前編②
…すいません、まだ公開するつもりはありませんでした…。
後編まで終わったら公開します。
ごきげんよう、みなさん。
イリス・カメーリエでございます。
今日、ご紹介するのはエーヴィヒ・ブレーメ最強最悪の執事 ネルケ・モーナットでございます。
鮮やかなストロベリーブロンドに、琥珀色の瞳…薄い唇に、やや垂れた眦に、泣き黒子…一見、物腰が柔らかな美青年ですが、ゲームでは腹黒二重人格で、イリスへの復讐を虎視眈々と計画した策士でもあります。
……彼の母親、アンネ・モーナットはイリス付きのメイドでしたが、息子同様、美しいストロベリーブロンドの美女でした。我が儘で、誰よりも自分の髪を自慢していたイリスはアンネの美しい髪に嫉妬するようになりました。それに加えて、アンネはイリスの我が儘に対して真摯に、苦言を挺して彼女を唯一まともにしようと忠告しつづけた女性でございました。
しかし、アンネが目障りになったイリスは酔った暴漢にアンネを襲わせ、髪を丸ごと刈り取り、その上凌辱させたのです。
イリスとしては、髪を刈り取らせるだけのつもりだったらしいのですが、酔漢の暴行は予定外で、アンネを死なせるつもりはありませんでした。まあ、10歳ですから、そこまでは考えてなかったのでしょう。しかし、都合が悪いと、忘れる性格からイリス
アンネの死もすぐに空っぽな頭から消しさりました。
まあ、その浅はかさが後のネルケルートで後悔することになるのですが…
アンネはシングルマザーで、死んだ夫を誰よりも愛していました。なのに、貞操を奪われ、夫が愛でてくれた髪も見るも無惨に刈り取られ…アンネは失意のうちにそのまま寒空の下、凍死してしまいます。
遺された息子、それが、イリスの執事となる3歳年上の年の青年ネルケ・モーナットです。
母親を失い、憐れに思ったお父様…侯爵が、ネルケを引き取りネルケは小間使いとして雇われ、やがて、執事になります。そして、アンネのことをすっかり頭から消し、ネルケの容姿を気に入ったイリスが専属の執事にします…母親を死なせておいて、なんて鬼畜な悪役令嬢だと思いますよね?だから、ネルケルートは隠しルート扱いなんです。
正規ルートはあくまで普通の悪役令嬢で終わったイリスですが、全正規キャラを攻略するとネルケルートが解禁され、イリスは普通から極悪にランクアップして、徹底的にフルボッコにされます。
いわゆる、正規キャラルートで、散々苦しめられたイリスが牢に入れられただけで、納得できないプレイヤー向けのフルボッコストーリーです。
なので、ファンは正規ルートでもやもやした分、ネルケルートではガンガンイリスを地獄に落とせるので、鬱憤をはらそうと正規キャラを全クリアを目指すのでございます。
それに、今までイリスの横で甘い台詞を吐く美貌の敬語キャラなお兄さんを略奪できるとあって、イリスざまぁ!を存分に堪能するのがこのルートの醍醐味とも言えます。
ネルケルートは母親の死の真相を解き明かし、死の原因であるイリスを破滅に追い込むストーリーです。でも、ヒロインに裏の顔がバレて、仕方なく彼女も復讐に巻き込みます。
秘密を共有するようになったふたりはやがて惹かれあい、苦難を乗り越え、イリスを捕まえるのですが、イリスを手酷く裏切った時の鬼畜顔と、ヒロインに最後にみせる、解放されたような爽やかな笑顔のギャップに、全国の乙女は泣きました。
そのネルケが今、目の前にいます。
「お嬢様、こちらは私の息子のネルケと申します。本日より、小間使いとして出仕いたした。」
「不束者ですが、誠心誠意、お嬢様にお仕えいたします。」
おっとりと微笑むアンネの横で緊張したように挨拶をするネルケに、わたくしは心底驚いた表情を浮かべました。
イリスは今7才。ネルケは10才。
労働基準法に余裕で引っ掛かるほど、小間使いになるのが早いです。
因みに、アンネフラグは忘れてました。正直、吐血の後処理と応急措置をしてくれる親切な侍女に、わたくし、そんな酷いことできませんわ。
てか、一級介護ヘルパーなアンネさんがいないと、わたくし、たぶん死にます。
お風呂にもトイレにも、ありあまる魔力のせいで体が重くて歩けないので、アンネさんと、もうふたりの侍女さんが、いないと死にます。確実に女として。
「…アンネ、ネルケはまだ子供よ?学校はどうするの?いくら、何でも若すぎるわ。」
「お嬢様、ネルケは既に高等教育は修了しております。お嬢様が成長され、ブレーメ学園に入学の際に、世話ができる家政科に一緒に入学させます。」
「え、でも…ネルケは男の子よ?流石にお風呂やトイレの世話をしてもらうのは…」
「大丈夫ですよ、お嬢様。お嬢様は女子寮ではなく学園内にある付属病院に入院することが、先程、旦那様が決定しました。つまり、寮には入らず、病院から学園に通われることになります。学園ではネルケが、病院では私が介助要員として、病室に常駐します。」
あ、なるほど…移動教室が多いので、たぶん、車椅子生活は余儀なくされますから…力のある男手の方がいいですね。
まあ、ネルケには女子トイレに特攻させてしまうのが、難点ですがそれ以外ならネルケが適任です。
夜はアンネが付き添ってくれるから、着替えや風呂の心配はないですわね…介護されるのにも…すっかり慣れてしまいました。自由に走り回れたあの頃が懐かしいです。
ネルケはとりあえず、子守兼お遊び相手になりました。
…前世の記憶のせいか、腹黒なネルケがちょっぴり怖いので、とりあえずなるべく大人しい令嬢を装ってます。
でも、何故でしょう時々ネルケが堪らなく怖い時があります。
「…ネルケ、悪いのだけど…ピンクのカーディガンをとってくれる?」
「かしこまりました。薔薇の飾りとウサギの飾りがありますが…?」
「ええ、うさぎさんがいいわ。」
「……(うさぎさんとか、うわぁああ)」
「っ…ど、どうしたの?」
「いえ、なんでもありません。(…うちのお嬢様可愛いすぎるだろ。マジ、天使。)」
鼻息が荒いというか…気のせいかしら?
こうして、ちょっぴり怖い執事の復讐ルートは完全になくなったわけですが、…違う意味で身の危険を感じてしまうのはやっぱり、前世の影響でしょうか…不安です。
*************
ネルケは可愛い生き物が昔から大好きだった。
小動物とか、特にすきで、仔猫や子犬を拾ってくるたび、母親に戻してくるように言われることはしばしばある。
だが、ネルケ自身は動物に嫌われるタイプだった。
重すぎる彼の愛情に動物たちが嫌気がさしてしまうのだ。
そんなある日、母にお屋敷に連れていかれたら、侯爵家のお嬢様の遊び相手として、お屋敷に上がることになったのだ。彼女を見た瞬間、ゴーンゴーンと脳内の鐘という鐘が、響き渡る。
…彼の運命がそこにいた。
運命と言えば、運命だが…たぶん、ヒロインから見たらドン引き間違いなしな第一印象だった。
つまり、ネルケはイリスに激しく「萌え」を感じていたのだ。因みに小動物に感じる健全な「萌え」である。
小さな体に小さな顔、真っ白な髪に、陶器のように透き通る柔肌…やや猫目でツンとした印象があるのに、困った表情が放っておけないほど可愛らしい。
まるで、真っ白な仔猫だ。
しかも、病を患っており、体力がないため杖がないと歩けない上に、歩けても30メートルしか歩けないという。なので普段は車椅子で移動をしている。
今のイリスの状態は、幼女が鎧甲冑を装着しているようなものだ。毎日、歯を食い縛って、歩く姿は実に痛々しい。
その姿を見たネルケの世話焼き遺伝子がここにきて、覚醒することになる。
(お嬢様は俺が御世話しないと!)
と、言う原作とは真逆の使命感が生まれてしまったのである。この使命感がしばしば暴走するため、実はイリスに怖がれていたりする。
「ネルケ、では頼むぞ。」
「はい。」
ネルケの手には1通の手紙と小さな花束があった。
イリスの初恋の相手である皇太子ユリウスからの見舞いの手紙である。
頻繁ではないが、イリスと皇太子との間では手紙のやり取りがある。元婚約者候補ゆえか、個人的に思うところがあるのか…曖昧なやりとりだが、ネルケにとてはそれは非常に不快だった。
別に嫉妬から不快感を出すわけではない。皇太子の中途半端な行動に不快感を感じてしまうのだ。
手紙の内容はさして世間話程度、先日、大規模な祭りがあったとか当たり障りのない内容…なのに、贈られてくる花は、皇室の奥の庭園に咲く高貴な薄紅の薔薇…
偉大な姫君と呼ばれる皇室の婚約者や、外戚の女性にしか贈られない貴重な薔薇だ。
花言葉は…【至上の愛】【栄光あれ】【貴方を想う】
…あたかも、「お前はまだ、婚約者候補だ。」と言われているかのようで…腹が立つのだ。…いや、単に皇太子が花に疎いだけだろうが…病人に贈る花じゃないのは確かだ。
この薔薇一本で、家が建つと言われる花だが、幸いイリスはただのピンクの薔薇としか思っていない。
だが、この薔薇を飾るとイリスは、嬉しそうにするので小間使いとしてなんか悔しいと思ってしまうのだ。
「失礼いたしますお嬢様。」
「…ネルケ…。」
ネルケが薔薇を花瓶にいれて寝室に入ると、イリスはテーブルの上の朝食とにらめっこしていた。
栄養とバランスを考えられ、胃に優しく、具はみじん切りや磨り潰された病院食。今日はマッシュポテトに胃に優しい野菜スープ、魚肉ハンバーグである。
だが、あまり食が進んでいないのか…半分以上残されている。
「また、残されたのですか?」
「…うん、まあ(…朝から洋食は重いとは言えないですわ)」
「だめですよ、食べられる時に食べないと…。」
柳眉を八の字にして、憂いた表情でイリスを見れば、イリスはギクリと体を硬直させて、目を泳がせる。
「…………ごめんなさい」
「…失礼します。」
ばつが悪そうなイリスの側にくると、ネルケは花瓶をテーブルの上に置くと代わりに銀の匙をとる。そして、マッシュポテトをすくい取り、イリスの口元にマッシュポテトを運ぶ。
「はい、あーん。」
「……(ショタネルケのあーんですと!!)」
目を細めて微笑みながら、「あーん」をしてくる美少年にイリスは顔が真っ赤にして恥じらいをみせる。
…前世、現世初のあーんである。リア充のやることだと傍観していたが、いざやられるとすごい恥ずかしい。
「あ、あのね、ネルケ。わたくしは赤ちゃんではなくてよ。」
「さ、怖がらずに、大丈夫ですから」
「貴方、わたくしの話を聴いていて?」
「もちろん、お嬢様の金糸雀のような麗しい声は私の耳に届いておりますとも。」
「こう言うのを…馬耳東風と言うのだわ…あ、ネルケ、その左手の手紙はなに?」
「(ちっ)…皇太子殿下の手紙でございます。」
「まあ、ささ、早くこちらに」
「はい。」
パアッと、顔を明るくさせたイリスがめちゃくちゃ可愛らしくて、ネルケはしぶしぶ匙を皿に置くと手紙をイリスに差し出す。
イリスは嬉々として手紙を受けとると、手紙の封をあけると、手紙の内容に目を走らせていたが、イリスの表情がたちまち真っ青にかわった。
「どうなさいました?」
「…どうしましょう…。」
「お嬢様…?」
「…殿下が、殿下が正式に文通をしたいって…」
「は?」
皇族の文通相手は非常に限られており、正式な文通相手が異性の令嬢なら婚約者と思われても仕方ないのだ。
軽々しく承諾できる話ではない。何を考えているのだあの皇太子は…。
……いや、たぶん。イリスがいなくなったせいで、婚約者候補がどっと押し寄せてきて煩わしくなったのだろう。イリスを文通相手として正式に認めれば、押し寄せてくる令嬢たちの親への牽制になるだろう。
どうやら、皇太子は今頃ようやくイリスの存在の大きさに気がついたらしい。
イリスの威嚇が、他の令嬢を近寄らせなかったが、イリスがいなくなったら、その反動で多人数を相手にしなくてはいけなくなった。
要は沢山の令嬢を相手にするより、イリスだけを相手にしていた時のがマシ…と言うことだ。
…それに、最近のイリスは性格的に穏やかになり、皇太子へのお礼状の内容も思慮深い内容で…最初、ためし読みしたネルケも舌を巻くほど、皇太子への労りの言葉や、興味をひくような話題を書いていた。
皇太子が興味を寄せるのも無理はない。
「…お嬢様、殿下の申し入れはまだ正式なものではありません。まずは、旦那様に御相談いたしましょう。」
「…そうね。」
ネルケとイリスは同時に溜め息を溢した。
▼ネルケ・モーナット(19)
ショタ時代(10)
▼ゲーム
ベストエンドでは母が好きだった撫子をヒロインに贈る。
テーマは復讐。
一部からはマザコン執事と呼ばれていた(笑)
少年期から青年期の中間な、独特の色気があり、柔らかなセクシーボイスに、ファンはきゅんきゅんしていた。
現在はマザコンと言うよりお嬢様コンになりつつある。
「これはこれは、リーリエ嬢…何かお困りですか?」
「あんた、聞いたからには逃げたいなんて言うわけないよな?まあ、逃げるならその身体に分からせるだけだけど…。」
▼イリス・カメーリエ(16)
ショタ時代(7)
手紙が書けるぐらいの文章力がついてきた。
ネルケの裏の顔が怖い。