだらないですね。彼女が犯人だと言う証拠は?」


「…証拠はない。だが!」


「何故、その噂の出どころがイリス嬢だと言う証拠もなく、憶測でしか判断しているのでしょうか?貴方はいつからそんなに愚かになったんですか。先輩。」


「っ、貴様!」


「そこまでだ。」


ヴァールハイト先輩がスピラル先輩に怒声を浴びせようとした瞬間、野太い声がその場に響き渡った。


「…フリードリヒ、先生。」


フリードリヒ先生は無表情で部屋に入ってくると苦々しそうに、ヒロインさんを見ました。


「リーリエ・ボーデン。無断で白金の間に入ったな。三日間の謹慎処分を言い渡す。」


「な!」


「先生!彼女は知らずに入ってしまっただけで、悪気はっ」



「それはこちらで判断する。三日間の謹慎は結界を発動させた罰だ。理由によっては退学処分もありうるとだけいっておく。」


フリードリヒ先生が淡々と言いますと、懐から小さな警笛を取り出し、ピイと鳴らしました。するとリーリエさんは呆然と床に座り込んでしまいました。


あ、魔法が解けたのですね。


「リーリエちゃん!」


力もなく座り込むヒロインさんを、慌ててヴィント先輩が抱き上げました。あ、これ見たことあるスチルですわ。


「ヴィント先輩、早くリーリエさんを医務室に!魔力を結界に吸われて動けないはずです!」


「わかった!」


慌ててヒロインさんを連れ出すヴィント先輩と、エーデル様。あれ、魔力吸われてたんですの!?ネルケは害が無いって!


思わずネルケを見たら、悪戯がバレたような笑顔をうかべています。知っててわざと害が無いって言ったのですね。


な、何だか胃が痛くなって来ました。天使病の他にストレス性胃腸炎も患ったらどうしましょう。血を吐くのでは?と思わずハンカチで口元を押さえました


「覚えていろ、イリス・カメーリエ。」


ヴァールハイト先輩は舌打ちしますと、私を睨みつけヴィント先輩達の後を追うように出て行きました。


「とんだ顔合わせになりましたな。殿下。」


「手を煩わせてすまない。」


「なに、理事長も予想されていましたから。それよりカメーリエも顔色が悪いようです。休ませたほうがよろしいのでは?」


「そうだな。」


こうして、サロンの初顔合わせは波乱に終わりました。


この事件がヒロインさんとの衝突のはじまりで、後に大きな事件に発展することになるとは知らず、わたくしは早く誤解を解かねばと、ため息をこぼしました。


少々疲れましたので今日はこの辺で


また後編でお会いしましょう。


遅れてすいません。


展開的にどうしたもんかと悩み中。


取り敢えずリーリエさんはスピラル、ネルケ、ユリウス3人の攻略に失敗しました。


失敗した要因


・ユリウス


→ イリスの方が好感度が高かった。てかイリスを好きになっちゃったから。


・ネルケ


→お母さんが生きてるから。てか親子そろってイリスを世話し隊員だから


・スピラル


→ ヒロインがサロン入りできなかったから。てか、ヒロインが自爆したから。イリスに関しては別に嫌いでも好きでもないが、彼女に何かしたらイリスの親兄弟&ユリウスが怖いだろうなと予想している。


リーリエに関しては、「勉強熱心な子だと思ってたのに馬鹿な子だった。」というのが感想。今まで攻略されなかったのは恋愛スルースキルとサロン入り条件を満たさなかったから。もし、リーリエがサロンに入ってたら攻略されていた。


でもヴァールハイト、ヴィント、エーデルの3人は攻略済み。

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― 新着の感想 ―
結界に魔力が吸われると聞いて、扉の辺りで手をひらひらさせるイリスちゃんを幻視しました。「正式メンバーには結界は作用しない」と、ユリウスまたはネルケにつっこまれるところまで。
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