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学園裁判⑦

お久しぶりです。お待たせいたしました。

 イリスが担架で運ばれていく中、弁護人で主治医のグラナードと、証人のヴィオレとオランジェがイリスに付き添い法廷を後にすると、ユリウスは唇を軽く噛み、表情を引き締めると、残ったシュバルツとヴァイス達に視線を向ける。


「弁護人、どちらか付き添いに行っても良いのだぞ?」


「うちのイリスが吐血する際に、ネルケとグラナード先生が適切な処置をしているから大丈夫ですよ。むしろ俺たちのほうが邪魔になるんで」


「僕たちは僕たちにしかできないことで、イリスを支えてきました。それは今も変わらないですよ」


「…そうか。では弁護人、君たちがカメーリエ嬢の代理人として判決を受けるように」


 副審のフリードリヒの言葉にシュバルツとヴァイスは顔を見合わせて、何かをアイコンタクトでしめし合せるように頷くと、証言台に二人降りて並び立った。



「主文、被告、イリス・カメーリエ嬢は無罪」


そのユリウスから宣言された判決文に、会場の空気が変わる。緊迫したものから安堵したようなざわめきにかわり、原告側は顔を俯かせ押し黙る。


「彼女の成績は何ら不正ではないと我ら審判団は…いや、法廷にいるこの場の生徒達は納得するものであり、彼女の成績は正当な評価である。また、彼女の身体状況は極めて重篤であり、繊細な処置が必要とするもので、女子寮での暮らしは困難であると我々は結論に至った。外部からの人間と接触する場であるため安全上、今の病室にて引き続き療養をすることを推奨する」


「裁判長並びに副審の皆さま公明正大な裁定をいただきありがとうございました。我々弁護人はこの都度の裁判の結果を喜んで受け入れます。そして我らの妹が今後ともこのような辱めを受けないことを切に願うものであります」


「しかしながら、裁判長。俺たちは今回、責を問わねばならない人間がいる」


 シュバルツとヴァイスが其方を見やれば、原告の三人は、苦々しく顔を歪め言葉を出さず口を噤んでいる。

 さもありなんと受け入れるエーデルとは違い、ヴァールハイトとヴィントのその仕方なく受け入れます的な態度に双子達の視線は更に冷え込んだ。


「そもそも、なぜ原告はこのような裁判を起こしたのか、弁護側は甚だ疑問に感じておりその真の答えを原告側に問いたい。裁判長、言葉が荒くなるがご了承いただきたく」


「…原告側、弁護人の要望を受け入れるか?」


「はい、受け入れます」


「なっ、エーデル!」


慌てる二人とは違い、エーデルは神妙に頷くのを見ると、ユリウスはヴァイスに頷き、質問を促した。


「では、弁護人。思う存分問いただすと良い」


ヴァイスはユリウスに「感謝いたします」と頭を下げると、原告の3人に向き直る。その顔はいつも溌剌としている好青年ではなく、怒気を孕んだ鬼のような形相だった。


「….おい、そこのガキ共。てめぇらよくもウチの妹に変な因縁つけてくれたな。ただでさえ、身体が弱い妹が血まで吐かせといて、なんだその舐めた態度は。ふざけてんのか?あぁ?こんな、裁判まで起こして何がしたかったんだ?」


「そ、それは………」


「リーリエ・ボーデンのため?ああ、エーデル君は乳姉妹のためだっけ?君たち、婚約者がいるのだろうに、よその国の婚約者でもない令嬢のためにここまでするかな?正直、気持ち悪すぎでしょ」


 追撃する長男のシュバルツの容赦ない言葉に、ヴァールハイトは思わず口を開きかけたが、直ぐに閉じた。弁解のしようもない。確かに側から見れば、婚約者でもない女に入れ込んだあげく半ば逆恨みで、学園裁判を起こしたのだ。冷静に考えて、非常識であるのは間違いない。

 

「全く、弁解の余地もありません。僕たちは、一方的にボーデン嬢達の事ばかりをみて、カメーリエ嬢の人格を完全に無視していました。公平性と冷静さを無くしていたこと愚かしく、恥ずべきことでありました。改めて謝罪申し上げます。すいませんでした」


「え、エーデル君、ずるいよ!自分だけいい子ぶってさぁ!」


「そこのモジャモジャ頭黙りなよ。…全くどちらが年上なんだか。で、君は謝らないの?良いよ謝りなよ。存分に良い子ぶりなよ。聴いててあげるからさ」


シュバルツの黒い笑みにヴィントは押し黙る。どっちの兄もおっかない。一を言えば、百で返ってくる毒舌ぶりに、ヴィントはもう国に帰りたくなった。


「…感情的になる事がそんなにおかしい事か?俺たちは彼女の実力を認めてもらいたかっただけだっ。確かに、彼女は婚約者でもなんでもない。しかし、」


「しかし、何」


「…身内というか、親しくなった知人が理不尽な目に遭ったら憤りを覚えるのが人間だろう」


「だからといって、罪のない女の子を攻撃するのがお前らの正義なのか?ふざけるなよ」


ヴァールハイトの絞り出すような回答に、ヴァイスはすかさず一刀両断する。


「私も原告らに問う」


ユリウスの 静かな問いに三人には自然と裁判官席へと顔があがる。ステンドグラスを背にしたユリウスは罪人を裁く裁判官と言うより、子供に問いかける老人のような静かな瞳で原告の三人を見つめていた。


「其方らの言うリーリエ・ボーデン嬢は本当に良い人間だったのか?その言動は本当に、善良だったのか?欲目で彼女を見ていなかったか?そう己に問うことはいくらでも出来たはずだ。それを怠ったのはイリス・カメーリエ嬢のせいなのか?」


「っ…….」


「結果的に其方らが見たのは、其方らに都合の良い虚像だったのではないだろうか?」


ユリウスは立ち上がり、そう問うと三人は俯いた。


それが、全ての答えだった。


「我ら三審は、法廷にて裁判を侮辱したリーリエ・ボーデン嬢を緊急的に法廷侮辱罪を適用し、三カ月間の停学処分を通告する」.


「ま、待ってください。裁判長。彼女は特待生です、そんな事をされたら…っ」


「無論、即座に特待生特権を剥奪される。当然ながら学費免除、生活費援助は打ち切る。それが学園規則であるからして、何人も違えることはできない。本日この時から停学とする。その後の身の振り方は学園事務室とフリードリヒ教諭との面談で決めるように」


それは事実上の退学通告であった。


 ボーデン男爵家は地方貴族でも、財力はほどほど。リーリエが特待生じゃなくなっても学園には通えるだろう。だが、特待生とはエリート中のエリートで、シュタム帝国の貴族社会では栄誉ある称号なのだ。それがいきなり停学となれば、確実に貴族社会で未来を閉ざされ、社交界に足を踏み入れることさえ出来なくなるのだ。


 例え、停学処分後に復学しても、針の筵だろう。そのまま卒業しても彼女は城勤めも許されないし、縁談も国内では忌避されるだろう。


リーリエ・ボーデンに残された道は二つ。


 自ら退学して、悪評がない他国の貴族に嫁ぐか

修道院に入るしかないのである。


「ま、待って下さい。これは流石に酷すぎます」


「そうです、ユリウス殿下っ、ご再考をっ!」


 ヴィントとヴァールハイトが、ユリウスは毅然と首を振る。


「リーリエ・ボーデン嬢は既に、白金のサロンに不法侵入し、防衛のため敷かれた結界を発動させた事で、謹慎処分を受けている。更に言えば、彼女はイリス・カメーリエ嬢の病室に押しかけ、彼女の侍女を突き飛ばし、カメーリエ嬢の腕に掴みかかり、彼女に全治2週間の怪我を負わせ害している。普通なら傷害罪で騎士団に突き出されてもおかしくない罪を犯しているのだが、カメーリエ嬢は大事にしたくはないと敢えて被害届を出していない。そして、この学園裁判での狼藉は既に許容範囲を超えたものである」



 淡々と告げられた言葉に、3人は目を見開く。イリスの病室に押しかけて暴れた話は知らなかったのだろう。顔面蒼白で、今にも崩れ落ちそうだ。


「裁判長、彼らが扇動したこの裁判により、妹は多大な精神的なストレスによって病状が悪化しました。また、世間体を傷付けられ、学園裁判では全生徒の前で尊厳を辱められました。その苦痛はいかばかりだったのか…兄として絶対に許容できる事ではございません」


「彼らにも厳正な処罰を望みます」


「…残念ながら弁護人は在校生ではない部外者のため、この学園裁判での告訴は規則によりできない。しかし、学園側は弁護人の意思を汲み取り、話し合って後日原告の罪を問うものとする」


双子の要求に、ユリウスは静かに首を横に振ったが、確実に原告の三人を処罰すると宣言し、木槌を手に取り、閉廷をつげるように高らかに打撃板を鳴らした。


「これにて閉廷」


「…うそよ、嘘よっ、ヒロインが、断罪される?そんなのゲームでなかったわ、」


呆然とするリーリエは、ハッと顔をあげて押さえつける警備員の手を振り切るように踠くも、力が及ばず髪を振り乱す。


「ゆ、ユリウス様!まっ、待って、待って下さい!ユリウス様だってイリス・カメーリエの我儘を知っているはずでしょぉ!?こんな終わり納得できません」


「………既に裁判は閉廷した。自身の身の振り方を考え反省するように」


「待って、ねぇっ、ユリウス様!私っずっと貴方のことが好きだったんです!」


その突然の告白に、会場中が騒めく。退廷しようとしたユリウスも足を停めてリーリエを理解できない生き物を見るように見下ろした。


「何回もイベントを周回したし、グッズもCDも買ったし、なんならアニメだって、…貴方は私の推しでっ…コンサートやイベントにだって、コラボカフェなんか、貴方のコースターが出るまでドリンクを頼んで…嫌よ…こんな終わり方ないっ」


「リーリエちゃ…ん、何を言って」


「嫌だよっ、ユリウス様。私を嫌いにならないでっ」


 子供のように泣きじゃくるリーリエの声に、ユリウスは静かに身体を向き直す。その顔は、彫像のように美しかったが、その瞳は既に嫌悪感が隠しきれておらず、冷え冷えとしたものだった。

 近くにいた学園長とフリードリヒはその顔を見て、リーリエに憐れみの視線を向ける。


「リーリエ・ボーデン嬢。私は秩序正しく、礼節を重んじる。其方は無抵抗の侯爵令嬢に掴み掛かり、怪我を負わせ謝罪すらしていない。そんな不愉快な人間に好きだと言われても、不快感が増すだけだ」


「…っう」


「イリスは確かに幼い頃は傍若無人だったが、それでも彼女は諭せば謝罪はできたぞ。それに比べて其方は当時、5歳のイリスより劣る有り様に私は呆れてしかたがない。イリスが其方を敵ですらないと言ったことが私にも良くわかる。其方のような幼稚で、思いやりのない人間をどうして認められると言うのか」


「……あ、あああっ嫌っ」


受け入れられないと首を振るリーリエに、とうとうユリウスはその冷徹な仮面を脱ぎ去り、怒りを露わにする。美人が怒れば怖いと言うが、ユリウスの場合さらに怖かった。


「リーリエ・ボーデン、知っているか?薔薇は病気に弱く害虫がつけば、葉裏についた虫を手で捕殺し、被害が大きければ患部を切り落とさねばならぬ手間がかかる植物であることを。私にとってお前はその害虫に等しく、有害な存在だ」


「……ひっ!」


「私の薔薇をこれ以上傷つけるのならば、容赦はしない」


 その台詞はゲーム内でユリウスがイリスに言うはずの台詞だった。ユリウスの薔薇はいまやリーリエではなくイリスなのだと、リーリエはそこでようやく自分はバッドエンドルートを選択してしまったことを理解した。


 いや、そもそもここはゲームの世界そのままではなかった。



 ヒロインという無敵な魔法の言葉を失ったリーリエは糸が切れた人形のように固まると、項垂れた。ぼろぼろと涙をこぼす様は憐れだったが、誰も同情はしなかった。


こうして、悪役令嬢がいないところで裁判は閉廷し、ヒロインはバッドエンドを迎えることになったのだった。





学園裁判編、これにて終了でございます。ユリウス様とシュバルツ、ヴァイスの兄達が思う存分だせて満足です。リーリエはまあ、バッドエンドですね。イベントスチル名は「薔薇の断罪」のシーンですが、自分が断罪される立場になるとは思っていませんでした。

法廷記録を書いていたスピネル君はコラボカフェ?推し?アニメ?何それ?で記録に難航していそうですけど笑


次回は年明けの恋愛闘争編でお会いできたら幸いです。

年内完結出来んかったけど裁判編は終了できたので良かったです。皆様良いお年を。そして来年発売のとある転生幼女3巻もよろしくお願いいたします。



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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 学園裁判も終り、自称ヒロインの退場で物語も一段落付いたようです。 冤罪だと自覚して、なおこんな騒動を起こした時点で同じ穴の狢ではありますが、ヴァイスとヴァールハイトの言動が酷過ぎ…
シュバルツ兄上の煽りスキルの高さに好感しかない。氷の笑顔で放つ言葉のナイフが鋭すぎる… 流石5歳で尖ったナイフと言われた悪役令嬢の兄、血は争えない。 三馬鹿は早期に留学終了・強制送還と言う名の実質退学…
更新お疲れ様です。 年末更新コメントが入れられず無念ですが・・・ 明けましておめでとうございます。今年も作品を楽しませていただきたいです!(^^) ドクターストップによりタンカーで退場したイリスち…
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