真相
「佳代さん」
誰かに私の名前を呼ばれたような気がした。でも、私はこのアパートに一人暮らしだったはずだ。他に誰もいないはずがない…ただの夢だ。そう思って、開きかけた瞼をもう一度閉じた。
「佳代さん、朝が来てしまいますよ。」
それでも、また声が聞こえた。昨日の夜は、変な人が私を訪ねて来たものだからねるのが遅かったというのに…。
?…誰だっけ…?
「誰だっけ?とは失礼ですね。わ・た・しでございますよ。」
「うわっ!?」
突然、知らない男性に顔を覗き込まれれば誰だって驚くしビックリもする。…あれ、驚くもビックリも同じのような…いやいやそんなの今はそんなの関係ない。
「どうされましたか?」
「いやいや、なんであんたがここにいるの!?というか何で深夜二時に訪ねてくるのよ?」
「あぁ、そのことでしたか…。あれくらい普通ではないでしょうか、私のような霊体にとっては。」
「なら、普通ね…。ん?霊体?」
「はい、私すでに死んでおりますゆえ…。」
「ということは、貴方が私に対して何か恨みでも?」
「恨み…そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。とにかく、私自身は佳代さんには危害は加えません。しいて言うのであればあちらの方達が用があるようですが…」
彼が指さす先の黒く淀んだ空間からはいくつも白い手が私を欲しているかのように渦巻いていた。
「ひぃっ…!あ、あああああれは一体?」
私が問いかけると男は片手で頭を抑えるようにしながら、ため息をつきそれからまた口を開いた。
「本当に何も覚えていないと?」
「私は、まだ何も…。」
「まぁ、自分の事しか考えていない『この世』の住人から見れば何もしていないのと同様なのでしょう…。ですが、貴方たちのような人間は…おっと答えを言ってしまったらこの現象の意味がなくなってしまいますね。」
「それはどういう……?」
再度、彼に振り返って問いかけようとすると既にそこにはその姿は跡形もなく、いつの間にか元のアパートに戻っていた。しかし、安心したのも束の間でさらに辺りを見渡すと机の上に札のようなものが置いてありそれを見た。
『君の罪は終わっていない。連れて行かれる前に自身の罪に気付け。さもなくば、あの白い手によって連れて行かれてしまうから…。』
という内容だった。
でも、それに関しては既に解決していた。人間にある『罪』…それは誰か一人の人間が生きていけるのは誰かがそれを支えているという事でもある。そして、その存在への感謝を忘れてしまうこと自体が『罪』となるわけで…。
つまり、今生きていることを否定したり生きていることを「苦」と思ってしまうと、彼のように忠告してくれる悪魔のような死神のようなよくわからない「もの」が現れるのだろう…。
まぁ、それに気づいた頃には…言ってしまえば彼が現れて消える前までにはこの答えに辿り着いていないといけない。
何故なら…、私の身体には無数の手の痕が付いていて…そしてここから見える景色は、いつも夕空や青空といったものではなく暗闇しかなくなっていて、そこ空間から私の部屋を覗く無数の目や手が私をいつでも引っ張っていけるように待ち構えているのだから…。
少ない文字数で二話完結ですけど、これで終わりです。
もし、文章的に…ストーリー的に気にってくれたら今度は長編作で頑張りたいと思います。