前編③
中編は15日ぐらいに更新します。
シュバルツ・カメーリエ(16)とヴァイス・カメーリエ(16)は双子の兄弟である。
二卵性双生児だったせいか、シュバルツは母に、ヴァイスは父の容姿を受け継いでいた。
共通して金髪碧眼だが、シュバルツは玲瓏な…中性的な美男で、ヴァイスは精悍で爽やかな美丈夫で…貴族令嬢から、老齢の貴婦人まで…双子セットで絶大な人気を誇っていた。
どっかのアイドルユニットもかくやな人気ぶりだ。
因みにファンクラブもあり、毎年《息子にしたいNo.1》《兄弟にしたい人No.1》《結婚したい未婚貴族No.1》に輝いている。
長男のシュバルツは学問に精通し、魔法力学の天才と謳われ、次男ヴァイスは剣…特に魔法剣でも右にでるものがいないと天才児たちだった。
魔術師としての能力は勿論、容姿端麗で未来有望の筆頭株の双子を皇帝は息子の側近に欲しくて堪らなかった。
だから、カメーリエ家の末の娘を皇太子妃にする気満々だった。妹が皇太子妃になれば、必然的に兄である双子は皇太子の側近に選出されるのだが…
イリス・カメーリエが急な病となりその計画は頓挫してしまったのだ。
彼ら双子の才能は皆に求められている。もし、側近を断っても宰相ならびに将軍が手放さないぐらい優秀な双子なのだ。
皇帝の勅命で無理矢理にでも側近にでもしようものなら、彼ら双子…シュバルツは研究所に引きこもり、ヴァイスは国境の前線に嬉々として行きそうだ。
そうなれば、周りの反発はさけられないだろう…特に弟の将軍や、彼ら双子の公式ファンクラブ会長の皇太后、ならびに皇后…宰相なんか仕事放棄しそうで怖い。
彼ら自らが皇太子に仕える可能性は五分五分だったが、イリスの候補辞退で2割以下になってしまった。
────そして、今その可能性はゼロとなっていた。
たしかに、1年前まで、イリスはユリウスに好意を寄せていた。
皇太子のいくところいくところに付いて回って、他の貴族の令嬢が近づこうものなら威嚇していた。
その様子を双子は呆れてみていたが、その後、イリスが病を患ったことで、イリスにきちんと目を向けるようになった。
やり方を間違えたとは言え、イリスは好きなひとに振り向いて欲しかっただけなのだ。
両親は不仲、年の離れた兄弟は妹より自分達を常に優先して彼女を振り返ることがなかった。
そんな愛情をしらない子が、恋をした。
生まれて初めて恋をしたのだ。
イリスはイリスなりに、ユリウスに振り向いて欲しかった…けれど、思いやる心も、愛情も知らない子がわかるのは執着心、独占欲だけだったのだ。
本来なら愛情を向けて、人の道理を諭してやらねばならない自分たちが、妹を孤立させたのだと気がついた時、何もかも手遅れだった。
『イリス!イリス!ああっなんで』
『…煩いなぁ…どうしたのさっ…て、イリス!?』
『マジかよ…おい。』
廊下が大騒ぎになり、部屋に戻っていたシュバルツとヴァイスは、その喧騒に部屋から出てみれば、
真っ白のエプロンドレスを真っ赤に染めて、ぐったりとしたイリスが、父親に運ばれていくところだった。
その後を小走りで母親が泣きながら追いかける様子に、双子は愕然とした。
慌ただしく駆け回る使用人のひとりを捕まえると、使用人は顔を真っ青にさせて、居間で起きた事を簡潔に説明した。
『…お嬢様が、吐血されたんです!』
その言葉に、双子は耳を疑った。
1ヶ月まえまで、舞踏会で皇太子を追いかけまわしていたタフな妹が、血を吐いた?
最近、風邪をひいて寝込んでいるときいて、「静かになってなにより」と二人して笑ったが…まさか、本当はもっと悪い病気になっていたのではないか?
そう、思うと双子は、腹の底が冷えるような感覚がした。
そして、その後侍医の診断に家族はさらなる衝撃を受ける。
『…先天性魔力過多精製疾患…天使病でございます。』
イリスが患ったのは
不治の病…大人になると改善されるが、それまで、 死と隣り合わせの難病だった。
何故、自分達の妹が?と信じられなかった。
でも、日を追うごとに妹は窶れ、健康的な肌は雪のように真っ白になり…そして、母親譲りの髪も真っ白になってしまった。
それを見て、泣いたのは…以外にもヴァイスだった。
母親と同じ、耀く金髪を自慢していたイリスが、髪が真っ白になった朝、たまたま朝の挨拶にきたヴァイスに、「お兄様の騎士服とお揃いね。真っ白な髪も素敵でしょう?」と、目元を真っ赤に腫らしながら笑顔でいったらしい。
気が強かったイリスが泣いたのだ。
気丈に笑うイリスにヴァイスは思わず泣いたという。
…その場にいたらシュバルツも確実に泣いていただろう。
イリスはシュバルツ達がやってくると嬉しそうに笑う。まるで、病なんか苦じゃないと明るくはしゃいで、本を読むのをおねだりをする。
まさか、あんなに喜ぶだなんて知らなかった。とラーク教授に言えば、ラーク教授はそれはいけませんなと、双子をたしなめた。
「こどもが我儘になるのは寂しいからだですよ。だから、きちんと愛情をむけてあげてくださいね。今のあのこの心の支えは君達だけなんですから。」というラーク教授の言葉が今なら良くわかる
こうして、シュバルツとヴァイスは完全にシスコンになっていた。
…そうとは知らず、双子の前で妹をからかった貴族が、領地から出れなくなった…いや、出れなくされて、今では双子の前では妹の話は禁句になっている。
この双子はゲームでは、妹に付きまとわれる皇太子に申し訳なく、側近として勤めることで馬鹿な妹のストッパー役をしていた。皇太子エンド後には妹の過ちを償うため、終生変わらぬ主従の誓いをする。
ちなみに、両方とも人気だったのでファンディスクでは追加攻略キャラになっていたりする。
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「やあ、イリス」
「よぅ、イリス」
「ごきげんよう、御兄様方。」
ソレルの日(日曜日)の朝から、わたくしの部屋にやってきた御兄様方に挨拶をすると、御兄様方は二人揃ってそれぞれ緋色と濃紺の装丁の本を差し出した。
「「今日はどっちがいい?」」
「ルッツ兄様のはヒンメル警部の事件簿~消えた花嫁~、イス兄様の本はラスター冒険録ですか?」
「おお!良く読めたね。この本はエルメル警部が、教会の誓いの場で連れ去られた恋人を、探し、徐々に事件の謎を解明をする推理小説だ。ヒロインとヒーローとのラブロマンスも楽しめるよ」
「こちらは、女勇者ラスターユが、幼馴染みの魔術師の青年と共に精霊の森を目指す冒険活劇だ。途中、数 多くの苦難に巻き込まれるが、二人は力を合わせて乗り越えるのだ!」
「まあ!」とわたくしは目を輝かせました。
…正直、両方とも子供向けの本ではありませんけど、女性向けの本をわざわざ書店に行って買ってきてくれたのでしょう…文句など言えばバチが当たります。
お兄様方の本を選ぶ基準点は微妙で…大抵が学園のクラスメート達に薦められた本を持ってきてくれるのですが…クラスメート達はわたくしが6才児だと解っているのでしょうか?
…ですが、良く考えてみると、イケメン兄の美声を近くで聞けるうえに、あの、兄達が恋愛小説を音読するのです。
シュバルツ兄様は、たぶん淡々と読みますが…ヴァイス兄様は顔を真っ赤にして恥じらいながら読むことでしょう…。進めたクラスメート達はわたくしを悶え死にさせたいようです。
記憶を思い出す前のわたくしは大層お馬鹿さんでございました。ええ、とてもとてもお馬鹿さんでございました。
そう言えば、学校時代も成績を金で買っていた悪役でございました。後々に取り巻きや、気弱な女生徒を脅してノートや、課題をやらせてたのがバレるんですよね…。
御兄様がたは、4才で字を覚えられた天才なのに対し6才なのに文字もろくに読めないわたくしは、
御兄様に本を読んでもらい、ついでに文字も教えていただいております。
お二人とも超有名な声優さんと同じ美声なので、本を読んでくださる声に、うっかり興ふ…げふんげふん感動してしまいす。その上、御兄様がたは、わたくし をお膝に抱っこして本を読んでくださるのです。
嬉しいです。すっごく嬉しいです。
イケメンの兄達に嫌われてたと思ってましたので…。
でも、最近過保護なのは気のせいでしょうか?
わたくしは、暫く迷うとルッツ兄様の本を指差した。
「ルッツ兄様のご本が読みたいです。」
「ちぇ、負けた…」
「ふ!勝った…!」
ルッツ兄様は勝ち誇った笑顔を浮かべると、私を抱上げる。
「御兄様?」
「今日は天気が良いから、外で本を読もう。」
「お!賛成!」
「なら、ネルケに紅茶を外に用意してもらいましょうか」
…そんな感じで割合平穏な幼少時代をおくりました。
…まあ、病気がありましたが、精神的に強くなった日々でございましたわ。その中でたくさんの事を学び、家族と触れあい、必死に病気と向き合いました。
でも、おかしなことに、御兄様方は皇太子殿下の側近にはなりませんでした。
御兄様方に、皇太子殿下のお側にいなくて大丈夫なの?と聞いたら、おもいっきり顔をしかめて、「丁重に辞退した」とおっしゃいまして…
あれ?ゲームと違う?と思いましたが、妹のわたくしが婚約者だったから側近になったはず。妹の尻拭いをするため側使えになったのだから、わたくしが皇太子殿下の婚約者でない今、側近になる必要はないと言うことなのでしょうか?
さらに、グラナード先生がラーク教授の研究を引き継がれ、小児科医になったのはびっくりしました。
たしか、学校の校医になるはずが、今ではラーク教授の助手になっております。助教授に昇格するのも間違いないと言われるほど意欲的に天使病を研究しているそうです。
ネルケに至っては、冷めた性格の陰険執事と言うか…わたくしに関して完全なオカンと化し、介護ヘルパー兼看護師兼スーパー執事になってます。
わたくしに復讐するために、執事になるはずが、何故か忠誠心が高すぎて怖いです。
さらに、この1年後、わたくしは皇太子殿下と正式に文通することになります。
ユリウス様が意外と筆豆で…3日に一度の割合で文通することになり、頭を悩ませる事に…。
こう、イレギュラーな事態が続きますと、なんと言うか…本当にこの世界はゲームの世界なのか怪しくなってきてしまい…いや、違います。
…それは言い訳ですわね。
わたくしは、うっかり自分の立場を忘れておりました。
ええ、自分が乙女ゲーのヒロインを虐める悪役だとすっかり忘れておりましたの。
いきなり、話が飛びますが、これは中編へのプロローグだと思ってくださいまし。
「イリス・カメーリエ…これは貴女を裁く学園裁判だ。」
裁判長席に座る皇太子殿下、
弁護席には怒りに燃えるネルケと御兄様方がおります。
対して、検察席には騎士科トップのヴァールハイト先輩と、一学年法学科トップのエーデル様がこちらを冷ややかな目線をむけております。
魔術輔佐として、魔術科トップのロートス先輩がおり、証人席にはグラナード先生がこちらを心配そうに見つめております。
そして、────傍聴席にはこちらを見据えるヒロイン【リーリエ・ボーデン】が、満を持して座っているのをみて、わたくしはようやく被告人席で自分の立場を理解したのでございます。
これはユリウス殿下ルートの好感度が決まる最終イベント【学園裁判】。
リーリエに嫌がらせをしたイリスを裁く裁判でございます。
ただし、このイベントはヒロインは必ず真実に起きたことを証言しなくてはなりません。
ひとつでも嘘をいえば、ユリウス殿下の好感度は徹底的に下がり、バットエンドを迎えます。
そして、ユリウス殿下のルートは逆ハールートでもあるので、裁判に参加している全キャラクターの好感度が全てなくなり…ヒロインはバットエンドを迎えます。
彼女はわかっているはず。
わたくしが【イリス・カメーリエ】であって、
ゲームの世界のイリス・カメーリエではないことを。
「それでは、開廷」
その冷たい声と共に、わたくしは正念場を迎えることとなります。
ですが、それはまた今度お話しさせていただきますね。話が長くなりそうなので、今日はこの辺で。
それでは中編でお会い致しましょう
ごきげんよう。
▼シュバルツ・カメーリエ(26)
新米シスコン時代(16)
ゲームでは妹にうんざりしていた長兄。
やる気や、覇気がない…退廃的な美青年。一言でいえば天才肌。武術以外は何でもできる。
いつもだるそう…所謂ダルデレ系
明るく、前向きなヒロインに感化され、恋をすることに前向きになるが、ヒロインと妹の関係に心を痛める。
今ではすっかり腹黒系シスコン。たぶん、ヒロインでも、妹の悪口を言ったら容赦しない。
「……君、いつまで僕の研究室にいるつもり?」
「なんでかな…どうして…君なんだろう…面倒って解っているのに君ばかり頭に浮かんで、離れられないんだ。」
▼ヴァイス・カメーリエ(26)
新米シスコン時代(16)
ゲームでは正義感あふれる兄ちゃん。イリスが唯一苦手な体育会系。
外見は父似。を鍛えているせいか、線が細いシュバルツとは違い、ガッシリとしており、爽やか系イケメンなった。
単純明快な性格で、良く笑う。シュバルツとは違う天才肌で、勉強はからっきしだが、武術は天賦の才をもつ。
イリスの事は嫌いではないが、その言動を快くは思ってはいない。女性が苦手だが、ヒロインに徐々に恋に落ちていく。純愛路線(笑)
現在は妹の事になると、双子の兄同様に若干黒くなる。
「…不快に思ったら許してくれ。あいにく、女は苦手なんでな。」
「…あんたは、笑っていればいい。だから、悲しい顔をするなよ。」
▼イリス・カメーリエ(16)
新米シスコン時代(6)
文字の読み書きが漸く覚え始めた。
イケメン兄が構ってくれるのが純粋に嬉しい。双子兄に対しては眼福だとは思うが、前世と違い兄弟の情がつよく、ときめきは感じてない。ちなみに、まだ、シスコンの兄達の裏の顔に気づいていない。